えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「鬼ごっこをします」

 

 うわぁ、とか。また始まった、とか。色んなとこから声が漏れた。

 

「鬼ごっこをします」

 

 死んだ世界戦線本部で不敵に佇んでいた仲村さんの二度目の発言に反応したのはおずおずと手をあげた音無くん。

 

「……質問、いいか?」

 

「許可する」

 

「なんで、鬼ごっこ?」

 

「こまけぇこたぁいいんだよ!!」

 

 あ、この流れ見たことある。なんて大山くんの呟きは聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 

「ご説明します」

 

 遊佐ちゃんお疲れ様です。

 

「今回のオペレーション『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は」

 

「待て待て待て待て待て」

 

 日向くんからストップ入りましたー。大山くん、この流れは見たことないとか言わないの。

 

「何でしょうか? 遊佐です」

 

「何でしょうかじゃねーだろ。なんだそのオペレーション名は」

 

「訳しますと『できるものなら捕まえてみろ』。日本語の『鬼さんこちら』に当たります。妥当かと」

 

「予想以上に妥当な理由で日向くんぐうの音も出ない。ドンマイ」

 

「うるせーよ。悪かったよ流れ止めて。続けてくれ」

 

「では改めて。今回のオペレーション『ホールド・ミー・タイト』の説明を」

 

「待て待て待て待て待て!」

 

 天丼だね! じゃないよ大山くん。なんでそんな嬉しそうなのさ。

 

「……何でしょうか?」

 

「あからさまに不機嫌になったことについてはつっこまねー。だがな、明らかに変わったオペレーション名に関しては無視できない!」

 

「訳しますと『強く抱きしめて』。日本語の『鬼さんこちら』に当たります。妥当かと。それとも不服だとでも?」

 

「遊佐ちゃん困ってるからそろそろ大人になろうよ日向くん」

 

「いや、あれ間違ってるからな。絶対『鬼さんこちら』に当たらないからな」

 

 わりとどうでもいい。

 

「では、時間が惜しいのでくれぐれも話を遮ることのないようにお願いします」

 

「だってさ日向くん」

 

「ナツメうるさい」

 

「今回のオペレーション『アイル・ビー・ゼア・フォー・ユー』は先程ゆりっぺさんが」

 

「待て待て待て! 待て! 待つんだ! お願いします待って下さい!」

 

「うわ、遊佐ちゃんが今まで見たことない様な表情で日向くんを見てる。それはもうゴミの様に。バルス」

 

 そして大山くん。二度あることは三度ある、定番だね! じゃない。こらテンション上げるんじゃない。

 

「だが俺は負けない! 遊佐! 訳してみろ!」

 

「訳しますと『私が側にいるから』。日本語で言う『鬼さんこちら』に」

 

「当たりませんから! それ絶対違うから! 百歩譲って当たったとしてもどちらかと言えば鬼さんのセリフですぅ!」

 

「なぜ敬語なのでしょうか。気持ち悪いです」

 

「常時敬語のヤツに言われたくねーよ!」

 

 話が進まないので仲村さんに一喝してもらいました。さすがリーダー。じゃあ遊佐ちゃんよろです。

 

「オペレーションの説明をさせていただきます。今回の狙いは基礎体力、判断力の向上。そのためにオペレーション外、つまり単独や少数で天使と戦闘行為に入った際の逃走方法を学んでいただきます。校舎内と言う限定された空間。ひしめくNPCという障害物。被害が最小限で済み、なおかつ状況を打破できる様な最適なルートをいかに最速で見極められるかがカギとなります」

 

「鬼ごっこ、だよな? コレ」

 

 音無くんが不安そうに尋ねます。仲村さんが答えます。

 

「鬼ごっこよ。ただし、天使を鬼として利用させてもらうわ」

 

「そんなことできるのか?」

 

「簡単よ。エンカウントしたら即仕掛けなさい。で、後は逃げる」

 

 うん? それはちょっとなー。

 

「ちょっかい出しては逃げてってなんかいじめてるみたいだな」

 

 あ、音無くんそれ正解。

 

「……やっぱりそう思う? なんか代替え案ないかしら?」

 

 考えてはいたのね。ならやらなきゃいいのに。てか。

 

「普通にやればいんじゃね? 何だったら天使さんも入れて」

 

「ナツメくん、正気? 天使が授業中に鬼ごっこに興じる訳ないじゃない」

 

「参加自体はいいのね。だったら放課後使って適当に何か条件付けたげれば来るんじゃない?」

 

 多分。暇してそうだし。

 

「来るかしら。今まで散々敵対してきたのに」

 

「わかんない。話してみてからだね」

 

「そう。じゃあ任せたわ」

 

「え?」

 

「交渉。行って来てちょうだい」

 

「マジか」

 

「言い出したんだもの。それくらいわね。心細かったら、そうね、岩沢さんでも連れて行きなさい」

 

「人選に悪意を感じる。ひさ子ちゃんがいいです」

 

「ここにいないじゃない。もう音無くんでも連れて行けば?」

 

「そうする」

 

「え」

 

「じゃあ、二人ともお願いね」

 

 

 てな訳で二人で校舎内をうろつく。程なくして天使さんハケーン。驚異のエンカウント率ぅ!

 

「こんちは、天使さん」

 

「こんにちは、ナツメ。でも天使じゃないわ。それと、アナタは確か……」

 

「え、ああ、食堂で会って以来か。久しぶり」

 

「思い出したわ、確か、日向くんだったかしら。あの時はごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに無下にしてしまって」

 

「ああ、それなら気にしなくていい。俺も急過ぎたと思う。でも、コレは言わせてくれ。俺の名前は音無。日向じゃない」

 

 これ大事と言い聞かせる音無くん。天使さんから少し非難の目を向けられたけど、気にしない。俺は悪くねぇ!

 

「ところで天使さんは放課後お暇ですか? 鬼ごっこしませんか?」

 

「鬼ごっこ? 懐かしいわ。確か同じ名字の人しかいないのよね」

 

「それ違う。リアルの方じゃないふつうの鬼ごっこです」

 

「構わないけど、生徒会の仕事が終わってからになるわ」

 

「時間かかりそう? 手伝う?」

 

「ありがとう、でも大丈夫よ。そんなに時間はかからないわ」

 

「ん、では放課後は一緒に遊びましょうか。お仕事終わり次第下駄箱に集合でよろです」

 

「わかったわ。じゃあまた放課後に」

 

 踵を返した天使さん。俺達も用は済んだし報告に行きますかーとなったところで思いついたように音無くんが。

 

「なぁ、名前なんて言うんだ?」

 

 天使さんの背中に声を投げた。そいえば俺も知らないや。

 

「……立華」

 

 ちょっと間があったけど、答えてくれた。立華さんでしたか。

 

「下の名前は?」

 

「かなで」

 

 立華かなで。音無くんが天使さんの名前を聞きだした。うん、普通に答えてくれました。

 

「よし、覚えた。また放課後にな、立華」

 

「ええ、また。ナツメも」

 

「ん、またね」

 

で、今度こそお別れ。放課後が楽しみです。

 

 


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