「準備はいいかしら?」
不敵に笑いながら腕を組んでいる仲村さんが言う。
「いつでもどうぞ」
立華さんが淡々と答える。
それを確認した仲村さんがこちらに振り返り、一人一人の顔を見回す。それぞれが頷き、仲村さんはまたも不敵に笑った。そして。
「ミッションスタート!」
「だからそれ違うって」
「いいから逃げるわよ!」
私達も5分後に行動開始よ。だからなんで僕まで……。
いまいち締りのないスタートです。
「ナツメさん、指示通りに行動して下さい」
全員が生徒会の視界から外れてから少し経つと、突然耳から遊佐ちゃんの声が。おかえりインカム。
「遊佐ちゃんだ。オーバー」
「どうも、遊佐です。前方に見える階段を上がって2階へ。上がりましたら右方向へ向かって下さい。野田さんと合流できます。オーバー」
「マジか。オーバー」
「進路クリア。残念ながらナツメさんの周辺で合流可能なのは野田さんのみです。オーバー」
「作戦だもんね。了解。オーバー」
作戦。そう、作戦なのである。
スタート後に近くにいるメンバーと合流し、その後は基本的に二人一組で行動すること。鬼と遭遇した場合、逃げ切ることを優先させるがそれが不可能と判断された場合、どちらか一方を残し、もう一方はその場を離脱すること。
これが開始前に仲村さんから言われたこと。要は囮です。
それから、実は校舎内には参加していない戦線メンバーがインカム装備で多数潜伏しており、その情報をリアルタイムで遊佐ちゃんと竹山くんに報告。その情報を元に竹山くんが生徒会勢の動きを監視、そして予測。で、それを遊佐ちゃんが参加メンバーに逐次連絡。あんまりフェアじゃないね。ちなみに遊佐ちゃんと竹山くんは鬼ごっこには不参加です。
「あ、そう言えば遊佐ちゃん。他の皆はどんな感じ? オーバー」
階段を上がる。
「手筈通りにゆりっぺさん、椎名さん、ユイにゃんさん、音無さん、日向さん、大山さんの六名が撹乱の準備に入っています。残りの参加者もそれぞれ近場の参加者と合流しています。オーバー」
なんか一人さかなクンさんみたいなのいた気がする。右へ前進。
「ここまでは順調と。お、野田くん発見。合流しますた。オーバー」
「合流確認。140秒後に生徒会勢が動き出します。スタート地点からできるだけ距離をとって下さい。オーバー」
「了解でござる。オーバー」
「それからナツメさん。インカムでの通信は相互で会話ができるのでオーバーは必要ありません。遊佐です」
「実はツッコミ待ちでした。ナツメです」
「そうでしたか。気が付けなくて申し訳ない遊佐です」
「お気になさらずナツメです」
「遊佐です」
通信おーわり。
「長話は終わったか?」
「何気に静かに待っててくれたね野田くん。よろです」
「足手纏いにはなるなよ」
「善処しますお」
信用されてない目線を頂き、小さな声で行くぞと促されました。どこ行くの?
「天使たちに奇襲をかける」
「どうしてそうなった」
「開始早々まとめて倒せば俺の勝ちだ。三時間も付き合ってやる必要はない」
「なんと」
ルールのルの字もねぇ。
「確かにゆりっぺの作戦には背くことになる……。しかし! それでも、俺は……!」
「野田くん君って人は……」
そこの抜けのアホですね。
「わかって、くれるのか……?」
いいえ、残念ながらまったく。
「ただのふざけたヤツだとばかり思っていたが、貴様も漢だったか」
「あ、もしもし遊佐ちゃん? 野田くんが早くも暴走してるんだけど」
まさか……暴走……? ミサトさんが好きです。野田さんの暴走は想定内です。マジか。様子を見てから適当なところで離脱して下さい。あいさー。
「行くぞ。この命、ゆりっぺに捧げる!」
とりあえず着いて行きます。そう言う指示もあったし、面白そうだし。だしだし。
「生徒会勢、動き出しました」
そんな折りの遊佐ちゃんからの通信。全体に向けてだったのか、野田くんも反応した。
「聞いたな? 走るぞ」
言うや否や走り出した野田くん。足速いね。
「見失うのも道理です」
呟くも返事はない。
\ユリッペァー!?/
耳に遊佐ちゃんの声が。野田さんロストです。
「ですよね」
早くもパートナーを失った。
「これはもう憎しみに身を焦がさざるを得ない」
ナツメさん、離脱して下さい。はーい。
遊佐ちゃんの言う通りにスタコラサッサなんだZE☆とか言ってると通り過ぎた空き教室から声がかかった。仲村さんでした。
「何してんの? サボり?」
「失礼ね。待機中って言ってくれるかしら。あとこっちに来なさい」
お邪魔します。
「野田くんが逝きますた」
「予想通りね。でも、彼は……犠牲になったのよ……。戦線設立当初から続く犠牲……。その犠牲にね」
「犠牲……?」
「犠牲よ」
「犠牲……」
「野田くんは犠牲になったのよ。犠牲の犠牲にね」
「ぎせ」
イ ザ ナ ミ だ 。
遊佐ちゃんが遠くからストップかけてくれました。ナルトス、じゃなくてトンクス。
「さて、おふざけもここまでにして、仕掛けるわよ」
「おお、何するの? 何するの?」
「まぁ、見てなさい。椎名さん、行ける?」
ああ、と仲村さんのインカム越しに椎名さんの肯定する声が聞こえた。ユイにゃんもー! あれ、なんか聞こえた。
「音無くん、日向くん、大山くん、そっちも準備はいいかしら?」
任せろ、とか。バッチこい、とか。今日の僕は阿修羅すら凌駕する存在だ、とか。この男達ノリノリである。
「ナツメくん」
「いつでも」
「何がよ。近いわ。少し離れてちょうだい」
だって聞こえないんだもん。
「カウントスタート――10」
短く呟いた仲村さんが窓際へ向かう――9。
窓を開け放つ――8。
銃を取り出す――7。
「マジか。あ、6」
遊佐ちゃんがマジです、とお返事してくれた――5。
仲村さんが外に向けて銃を構え――4。
そのままゆっくりとハンマーを倒す――3。
そいえば遊佐ちゃんどこにいるんだろ。あ、耳塞がなきゃ――2。
楽しそうに口の端を吊り上げ――1。
トリガーを引いた――0。
鳴り響く銃声。塞いでいても割と至近距離なので耳が痛いです。
「 空 砲 よ 」
ドヤ顔で言われても。
「相手は五人。今の銃声を合図に撹乱班が一斉に生徒会にアクションを仕掛け、分断する手筈になってるわ。こちらが不利になるような二対一の状況を作り出さないためにね」
なるほど。しかし。
「まとまってた方が監視し易いんじゃないの?」
「MORE THRILL」
監視しておいてどの口が。
「さぁ、逃げるわよー!」
「誰よりも楽しそうですね」
さすがなかむらさんっておもいました。
犠牲:野田
戦線チーム残り14人
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