えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「ごめんね関根ちゃん。この仇はきっと……」

 

 振り向かずに走る。ちなみに言っただけです。これっぽっちも仇なんてとるつもりはありません。あと、耳からポリポリと何かをかじる音が聞こえるけど気にしたら負けだと思う。

 

「遊佐ちゃんこっちで大丈夫?」

 

 ごくん、と何かを飲み込む音がしてから遊佐ちゃんが答えてくれた。

 

「いえ、大丈夫ではありません。このままだと鬼と鉢合わせします」

 

「できれば早く言って頂きたかった……!」

 

 急ブレーキをかけて、踵を返す。

 

「そちらからも鬼が接近中です」

 

「マジか」

 

 あれ、詰んだ? そう思った時。

 

「ナツメ、こっち」

 

「えっ」

 

 言われるや否やグイッと腕を引かれ、扉がパタン。

 

「岩沢さんだ。さっきぶりだね」

 

「ん、もうちょっとそっちつめて」

 

「んー」

 

 もぞもぞと動くもあんまり変わらない。ていうかここはどこ? 真っ暗です。何も見えない。

 

「いわさわさんいわさわさんいわさわさん」

 

「ん?」

 

「ここどこ? よく見えないんだけども」

 

 ていうか今気付いたけどすごく近いね。岩沢さんとの距離が。かろうじてだけども、うっすらと岩沢さんが見えてきた。

 

「消火栓の中。前にゆりが改造したんだってさ」

 

 一体何のために改造したんだろうか。

 

「消火栓の中に隠れるって言うのはなんか憧れらしいよ」

 

 あ、ちょっとわかるかも。あたしはわからない。うん、でもちょと狭いね。狭いな。

 

「あれ、そいえばひさ子ちゃんは?」

 

「囮になった」

 

「そっか。大丈夫かな?」

 

「そろそろエレキ弾きたいな」

 

「話聞いてよ」

 

 ギターの話なんてしとらんがな。

 

「ひさ子とかユイの借りて弾く時もあるけど、やっぱり自分のが弾きたいんだ」

 

「なんか感覚違うの? あ、ひさ子ちゃん逃げられたかな?」

 

「ん、持ち主のクセって言うのかな。感覚だけど、弾いてるとわかる」

 

「なんかプロっぽいね岩沢さん。あと、ひさ子ちゃん無事だといいね」

 

「褒めても何もでないよ」

 

「あとで何か聞かせてほしいです。あー、ひさ子ちゃん大丈夫かなー?」

 

「いいよ。遊びに来な」

 

「うん、実は岩沢さんひさ子ちゃんのこと嫌いでしょ」

 

 いきなり何を言い出すんだ、とおでこをパーン。デコピン入りました。

 

「あれ、パーンだからデコパン? なんか痛そうだね」

 

 肩パン的な。どうでもいい、と目の前の人に言われました。ぼくもそうおもいました。

 

 

 

 

「で、岩沢さん」

 

「……ん?」

 

「今ちょっと寝てたでしょ。いつまでここにいればいいの? そろそろ身体が痛いです」

 

 あれからしばらく経つけど、いまだ岩沢さんと二人で消火栓の中に閉じこもってます。ここは盲点らしく見つからないみたい。死角? ありません無敵です。

 

「……そうだな。ジャニスはカッコイイ」

 

「ジャニスって誰さ。寝ぼけてる?」

 

「……ジャニス・ジョプリンはアメリカの女性ロックシンガーで」

 

「なんでそこは聞きとってるのさ。起きてよー。岩沢さん起きてってばー。あー、ほら顔伏せないの。寝ないでってー」

 

「んー……」

 

 駄目だこいつ……早くなんとかしないと……!

 

「とか言いつつ実は俺も眠くなってまいりました」

 

「…………」

 

 岩沢さん寝ちゃった。小さく寝息立ててるし。

 

「ゆさちゃんゆさちゃんゆさちゃん」

 

 なんでしょうか、とインカム越しに眠そうな声が。遊佐ちゃんもおねむのようですね。

 

「今どんな状況? 俺寝てても良い?」

 

「……現在は、ゆりっぺさんと椎名さんが大々的な撹乱と言う名のちょっかいを鬼に対して行っている状況です。他の皆さんは上手く立ちまわっていますのでご心配なく」

 

「そっか。じゃあ、ちょっと寝てても良い?」

 

「わたしもねむいです。ゆさです」

 

「ナツメです。ホントに眠そうだね。おやすみー」

 

 おやすみなさい、と言われ通信を終わる。うん、ちゃんと睡眠の許可もらった。オペレーター公認。これできっと怒られない。うん、この鬼ごっこ負けるかもわからんね。

 

「まぁ、いっか。じゃ、岩沢さんおやすみー」

 

 んー、と目の前からお返事来ました。岩沢さん寝てるのに返事できるとか、すごい器用だね。

 

 

 

 

 

「と言う夢を見た」

 

「んー……」

 

 岩沢さんはまだ若干夢の中の様です。

 

「ほら、行くよ岩沢さん」

 

 遊佐ちゃんに外の安全を確認してもらってから、んーんー言ってる岩沢さんの手を引き消火栓から出る。広いって素晴らしい。あと空気がうまし。

 

「あら、二人してそんなところにいたの?」

 

 仲村さんが近くにいました。遊佐ちゃんが教えてくれなかったのは何故だろうか。まだ眠いのかな。

 

「うん、隠れてた」

 

「そう。でも丁度よかったわ」

 

「何かするの?」

 

「残り時間はもう少しで一時間ジャスト。ここからは遊佐さんの指示がなくなるわ。アナタ達、死ぬ気で逃げなさい」

 

「知ってた」

 

「あら、情報が早いのね」

 

「遊佐ちゃんから聞いた。最初に言えば良かったのに」

 

「バカね。途中で言うから燃えるんじゃない」

 

「そんなもんですか」

 

「そんなもんよ」

 

 よくわかんないです。

 

「とりあえず今からここに生き残ってるメンバーが来る手筈になってるの。アナタ達もまだここにいてくれるかしら」

 

「ん、了解です」

 

 一応まだ遊佐ちゃんが監視してくれてるから鬼が来る心配はないそうな。

 

「ところで今誰が残ってるの?」

 

「音無くんに日向くん。それからユイって子と、ここにいる三人だけよ」

 

「え? ひさ子ちゃんと椎名さんは?」

 

「遊佐さんからの連絡あったでしょう? 聞いてなかったの?」

 

「ええ、まぁ、はい」

 

 寝てましたとは言えない。となりで岩沢さんがまだ半分寝てるけど。

 

「正直ね。嫌いじゃないわ」

 

「どもです」

 

「ひさ子さんは音無くんを逃がすために犠牲に。椎名さんは弱点を突かれて犠牲になったのよ」

 

「犠牲……?」

 

「そうよ。犠牲の犠牲ってこのくだりは飽きたわ」

 

「サスケェ……」

 

「誰がサスケよ誰が」

 

 とかなんとかやってたら岩沢さんが次第に目を覚まし、遠目にはこちらに向かってくる戦線メンバーの姿が見える。さっき聞いたメンバーだったのでとりあえずこれで今生きている全員が揃った訳です。

 

「来たわね」

 

 待ってましたと言わんばかりに笑った仲村さん。本当に楽しそうだね。

 

 

 

 

 

 

「ところでナツメくんと岩沢さん。いつまで手をつないでるのかしら?」

 

「忘れてた」

 

「ん、同じく」

 

 

 

犠牲者:野田、高松、藤巻、入江、TK、大山、関根、ひさ子、椎名

 

戦線チーム残り6人

 

 


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