えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 さて、どうしたものか、と考えた時に思わずため息が漏れた。自分のことながら無理もないと思う。今現在は忘れそうになってたけども、しっかりと鬼ごっこの最中であり、この場にいる俺と岩沢さん、それからユイにゃんは逃げる側である。しかし、どうだろうかこの光景は。

 

「どうしてアナタはナツメ達の頭を掴んでいるのかしら?」

 

「アンタには関係ないだろ?」

 

 いまだにアイアンクローを継続させる岩沢さんは不思議そうに首を傾げながら言った天使さん、もとい、立華さんに言葉を返す。聞き様によっては喧嘩腰にも捉えられる発言だけども、きっと岩沢さん本人にその意思はない。聞きなれてるこっちの身からしたらいつも通りなのだ。でも立華さん、助けてくれると嬉しいです。割と切実に。

 

「それもそうね」

 

 なんてこった。あろうことか、かの無敵生徒会長様がかわいい生徒(笑)を見殺しにしなさった。この世に慈悲はないらしい。この世かどうかは怪しいけども。

 

「たちばなさんたちばなさんたちばなさん」

 

「何かしら?」

 

「ボスケテ」

 

「決して走らずに急いで歩いて行けばいいのかしら?」

 

「まさか通じるとは」

 

 セクシーコマンドーまで知ってるとは驚きです。どうやら侮っていたようで、認識を改める必要がありそうだ。

 

「ところで岩沢さん、そろそろ手疲れない?」

 

「ん、ギタリストの握力舐めんな」

 

 はたして本当に関係あるのだろうか。俺もユイにゃんもギターじゃないお。肩ひも付いてないし。純粋な握力がものを言います。

 

「ところでユイにゃん大丈夫? 全然喋ってないけども」

 

「ま、まだまだっ……! これくらい、大、丈夫です……!」

 

「そっか。岩沢さん、ユイにゃんまだ大丈夫らしいから、俺だけ離してくだしあ」

 

「ん、わかった」

 

 うは、開放感パねぇ。自由って素晴らしい。ビバフリーダム。

 

「う、裏切りものー! 岩沢先輩! ユイにゃんも! ユイにゃんも限界です! ヤバイです! ヤバすぎます! どれ位ヤバイかって言うと」

 

「そう言えば立華さん。首尾はどう? 誰か捕まえた?」

 

「まさか残りはあたし達だけ、なんてことはないだろ?」

 

「残念だけどアナタ達だけよ、なんて言えたら良かったのだけどね。安心していいわ」

 

「聞いて! お願いします! 先輩方! 聞いて! いや、聞いて下さい!」

 

 必死なユイにゃん珍しい。でもさすがに哀れなので一緒に岩沢さんにお願いしました。離してくれた。よかったねユイにゃん。

 

「青い髪の彼。名前は、何て言ったかしら?」

 

 立華さんまた忘れたのか。ならば仕方ない。教えて進ぜよう。

 

「音無くん」

 

「ああ、そうだったわ。その彼なら少し前に捕まえたわ」

 

「おー、なるほど。あ、ちなみに青い髪は音無くんじゃなくて日向くんです」

 

「……ナツメ。アナタはまた騙したわね」

 

「ついうっかり」

 

「次はしっかりね」

 

「ついちゃっかり」

 

「つまりはったりだったのね」

 

「うん、びっくり?」

 

「いいえ、がっかりよ」

 

「おお、きっぱり言うね」

 

「ええ、はっきり言った方が良いでしょう?」

 

「うん、つまり?」

 

「八兵衛ね」

 

「さすが過ぎて惚れる」

 

 二人だけでちょっとした満足感を得ました。

 

「このまま話しているのも楽しいのだけど、私は生徒会長。いえ、今は鬼。言わば修羅」

 

「天使さんじゃないの?」

 

「天使じゃないわ」

 

「ですよね。知ってました」

 

「ナツメ、私にも修羅としての矜恃があるの。だから、私は私の仕事を全うさせてもらう」

 

 いつの間にか鬼ごっこが修羅ごっこになっていたでござる。言っといてなんだけど修羅ごっこって何ぞ。

 

「……修羅は、修羅の子しかなれぬ!」

 

 お、急に復活したねユイにゃん。回復早い。

 

「今の私は人間じゃないわ」

 

 しゅらもんですね、わかります。立華さんもノリノリですね。しかし岩沢さんは完璧に置いてけぼり。しゅらもんは読んでなかったようで。

 

「ユイにゃんもそろそろ本気になるよ!」

 

「私はまだ本気になんてなっちゃいない」

 

「でも、恐怖がユイにゃんを止めるどころか、加速する……!!」

 

「愚か者は勝利者にはなれないの。決して、ね」

 

 あれ、俺も置いてかれてるみたいです。まぁ、いいか。

 

「ナツメ」

 

「ん?」

 

 どしたの岩沢さん。

 

「小腹が空いた」

 

「岩沢さん自由だね」

 

 何というフリーダム加減。

 

「ん、今日は麺類の気分」

 

 見かける時はいつも麺類の様な気がするのは俺だけなのだろうか。あとでひさ子ちゃんとか関根ちゃんとか入江ちゃんあたりにでも聞いてみようかな。

 

「食堂は移動範囲外だけども」

 

「ラーメン、いや、今日はパスタ」

 

「話聞いてよ」

 

「ん? 食券なら交換したと思ったけど、この間」

 

 その節は大変お世話になりました。おかげでポケットに素うどんがいっぱい、いや、違くて。

 

「この状況どうすんのさ」

 

 入口付近に立華さんいるし、さすがにばれずに出て行くことは無理かと思われ。

 

「んー……」

 

 あ、面倒臭そうな顔。すごく面倒臭そうな顔。

 

「連れて行く」

 

「誰を?」

 

「アイツら」

 

「二人とも?」

 

「ん、二人とも」

 

「どうやって?」

 

「任せた」

 

「えっ」

 

 なんて無茶ぶり。早く。え、あ、はい。

 

「たちばなさんたちばなさんたちばなさん」

 

「生徒会長のハートはいつだってハンドソニック、何かしら?」

 

 まだやってたのねしゅらもん。どっかのゆるキャラみたい。しゅらモン。でもお話聞いて下さいな。

 

「お腹空いた。岩沢さんが」

 

「食堂に行けば済むことよ。どうして私に言うのかしら?」

 

「ご一緒しませんか?」

 

 お、立華さん考えてる。音無くんのときはすぐ断ったのにね。と思ったらお腹触ってる。立華さんもお腹空いてるのかな? 確かに時間的にはころ合いだったね。

 

「誘いは嬉しいのだけど」

 

「今ならもれなくユイにゃんがご馳走してくれます」

 

「行きましょう。麻婆豆腐がいいわ」

 

 フィーッシュ。釣れた。いや、釣った。ユイにゃんが何か言ってるけど、聞こえない。

 

「岩沢さん。せっかくだし、みんな誘ってみる?」

 

「どっちでもいい」

 

「誘うね。あ、立華さんも生徒会の人誘ってみてくれる?」

 

「そうね。来るかはわからないけど、声をかけてみるわ」

 

「ん、よろです」

 

 てな訳で急遽ではあるけど戦線、生徒会合同のお食事会が決まりました。みんな来てくれるといいねー、とか話ながら皆で音楽室を後にします。三人とも鬼ごっこしてたの忘れてるみたい。言わないけどもー。

 

 


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