「ナツメくん。これは一体どう言うことなのかしら。説明を要求するわ」
怒りを通り越して呆れた様な表情の仲村さんが言った。場所は食堂入口付近。他の人達の邪魔にならないようにちょっと避けてます。
「お腹空いたからご飯行こうと誘った結果」
「簡潔ね。連絡事項としては満点よ。でもギルティ」
「仲村さんも同罪です」
ここにいるってことはご一緒するんだろうし。
「あら、言うようになったじゃない」
「人間は日々成長するものなのです」
「はいはい。ところで、天使、いえ、生徒会の人達も誘ったの?」
「せっかくなので」
適当に声をかけて回っていたら、気が付けば遊佐ちゃんと竹山くん、それに生徒会メンバーを含めた鬼ごっこ参加者が勢揃い。たいへん大所帯です。座れるかな?
「まさか生徒会と食事することになるとは。少し前なら考えられなかったわね」
そうなの?
「以前に話したと思ったのだけど。覚えて、ああ、やっぱりいいわ。どうせ覚えてないんでしょうから」
失礼な。正解だけども。
「私たち死んだ世界戦線と生徒会は敵対関係にあるのよ。まぁ、ここのところ、正確にはアナタが来てからというもの、その関係は曖昧になりつつあるのだけどね」
「まるで俺が悪いみたいに」
「悪いとまでは言わないわ。だけど、アナタが要因なのは否定できないのよ」
「なんかゴメン」
「ギルティ」
「ファッ!?」
謝ったのに。俺は悪気ないのに。
「冗談よ。謝る必要もないわ」
「仲村さんも人が悪い」
「失礼ね。こんな善良な人間、なかなか居ないわよ?」
「そうだね、お腹空いたね」
「話を聞きなさい」
「うん、今日も素うどん日和だね」
「あら、素うどんの食券がこんなところに」
「焼肉定食と交換でよろしいか?」
「明らかに釣り合わない物を提示しないでほしいわね。持ちかけたこっちが遠慮しちゃうじゃない」
お肉の油苦手です。量食べられません。
「今ならオマケにチャーハン作るよ!」
ちがった。付けるよ!
「話を聞きなさいってば。チャーハンだけで十分よ」
そう言って仲村さんはチャーハンと素うどんの食券を交換してくれた。さすがはリーダー。器が違う。これからもこのひとについていこうとおもいました。
「ああ、そうそう。ちなみにもう一つの要因として彼の名前もあがるわ」
仲村さんの視線は言葉を発すると同時に立華さんと親しげに話している戦線メンバーを捉えていた。音無くんである。
「ん、音無くんは立華さんが気になるみたいだね。たまに話しかけようとしてるみたいだし」
ただ、今だに名前を覚えてもらえていないところを見ると、立華さんと何か意識の違いのようなものがある希ガス。
「アナタもそうなのだけど、目の前でああも仲良くされるとね」
「何か不都合、あ、もしかして嫉妬? 嫉妬ですか? ジェラシーですか? かわいいとこあるじゃん」
「最後の一言が余計よ」
「あれ、否定しないの?」
「そうね。多分これは、それに近い感情だと思うの」
予想外なお返事。今日のリーダーは何やら殊勝です。
「どしたの中村さん。調子悪い? どっか痛い?」
「ありがとう。大丈夫よ」
「我慢いくない」
「我慢なんてしてないわ。誰にも言えなかったことも言えたしね」
「ん?」
誰にも言えなかったこと?
「忘れてちょうだい。今言ったことも。さっき言ったことも」
「まかせて。忘れるのは得意」
「知っているわ。だからこそ話したようなものなのだから」
「褒められてると受け取りますが構いませんね!」
「好きになさい」
ヒラヒラと手を振り仲村さんは先に食堂へと入って行った。反応がいつもより冷たいとか思ったけど、別にそんなことなかった。そして、そんな彼女に続くように戦線メンバーと生徒会勢は足を動かす。さて、どこに座ろうかな。
「素うどんゲッチュ」
とりあえず食券を品物と交換してもらい、空いてる席を探す。丁度ご飯時なこともあってか、席は程良く埋まっていた。まとまった席がなかったのか、戦線メンバーはややバラバラだ。岩沢さんを筆頭としたユイにゃん含むガルデモの五人と藤巻くんと大山くんなどの男子数名のグループ。少し離れて遊佐ちゃんと椎名さんに野田くんと高松くんの四人。後者は随分と静かなお食事会になっているようである。お通夜みたい。遊佐ちゃんに睨まれた。無視した。
「あれま」
ふと目に入った生徒会の人たちは数人の戦線メンバーと共に食事中の様だ。その中で仲村さんと立華さんが並んで座っているのが少し意外。仲悪いんじゃなかったっけ? そしてターゲット、もとい空いている席を発見。突撃します。
「なおいくんなおいくんなおいくん」
「気安く呼ぶな。僕は神に」
「体は麺で出来ている」
「血潮はスープ、心はダシ」
「幾たびの食堂に通って完食」
「ただ一度の――おい、何を言わせるんだ貴様は」
「アンリミテッド・ヌードル・ワークス」
「だから、おい、止せ。座るな。向こうへ行け」
「お断りします」
対面いただきます。素うどんもいただきます。
「直井くん七味とってー」
「気安く呼ぶなと言っている」
「とか言いつつちゃんと取ってくれる辺り直井くんはツンデレですね、誰得ですか?」
「…………」
「無言でラー油入れてくるとか鬼畜すぐる」
岩沢さんみたい。
「粗末にするなよ」
「うん、がんばる」
もう辛いものは慣れました。誰かさんのおかげです。
「そうだ、直井くん。聞いても良い?」
「却下だ」
「うん、直井くんって生前のこととか覚えてる人?」
「話を聞け」
「そうそう。俺は覚えてない人。あ、ちなみに音無くんも覚えてない人」
「だから話を」
「直井くんも覚えてないならどうですか? 一緒に同盟組みませんか?」
「……悪いが、記憶はある」
「あれ、どしたの頭抱えて。頭痛? 頭痛が痛い?」
「わざとらしい二重表現は止せ」
「ですよね」
あと別に頭痛がする訳ではないようです。
「しかし、貴様は記憶がなかったのか」
「ん、ないのですよ」
「それは幸せなのかもな」
「そう?」
「生前のロクでもない人生を覚えていないんだ。それほど楽なことはない」
「実は不安があったりするのだけども」
「不安、か。似合わない言葉だな」
「直井くんが失礼なことを言う。これは断固抗議せざるを得ない」
「却下だ」
ああん、冷たい。
「ところで最近CMにボーカロイドが使われ始めた件についてだけど」
「由々しき事態だ。ただでさえ女神のミクがCMというメディア進出を持って」
ここから三時間ほど拘束されましたとさ。安易な気持ちで地雷は刺激するもんじゃないね。いいべんきょーになったとおもいました。
地味にタイトル変更いたしました。