えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 岩沢さんと仲村さんと出会い、死んだ世界戦線に加入したのが少し前のお話。学生寮にある自分に宛がわれた部屋の壁にはもはや見慣れた戦線メンバーの証でもあるブレザータイプの学生服がかかっていた。

 

 それを身に纏い、ふともう一度視線を壁へと投げた。視界に入ってきたのは詰め襟の黒い学生服。丁寧に扱っているのか、それとも一晩経てばこうなる仕様なのかは知らないが、皺どころか糸クズすら付着していなそうだ。

 

「もしかして、NPCが着るとこうなるのだろうか?」

 

 そうかも知れない。そんなことを思いながらルームメイトである生徒の顔を一瞥した。詰め襟の学生服は二段ベットの下段で静かに寝息を立てている男子生徒のものだった。

 

 戦線のリーダーである仲村さんの話によれば、宛がわれた部屋にいるルームメイトは大抵の場合はNPCだとのこと。NPC。つまりノンプレイヤーキャラクター。俺たちとは違い、この世界を構成する一つの備品の様なものらしい。早い話が人形であり、人ではないそうだ。そしてそれは俺のルームメイトにも当然の如く当てはまる訳で。

 

「……まぁ、普通に会話できるだけマシなのかもねー」

 

 NPCである男子生徒の顔を覗きこむ。そう。彼らとは会話ができた。ゲームのように同じことを繰り返して言うだけの存在ではなく、俺たちと同じように話し、学び、遊ぶ。食事もとれば、トイレも行く。睡眠だって当たり前だ。だから。

 

「そぉい」

 

 男子生徒の目元に先日購買で買ったリップクリームを塗ってみた。すると、何か違和感でも感じたのだろうか。徐に起き上った男子生徒が目元をこする。悶え始めた。そりゃそうだ。

 

「お、おま……なに、しやがっ……」

 

「おはござ。良い朝だね」

 

「なにしたって、聞いて……」

 

「そうだね。メンソレータムだね」

 

 午前5時。まだ若干ほの暗い朝の出来事である。

 

 

 

 その後、飛んできた枕や目覚まし時計を華麗に避けながらやはり先日買ったフリスクを投げ返したりして、そのまま半ば追い出される様にして寮を出てきた。せっかく爽快な目覚めを演出しようと頑張ったのに。

 

「という訳で、おはござ。仲村さん」

 

「どういう訳よ。おはよう、ナツメくん」

 

 場所は死んだ世界戦線の本部。ブリーフィングルームとか別の呼び方もあるけども、ぶっちゃけ校長室である。戦線を設立して即行で乗っ取ったらしい。恐るべき行動力。で、戦線に参加した翌日の朝にここに連れて来られ、制服を渡された上で全員ではないけど戦線の主要メンバーと顔合わせした。岩沢さんをしてアホの集団と言わしめたことだけあって見事にアホばかりだった。さすが主要メンバー(笑)。

 

「でも本当に今日はまた随分と早いのね。どうしたの?」

 

「実はかくかくしかじかで」

 

「なるほど、これこれうまうまって訳ね。ギルティ」

 

「ファッ!?」

 

 ありのままに説明したらいきなり有罪判決いただきました。

 

「異議あり!」

 

「却下。被告人は静粛に」

 

 被告人て。いきなり取り付く島もないでござる。

 

「NPCには手を出さないってのが戦線のモットーなのよ。忘れたの?」

 

「忘れてたけど何か質問ある?」

 

「せめて言い訳をしなさい」

 

「実はアイツが……」

 

「言い訳なんて見苦しいマネしてんじゃないわよっ!」

 

「コーヒー淹れるね」

 

「戸棚にクッキー入ってるからそれも出してくれるかしら」

 

 イエス、ボス。割と慣れたやり取りだったりします。平和だね。

 

 

 適当にくつろぎながら1人でコーヒーをすする。うまうま。あの後、仲村さんは調べ物があるとかで本部を軽やかなステップで出てった。きっとステップに意味はない。俺はと言うと、作戦本部を空にするのはあまり得策ではないと最近になって言い出した仲村さんにここでの待機を命じられる。要はお留守番ですね、わかります。

 

 でも、実は最近の戦線でのお仕事はもっぱらこんな感じだったりする。一応これでも男なので力仕事があったりもするのだけども、そこはアホの集団だからなのかわからないが何故か他の男衆が率先して動く。動く。動く。おかげで出番がないという訳だ。楽だから良いんだけどー。

 

「おーい、ゆり――げっ、ナツメ……」

 

「ようFカップ」

 

 不意に扉が開いたと思ったらひさ子ちゃん来た。アイアンクローされた。

 

「痛い痛い痛い。コーヒー飲んでる時はやめてってば」

 

「お前も会う度にそうやって呼ぶのやめろっつってんだろ? ああん?」

 

 なんてバイオレンス。ややあって解放されました。こめかみがずきずきするよぅ。

 

「ところでどうしたの? 珍しいね。ここに来るなんて。コーヒー飲む?」

 

 本部での顔合わせ以来ここでは見ることの無かったひさ子ちゃん。実はここに彼女が来るのは珍しかったりするのだ。ガールズデッドモンスターと言う死んだ世界戦線お抱えのガールズバンドの一員であるひさ子ちゃんは普段はもっぱら音楽室とか軽音部の部室とかで時間を潰しているとかなんとか。ちなみに岩沢さんも一員らしい。と言うか、リーダーだそうだ。人は見かけとか言動によらないな、なんて思ったのことは誰にも言ってない。肩パン痛いし。

 

「いや、別にいいよ。ゆりに用事あったんだけど、どこ行った?」

 

 キョロキョロと本部の中を見回しながら言うひさ子ちゃん。こんなとこにいるはずもないのに。

 

「向かいのホーム、路地裏の窓」

 

「そんなとこにいるはずないだろ」

 

「わんもあたいむ」

 

「うるせーよ」

 

 ひさ子ちゃんはちょっと冷たいです。でも岩沢さんと仲村さんがツンデレって言ってたからめげない。

 

「で、ゆりはどこ行った?」

 

「仲村さんなら調べもので席外してるよ。残念ながら居場所は知らない」

 

「早くそう言えよ」

 

「ごめんね。ところで急ぎの用事? 遊佐ちゃんに連絡とってもらおうか? コーヒー飲む?」

 

「いや、別に急ぎじゃねーから出直すよ。あとコーヒーはいらねー」

 

「うん、ミルクと砂糖は? どれくらい?」

 

「いや、いらねーって、あー! もう淹れてるし!」

 

「うん、カフェインだね」

 

「会話しろ! 会話ぁ!」

 

「そうだね。ポリフェノールだね」

 

「うわぁー! マジでイライラするっ!」

 

「ストレス? 砂糖多めに入れとくね」

 

 結局その後もぎゃーぎゃー騒いでなんだかんだ雑談に付き合ってくれたひさ子ちゃんはお昼過ぎに仲村さんが帰って来るまで本部にいました。結構良い子です。

 

 

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