えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「りーりーりー」

 

 ファーストにて。

 

「りーりーりー。ところでこのりーりーりーって何だろ。知ってる? なんとなく言わなきゃいけない気がするよね」

 

 相手チームのファーストさんに聞いてみるも、返事はない。それどころか睨まれちった。

 

「さては知らないと見た。なら仕方ないね」

 

 さらに睨まれた。解せぬ。

 

「致し方ない。こんなときは」

 

 というワケでタイム。審判の許可を得て日向くんの元へ。

 

「ひなたくんひなたくんひなたくん」

 

「どうした?」

 

「りーりーりーについて」

 

「お前はそんなことを聞くためにタイムを取ったのか……」

 

「わからないことは放って置かずに聞けって先生が言ってた」

 

「……リードのことだよ。わかったら戻れ。この回で終わらせるぞ」

 

「らじゃ」

 

 またひとつかしこくなりました。

 

「りーりーりー」

 

 再びファーストにて。タイムも終わり、塁に戻ったところでまたも相手チームのファーストさんに声をかけてみる。

 

「りーりーりー。これってリードのことなんだってさ。知ってた? ねぇ知ってた?」

 

 うるせぇと視線で封殺されてしまった。解せぬ。

 

「て言うか、リードしてないのにりーりー言うのはどうなんだろう。そこんとこどう思いますかね?」

 

 もはや目も合わせてくれない相手チームのファーストさん。どうやら接し方を完璧に間違えたらしい。一体何がいけなかったのだろうか。少しだけ悲しみに暮れながら数歩リードをとってみる。りーりーりー。

 

 そして音無くんがバッターボックスに入ったところで相手チームのファーストさんが俺をグローブでタッチ。審判が言った。

 

「アウト! スリーアウトチェンジ!」

 

 なん……だと……?

 

 

 

 よくわからないうちにアウトになってしまったのですごすごとベンチに戻る。とりあえず日向くんに何か言っておかないとなワケなので。

 

「まず服を脱ぎます」

 

「落ち着けナツメ。脱がなくていい」

 

「しかし日向くん。どうにも解せない」

 

「相手がボールを隠し持っていた。それだけだ」

 

「まさか二個目……?」

 

「いや、一個目だバカ」

 

「ですよね」

 

 何時の間にボールを渡したのかはわからないけど、別にルール違反とかはないから単純にこちら、と言うか俺のミス。せっかく華麗にホームインしてやろうと思ってたのにとか言ったら岩沢さんにこの方がアンタらしいって言われた。皆して頷かれると流石に悲しくなるでござる。

 

「なんかゴメンね」

 

「過ぎたことは気にすんなって。この回きっちり守って次で決めるぞ」

 

「さすが日向くん」

 

「まぁ、すんなり勝っても面白くないしな」

 

「ちょっとしたスパイスですね。さすが俺」

 

「とりえず後でゆりに報告しとくわ」

 

「ちょっ」

 

 やめてくださいしんでしまいます。

 

 

 

 気を取り直しまして二回の裏。相手のバッターは五番の人。名前とかわかんない超わかんない。チーム森だから、もう全員森くんでいいいと思う。五番森。六番森。七番森。森、森、森。森林どころの騒ぎじゃないね。もはや樹海レベル。なんか違う気がするけども、とにかく強そうだ。

 

「そして音無くんが生前に野球やってたんじゃないかと疑うレベル」

 

 またも三振に収めた音無くんは涼しい顔で次の打者を待っている。そもそもアンダースローだし、コントロール凄いし、アウトにはなっちゃってたけどもバッティングの方も問題なさそうだし。だしだし。

 

「日向くんもかたなし。あれ? 日向くんの活躍が掠れてきてる。おかしいね」

 

 唯一自覚のある野球経験者よ、強くあれ。あ、睨まれた。聞こえてないはずなのに。すごいね。

 

 

 で、野球経験者疑惑のある音無くんが六番と七番の森くんをすんなり打ち取り三者凡退。スリーアウトチェンジですお。なんか無駄にチームの成績が良くなりそうな予感。完封コースもあり得るかもです。加えて言えば、コールド狙いだし。

 

「かっ飛ばせーおーとなし」

 

「おーとなし」

 

「浅はかなり」

 

 岩沢さんと二人で声援を送る。もっと気合入れろと日向くんにダメ出しもらった。精一杯なのですががが。

 

「浅はかなり」

 

 この回で試合を決めるつもりな日向くんは今にも飛び出しそうな野田くんを必死に押さえている。俺が言うのもなんだけども、五番打者以降がとても残念なチーム日向打線的には何が何でも音無くんには塁に出てもらわないとだし。理想としては野田くんまでアウト無しで繋いでそのまま走者一掃。4点追加で丁度7点。そのまま守りきってコールドゲーム。

 

「浅はかなり」

 

 俺、コールドが決まったらまた言うんだ。あの台詞。

 

「浅はかなり」

 

「どしたの椎名さん」

 

 何時の間にやら忍者さんに背後を取られていたようで腕を組みながらちょっとだけ暇そうにしている椎名さんを見つけた。

 

「退屈だ」

 

「そうなりか」

 

「なり」

 

 確かにまだ一打席しか回ってきてないし、守備の方も割りと音無くんがきっちり押さえてるから椎名さん的には退屈なのかもしれない。個人的には楽なので大歓迎なのですけども。

 

「何かして遊びますか? ナツメとの戯れをご所望ですか?」

 

「浅はかなり」

 

 どうすればいいのさ。

 

「あ、そうだ。そんな椎名さんに相談です」

 

「聞こう」

 

「岩沢さんと関根ちゃんと入江ちゃんとユイにゃんと一緒に日向くんへのイタズラを考えているのですけども、何かアイディアない? ついでに協力してくれると嬉しいです」

 

「ふむ、あいでぃあか……」

 

「いえす、あいでぃあ」

 

 そして椎名さんは徐に苦無を取り出した。

 

「却下の方向で」

 

「解せぬ」

 

「できればスプラッターは無しの方が好ましいです」

 

「すぷらったぁは無し、と」

 

 ……ん?

 

「えーっと、もっとこう、ハートフルでチャーミングなサプライズボンバイエみたいなニュアンスでよろです」

 

「はぁとふるでちゃぁみんぐなさぷらいずぼんばいえ、みたいなにゅあんす……」

 

「しいなさんしいなさんしいなさん」

 

「む?」

 

「萌え」

 

「もえ?」

 

 横文字苦手な椎名さんがとても可愛いです。もっと殺伐とした人かと思ってたけども、認識を改める必要があるみたい。

 

「ね、関根ちゃん」

 

「なっつん、グッジョブ」

 

「ぐっじょぶ?」

 

 何この可愛い人。これからは会う度に横文字言わせてみようと関根ちゃんと決心しました。なんだか椎名さんと仲良くなれる気がする。

 

「椎名」

 

 そんな中、岩沢さんが椎名さんの名前を呼ぶ。岩沢さんもご一緒にどうでしょうか。

 

「いや、アンタの番」

 

 塁に出ている音無くんと日向くんとそれから審判とチーム森の皆さんが飽きれた表情でこっち見てた。何時の間に。

 

「浅はかなり」

 

「なり」

 

 全くを持ってその通りかと。

 

 


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