うし、行くぞ最終回。ぼちぼち終わらせましょうか。お前何もしてないけどな。日向くんもあんまり目立ってないよね。打ってますから、二回くらいホームベース踏んでますから。ちょっとホームベース踏んでくる。後にしなさい。ですよね。
「外野ってベンチから遠いよね。だるいです」
戻るときに小走り強制とかマジ苦痛。後で岩沢さんと入江ちゃんとグチろうと思います。
で、相手のバッターは、うん、もう何番かわかんない超わかんない。でも名前は森くん。たぶん森くん。きっと森くん。うん、もう何でもいいや。とりあえず頑張れ音無くん。主に動きたくない俺たちのために。達ってのは言わずもがなあの人達。
「つーかーれーたーよー」
激しく同意です、関根ちゃん。
「オラオラオラー。ばっちこいやー」
ユイにゃんの声に元気がないです。さすがに疲れた、いや、あれは飽きてるのかもしれぬ。
「入江ちゃんは相変わらず、と」
プルプルしてます。ビクビクしてます。大丈夫かなあの子。いや割りと本気で。
「で、岩沢さんは、ってドコ見てんのあの人」
岩沢さんの視線は校舎の方へ。自分のギターにでも思いを馳せているのだろうか。あの人もう帰っていいと思う。
とかなんとか言ってるうちにバッターアウト。音無くんが好調のようで嬉しい限り。さっきの会話のことはあまり気にしてないのかな。それはそれで日向くんが憐れでござる。
しかしダルい。ボール飛んでこないし俺いらない気がする。
「野球かー」
左手にはめられたグローブを見る。似合わない。制服だからとかそういう理由じゃなくて、なんかこう根本的に似合わない。生前のことはあんまり覚えてないけども、自分の運動神経とかを見ると運動とか全然してなかったんだろうなと思う。きっと、生前の自分は動くのが嫌いだったんだろうし、苦手でもあったんじゃないのだろうか。まぁ、もしかしたら動けなかったという可能性もあるけども。
「うん、むりぽ」
考え出すときりがないから考えないようにしようと言う結論に至った。ていうか考えてもわかんないと言うのが本音。でもこの世界には同じように記憶が曖昧だったりする人も結構いるらしいので大した問題じゃないよね、きっと。
「重要なのは、今をどう生きるかだってじっちゃんが言ってた」
お前死んでるけどな、なんてツッコミがほしいところだったけども生憎と近くに人はおりませぬ。外野寂しいです。あ、森くん(仮)打った。日向くん取った。ナイスプレー。ツーアウト。
「あっとひーとり。あっとひーとり」
むぅ。1人で言ってても今いち盛り上がりにかける。せめて近くに関根ちゃんかユイにゃんがいればまた話は違ってくるのに。もしくは遊佐ちゃんでも可。あ、そうだ。この後は仲村さんのとこに行くし、ついでにインカム貸してもらえるか聞いてみようかな。これでいつでも遊佐ちゃんと仲村さんと、あと竹山くんあたりとお喋りできるんだぜ。各方面から野球しろとか怒られそうだ。動きたくないんです。はい。
で、だ。ラストバッターの森くん(仮)。こっちが全くもって意識していなかったらいつの間にか肩で息しながらバッターボックスに立ってます。立華さんがお好みの熱い展開にでもなったのだろうか。まぁ、音無くんは相変わらず涼しい表情のままだけども。あれ、音無くんって汗かくのかな? ふと思ってしまった。かかなそうって思われるってなんか怖いね。
「このまま楽に終わってくれると個人的には最高の試合です」
せっかくの最終局面なのでそんな願いを込めて意識を試合の方に向ける。音無くんがセットポジションに入る。迎え撃つのはわずかにバットを構え直した森くん(仮)だ。
場が静まり返る――チーム森は緊張から。チーム日向は疲労から――緊張の一瞬だ。誰がなんと言おうがそうなんだ。言ったもの勝ち? 知りません。現場主義です。
「音無くん、やったってー」
アンダースローという珍しい投球フォームから放たれたボールは野田くんのミットに収まる――ことはなくファースト方面のファウルラインを大きく逸れていった。
「ちなみにファールではなく、ファウルね。これ豆知識」
誰に言うでもない豆知識は虚空へと消えた、なんて無駄に厨二っぽい表現を使ってみようかなとか思ったけども、やめた。虚空とか日常会話でまず使わないよね。あとで直井くんあたりと議論しよう。話が膨らみそうですね。立華さんも交えたらあら大変。終わりが見えないお。なんというエンドレス。
「これがエンドレスエイト……いや、ナインか」
ハルヒさんマジハルヒさん。うん、音無くん気にしないでドンドン投げたってー。はい、投げたー。打ったー。ファウルボール。今度もファースト方面。
「なんだろう。今になって感じ始めたこのそこはかとない疎外感は」
なんだかんだ言っても結構内野陣はいい感じの連帯感みたいのが生まれてる気がする。っていうか関根ちゃんとユイにゃんは良いポジションについてるよね。入江ちゃんは、まぁ距離的に遠すぎるし、何よりそれどころではないと思われ。もうひと踏ん張りです。
「踏ん張り、ふんばり……ふんばり、温泉? 入りたいね」
くつろぎに行ってるはずなのに踏ん張るとはこれいかに。
「この世界に温泉とかないのかな。ゆっくり疲れをとりたいです」
日向くんとかひさ子ちゃんあたりに聞かれたら疲れるようなことしてねーだろとか言われる気がする。というか言われる。
お、打った。フライが上がったお。カラッとね。なんつって。
「こっちくんな」
紛うこと無き本音です。でもボールさんはこっちの方向にいらっしゃる訳です。だがしかし。
「残念、飛距離が足りない」
惜しかったね。これは俺の守備範囲外です。日向くん任せた、と思いきや。
「ここはユイにゃんに任せて先に逝けー!」
天国にですね、わかります。
でしゃばりユイにゃんの猛攻。日向くんへとタックルをお見舞いした後にボールへ突撃。目を見張るほどの切り替えの早さだった。何気に運動神経いいと思うあの子。しかし、なんでやってやったぜみたいな視線をよこすのさ。まるで俺が指示したみたいじゃないか。冤罪の瞬間を見た。でも。
「ユイにゃんグッジョブ」
消える条件として野球が絡んでそうな日向くんの邪魔したことは良い感じだと判断します。日向くん的にはアレだろうけども。
「論点は逝ってほしいのか、それとも逝ってほしくないかと言った所ですな」
そんなどうでもいいこと考えてえてたらユイにゃんがナイスキャッチ。スリーアウトでゲームセットです。つまり。
「コールドゲームですよせんぱーい!」
だから俺の台詞ぅ。
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