展開が今いち把握できてないけども、結論を言えば生徒会率いる野球部チームと試合をすることになったようだ。おかしいな、途中からではあるけども、その場にいたはずなのにどうしてこうなったかが全くわからない。どういうことだってばよ、と最初からその場にいたはずの岩沢さんに聞いたらストーンズがどうのとお返事をいただいた。だからどういうことだってばよ。
「でもやることは一緒です。はい、これあげる」
「インカム? 何に使うんだよ?」
訝しげな顔の日向くんから疑問をもらいながらもチームの全員にインカムを配る。疑われたようだった。場所はベンチの前。円状に広がって作戦を練っている最中だ。作戦なんてないけどな!
「わかんない。仲村さんがつけろって」
「ゆりっぺのヤツ、何考えてんだ」
だったら仕方ない、とばかりに呟いた日向くんの手にインカムが渡る。これで全員だ。
「とりあえず着用が義務なんでそこんとこよろしくです」
各々から適当な返事をもらった。インカム配るのはひとまず成功。さてお次はどうしようか。なんて考えてなんとなしにポケットに手を突っ込んだら何かが当たった。取り出してみると、それは皆に配ったものと同様のインカムだった。
「あれ、全員に配ったのに」
一応、辺りにいる人を見て確認してみたけども、全員インカムは持っている。すでに装着済みだ。もちろん、自分も含めて。と言うことは、だ。つまり。
「遊佐ちゃんに、ドジっ娘属性……だと……?」
「妄想乙」
インカム越しの声が耳を襲う。出処を探してみれば、すぐ後ろに。野球帽のオプションがついた遊佐ちゃんが何食わぬ顔でベンチに腰をおろしていた。
「あれま。何してんのそんなとこで」
「どうも、マネージャーの遊佐です」
「南ちゃんと申したか」
「甲子園に連れてって」
「悪意のない顔してるだろう。ウソみたいだろ。ただの球技大会なんだぜ、これ……」
「呼吸を止めて」
「時間の指定は無しですか」
「そこから何も聞けなくなったの」
「お亡くなりになりましたか……」
死因は窒息ですね、わかります。
「どうも、遊佐です」
「ナツメです」
でも本当に遊佐ちゃんは何をしているのだろうか。どうやらチーム日向は先攻らしいのでベンチに戻るついでに遊佐ちゃんに近づく。手にはバインダーとシャープペンシルが握られていた。もしかしたら、本当にマネージャーをやるのかも知れない。
「スコアつけるの?」
「いいえ、形だけです」
「ですよね」
薄々そんな気はしてました。
で、だ。インカム配って、遊佐ちゃんとの会話も済んで、後は試合に臨むだけになった。オペレーション「ただし日向、テメーはダメだ」についての内容は適当なタイミングで俺が伝えるか、遊佐ちゃんに伝えてもらおうと思います。まぁ、内容と言っても日向くんが成仏するんじゃないかってタイミングでイタズラ、でなくて、阻止しに行こうぜってだけなんだけども。うん、疑わしきは罰せよ。ちょっとでも成仏臭がしたら即GOサインを俺か遊佐ちゃんが下します。
「日向くんがッ 成仏しなくなるまで 邪魔するのを やめないッ!」
「このきたならしいなっつんがァーッ!!」
「関根ちゃんが俺を汚物扱いする。失礼にも程がある件について」
「試合サボった」
「ごめんなさい」
結構な感じでお疲れの様子の関根ちゃんでした。俺のいない間に何試合かこなしたんだっけ。それはそれはお疲れ様ですね、なんて労いの言葉を投げれば帰ってきたのは関根ちゃんの黄金の右。なんとも手痛い仕返しが俺の脛を直撃した。あれ、足だから手痛いじゃなくて、足痛い? まぁ、どっちでもいいか。正直、ひさ子ちゃんの蹴りに比べたらそんなに痛くなかったし。
「そういえば関根ちゃんが髪縛ってる。珍しいね」
「動いてる内に鬱陶しくなってきたからねー。みゆきちにゴム借りてみた。似合う? ねぇ、似合う?」
「うん、ボリュームあるね」
「あたしはみゆきちと違ってちょっと天然入ってるしねー」
「自称天然と申したか」
「誰が言動が常識からずれている事に気付かず、その場にいる大半の人間をイラつかせることに定評があり、それを100%可愛いと思い込んでいる自称天然か」
「なんかごめん」
「うぃ」
入江ちゃんはちょっと天然だよね。そだね。岩沢さんは? あ、あれは、どうだろね……? コメントに困ってる関根ちゃんワロス。
閑話休題。
「うし、行くぞテメーら!」
日向くんがやる気満々の様子でベンチでまったりしていた俺達に言った。
「言い方が気に食わない」
と、関根ちゃんが。
「何様だテメーはー! 頭沸いてるんじゃないっすかねー!」
と、ユイにゃんが。
「そろそろ帰ってもいい?」
と、岩沢さんが。
「――浅はかなり」
トドメに椎名さん。チーム日向の女性陣がキャプテンに軒並み冷たい。日向くんは思わず両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。まじドンマイ。
とりあえず、音無くんと一緒に日向くんをよしよししておいた。その間に遊佐ちゃんに頼んで女性陣をなんとか説得してもらう、と言うのは嘘だったり。実はすでにオペレーションが始まっていたりするのだ。若干、一名が本音をぶつけていたりしたけども、基本的には全てオペレーションです。ココ、間違えないように。
ここまでの試合の中で肉体的にも精神的にも相当疲弊しているであろう日向くんを音無くんが引っ張っていき、整列。スポーツとは礼に始まり礼に終わるものなのです。マナーって大切。乱入してる身だけども、今更なんて言葉は聞こえないし気にしない。
生徒会率いる野球部と向かい合う。先頭で向かい合っているのは日向くんと、野球帽とジャージャを羽織った立華さんだ。なんという優等生。俺? 最後尾ですけど何か?
「ナツメ」
挨拶も終わり、ベンチに戻ろうとしていた俺に後ろから声が掛かる。立華さんだった。
「どしたの? 帽子似合うね」
「ありがとう。ところで、その耳にしているのは何? そっちのチームは全員付けているようだけど」
「インカム。これでみんなでお話しながら野球する」
「そう。仲がいいのね」
そう言えば。
「はい。立華さんにもあげる。1個余ってるし」
「……いいの?」
「でも後で返してね。無くすと怒られるから」
ちょっと嬉しそうな顔してお礼を言ってきた立華さんはそのまま戻って行った。うん、まぁ、大丈夫でしょ。根拠は全くない。
「立華と何話してたんだ?」
「ん、なんでもないよ。音無くん」
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