えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「さて始まりました。一回の表、チーム日向の攻撃。バッターは一番、記憶のない孤高の狩人、音無。見事、相手のピッチャーのボールを射抜くことができるでしょうか。実況の遊佐です」

 

「どうした遊佐ちゃん」

 

 いきなり始まった遊佐ちゃんの実況。淡々と繰り出される言葉の押収はベンチにいた俺達を大いに驚愕させた。マネージャーやりに来たと思ったら実況だったでござる。でもちょっと面白そうだ。ぜひ混ざりたいものである。

 

「ここまでの試合、素晴らしい投球でチームを勝利へ導いてきた音無選手。なんとバッティングにもそのセンスは光ります。同チームのナツメさん。何かコメントを」

 

「そうですね。彼にはいつも助けられてきました。また今度も助けてくれると嬉しいです。あと遊佐ちゃん愛してる」

 

「ありがとうございました。遊佐です」

 

「あれ、スルーされた。スルーされましたナツメです」

 

 悲しいね。

 

 

 で、さっき遊佐ちゃんが言っていた通りに音無くんがバッターボックスに立っているわけだけども、チーム日向は生徒会がつれてきた野球部相手にどこまで通じるのだろうか。言ってしまえば、こちらのチームは日向くん以外に明確な野球経験者がいないのだ。いるのは、記憶の無いのが2人、青いの、アホ、忍者、話を聞かない人に、めんどくさいのと元気な人。あと可愛い小動物みたいな人。なんというカオスな構成メンバー。ここまで勝ち進んだのが奇跡だと誰もが口を揃えて言うことうけ合いである。なので。

 

「遊佐ちゃんにお願いがあります」

 

「話を聞く女。遊佐です」

 

「打ち上げの件、許可もらったので仲村さんに報告よろ」

 

「ご心配なく。ゆりっぺさんはすでにその気で動いています」

 

「なんと」

 

「なので本題をどうぞ」

 

 仲村さんがすでに動いているのも驚きだけど、本題に入っていないことに気づかれたのも驚きである。

 

「さとい女。どうも、遊佐です」

 

「さとり世代と申したか」

 

「本題を」

 

「あい」

 

 そこはのってくれないのね。

 

「さすがにこのメンバーで野球部を相手取るのは難しいと思われるので、適当に運動神経の良さそうな暇している人を見繕ってほしいです」

 

 聞くところによると、すでに死んだ世界戦線の球技大会参加チームはチーム日向を除いて、全てのチームが敗退してしまっているそうなのできっとそれも可能だろう。

 

「建前乙」

 

 なぜバレたし。

 

「さとい女。遊佐です」

 

「さとられる男。ナツメです」

 

 なんてやり取りはさておいて、結局遊佐ちゃんは動いてくれるそうで、早々に去っていった。優しいね。そう言えば、ベンチにバインダーとシャープペンを置いて立ち上がった遊佐ちゃんが言い残していったけども、なんと驚くことにすでに松下五段は勧誘済みだそうです。しかも勧誘したのは音無くん。肉うどんの食券で釣った。釣れた。違った。交渉した。音無くんも罰ゲームは怖いのだろうか。ここで負けたら同率だからきっと罰ゲームになるだろうし。と言っても罰ゲームは打ち上げの準備なのだけども。あれ、この際ここで負けてみんなで準備した方が効率がいい気がする。まぁ、いいか。

 

「で、いつの間にか音無くんに続いて、日向くんと椎名さんが出塁している件」

 

 なんだろう。球技大会の展開が早い気がする。まぁ、見てないのが悪い気もするけども。でも、打順とかは変わってないみたいだから次のバッターは野田くんあたりだろうか。

 

「なっつーん」

 

「ん? どしたの関根ちゃん」

 

「つかれたつかれたつーかーれーたー」

 

 とてもお疲れの様子で項垂れている関根ちゃん。たれ関根ちゃんとでも呼ぼうか。試合中は緊張のあまりプルプル震えている入江ちゃんによしよしされている始末です。なんか珍しい。

 

「もうちょっとで遊佐ちゃんが代打連れてくるからそれまでの辛抱です」

 

「遊佐さん愛してるー!」

 

「それさっき言った」

 

 スルーされましたががが。

 

「みゆきちが一番だけどな!」

 

「知ってたけどな!」

 

 関根ちゃんの入江ちゃん至上主義は目を見張るものがあります。しかし、一体何が関根ちゃんを駆り立てるのだろうか。

 

「ところで入江ちゃん大丈夫? 疲れてない?」

 

「うん。だいじょぶだよー」

 

 第一試合開始頃の入江ちゃんはもういないようだった。慣れたのか、開き直ったのか。はたまた今だけなのか。それは判断しようもないけども、元気そうで何よりです。

 

「なっつんがみゆきちに優しい。さてはなっつん! みゆきちのこと好きだな! 渡さんぞー! みゆきちはあたしンだー!」

 

「と言ってますが入江ちゃんはどうですか? ナツメはご入用ですか?」

 

「お、お友達で……」

 

 ふられちったお。関根ちゃんがすごく勝ち誇った顔してます。でも不思議と負けた気がしない。

 

「ではそんな関根ちゃんはどう? 入江ちゃん的にご入用ですか?」

 

「えっと、うん。ご入用、かな」

 

 はにかんで言うみゆきちマジ天使、とは後の関根ちゃんが語るとか語らないとか。とりあえず今言えることは一つなワケで。

 

「関根ちゃん、落ち着いて」

 

「なっつん。あたし、今なら成仏できる気がする!」

 

「だから、落ち着けと」

 

「みゆきち以外、何もいらない」

 

「ベースもいらぬと申したか」

 

「あ、こら。余計な……うわ、見てる。岩沢先輩めっちゃこっち見てる」

 

「なんでこういうことは聞こえてるんだろうね」

 

 ふしぎだね。ねー。ところで次のバッターって誰? あ、あたしだ。入江ちゃんと一緒に応援してるね。がんばる、超がんばる。

 

 見てろよなっつーん、と意気揚々とバッターボックスへ向かう関根ちゃんにそこは入江ちゃんじゃないのだろうかとか思ってたらいきなり右肩をガシリと誰かが掴んで、そのままグイッと強制的に方向転換。誰かと思えばなんだ岩沢さんじゃないか、なんて建前を口にした所で岩沢さんが口を開いた。酷く慌てた様子である。

 

「せ、関根がガルデモ抜けるって言って……!」

 

「ないね。一旦落ち着こうか」

 

 どうどう、と岩沢さんを宥める。こんな岩沢さん見たことないからなんか新鮮です。あとでひさ子ちゃんに報告してみようかな。

 

「……本当に?」

 

「本当に」

 

「……絶対だな?」

 

「この世に絶対は無いのだよ。絶対にね」

 

「関根は抜けないんだな」

 

「話聞いてよ」

 

 安心してないで突っ込んで欲しかったのが本音だけども、岩沢さんが嬉しそうなのでもういいです。

 

「ところで今、試合はどんな状況なの?」

 

「ガルデモは5人でガルデモだ」

 

「ですよね」

 

 次からは素直に音無くんに聞こうと思いました。

 




転職しまして、うまく時間がつくれませぬ。
でも頑張るよ!

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