ゴメンね、全く見てなかった。なんて関根ちゃんに伝えたのがついさっきのような気がしたんだけども、不思議なことにすでにライトにて待機。現在進行形で守備についていますいんぐ。とてもダルいけども、やらなければいけないという。遊佐ちゃん、早く誰かつれてきてくだしあ。
「ん、さすがの音無くんも野球部が相手だと荷が重いと見た」
大きい当たりこそないものの、ちょっとずつ打ち崩されてきてる感じ。まぁ、ここで野球部相手に完封とかやらかしたら、もう高校球児確定だよね。疑いようもない。
「つまり、センスの塊か。音無くんおそろしい子」
高校球児じゃないことで何かとてもすごい事実に気がついてしまった気がするけども、まぁ、いいか。日向くんが泣きを見るだけだろうし。きっとメシウマ。
「あ、そうだ。遊佐ちゃん聞こえますかー?」
「聞こえません。遊佐です」
「聞こえてるがな」
インカムから聞こえてきた声にはとりあえず言ってみた臭がそこはかとなく漂ってるけども、ちゃんとお返事してくれたので気にしない。世の中にはミリ単位でお話聞いてくれない人もいるしね。例えば、岩ゲフンゲフン。なんでもないです。
「これ、全体通信?」
「基本的には。しかし、チャンネルを変えることでアラ不思議。なんと個人での通信が可能に」
「まぁ、すごい。でもお高いんでしょう?」
「そんなことはありません。なんと今なら逆の耳に装着できるアタッチメントも込みでこのお値段」
「うわっ……このインカム、安すぎ……?」
「ゆさネットたかた」
「なぜジャパを消したし」
ゆさなのかたかたなのかそれが問題だ。遊佐です。いや、知ってるけども。遊佐です。なんか今日はテンション高いね。そんな日もあります。なるほど、覚えとく。遊佐です。ナツメです。
「そして本題。誰か適当な人とお話した」
「ポチっとな」
「仕事早いね」
いつも通りの仕事の早さで嬉しい限り。さて誰につながるのやら。わくわくが止まらねぇ!
「何が早いのかしら?」
「お、仲村さんだ。さっきぶりですね。そうですね」
「そうね。定時報告かしら。試合中だけど」
「いや、単なる暇つぶしだったりします。試合中だけども」
今回ばかりはボールが飛んでくる可能性はあるけども、別に気にせずお話します。これが音無くんへの信頼の証でもあると思うんだ。音無くん信じてる超信じてる。
「ここはきっと怒る所なのだろうけど、なんかアナタ相手だとその気も失せるわ」
「恐悦至極」
「褒める要素がないわ」
「知ってた」
あ、打ち上げの件OKもらったよー。ご苦労さま。大きい花火はダメだけども、小さいのなら大丈夫っぽい。なるほど、用意しておくわ。しておく? 訂正、させる――って何言わせるのよ。うん、立華さん達も呼んどいたから。えっ。遊佐ちゃんよろー。
どこからともなく聞こえたポチっとなの声の後、俺の耳に装着されたインカムはチャンネルを変えたようだった。このインカムは基本的に遊佐ちゃんとは繋がってるのだろうか? まぁ、いいか。
「お次は誰だい?」
「私だ」
「わからんがな」
「浅はかなり」
「椎名さんでしたか。これは失敬」
しーなたん改め椎名さん。いや、椎名さん改めしーなたん? どっちだっけ?
「どっちでもいいね」
「……何の話だ?」
「こっちの話ですのでお気になさらず」
「浅はかなり」
椎名さん、リピートアフターミー。……あふたみ? アフターミー。あふたーみー。しーなたん発見しました。……何の話だ? こっちの話。浅はかなり。それもうやった。……浅はかだったなり。
「では、しーなたん。オペレーション」
「おぺれーしょん」
「ウォーズ」
「運営頑張れ」
「こらこらこら」
頑張ってたから、きっとすごく頑張ってたから、なんて思ってたらどこからともなく魔法の言葉が。
――ポチっとな。
「遊佐ちゃんの切り替えタイミングが秀逸。絶好調だね」
あれ、でも遊佐ちゃんここにいなくね? どこからタイミングを測ってるんだか。
「……驚いた。その声はナツメね」
「ん、あれ? 立華さんだ。元気?」
「私は元気よ。ナツメは?」
「そろそろ休みたいです」
いくらこの世界だからと言っても、身体は大切にしなきゃダメよ。そだね。ちゃんとご飯は食べてる? 睡眠は? ゲームばかりしていてはダメよ。母さんか。母さんじゃないわ。ですよね。
「と、インカムはこのように使用すると宜しいですヨっ」
「…………」
「あら? 立華さん?」
「しゃかしゃかへいっ」
「お気楽、極楽、騒がし乙女。立華さん、野球好き?」
「見るのは好きよ」
そのまま話を聞くと、立華さん自身はあまり運動が得意ではないとかなんとか。まぁ、確かに見た感じ大人し目な文系少女な訳だし、納得です。しかし、普段はエンジェルなんとかを使って運動神経の底上げをしているらしい。底上げってなんぞ。公式チートですか、ぜひ教えてほしいと頼んでみると意外にもあっさりと。
「無理ね」
「ですよね」
断られてしまった。情報の独占いくないとか言ってみるも効果は無く、情報を共有してもらえることはなかった。うん、やっぱりズルはダメだ。正直に生きなきゃね。死んでるけども。
「正直に、そしてでっかく生きるよ男なら」
「横道逸れずにまっしぐらなのね。ハートはいつでも?」
「まっかっかっかっかでござる」
閑話休題。
「気がついたら3点取られていて、入江ちゃんが泣いてる。そして関根ちゃんが視線で人を殺しそうな勢い。どうしてこう、展開が飛び飛びなのでしょうか。ナツメは困惑中でございます」
見てないからだ、と誰かに言われそうだ。立華さんとの通信も終わり、ひとまずインカムで遊ぶのは終了して現状を把握しようとしたところ、どうにも認識していた場面から2、3ステップ飛んでいるらしかった。時間の流れとは残酷である。
「さて、どうしたもんかね」
「交代要員、到着しました」
「なんと」
遊佐ちゃんからの全体通信によってもたらされた朗報に思わず全員がベンチの方へ視線を向けた。そして日向くんが声も高らかに告げる。
「選手交代!」
まずはセンター。やる気皆無の岩沢さんに代わって、音無くんの肉うどんに釣られた松下五段。その手には肉うどん。
次にレフト。これ以上は全員からストップがかかりそうな感じの入江ちゃんに代わり、TK。踊ってる超踊ってる。
サード。入江ちゃんの件で今にも相手チームに噛みつきそうな関根ちゃんも交代。高松くんが代わりに己の身体一つでサードに入ります。グローブ持ってこい。
そして最後。日向くんが言った。
「ナツメ、藤巻と交代」
「ですよね」
長ドスを抜き放った藤巻くんがすれ違いざまに任せろと言って、去っていく。とても不安だ。そして、遊佐ちゃんが連れて来た交代要員はこれで全員。チーム日向が、チームSSSになったのだ。ユイにゃんはーっ!? チームSSSになったのだ。しかし、それにしたって……。
「肉うどんとかダンスとか、みんな野球なめてるよね」
「ん、そうだな」
「お前らには言われたくないだろうよ」
応援に駆けつけてくれてたひさ子ちゃんが呆れた目でこっち見てましたとさ。
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