「 球 技 大 会 な ん て な か っ た 」
皆で汗水垂らして青春しようぜなんて粋なイベントは開催なんてされなかった。夢である。死んだ後にも夢を見るのは不思議な感覚だけれども、きっと夢である。
「そんなワケないじゃない」
「ですよね」
呆れ顔の仲村さんに言われて現実へ戻る。死後の世界が現実ってのもなんとも言えない感覚なんだけども、これが今の現実であるから仕方ないことなのだ。
さて、生徒会の介入、そして我らがリーダー仲村さんの参戦により球技大会は盛り上がりを見せていた。自惚れじゃなければ、きっと今大会最高の盛り上がりなのではないのだろうか。他のあんまり見てないから知らないけども。
「さぁ、ジャンジャン行くわよーっ!」
「なかむらさんなかむらさんなかむらさん」
「何よ、ナツメくん。今イイトコなんだから邪魔しないでくれない?」
ちょっと不服そうな顔をした仲村さんがこっちを見ながら言う。
「うん、日向くん買い出し行っちゃったね」
「言いたいことは早く言いなさい」
「うん、守備足りないね」
「さぁ、出番よ大山くん!」
いきなり話をふられて困っている大山くん。でもちゃんとグローブをはめる辺り真面目さが垣間見える。まだ攻撃の最中だけども。とりあえずアレだ。仲村さんが楽しそうだからいいか、なんて結論が導き出された。別に考えることを放棄したとかじゃないのであしからず。
「あ、そうそうナツメくん」
「呼ばれた気がした」
何か言い忘れたことでもあったのだろう。仲村さんに呼ばれた。そして手渡される巾着袋。何これ?
「そこにお金入ってるから、日向くんと一緒に買い出しお願いね」
「なぜこのタイミングで」
日向くんは既に遥か彼方へ。影もない状況です。せめてもう少し早く言ってほしかったです、はい。
「今は日向くんに建て替えてもらっておけばいいじゃない」
そういう問題なのだろうか、甚だ疑問ではあるけども、ぶっちゃけ疲れて、はないけどあんまり動きたくないです。要するに面倒くさい。要さなくても面倒くさい。
「つまり、面倒くさい」
「ワガママ言わないの。ナツメくんが何もしてないの知ってるんだから」
「それを言うなら仲村さんだって」
「私はいいのよ。リーダーだから」
素晴らしきジャイアニズム。否、ゆりズム。なんか響きがエロいね。
「不満だというなら、尤もらしい理由つけてあげるわ」
「言っちゃった。尤もらしいって言っちゃった」
もうどんな理由つけられようと信じられる気がしませぬ。だって尤もらしいって言い切ったもん。
「日向くんを足止めしなさい」
「どれくらい?」
「試合が終わるまでよ」
「もはや参加させないつもりだったとは……」
さすが我らがリーダー。考える事が違う。やる時は徹底的にやるのが信条とでも言うのだろうか。きっと死んだ世界戦線は安泰です。多分。
「いいえ、そこまでは言わないわ」
「おろ?」
「言ったはずよ。アナタに任せるって」
心なしか真剣な眼差しがこちらに向けられる。仲村さんはたまにこういう目をむけてくるから困る。そんな顔されたら……。
「やるったらやる!」
「頼むわよ、ナツメくん」
「俺だけが頼りなんですね、わかります」
「しまっていこー!」
ああん、冷たひ。無視は心に響くのよ。
「という訳で、さっきぶり」
「何しにきたんだよ、お前……」
購買で呆れ顔の日向くんに遭遇だっぜ。何も手に持ってないところを見ると、お買い物はまだみたい。
「オススメは素うどんです」
「食堂行け」
「あんまりお腹空いてないれす」
あーそうですかと言わんばかりの日向くんの感情はさておき、あまり急いでなさそうなことに違和感を覚える。
「球技大会なんてなかった?」
「いや、あるだろ。真っ最中だろ」
「ですよね」
日向くんは不意にこちらに向けていた視線を外した。後頭部をポリポリと書いており、何かを言いたそうな雰囲気を醸し出している。デキる男は空気にも敏感なのだ。何が言いたいのかも容易に察することができるワケで。つまり。
「――ゴメン。俺、ノーマルだから」
「告白とかじゃありませんからっ!」
違った。デキる男の称号を返還する必要があるかもしれぬ。
「お前は俺から何を感じ取ったんだよ……」
「音無くんが言ってた。日向くんがいつもと違う空気出したら気をつけろって」
「音無ィ……」
音無くんって実は日向くんのこと嫌いなんじゃね? 今度仲村さんあたりを交えてじっくりお話しして見ようかな。
「あー、その、なんだ。ナツメはさ」
「うん、ナツメです」
「この世界で満足、できたか?」
「どしたの、急に」
どこか優しくも、わずかに真剣さを帯びた眼差しの日向くん。普段と違い、周りに気を遣っているような、その場のノリなどでは言ってないようだった。
「俺だって、馬鹿じゃない」
「うん、アホだよね」
「茶化すなよ。かなり真面目な話だ」
「ん、ゴメンね」
日向くんはわかってるならいい、と苦笑を浮かべた後に視線を空へと向ける。綺麗な青空だ。
「戦線の皆が俺の成仏を阻止しようとしていることくらいは、わかってる」
「気付いてたんだ」
「お前らはやり方が露骨すぎるんだよ」
正直意外だった。日向くんはふざけているように見せて、実は結構考えて行動している人なのかもしれない。
「オペレーション『ただし日向、テメーはダメだ』失敗の模様」
「もうちょいマシな名前つけてくれよ」
呆れ顔の日向くんだったが、これからどうするのだろうか。
「今から球技大会に行けば、まだ間に合うよな」
「きっと、行ったら日向くんは消えちゃうんだろうね」
実際、その可能性は高いと思う。仲村さんの命令を振りきってまで戻るのだ。その覚悟はきっと伝わる。
「なぁ、ナツメ。俺はどうしたらいいんだろうな」
「知らない」
「なんだよ。冷てーな。友達だろ?」
「そんな役、俺にはむりぽ。音無くんにでもお願いしてくだしあ」
会話が途切れる。日向くんはきっと色々考えているのだと思う。戦線のことや、音無くんのこと。それに仲村さんのこととか。戦線初期メンバーである日向くんは、俺なんかとは比べ物にならないくらい死んだ世界戦線への思い入れは強いはずなのだ。
それからどれ位経っただろうか。長かったような、短かったような。日向くんはしっかりとした意志の篭った目をこちらに向けた。
「決めたんだね」
「ああ、悩むなんて俺らしくなかった。かっこ悪いトコ見せちまったな」
少しだけ恥ずかしそうに笑う日向くんにかけるべき言葉は一つしかない。
「大丈夫。いつも通り」
「いつもかっこ悪くありませんからっ! かっこ良い俺もいますからっ!」
「ん、その調子です」
やっぱり日向くんはそうじゃなきゃいけないと思う。例え付き合いが短かったとしてもそう思ってしまったのだから、仕方ないのだ。
「……お前と話してると疲れるな。ひさ子の気持ちがちょっとわかったぜ」
「でもなんだかんだ相手してくれ――」
「俺、ちょっと行ってくるわ」
「そっか。うん、いってらっしゃい」
「買い物、頼むな」
「頼まれた。見事任務を遂行してみせようぞ」
日向くんは走り出した。廊下を走るな、なんて常識は今は忘れよう。かの王様だって言っているのだ。
「もう考えるな、走ってしまえ」
そう呟いた直後、日向くんが急ブレーキをかけた。走れってば。
「ナツメー! 俺の分のらぁめんババア買っといてくれー!」
柄にもなく、苦笑が漏れた。
「ん、ババアをいっぱい用意しておく」
「ババアじゃなくて、らぁめんババアな!」
「選り取り見取りのババアを用意してみせよう」
「食いきれる量で頼むぜ! じゃあ、打ち上げで!」
「ちょ」
せめて最後まで付き合って欲しかったでござる。
「まぁいいか。追加ミッション。日向くんのらぁめんババアの確保っと」
きっと、これでいいのだ。
「そっか。それがなっつんの選択なんだね」
振り返る。この子はいつの間にいたのだろうか。
「ん、さっきぶりです。関根ちゃん」
意味深な笑顔の関根ちゃんが、そこにいた。
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お久しぶりです。
かろうじて生きてました。