「やっほー、なっつん」
一瞬。ほんの一瞬だけ、誰かわからなかった。
「……何してるの? 関根ちゃん」
いつもと雰因気が違った。そう感じた気がした。先ほどまでポニーテールだった髪もすでにおろしていて、いつも通りの関根ちゃんのはずなのに。
「なっつんが大変かなーっと思って追いかけてきたんだよ」
「一人で? 入江ちゃんは?」
「疲れてるみたいだったから、岩沢先輩とひさ子先輩に預けてきた」
いつも通りなのだろうか……?
「本音は?」
「球技大会飽きた」
いつも通りだった。いつもと違う雰囲気なんてなかった。
「なっつんいないしー、みゆきちお疲れだしー。遊ぼうぜなっつん! ヘイヘーイ!」
平常運転でござる。でも。
「さっきの選択って?」
「質問ばっかりだね、なっつん」
ちょっと困ったような表情の関根ちゃん。珍しい気もする。
「言い難いこと?」
「ちょっとだけね」
「じゃあ、聞かない」
「うん、そうしてくれると助かるなー」
「でもここはやっぱり聞こうと思います」
「そりゃないぜなっつーん!」
冗談ですお。うん、知ってた。でも、いつか話してくれると嬉しいです。うん、待っててね。待ってる、超待ってる。ごめんね、あとありがと。
「では、気を取り直して参りましょう」
「さすがなっつんだぜ!」
よくよく考えて見ると、ここは購買なワケで。日向くんと話していたときから考えると、結構な時間買い物もせずに話し込んでいるのだ、そりゃ購買のおばちゃんの視線も気になってくる。なので。
「選り取り見取りのババアを下さい」
「ダメだよなっつん。ババア一人しかいないもん」
「ホントだ。ババア一人しかいないね」
すごい目で睨まれた!
「ところでなっつん」
「ん、ここにおります」
関根ちゃんからお呼びがかかった。その手にはモロッコヨーグル。いつ見てもそれはネタとしか思えない。しかし、駄菓子の話をすると必ずと言っていいほど話題に上がる優秀なネタ要員である。
「購買に何しに来たの?」
「あれ、もしかして聞いてない? 打ち上げやるよ!」
「あたしはなっつんを信じてた……!」
そういえば打ち上げ開催については伝えてなかったっけ。こちらの落ち度である。関根ちゃんは気にした様子はないけども。
「というワケで、お菓子買おうず!」
「いぇーい! あ、こんなことならユイも連れてくればよかったかも」
「ユイにゃんいらね」
「知ってた」
ていうか球技大会にはちゃっかり参加していた気がする。運動苦手なクセして。
「でも頑張ってるからユイにゃんにも何か買っていってあげようと思います」
「あれ、珍しくなっつんがユイに優しい」
「ジンギスカンキャラメルとかないのかな?」
「あ、そんなことなかった」
そして、二人してあーでもないこーでもないと話しながら結局全員にそれぞれお菓子をチョイスすることに。
「岩沢さんはポッキーにしよう」
また皆で餌付けしようと思います。参加者求ム。
「ひさ子先輩には、アポロ! 確かイチゴ好きだったと思うし」
意外とヌイグルミとかも好きなんじゃね? そういえば部屋にあったかも。マジか。4つくらいあった。ひさ子ちゃんが女子だ。四角くて東西南北って書いてあった。女、子……?
「入江ちゃんは……フーセンガムかな」
「個人的にはにんじんを買ってウサミミを付けたい」
「それだ」
そのまま次々にお菓子を手にとって行く。
「仲村さんにはミックス餅」
「しーなたんは、すももー!」
なんてやりとりしながら各々チョイス。もちろん、日向くんのらぁめんババアも忘れない。お金足りるかな? なんてことは気にしません。軍資金は仲村さんからしっかりと預かってるし、心配ない。きっと。多分。足りなかったらポケットマネーから工面します。使うとこあんまりないし、実はお金は余ってたりする。
「立華さんはどうしようかな」
「立華さん……? あ、天使のことか」
「そうそう。何がいいかな?」
「うーん。話したことないしなー。どんな感じの人?」
「熱血系のアニメとか特撮が好きな人。あ、辛いもの好きだったかも」
あとカップリング厨らしい。これは言わないけども。
「じゃあ、無難にムーチョかな」
「ムーチョだね」
後は、女の子だし甘いものを適当にチョイスしようと思いました。
購買で買い物も終わり、両手にビニール袋を下げながら関根ちゃんと廊下を歩く。
「それにしても、日向先輩も残留かー。まぁ、なんとなくそんな気はしてたんだけどねー」
「そだね。音無くんも仲村さんも喜ぶんじゃないかな」
きっと仲村さんは恥ずかしがって言わないだろうけども。実はツンデレなんじゃね? 本人に聞いてみようかな、なんて思ったけども、ベレッタさんをプレゼントされる未来が見えたので止めておくことにした。自分は大切にしなきゃだね。
「それにしても、関根ちゃん。日向くんのこと知ってたんだ」
「まぁねー。あ、多分みゆきちもわかってたよ。日向先輩の状態も、なっつんのしようとしてたことも」
「つまり俺と入江ちゃんは相思相愛。照れる」
「あれ、あたしは? あたしもみゆきちと相思相愛じゃね?」
「ユイにゃんあげる」
「ユイいらね」
「ですよね」
閑話休題。
「あたしさー、生きてた頃は友達いなかったんだよねー」
「そうなの?」
「うん。こんな性格だし、周りと波長が合わなかった」
あはは、と苦笑を浮かべた関根ちゃん。関根ちゃんの過去の話は初めて耳にする。正直、意外だった。人はみかけによらないものだ。
「こんなに良い子なのに」
「なんか照れる。結構照れる」
一息吐いて、関根ちゃんが口を開く。
「頑張って合わせようとしてたんだけどね。段々と孤立しちゃって、疲れちゃった。そう思ったら何もかもどうでも良くなっちゃってさー」
「自殺?」
「違うよ。あたしは事故。それに、自殺した人はここには来れない。多分だけど」
死後の世界。生前ロクでもない人生を送った高校生のみが来ることを許される世界。関根ちゃんも例外なく、その条件に当てはまる人生を送って来たらしい。
「全員の生前知ってる訳じゃないけど、あたしはきっと『軽い方』なんだと思う」
軽い方とは死んだ理由のことなんだろう。
「そんなことないと思われ」
「さすがなっつん。良いこと言うね」
うーん、と関根ちゃんがぼやいて、大股で歩き出した。
「ねぇ、なっつん」
少し先を行った関根ちゃんが振り向きながら言った。
「――あたしが消えたら、寂しい?」
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