えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「寂しい」

 

「うはー、即答か。聞いておいて何だけど、ちょっと照れるね」

 

 仲の良い友だちがいなくなってしまうのは寂しい。

 

「でも入江ちゃんが一番寂しいと思う」

 

 関根ちゃんと誰よりも仲の良い入江ちゃんが、間違いなく一番寂しがると思った。しかし、関根ちゃんはゆっくりと首を横に振った。

 

「みゆきちは大丈夫だよ。ちゃんと話してあるし、約束もした」

 

 何を、と口を挟もうとしたがそれよりも先に関根ちゃんが口を開く。

 

「もし、どっちかが先に消えちゃっても恨みっこなし。ちゃんと笑顔で送ろうね、って」

 

「薄々感じてたけども、もしかしなくても関根ちゃんって」

 

「あとひと押しってところかなー」

 

 おどけながら言う関根ちゃん。あとひと押し。もしかしたら、ここから先の会話次第で関根ちゃんは消えてしまうのかもしれない。消えてしまうのだ。『関根しおり』という人間が、この世から。

 

「さて、そこでなっつんにお願いがあります」

 

「ん、聞きましょう」

 

「あたしと友達になってよ」

 

 差し出される右手。迷いのない表情はこのあと自分がどうなるかわかっているからなのだろう。

 

「それが、関根ちゃんがこの世界に呼ばれた理由?」

 

「そだね。あたしは友達がほしかった。気を遣ったり、遣われなくていい、本当の友達」

 

 ありのままの自分を受け入れてくれて、関根ちゃんがありのままを受け留められるような人。そんな友達を渇望したから、この世界は『関根しおり』という人物を招いたのだろう。生前、終ぞできなかった『友人』という存在を求めた少女は、晴れてこの世界で本当の友人を得て、来世への扉を開く。それがこの世界が『関根しおり』に敷いたレールであり、『関根しおり』が望んだこと。しかし――。

 

「すでに関根ちゃんは良いお友達です」

 

「そうだね。でもほら、改めてって言うか」

 

「それに、関根ちゃんにはすでに入江ちゃんがいるでしょ?」

 

 人生とは思うようにいかないものである。すでに死んでいる人間に当てはまるかは微妙な所だ。

 

「君と、友達になりたいんだ」

 

「名前を呼んで」

 

 魔法少女乙、なんて言葉はと心の中で留めておいた。

 

 

 

「……もしかしてバレてる?」

 

「割りと」

 

「……どこで?」

 

「あとひと押し辺り。友達がほしかったで確信しますた」

 

「うわー! 最後でミスったー!」

 

 つまり、だ。

 

「関根ちゃんはもう未練はなかったんだね」

 

「うぃ」

 

 曰く、すでに岩沢さんと同じ状態。つまり、いつでも消えられる状態なのだそうだ。確かに、友達がほしくてここに呼ばれたのなら、その願いはすでに入江ちゃんのおかげで叶っているだろう。仮にまだだとしても、ここに呼ばれた理由を自覚しているのだ。消える条件を最初から知っているなんて、事前にWikipediaでも見たんじゃなかろうかと疑うレベルのチートである。

 

「でも、何がしたかったの?」

 

「実験!」

 

「何の?」

 

「それは秘密!」

 

「気になる」

 

「乙女の秘密を暴こうとは。なっつんそれは野暮ってもんだぜ!」

 

 あ、でも友達になってほしいのは本当だったり。ん、すでに良いお友達だけども、改めてよろしくです。えへへ、よろしく。

 

「……これでもなさそうだなー」

 

「何が?」

 

「んー、秘密!」

 

「関根ちゃんが俺に隠し事ばっかりする。友達とは何だったのだろうか」

 

「なっつん、女の子は秘密が多いんだよ」

 

「そうだね。体重とか良い例だよね。今日で何キロ増えるかな?」

 

「あー! あー! 聞こえない聞こえなーい!」

 

 いつでも消えられる状態であるなら、彼女は何のために残っているのだろうか。そんな疑問が一瞬頭をよぎったが、隠し事ばっかりする関根ちゃんのことだ。きっと教えてくれないだろうから別にいいやって答えに落ち着いた。そのうち教えてくれるんじゃね?的な感じですお。

 

 

 

「という訳で関根ちゃんと友達になりました」

 

「むしろ今まで何だったんだよお前ら」

 

「会いたかったぞみゆきちー!」

 

 突貫した関根ちゃんを無視した呆れ顔のひさ子ちゃんがギターを持ってお出迎え。場所は軽音部の部室である。花火やるから外で打ち上げやるにしても、具体的な場所を決めてなかったのでとりあえず仲村さんのいる球技大会の会場に向かおうとしたのだけども、何故か聞こえてきたギターの音にまさか、と関根ちゃんと顔を見合わせ軽音部の部室によってみた結果である。

 

 まぁ、案の定だったワケで。

 

「球技大会はどうした」

 

「お前にだけは死んでも言われたくねー」

 

 もう死んでるじゃん。うっせ。Fカップのクセごめんごめんごめん。

 

「ひさ子ちゃんがいじめる。でもなんか懐かしい」

 

 ひさ子ちゃんがすごい顔でこっち見てるけども、気にしない。

 

「やけに静かだと思ったら、ユイにゃんがいないのか」

 

「まだ野球やってんだろ」

 

 そういえばそうだった気もする。

 

「ひさ子ちゃん達はサボリ?」

 

 ひさ子ちゃんが顎でとある方向を指した。岩沢さんがいた。察した。

 

「我慢しきれなかったか……」

 

「禁断症状みたいなモンだろうな」

 

「そろそろギターに求婚し始めるんじゃなかろうか」

 

「だな」

 

 ひさ子ちゃんは付き添い? そんなとこ。お疲れさま。おう。チョコ食べる? おう、さんきゅ。

 

「球技大会ってどうなったの?」

 

「えーっと、天使が代打で出てきて、ゆりが投げるとこまでは見た」

 

「なにそれ胸熱」

 

 俺のあずかり知らぬところで面白い展開になっていたようです。忘れがちだったけど、インカム付けっぱなしだったし、せっかくなら遊佐ちゃん実況生放送して貰えばよかったと後悔した。ちょっとヘコむ。

 

「遊佐ちゃんも教えてくれればよかったのに」

 

「あいつベンチで座ったまま寝てたぞ」

 

「あらま」

 

 座ってるだけだったし、暇だったのかな。遊佐ちゃんのお昼寝の邪魔はしたくないので、連絡とらなくて良かった。

 

「……なぁ、関根となんかあったか?」

 

「なんで?」

 

「いや、なんとなくなんだけど、お前と帰ってきてから関根がいつもより嬉しそうにしてる気がした」

 

「そう? あ、友達になったからかも」

 

「……」

 

「ナツメ、嘘つかない」

 

 疑われてる気がして仕方ないけども、改めて友達になったのは本当のこと。嘘つかないってのは嘘だけど。

 

「……まぁ、そういうことにしておいてやるよ」

 

「ん、さすがひさ子ちゃんです。惚れそう」

 

 これ以上聞いても意味が無いと判断したのか、本気で面倒くさくなったのかは定かではないけども、ひさ子ちゃんはもう詮索する気はないようだった。これができる女子ってことなのだろうか。というか、戦線内では意外と女子力が高い方に分類されるのもしれぬって思ったけども、周りが低すぎるだけだね。岩沢さんとか、ユイにゃんとか、関根ちゃんとか。もしかしたら他にもいるかもだけども、俺だって命は惜しいのでこの話はここまでにします。

 

 

「みゆきち愛してるぞー! だからあたしを愛せ―!」

 

「……しおりん、ちょっと恥ずかしい、かも」

 

 関根ちゃんは扉の前で誰か待っているみたいです。それが誰なのかなんて関根ちゃん本人にしかわからないけども、きっと一緒に扉を開けてほしいんじゃないかな、なんて思いました。

 

「もうみゆきちがいれば何もいらない!」

 

 多分、入江ちゃん待ちかな、とも思いました。

 

 


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