えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 打ち上げ。興行を終えること。打ち上げ。それは宴会のこと。つまりそれは――。

 

「聖戦である。異論は認めない」

 

 NPCの生徒達が去ったグラウンドにて。

 

 戦線メンバーは夕暮れに染まるグラウンドで絶賛打ち上げの準備中。ひさ子ちゃんと関根ちゃんと入江ちゃんと俺は先ほどまでは軽音部の部室で遊んでいたが、ひさ子ちゃんのそろそろ戻るか発言があったので移動してきたのだ。岩沢さんは動く気が無いみたいだったから置いてきた。ギター取り上げようとしたら泣きそうな顔してイヤイヤってしたので置いてきた。

 

「まぁ、そのうち来るでしょ」

 

 最悪迎えに行くとはひさ子ちゃんの言葉。頼りになるFカップです。あ、なんか飛んできた。当たらなかったけども、これ後で怒られるパターンや。

 

 さて、夕方だからなのか、はたまた球技大会の余韻が残っているからなのかわからないが、ほんの少しだけノスタルジックな気分になってしまう。耳をすませば僅かに聞こえる風の音と、相変わらずやかましいユイにゃんの声。今日もお相手は日向くんだ。いつもご苦労さまです。

 

「必殺、殺人ギロチンこーげきーっ!」

 

「落ち着けユイ! バットは死――」

 

 本当に、いつもご苦労さまです。あーめん。

 

 ふと視線を後ろにやれば、死んだ世界戦線の男子メンバーがどこからかちょろまかしてきた机とその上に乗るお菓子とジュースの山。打ち上げの準備は結構順調で、あとは人数が揃えばいつでも始められるんじゃなかろうか。

 

「いつもゆさゆさあなたの後ろに忍ぶ通信士、ニャル遊佐ホテプ」

 

「あれ、遊佐ちゃんテンション高め?」

 

「どうも、ニャル遊佐です」

 

「ニャル遊佐ちゃん、ぎゃんかわ」

 

「ぶい」

 

 いつもより若干テンションの高い遊佐ちゃんが現れたため、打ち上げの準備を中断しつつお話します。

 

「ナツメさんは何もしていないように見えましたが」

 

「と見せかけて、実は」

 

「ご冗談を」

 

「そだね」

 

 買い出しというミッションをこなしたため、現状何もしていなかったという事実。でも誰にも咎められないから問題ないよね。諦められてるとかじゃないと切に願う。

 

「ところで何かご用?」

 

「日向さんの件につきまして、連絡を」

 

「ん、日向くんは」

 

「――などど理由をつけて体良くサボろうと目論む遊佐です」

 

「あ、やっぱりテンション高めだね遊佐ちゃん」

 

「ぶい」

 

 クー音さんが好きです。遊佐はニョグ太が気になります。意外すぎて反応に困る。名前の響きがステキです。名前、だけ……? 正直、あまり知らない遊佐です。なるほど。後でwiki見ておきます。それがよいかと。

 

「ところで遊佐ちゃん」

 

「なんでしょうかナツメさん」

 

「球技大会あったよね」

 

「いいえ、ありませんでした」

 

「えっ」

 

「ありませんでした」

 

「いや、一応参加したんだけども」

 

「ありませんでした」

 

「えっと」

 

「でした」

 

 どうやら球技大会は無かったことになったらしい。果たして一体何があったのだろうか。仲村さんと立華さんが出てきたトコまではひさ子ちゃんから聞いたけども。あ、だから日向くん残留したのかな。球技大会なんてなかったから。うん、なんか哀れ。

 

「ちょっとナツメくん。キャベツ太郎がないんだけど、どういうこと?」

 

 少しばかり置いてけぼりを食らった気分でいたら、いつの間にか仲村さんが近くに来ていた。同じくいつの間にか遊佐ちゃんはいない。相変わらずの気配遮断スキルである。もしかして椎名さんと同業者だったりするのだろうか。今度聞いてみよう。

 

「遊佐ちゃんって忍者かな」

 

「知らないわよ」

 

「ですよね」

 

 とりあえず聞く人を間違えた。目の前にいたからといって仲村さんに聞いたのだけども、ちょっと困ったような顔して返された。そういえば誰からだったかは忘れてしまったが、仲村さんと遊佐ちゃんはそこそこ付き合いが長いと聞いた気がする。実は遊佐ちゃんは戦線設立に近い時期に加入したメンバーなのだそうだ。結論として、遊佐ちゃんはつよい(確信)

 

「なんで遊佐さんが忍者だと思ったのよ?」

 

「最近、光の戦士の仲間入りをしまして……」

 

「光の戦士といえば、ララフェルはカワイイわよね。タタルさんが好きだわ」

 

「ナナモ様に一票」

 

「ああ、手乗り姫か」

 

「手、違う。腕」

 

「大差ないわ」

 

 確かに。ぐうの音も出ないです。

 

 その後、死んだ世界戦線が誇るリーダー様を労いつつ談笑すれば、気が付いたらキャベツ太郎がない件について怒られてた。おかしいな、いつの間に。あ、でも今回キャベツ太郎を外したのにはちゃんと理由があります。

 

「歯に海苔がつくという女子からの苦情の元、惜しみながらも選定の時点で外させていただいた所存です」

 

 主に関根ちゃんからの苦情ですががが。

 

「それがいいんじゃない!」

 

「なんと」

 

 同じ女子でもこんな違いがあるものかと驚愕した。

 

「確かに、大抵の人が歯に海苔を付着させる。ただでさえアホな面構えに磨きがかかるの」

 

 結構酷いこと言ってる気がするのは俺だけなのだろうか。

 

「でもね、ちゃんとそれを指摘してくれる人は必ずいるのよ」

 

「大山くんとかは無理そうだよね」

 

 気を遣って。

 

「いいところに気が付いたわねナツメくん。いい? この世界には3種類の人間がいるの。まずは、歯に付着した海苔を指摘して馬鹿にする人間。次に、気を遣って言えないけど心の中で指さして笑っている人間。そして気付いているけどあえて無視する人間よ」

 

「ロクな人がいない件について」

 

「ちなみに私はその光景を見て愉悦に浸る人間よ!」

 

 4種類いた。でもやっぱりロクな人がいねぇ。

 

「あなたももっと愉悦をやりなさいよ。愉悦を」

 

「あれ、おかしいな? 仲村さんが金ぴかに見えてきた」

 

「誰が黄金聖闘士よ」

 

「そうきたか」

 

 バビロンではなかったらしいばびろん。

 

「ところでナツメくん。ぼちぼち打ち上げの準備が終わりそうなのだけど、まだ天使たちの姿が見えないのよ」

 

「多分、直井くんの説得に追われていると思われ」

 

「直井くん?」

 

「副会長さんのこと」

 

「ああ、そういえば彼って人間よね」

 

「知ってたの?」

 

「いや、気が付くわよ。彼からも漏れ無くアホの匂いがするわ。ちょっとアクションかけてみようかしら」

 

 直井くんが仲村さんにロックオンされたようです。彼の無事を祈りながら、打ち上げの開始を粛々と待ちたいと思います。

 

 




エオルゼア楽しいよエオルゼア。

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