「野郎共! 準備はいいかー!」
仲村さんの号令で死んだ世界戦線のテンションが上がり、野郎共が雄叫びを挙げた。やや遅れてやってきた生徒会のメンバーは戸惑いながらも便乗するように声を挙げていた。どうやらNPCでもお祭り騒ぎは楽しみらしい。中々に人間臭い。しかし、生徒会の副会長である直井くんのみ表情が優れない。不機嫌と言ったところだろうか。きっと嫌々ながらに参加してくれたからだろうと予測する。なるほど、ツンデレか。後で仲村さんに報告して、煽ってもらおうかな。でも、その前に参加してくれたことを賞賛してあげようかなとも思った。まぁ、それを実行するかしないかはまた別の話なワケで。
「とりま放置。仲村さんが絡みに行ったらご一緒しようかなと思います」
隣にいた関根ちゃんが面白そうだと目を光らせた。こやつ、便乗する気満々である。止める気は欠片もないけども。でも、せめて入江ちゃんは巻き込まない様に配慮しようかと思います。だって入江ちゃんだもの。
「流石なっつん。わかってるよね」
むふー、と満足気な表情の関根ちゃんが言う。当然ですと返せば、今度愛護団体作ろうず! と返ってきた。メンバーは二人。名誉会長は関根ちゃんで決まりです。異論はないし、受け付けません。
「んー、皆楽しそう」
関根ちゃんを一旦放置して、徐に周りを見渡してみた。打ち上げでテンションの上がっている死んだ世界戦線の主要メンバーが目に入る。手放さ過ぎてもはやトレードマークと化している長ドスを持った藤巻くんが大山くんと肩を組みながら紙コップを掲げていた。大山くんも藤巻くんに合わせて紙コップを掲げている。この二人はなんだかんだ良いコンビなのだと仲村さんから聞いた気がするけども、割りとどうでもいい情報なので捨て置く。そして、藤巻くんと大山くんの周りには何故か上半身裸な高松くんや、何故か肉うどんをかかえた松下五段。紙コップを持ったまま踊っているせいで制服やあちこちにジュースを撒き散らしているTKがいた。実にカオスである。
「今はあまりお近付きになりたくないなぁ」
主に汚される気がして。今身につけている制服はデフォルトのものじゃないから汚されたら洗濯せねば汚れは落ちないのだ。汚れ一つでわざわざ新しい制服をもらうのもなんだし、何より死んだ世界戦線の制服には限りがあるし。汚されるのは不本意なのだ。実は戦線立ち上げ当初に裁縫のできる部活を酷使して制服のストックを大量生産したらしいけども、最近ではストックを消費する一方。主な原因は野田くん。死亡回数がダントツな彼を見れば、納得である。なので、できれば遠慮したいところである。あるある。
「そんなこと言ってないで、男ならドーンと行って来いよ!」
「お、今日も青いね」
そうそう色は変わらねーよと笑いながら返してくれたのは日向くんだ。その手にはなんとバルディッシュ、ではなくポリンキー。三角形のヒミツを教えてくれないニクいあんちくしょうである。けして高速脱ぎ魔である魔法少女のデバイスではない。いえっさー。
「ちなみにジャン、ポール、ベルモントはまとめてスリーポリンキーズと呼ばれる」
「急にどうしたナツメ」
「更に豆知識。ベルモントとは昔の呼び名であり、今では略してベルって呼ばれてるみたい。クラネルくんじゃないよ」
ここ大切。
「わかってますから! ルーキーじゃねぇし、その業界じゃもはやベテランの域ですからっ!」
「青様………。僕、強くなりたいです……!」
「誰が青様だ」
なんでそこで素になってしまったのか小一時間ほど問い詰めたい。そんなの俺が知ってる日向くんじゃない。
「なのでやり直しを要求する」
「却下だバカヤロウ」
「ですよね」
ちゃんとババアも美味しくいただくぜ! と爽やかに言い残し、日向くんは去って行く。
「熟女スキーだったとは……」
違うとわかっていても、日向くんの台詞には何故か戦慄した。字面にしても、言葉にしても誤解を生みそうなものだったので。しかし、何の臆面もなく言い放った彼には脱帽せざるを得ない。中々の益荒男である。
「ね、音無くん」
いつの間にやら隣に来ていた音無くんに同意を求めたところ、ちょっと距離を置いてみるとのお返事が。賢明な判断かと思われます。
「まぁ、人の趣味はそれぞれってことだよな、うん」
「そだね。あ、ちなみに音無くんの好みとか聞いてみたかったりします」
音無くんが一歩距離を置きながら、お前こっちなのか? と聞いてきた。その右手は左の頬に手の甲が来るように添えられている。どうしてそうなった。驚愕である。
「どう解釈したかが非常に気になるけども、単純に関根ちゃんとの話のネタにするために聞きますた」
恋バナ大好きっ娘の関根ちゃんの良い養分になること請け合いです。なので、音無くんには大人しく関根ちゃんの糧になってもらいたく候。
「……日向は消えなかったな」
「もしかして、ほっとしてる?」
急な話題の転換だったけども、そう返せば音無くんは小さく頷いた。
「日向くんが残るって、ここにいたいって、そう思ったんだろうね」
「そうだよな。日向が自分で出した答えなんだよな」
日向くんの出した答え。それは今目の前に繰り広げられている光景そのものだ。気のおける仲間たちとジュース片手に肩を組んで笑いあう。冗談を言い合いながら、ちょいちょい横槍を入れてくる後輩の女の子をあしらっている。あ、コブラツイストかけられた。やっぱセンスあるな、ユイにゃん。反撃されてヘッドロックかけられてるけども、負けるな。頑張れユイにゃん。君の明日はどっちだ。
「楽しそうだな、アイツ」
「音無くんもダイナミックエントリーしてくるといいよ」
「それやるとアイツは喜びそうだな」
「そだね。気持ち悪いね」
青春だーとかなんとか騒ぎ出しそうで、始末に置けない。熱血タイプの日向くんには似合いのやりとりかもだけども、なんか必要以上に喜びそうで困る。きっとどこか別の世界線ではホモ認定されている気がしてならない。日向くんに幸あれ。
「何が決め手になったかはわからないが、残るってんなら今日くらいは付き合ってやるか」
「お、ダイナミックエントリー?」
「かましてくる」
不敵に笑った音無くんがサムズアップ。珍しくテンション高めらしい。音無くんは軽くジャンプを繰り返し、やがて構えた。クラウチングスタートである。この人ガチやがな。
「ナツメ」
「任された。では位置についてー」
呼びかけに応えるように声を出せば、周りにいた人達がなんだなんだと視線を投げてくる。その顔には楽しそうな笑みがデフォルトだ。
「よーい……どんっ!」
リズムに乗るぜ、なんて言葉を置き土産に音無くんは駆け出した。それなんて神尾。彼はいつの間にスピードのエースになったのだろうか。いや、確かに球技大会ではエースだったけども。
「しかし、決め手ねー」
蹴りかかろうとしている音無くんを横目に呟く。音無くんには言わなかったけども、実はなんとなくわかっていたりする。日向くんが残りたいと思った決め手。そんなものは一つしかない。それは……。
「ババアでしょ」
違いますからっ! なんてツッコミは無視するに限りますね。
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