えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 満を持して開催された球技大会の打ち上げも参加者達の熱に促され盛大な盛り上がりを見せる、なんて時間はとうの昔に過ぎ去り、次第に漂い始めた穏やかな空気の元に皆和やかな雰囲気で会話を楽しんでいるように見えた。普段は敵対している死んだ世界戦線と生徒会の各人もこのような場では自制が効くのか、場を乱そうとする無粋な輩も現れそうにはない。この場で戦闘行為が行われそうにないことにほっとしたかどうかと聞かれれば、少しだけ首を傾げてしまうのだけども。何故なら、明確な戦闘や敵対行為というものを見たことがないからだ。そもそも敵対してたっけ? と疑うレベルである。未だに死んだ世界戦線の一部からは生徒会に向けて強い視線が行くこともあるようだけども、戦線のリーダーである仲村さんを含めた大半の戦線メンバーからの生徒会に対する視線には棘がない。たぶん。あくまでこちらからの主観である。しかしそれが事実だとしたら、仲村さん達の掲げる打倒神の精神はどうなるのだろうか。最悪、直井くんに僕が神だとか一芝居打ってもらう、必要もなく普段から似たようなこと言ってたやあの人。うん、問題ない。後で何か差し入れでもしておこうか。なんだろう。ハードディスクとかが良いのかな? 大容量のヤツ。あれ、でもディスク媒体かも知れない。後でお話ししないとダメなヤツだコレ。

 

「さて、関根ちゃん。そろそろはじめますか」

 

 周囲を見て色々考えてはみたがやっぱり大切なのは目の前のことなワケで。入江ちゃんやユイにゃん、椎名さんと一緒にお喋りをしていた関根ちゃんに声をかける。腰の高さを優に超える綺麗な長髪を翻しながら彼女は答えてくれた。心なしか目が輝いている様に見える。

 

「待ってました! 頃合いだよね!」

 

 ツーカーの仲という言葉をご存知だろうか。古くは明治だったか大正だったか、あれ? 昭和と平成、は違うかも。まぁ、つまり古い時代からある言葉で、物事が通過するようにと言う建前の元、要するに言いたいことを言い切らなくても伝わってしまうような仲のことだったと思う。うろ覚え感が否めないけどもそんな感じ。きっとそんな感じ。なんかユイにゃん知ってそうだ。聞く気はないけども。でも関根ちゃんとはそんな感じで伝わったようだ。損な感じ。いや、得な感じです。で、横で頭上にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる入江ちゃんと椎名さんとユイにゃん。とりあえずユイにゃんは除外しつつ、関根ちゃんと一緒に2人にキュンキュンしながら説明を試みる。

 

「ユーイーにゃーんーはー! キュンキュンしたでしょー!」

 

 すごい出鼻挫かれた感。ユイにゃんには反省してほしい所だ。というか、もはや視界に入ってなかったなんて誰が言えよう。

 

「視界に入ってなかった」

 

 俺が言える。言えた。言った。しかし毎度の如く首をガクガクするのは止めてほしい。酔ってしまうではないか、と思いきや耐性がついてきたらしく、特にコレといったダメージはなかったりする。でもガクガクするのは止めてほいのだけども。

 

「ユイにゃん苦しいので離して」

 

「キュンキュンしーろーよー!」

 

「あ、めんどくさい。久々にとてもめんどくさい」

 

 でもなんか懐かしい。だからと言って続けてほしい訳ではないので早急に止めてもらう。意外と話せば分かる子な時がたまにあったりなかったり。まぁ、要するによくわからん子ですね。

 

「ね、椎名さん」

 

「む?」

 

「約束通り、お茶しませう」

 

「ああ、そんな話もしたな」

 

 覚えててくれたようで何よりです。お茶会と言うには少々騒がしい気もするけども、なんだかんだそれに付随するのだろうからまぁいいやなんて考えに落ち着く。平常運転。良い言葉である。

 

 程なくして空いているテーブルを見つけた。少し前までは誰かが使っていた形跡があるけども、現在は誰も使用していないようで少し片付ければ問題なく使えそうだ。

 

「とりあえず」

 

「飲み物だね! みゆきち行くぞー!」

 

 入江ちゃんの手を取り走り出す関根ちゃん。せめて何を飲むのかの確認くらいしてほしかった。でもさすがツーカー。その行動力に免じてお咎めなしにしようと思います。

 

「じゃあ」

 

「お菓子ですね! ユイにゃんに任せろー!」

 

 ここにもいたのかツーカーの仲。些か不安はあるけども、とりあえず任せます。でもユイにゃんだからお菓子の内容によってはギルティ。譲歩してます。これでも。

 

「居残り組は片付けですね、わかります。椎名さん、初めての共同作業だね。テレるね」

 

「そうだな」

 

「言葉にも表情にもテレが微塵も無い件について」

 

「浅はかなりぬる」

 

「!?」

 

 ぬる。

 

 その後、椎名さんとぬるぬる言ってたら飲み物を確保してきた関根ちゃんにガッされた。ぽは付いて無かったはずなのに何故ガッされたのだろうか。まぁいいや。あと、ユイにゃんも帰ってきた。遅れたけどガッ! なんて。お前もか。

 

「さて、本日はお日柄も良く」

 

「なっつん長い」

 

「出だしだがな」

 

 お決まりだよね。お決まりだね。

 

「では、改めて。いつだったか忘れたけども、椎名さんと約束していたお茶会を始めます。メンバー少ないけども、まぁいいや。何話そっか?」

 

 せっかくなので話題の提供を求めてみたところ、関根ちゃんがはいはーいと勢い良く手を挙げた。負けじとユイにゃんも手を挙げながらユイにゃんも! ユイにゃんもー! と張り切っている。入江ちゃんはジュースの注がれた紙コップを両手で持ち、ニコニコしていた。かわゆい。

 

「じゃあ、ユイにゃん」

 

「ご趣味は!」

 

 見合いか。なんてツッコミは心の中に留め、椎名さんの反応を伺う。悩む素振りを一瞬も見せず椎名さんは答えた。

 

「暗殺を少々」

 

「暗殺教室と申したか。E組? クラップスタナーとか使える?」

 

「くらっぷ……?」

 

「いえす、くらっぷ」

 

「くらっぷ」

 

 手をパチパチしながら言ってみたが、首を傾げられてしまった。残念ながらクラップスタナーは使えない模様。しかし、暗器や刃物の扱いは得意なのだとか。オマケにクナイは肌身離さず持ち歩いているのだそうだ。それなんて忍者。

 

「椎名さんの生前は忍者でしたか。まぁ、なんと言うか、そんな気がしてた」

 

 きっと生前はアイエエエエ!  ニンジャ!?  ニンジャナンデ!? とか言われていたに違いない。ここは俺も言っておいた方が良いのだろうか。しかし、特に忍者リアリティショックは受けていないのでやっぱり断念。

 

「いや、忍者ではない。私は暗殺者だ」

 

 不思議と通る声の椎名さんの訂正の言葉は喧騒の中に消えた。

 

 

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