関根ちゃん達とお茶会してたら仲村さんに呼び出されたので、遊佐ちゃんに連れて行ってもらうことに。一体、何の用なのだろうか。しかし、お互いにジュースとお菓子を装備した我々に死角はない。無敵です。何でもこい。
「遊佐ちゃん、プリッツちょうだい」
「では、チョコあ〜んぱんと交換で」
お菓子を交換しながら目的地に向かっていたら、遠目に仲村さんが見えてきた。近くにいるのは……。あれ、立華さんだ。直井くんもいるようでちょっと驚き。
「直井くんは……ああ、捕まったのか」
そういえば、アクションかけるとかなんとか言ってたっけ。正直、忘れてた。あー、関根ちゃんも直井くんと絡みたそうにしてたっけな。呼ばないと、と思ったけども、まぁ、いいや。あっちのお茶会の方には入江ちゃんもいるし、関根ちゃんは入江ちゃんといたり、椎名さんとお話ししてる方が楽しいでしょうしね。
「ああ、やっと来たわね、ナツメくん」
「お待たせしました。ナツメです」
程なく仲村さん達と合流。ちょっと嬉しそうな表情をしてくれた立華さんと、面倒なのが来たとでも言いたげな直井くんもセットです。仲村さんはジュースを片手にチャーさんから渡されたであろうファイヤーボールを弄んでいる。チャーさんはちゃんとミッションをコンプリートした様で、仲村さんは仲村名人になったらしい。ちなみに遊佐ちゃんは私はコレでと言い残し、人混みの中に消えていった。一緒にお話ししてくれないようで残念である。
「立華さんと直井くん。楽しんでる?」
「ええ、とっても。今日は誘ってくれてありがとう」
「気安く呼ぶな。無理矢理連れて来られて楽しめる訳がないだろう」
顔を出すだけと言っていたのに、ほっこり笑顔の立華さんと真逆な答えの直井くんだった。オマケにフンッと鼻を鳴らし、そっぽを向いてしまった。
「彼、ずっとこの調子なのよ。どうにかならないかしら?」
仲村さんが溜息を吐きながら困った様に言った。手に持ったファイヤーボールのストリングスもやや草臥れたように見える。呼び出されたのはこのせいか。
「直井くんはアニメとかボカロが好きだから、その手の話をふってあげると喜ぶ」
「なるほど萌え豚か」
至極冷静に仲村さんが最短で真実にたどり着いた。驚愕である。さすがのリーダー様といったところか。さすゆり!
「お、おい! 貴様、それは内密にとあれ程……!」
え、俺は萌え豚とは言ってない。アニメとかが好きだってしか言ってない。コレは俺悪くない気がするのだけども。あれだけで答えを導き出した仲村さんがスゴいんだと思われ。あ、口止め料の食券はすでに美味しくいただきましたので返せませんよ。ゴメンね。
「しかし、あの副会長様が、ねぇ……」
「なんだその顔は!? あのお固そうで真面目で時折見せるアンニュイな表情がたまらないと噂のクールな副会長様がまさかの童貞感丸出しの萌え豚野郎とでも言いたげだな!?」
「自己評価高いのね。素直に引くわ」
「貴様ッ!!」
キッカケを掴んだのか、活き活きと直井くんを弄り始める仲村さん。あれよあれよと直井くんのメッキが剥がされていく様を目撃した。いや、メッキがあったのかと聞かれれば、返答に困ってしまうのだけども。
「まぁ、楽しそうで何よりです」
どこがだ! と直井くんから苦情が飛んできたけども、聞こえない。我ながら都合の良い耳をお持ちなことで。
「ナツメ」
ボケっと仲村さんと直井くんのやり取りを見ていたら立華さんから声がかかった。何か咎める様な表情の彼女はそのまま告げた。
「何の約束をしていたかはわからないけれど、約束は守らなくてはダメよ」
「話すキッカケになればと思って。まさかこうなるとは」
「確かに、あんなに感情を表に出している直井くんを見るのは初めてよ」
直井くんの新しい一面を見れて少しだけ嬉しそうな顔の立華さん。これを機に生徒会でもお話しができるようになれば良いと思います。怪我の功名ってヤツですね。よし、良い感じにまとまった。
「もうちょっと落ち着いたら仲村さん達に混ざる?」
「……そうね。せっかくだし。それに、彼女とはもう少し話してみたいわ」
「ん、何か思うことがあった感じだ」
「元々、話してみたかったの。立場上、仲良くはできないけれど」
「そっか。でも、立場とか気にすることないと思われ」
立華さんというただの1人の人間として、対等に話せば良いと思う。きっと、生徒会とか戦線のリーダーとか、人と人との間には些細な問題なのだから。
「そういうものかしら?」
「とりあえず、行ってみよう。ダメだったらその時考えれば良いでしょ」
「……でも」
今いち踏ん切りのつかない様子。何が彼女をそこまで悩ませるのだろうか。
「……でも、いきなりだと、変な子って思われないかしら」
「大丈夫。戦線には変な子いっぱい」
遊佐ちゃんがいたらその筆頭が何をと鼻で笑われそうである。遺憾の意を示そう。それでも鼻で笑われる未来が見えた。解せぬ。
「本当に?」
「ん、考えすぎかと」
「死んだ世界戦線のメンバーでカップリングしてみたから聞いてほしいって言っても?」
「おおっと」
それはダメかも知れぬ、と思ったけども、良く考えたらそれはすでに俺と関根ちゃんがやってた。うん、問題ないなコレ。
「ちなみにどんな感じでカップリングしてみたの?」
「まずは仲村さんね。案外誰とでもカップリングできるのだけど、ここはあえて赤い髪の、音無くんだったかしら? 彼を推すわ。一見クールに見える彼もきっと完璧ではないの。そこでちょっとしたヘタレ属性を加えてみたわ。すると、あら不思議。仕方ないわね、本当に私がいなきゃダメなんだからと呆れながらも優しく手を差し伸べる仲村さんが現れるの。音無くんも恥ずかしがりながら嬉しそうに仲村さんの手を取って、これから先もずっと一緒に歩いて行けたら良いな、なんて呟くのよ。仲村さんは聞こえないフリをするのだけれど、実は聞こえてて耳が真っ赤。真っ赤っかなの。ああ、なんて初々しい。ベストカップルよ。時代が時代ならベストカップル賞受賞間違いなしね。ほら、想像したら愛が溢れ出てこない? こないの? ダメよナツメ。貴方は近くにいるのだから私なんかよりもっとずっと具体的に感じられるはずよ」
「oh……」
どデカイ地雷を盛大に踏み抜いてしまった。打ち上げの空気に浮かれててちょっと油断してたことは否めない。ああ、断言しよう。ここから長い。覚悟はできたか? 俺はできてない。
「あの青い彼にはあのとても元気なピンクの髪の子が似合うと思うの。ユイにゃん? それがあの子の名前? そう、随分変わった名前なのね、リアルにキラキラネームって初めて見たわ。ちょっと感激。やっぱり、にゃんは猫って書くのかしら? ーーああ、そうだ。カップリングの話だったわね。青い彼は一見爽やかなスポーツマンなのだけれど、実は少し暗い過去があって、それを隠すために常に明るく爽やかに装っているの。周りに心配をかけたくないからよ。なんて健気。ユイにゃんさんは、そんな青い彼と気安い距離にいる後輩ってところかしら。でもある日、ユイにゃんさんは不意に気が付いてしまった。キッカケは些細なことだったの。何気ない日常に感じた違和感を出来心でつついてしまった。それが、青い彼が隠す知って欲しくない事情を白日のもとに晒してしまうことになるの。ユイにゃんさんは深く後悔をするわ。何てことをしてしまったんだ、と。青い彼も酷く動揺して家に引きこもってしまう。でも、これこそがスタートの第一歩。謝りたい一心のユイにゃんさんは足繁く青い彼の自宅へと通うわ。もちろん、初めは会ってももらえない。でも、彼女はめげなかった。それでも、と毎日毎日通った。健気よね」
日向くんとユイにゃんの件なげぇ。あ、まだ続くんですかそうですか。ジュースのおかわりとってきたいです。ダメですかそうですか。
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