えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 どっと疲れたから帰る、と言い残し直井くんは帰って行った。まだメインイベントが残ってるのに。まぁ、本当に疲れている様子だったので引き止めることはしなかった。ゆっくり休んで下さいな。

 

「さてと、どうしようかな」

 

 直井くんがいなくなってしまったので、一人ぼっちになってしまったでござる。仲村さんと立華さんはまだ帰って来る気配がないし、ここまで連れて来てくれた遊佐ちゃんは現在行方不明。ここは大人しく関根ちゃん達のところにでも戻ろうかなと足を向けることにした。

 

「あれ、ナツメじゃん。1人でなにやってんだ?」

 

「あ、ひさ子ちゃんだ」

 

 思い立って数秒、不意に呼ばれたのでそちらを向けばひさ子ちゃんがいた。傍には岩沢さんもいる。その手にギターはない。2人ともだ。そこで思い出して欲しい。俺、関根ちゃん、ユイにゃんはひさ子ちゃんが岩沢さんを引っ張って来る際にどうやって戻ってくるかを賭けていたのだけども、これはどうやら案外普通に戻って来ると言ったユイにゃんの勝ちが濃厚。ちくせう。

 

「仲村さん達とお話ししてたんだけども、気が付いたら1人になってた」

 

「なんだそりゃ」

 

 どうせまたお前が何かしたんだろうと呆れた視線をよこすひさ子ちゃんは無視して岩沢さんに話しかける。

 

「岩沢さん、やっほー。もうギターの方は満足したの?」

 

「ん、最近はTHE LIBERTINESが熱い」

 

「話聞いてよ」

 

 知らんがな。仕方ないのでひさ子ちゃんを介して聞いてもらったら、なんとTHE LIBERTINESとはロンドン出身のロック・バンドなのだそうだ。メンバーの1人がドラッグ中毒でーー違う。そうじゃない。聞きたかったのはそれじゃないのよ岩沢さん。本当になんでド直球のストレートを投げてるのにかすりもしないのこの人。岩鬼並みの悪球打ちなのかと思いきや、打席にギター持ってきて歌い出された感覚。ああ、そりゃ当たらんわ。土俵が違いますもんね。

 

「この人、そろそろ本当にどうにかしないとマズイ気がするのですが。そこのとこどう思いますか? ひさ子ちゃん」

 

「あたしは常々思ってるよ」

 

「なるほど。でも改善される気配がないね」

 

「前はもう少しマトモだったと思ったんだけどな。何が悪かったのか……。……ああ、お前か」

 

「酷い冤罪を見た」

 

 大体ナツメのせい、なんてことは無いと思いたい。岩沢さんは俺が初めて会った時からこんな感じで話を聞いてくれなかった時があったし。あれ、でも前はもう少し会話が成立したような……? いや、気のせいだった。岩沢節は絶えず変わらず。

 

「そういや、関根達は?」

 

 岩沢さんとのコミニュケーションは諦めたのか、俺が手に持っていたチョコあ〜んぱんをひょいと奪いながらひさ子ちゃんが聞いてきたので、あっちと指で示す。これから俺も向かうので一緒に行きますか? と問えば、そだなと返ってきたので一路関根ちゃん達の元へ。岩沢さんは……あ、大丈夫だ。ちゃんと着いてきてる。しれっとギターを弾きに戻るんじゃないかと思った俺を誰が責められようか。だって、本当に実行しそうなんだものこの人。

 

「しかし、人多いな。NPCも混ざってるし。生徒会のヤツらじゃないよなアレ」

 

 ひさ子ちゃんの言う通り、ベージュのブレザーの生徒やセーラー服の生徒に混じって、黒い詰襟の男子生徒やブレザータイプの制服に身を包んだ女生徒がチラホラと見られる。お祭りの雰囲気にフラフラと引き寄せられてきたのだろうか。

 

「ん、多分。NPCとは言え高校生だし、騒ぎたい年頃なのかと推測」

 

 まあ、お菓子もジュースも大量にあるし問題ないでしょと言えば、ひさ子ちゃんからは、そだなと簡潔に。岩沢さんからは、レスポールとはそもそも人の名前だと見当違いに。話聞いてよ。

 

 

 

「お、なっつんおかえり! 岩沢先輩とひさ子先輩もどもども!」

 

 程無くお茶会の会場にたどり着いた俺たちを関根ちゃんが笑顔で迎えてくれた。関根ちゃん達はあの後も楽しくお話ししてたみたいで、程よく和やかな表情を浮かべている。良きかな良きかな。岩沢さんとひさ子ちゃんが短く返事をしたのちに輪に加わることになり、見事にガルデモ勢揃いである。

 

「賭けはユイにゃんの勝ちですね! さぁ、先輩方! 食券をよこしやがって下さい!」

 

 ハリー! ハリー! と嬉しそうにユイにゃんが我々を急かす。まぁ、賭けは賭けだ仕方ない。別にザワザワはしないけども、懐に手を入れて食券を取り出すことに。何のことだ? と首を傾げるひさ子ちゃんには入江ちゃんから説明をしてもらうことにします。入江ちゃん、賭けてないもんね。

 

「ユイ。まぁ、落ち着きなよ」

 

 関根ちゃんが興奮してうぇいうぇい言い出しそうなユイにゃんにストップをかけた。何事でしょうか? ユイにゃんは食券を! 早く食券を! と騒いでいる。ストップかかってなかた。

 

「負け惜しみですか? それとも命乞いですか? わかりますよその気持ち! でも残念! 賭けは賭け! 勝負とは非情なのです! いくら普段お世話になってる先輩方とは言え、ユイにゃんここは手を抜きません! ユイにゃん心を鬼にして言います! さぁ、とっとと食券出せよ負け犬どもー!」

 

 あくまでも煽っていくスタンスらしい。なんと見上げた精神。テンション任せとも言うけども。しかし、関根ちゃんは動じません。

 

「残念だけど、この賭けはドローだよ」

 

「なーに言っちゃってんですか関根先輩! お二人は案外普通に戻って来たんだから、ユイにゃんの勝ちでしょJK!」

 

「甘いねユイ! ひさ子先輩達は普通に戻って来たんじゃなくて『なっつんと一緒に』戻って来たんだよ! つまり人類は滅亡する!」

 

 な、なんだってー! な理論を展開する関根ちゃん。いや、言ってることは分からなくもないけども、中々に乱暴ですな。いいぞもっとやれ。

 

「き、詭弁だ!」

 

「ーーどうして。あたしの意見を詭弁だと思うの?」

 

「そ、それは……!」

 

「ふっふっふ。なっつんのファインプレーによってユイの勝ちは阻止された! つまり人類は滅亡する!」

 

 関根ちゃんはどうしても人類滅亡の理由を俺にしたいらしかった。まぁ、食券、もとい素うどんの消費を免れたから目をつぶろう。素うどんは偉大である。びばスープ・ウィズ・ウ・ダンヌ! ワタルくんマジワタルくん。

 

 その後、勢揃いしたガルデモと椎名さんに加えオマケなナツメの7人で談笑していたのだけども、ふと校舎に設置してある時計に視線がいった。気が付いたら、中々良い時間になっていた様である。

 

「そろそろ時間かも」

 

「時間? 何かあるの?」

 

 俺の呟きには関根ちゃんが答えてくれた。

 

「ん、メインイベント。花火の時間ですお」

 

 さぁ、お待ちかねの時間がやって参りました。

 

 


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