シールダー(偽)になりました   作:仙儒

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事後処理

 佐渡中将が獄刑(極刑の更に上)になった。

 

 艦娘たちにも刑が実施されるかと心配したが、現状で深海棲艦に唯一対抗できる切り札に罰を与えるメリットも余裕もこの国には、この世界には存在しない。

 艦娘は軍に“協力”してくれているだけで、正確には軍人ではないのだ。

 

 それでも、艦娘たちはこの軍人の、正確には提督の命令に従順であろうとしている。

 

 その在り方が、軍の一部の人間の野心やかつて命を懸けて国のために戦った英雄になった、或いは英雄気取りをして、己が自尊心を満たすためだけに利用する…、所謂、艦娘兵器派が武功艦を片っ端からコレクションすると言う蛮行に走らせた。

 質が悪いことに、艦娘兵器派は腐敗しきった軍高官がほとんどだ。

 

 武功艦や優秀な艦娘は、昇進や、大金と引き換えにことごとくを奪っていく。ある者は、その話に喜んで、ある者は、圧倒的な権力の前に涙を呑んで艦娘兵器派に渡した。

 

 武功艦を指揮下に置くことは、それだけで箔がつく。

 

 艦娘兵器派はこれを艦隊コレクションと呼んでいるらしい。そして派閥内でどれだけの武功艦、または優秀な艦を持っているかの自慢のし合い。

 

 正直反吐が出る。

 

 艦娘兵器派は殆どの武功艦を手にしたが、それだけでは飽き足らず、更に箔をつけようとしてエンガノ岬で沈んだ武功艦。翔鶴型空母の3番艦の宝鶴を欲した。

 

 宝鶴の建造に成功したものは報奨金とそれなりの階級を用意すると言って、その階級と報奨金に目がくらんだ提督たちが大型建造を繰り返し、結果として限られた資源がさらに減り、局所的な戦力不足に陥り、ただでさえ、現状維持が精いっぱいなのに、深海棲艦の後手に回り、海域侵攻を許すという大失態を犯した。

 

 国民の不満も高まっている。

 

 軍への不信も。

 

 私がなんとかしないといけないと思った。けれど、階級が低くては発言権すらないのが軍隊だ。

 横須賀鎮守府と言う日本最大の基地を任されているが、それは名ばかりで、戦力と呼べるものは少ない。きっと、私のお母さんの権力を削ぎたいのだろう。

 私のお母さんは海軍中将で、艦娘はあくまでも軍に協力してくれていると言う意見を持っている、所謂、親艦娘派のリーダー格的存在だ。

 

 波月家は代々優秀な軍人を輩出してきた名家だ。

 

 私、波月章香も軍人となるべく厳しい英才教育を受けて来たし、私自身も努力してきた。

 私の曾婆さんのお母さんは海軍で宝鶴の参謀兼艦長だったらしい。

 

 当時、誰もが知っている軍艦と言えば、と言う質問に戦艦ならば長門(海軍の象徴であったから)。大和と武蔵は当時は軍事機密だったので国民は知らなかった。

 

 では、空母では? と言われたときに、一航戦や二航戦を抑えて、真っ先に出てくるのが宝鶴。

 

 宝鶴に搭乗していたのが名だたるエースパイロットや熟練パイロット揃いの精鋭であったこともあるが、それ以上に武功が異常だった。

 

 そして、エンガノ岬の軍事資料と、かつての乗組員からの証言や手記にも誰も乗っていない状態で動き、敵機等部隊を引き付ける役割を一隻で完遂し、囮機動部隊の撤退時間を稼ぎ続けた戦場伝説がある。

 その宝鶴最後の特攻時に、皆が口をそろえては船玉を見た或いは、付喪神を見たと言う。

 

 その話を聞いた偉そうな歴史学者や科学者がそんなことがあるわけがない、声高らかにアンチ唱えるが、話が非常に綺麗な内容なので信者も多い。

 

 そのことを綴った本、タイトルは「宝の鶴」は大ヒットし、映画化もされ、多くの人に感動を与えた。私もその一人だ。暇さえあれば、映画のDVDか本を何度も見ている。

 

 なんと言うか、不思議と嘘だとは思えなかった。それは自分の先祖が体験したことだからなのか、育った環境故だったのかはわからない。

 

 そうして、深海棲艦が現れ、海を支配し、シーレーンに壊滅的な被害を与え、最早なすすべなく終わると思っていた時に彼女たちが、艦娘が姿を現した。

 

 そのエピソードがあったからだろうか? 艦娘を兵器とは思えないのは。勿論、彼女たちは人の体を持ち、感情を持っているからと言うのもあるが、根底には宝鶴のエピソードがあったからだと思う。

 

 だから、せめて私は彼女たちの味方であろうと思った。そのことにお母さんは賛同してくれて、私と志を同じくする者もたくさんいてくれた。

 

 彼女たちのためにも、賛同してくれた仲間のためにも、そして尊敬できるお母さんのためにも結果を出さなければいけない。

 

 誰もが認める結果を。それが彼女たち、艦娘の安定に繋がると信じて。

 

 しかし、戦力が少ないのも事実。横須賀鎮守府に残された艦娘たちも気さくに振舞ってくれてはいるが、疲労が目立つようになっていた。

 

 艦娘たちと話し合い、戦力強化のために大型艦建造をしようと思うと話すと、皆、快く受け入れてくれた。

 ただでさえ資材に余裕がないのに……。

 

 そんな皆のためにも、この建造、絶対に成功させる必要がある。

 

 そうして、建造されたのが、皆が喉から手が出るほど欲していた“宝鶴”だった。

 

 それだけではない、宝鶴は男性だったのだ。私、初めて男の人を見た。

 

 驚きのあまり叫んでしまった。

 

 しかし、問題が発生した。宝鶴と言うだけでも艦娘兵器派に目を付けられるのに、それが男となればなりふり構わずに奪いに来るだろう。

 報告しないのも考えたが、最悪、私の提督資格が剥奪される。それだけならばいいが、母も責任を取らされる可能性が高い。それは避けねば艦娘を護る派閥がなくなってしまう。

 

 自分に対する情けなさと力のなさが怒りとなってほとばしり始める。これでは、奴らが言うように親の七光りでしかないではないか。

 

 艦娘兵器派の幹部の佐渡中将が飛んできて来て、私を貶す言葉ばかりかけて、自分がいかに優秀か自慢し始めた。

 

 無能がよくもぬけぬけとそんな言葉を口にできるものだ。それよりも何も行動できない私の階級が憎い。

 

 このままでは、宝鶴がコレクションに入れられてしまう。それだけではない。きっと男性の尊厳を踏みにじり、性奴隷として扱うだろう。

 

 それだけは許すことができなかった。

 

 今までの不満が、怒りが爆発し、後先考えずにぶん殴ろうとした時に、事態は起こった。宝鶴が明確な拒絶をし、佐渡中将を突き飛ばしたのだ。

 

 そこからは罵詈雑言を口にしながら、惨めに這って出ていくのを見送った。胸のすくような思いとはこのことを言うのだろう。

 

 あきつ丸が心底愉快そうに言葉を口にしたが、全くもって同感だ。

 

 

 次の日、演習と言う名の決闘が艦隊司令部より入電の報が入る。

 

 内容は、宝鶴の性能を図るために単艦で演習に参加せよという内容だった。

 

 絶対に裏で佐渡中将が糸を引いている。

 

 余りの無茶ぶりにふざけるなと、拳をデスクに叩きつけようとして、宝鶴に止められる。

 

 ――――ありがとう

 

 そう言いながら見せられた笑顔に、頭に冷や水をかけられたように冷静になれた。同時にいたたまれない感じになった。

 

 

 演習場に到着したら、佐渡中将がニヤニヤいやらしい笑みを浮かべながら最後の警告として宝鶴に自分の奴隷になれと言ってきた。最早、本性を隠すことすらやめたらしい。

 

 殴ろうとしたら、宝鶴に手で制される。

 

 これで何度目だろう? 後先考えずに行動しようとしたのは。私はこんなにも喧嘩っ早い性格をしていただろうか?

 

 宝鶴のせいにするわけじゃないけど、どうも彼と出会ってから感情の制御ができて居ない気がする。

 

 彼はまた、明確な拒絶を示した。

 

 その後、意味ありげにニヤニヤしながらこの場を後にした。

 

 嫌な予感がする。できれば外れていてほしかったけど、控室に行ったら艤装が宝鶴のボウガンを除いて壊されていた。

 

 アナウンスで早くしないと不戦勝になると審判が急かす。

 

 結局、彼は一人で行くことになる。

 

 横須賀鎮守府に連絡を入れて、明石に急いで演習場に来るように頼む。

 

 私が関係者席に着いた時には艦載機が飛んでいた。

 

 演習開始の合図がある前に索敵機を放つのは重大な反則行為だ。

 

 宝鶴が演習場に入ると同時に爆撃雷撃機銃攻撃の嵐。

 

 水柱が次々に上がり、宝鶴の姿がみえない。

 

 軍関係者の中で一人も意を唱える声が上がらないということは、審判と同じ、買収されたのか。

 流石にそれは予想できなかった。

 

 絶望した。出来レースだった。

 

「テイトク、コレ」

 

 いつの間にか、妖精さんが、タブレットを渡してくる。

 

 そこには洋上補給している空母たちの映像が映っていた。

 

 演習中の洋上補給も立派な違反行為だ。

 

 

 

 

 こ、これは……。

 

 

 

 

 

 結果から言うと、私達は勝った。宝鶴は大破し頭からおびただしい量の血を流していた。

 

 それを見た私は彼に抱き着き、何度も何度も謝りながら涙を流した。胸が張り裂けそうで、それを何も言わずに優しく撫でてくれる彼の態度に、自分が情けなくて涙が止まらなかった。きっと私よりも辛いはずなのに。

 

 これは、演習をたまたま取材していた報道陣の手により、大々的に広がり、世論が私たちを味方した。

 

 今までの不満や不信感が爆発し、それが軍事法廷を開かせる後押しをした。

 

 妖精さんが全力サポートしてくれたおかげで、艦娘兵器派のトカゲの尻尾斬りをさせずに済んだ。

 

 佐渡中将は終始自分が正しいと、思い通りにならない周りが悪いと訳のわからない子供のような主張していたが、そんな言い分が通るはずもなく、冒頭に戻る。

 

 これで、艦娘兵器派は再起不能直前まで追い詰めることができたが、奴らは悪知恵だけは働くので、注意は必要だが、今までのように、好き勝手には振舞えないだろう。

 

 今回の艦娘兵器派の一連の暴走を止めた功績で、私は少将に昇進した。

 

 それにしても、普段、気まぐれで、気分屋でビジネスライクを通し続けていた妖精さんたちがこうも協力的になるとは思いもしなかった。

 

 そんな、妖精さんたちは私の執務室のソファーで横になり、無防備に寝息をたてている宝鶴の上に群がって一緒に寝ている。

 何だかとても微笑ましい。それと同時に流石に無防備すぎやしないかと少し心配になる。それはもしかしたら、私への信頼の現れなのかもしれないが。あくまで私の希望的観測。そうであったらいいなと言う気持ちと同時に、私を異性として意識されていないのでは? と少し、否、かなりガッカリ。複雑な心境。

 

 

 少し和んだような、ダメージを受けたような心境の中、再び手元の書類に目を通す。

 

 艦娘兵器派のコレクションになっていた艦娘たちを再編成し、配属させるのだが、どうしたらいいだろうか?

 

 直接見てきたが、殆どの艦娘が無理を強いられて来て、身も心もボロボロ状態で見て居られなかった。

 

 そんな彼女たちが、今一度、この国を救ってくれる、静かな海を取り戻すために力を貸してくれるだろうか。

 

 

「再編成について、悩んでいるのか?」

 

「起きていたんですか?」

 

「今、な。それと敬語はいらないって言ってるだろ」

 

 ソファーに寝っ転がったままそう言ってくる。

 

「わかりま…、わかったわ」

 

 このやり取りは、実は一度や二度ではない。

 どうしても、敬語になってしまうのだ。それはきっと、本当の私をさらけ出す勇気が持てないだけ。

 

「…、悪いが俺は軍に従うつもりはない」

 

「へっ?」

 

 時が止まったような感覚がした。理解が追い付かなかった。

 考えてみれば、むしろ当然と言えたのかもしれない。

 

 では、何で出撃命令を聞いてくれたのだろうか? 

 

 デイリー任務も積極的にこなしている。

 

 矛盾しているではないか。

 

 それを察したのか口を開く。

 

「ノブレス・オブリージュだ」

 

「の、ノーブレス?」

 

 私が聞き返した。

 

「ノーブル・オブリゲーションの方が提督にはわかりやすいか?」

 

 確か、資本主義の根底にあるものをそう言うことがあるということしか知らない。

 

「簡単に言えば、力のある者はそうでない者の為に尽くさなければいけない、と言うことだ。誇りと言ってもいい」

 

 強きをくじき、弱きを助ける。そう言うことだろうか。

 

「つまり、義務感で戦っているんですか」

 

「それもある。だが、そうじゃない。俺は、艦娘たちは過去の影に過ぎない。だから、俺らは人間に肩は貸すが、決して導くことはしない」

 

 ……、

 

「難しいですね」

 

「かもしれない」

 

 会話が途切れる。気まずい雰囲気が流れるかと思ったが、彼は口を開く。

 

「軍の命令には従わないが、提督の命令にならばできる限り従おう」

 

 そう言えば、彼が建造されたときに言っていた言葉が今になって、気になる。

 

 ―――――俺のような役立たずを造った大バカ者はどこにいる?

 

 ――――認めたくないが、君しかいないか……。これより先、君の命運は俺と共にあり、俺の楯は君と共にある。この身が朽ち果てるまで君を裏切らないことを誓おう。

 

 おもむろに彼は立ち上がる。

 

 彼の上で群がって寝ていた妖精さんたちを起こさないように、なるべくゆっくりとソファーに寝かせた。

 

「提督、俺は人を見る目だけは一級品なんだ。提督の在り方は好ましく思う」

 

 ゆっくりと執務机の前まで歩いてきて、いつも持ち歩いている楯のような飛行甲板をドスンと突き立てると、その状態で片膝をつく。

 

「俺の楯を預ける。名誉を預ける。命を捧げる…、章香がその在り方を損なわない限り。契約は以上だ」

 

 今、私は夢を見ているのだろうか。

 

 小さい頃読んだ、少女向けの絵本のお姫様に私が成り、彼が忠誠を誓っている私だけの騎士様。

 

 永遠に続いてほしいと願った瞬間。ああ、そうか。私は、彼に恋しているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと俺の上に妖精さんが群がって寝ていた。

 

 騎士甲冑着たままなのに、その上で寝ては寝心地悪いんじゃないのか?

 

 提督は相変わらず、書類とにらめっこ。

 

 どうやら、艦娘たちの再編成で悩んでいるらしい。

 

 無理もない。あれは最早身も心もボロボロになり、息をしているだけの存在になっていた。

 

 その点では、俺は恵まれすぎているくらいだろう。章香に建造されてマジで良かった。まぁ、令呪あるわけじゃないから艦娘兵器派の連中に建造されたら、ボコって逃げ出してたけど。

 

 そう言えば、演習試合でギャラハッドと会合して以来、楯の真ん中に真っ赤な十字がデザインされてるんだけど何なんだろう? そして、その後、ギャラハッドと会合することは叶わず終まいになっている。

 

 その代わりと言ってはなんだが、凄いものを3つも置き土産していった。全部宝具。効果もやべー奴。楯合わせて4つも宝具あるよ。詳細はまたの機会に語るとするよ。

 

 今はどうするかだ。身体の方はどうとでもできるが、心はどうにもできない。それに、心を癒している時間も今は無い。残酷なことだが、歯を食いしばって立ち上がってもらうしかない。

 そのための協力なら惜しまないつもりだ。人間だった時代、俺は心理カウンセラーをやっていた。

 これが少しでも役に立てば良いのだが。

 

 取り敢えず、これだけは伝えておかないと。

 

 俺は軍の命令で動いているわけではない。

 

 ギャラハッドはノブレス・オブリージュを信念に置く真の騎士。

 

 それに、人を見る目は一級品だ。きっと人として正しくあり続けてくれるだろう。

 

 ならば、こちらも覚悟を決める時だろう。

 

 モードレッドのセリフを借りるか。

 

「俺の楯を預ける。名誉を預ける。命を捧げる…、章香がその在り方を損なわない限り。契約は以上だ」

 

 基本、楯中心に使うだろうから、剣の所を楯に言い換えた。




感想にあったので補足。

ゲームではロード・カルデアスは魔方陣の展開だけですが、アニメだと壁が具現化しています。

ロード・キャメロットは壁ではなくキャメロット城が具現化します。
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