とある科学の永久機関 作:弥宵
面倒だからとっとと潰そう。
そう思い立ったは良いものの、別段『
そんな訳で普通にお手上げだった。
「手掛かり手掛かり降ってこーい」
すっかりやる気を削がれつつもぼんやりと歩いていると、道を行き交う学生の数が増えていることにふと気づいた。
どうやら、適当に進むうちにいつの間にか第七学区に差し掛かっていたようだ。
「こんなとこまで来てたのか」
特に目的地もなく彷徨いていただけなので引き返してもいいのだが、せっかく来たのに何もせず帰るのももったいない気がする。
幸い、第七学区は学生が一際多い区域だ。噂話レベルの情報ならば腐るほど転がっているだろうし、一つこの辺りで調査でもしてみようかと思い立つ。
「となると、さてどこへ向かったもんかね」
第七学区は自宅のある第一八学区と隣接はしているが、そう頻繁に訪れることもないため地理にはあまり詳しくない。
やっぱり適当に歩くしかないかと日輪が結論を出しかけた時、高層ビルの巨大スクリーンに流れている報道番組が目に留まった。
「使われた能力は『
手持ちの端末と日輪の技術でハッキングできる範囲でも、事件の概要くらいは掴むことができた。
結果はほぼほぼクロ。『
「十中八九当たりだな。被害者の傾向からしてこいつの狙いは……ん?」
考察を進める間も適当に街をぶらついていた日輪だったが、セブンスミストなる洋服店の前でふと見知った顔を視界に捉えた。と言っても面識がある訳ではなく、こちらが一方的に顔と名前を把握しているだけだが。
学園都市第四位、『
名門常盤台中学のエース。
(
友人と思しき同年代の少女達と談笑している様子は、紛れもなく中学生の少女の姿そのものだ。
表の世界に、光の中に生きる少女の。
その光景に、日輪は特に思うところはない。
そもそも彼女と自分には何の関わりもないのだから、進む道が違うなど当然のこと。その先がたまたま表と裏に分かれていただけに過ぎないのだ。
(
益体のない思考をそこで打ち切る。第四位もいいが、今はその隣にいる少女の方が問題だ。
より正確には、その少女の左腕に巻かれている腕章が、であるが。
初春飾利は
正式に加入するには九枚の契約書へのサインと一三種の適正試験と四ヶ月に及ぶ研修が必要となり、さらにその活動は完全なボランティア。実力と性格の双方に秀でた一握りの学生にしか務まらないし務めたがらない名誉職なのである。
とはいえ、そういった一握りの物好きである
そんな乙女初春に向けて、クラスメイトの佐天涙子は言い放った。
『初春ってさ、最近女を捨ててるよね』
やってやりますよぉ‼︎ と一念発起した初春は、早速その日の放課後に洋服を買いに出ていた。焚きつけた張本人である佐天、道中でばったり出会った御坂美琴と連れ立ってセブンスミストへ向かうことに。
「初春、こんなのどう?」
「はい⁉︎ 無理無理無理ですそんなの穿ける訳ないじゃないですか!」
「これならあたしにスカートめくられても堂々と周りに見せつけられるんじゃない?」
「見せないしめくらないでくださいっ‼︎」
佐天に紐パンを薦められたり、パジャマ談義に興じたり、水着を見て回ったり、先日知り合った女の子と再会したり。
汚名返上と言わんばかりに、いかにも女子力の高い(?)ひとときを過ごしていた初春の元に、携帯電話の着信を告げるアラームが鳴った。名前を確認すると、同僚の白井黒子からのようだ。
「はい、もしもし」
『初春っ‼︎ 今どこにいるんですのっ⁉︎』
白井の予想外の剣幕にたじろぐ初春。何をそんなに慌てているのかという疑問は、続く言葉によって解消される。
『
世間を騒がせている連続爆破事件、それがまたしても起ころうとしているという。となれば、
「か、観測地点は?」
『第七学区の洋服店「セブンスミスト」ですの!』
セブンスミスト。
それは、今まさに自分達のいるこの店の名前だったはずだ。
「私、今ちょうどそこにいます!」
『何ですって⁉︎ 初は―――』
「御坂さん!」
白井はまだ何か言っているようだが、一刻も早く避難を済ませなければならない。近くにいた美琴に協力を要請し、どうにか来客の避難誘導を進めていく。
「ふう、とりあえずこれで全員……」
目につく限りの来客や店員の避難を済ませ、ようやく人心地ついた様子の美琴。初春も一安心といったところだが、念のため最終確認をしておく必要がある。
「おい、あの子は?」
「は? まだ戻ってなかったの⁉︎」
美琴と高校生くらいの少年が何やら話しているようだったが、その前に依然収まりを見せない白井の剣幕に対応することに。
『初春っ! 初春聞きなさい!』
「今、全員避難したか確認を―――」
『今すぐそこを離れなさい‼︎』
聞けば、過去八件の事件に共通点が見つかったのだという。いずれの事件においても、負傷者の中に
『犯人の真の狙いは観測地点周辺にいる
その言葉の意味を噛み砕くより早く、状況はさらなる加速を見せる。
「おねーちゃん、これ!」
少女が初春の元へ駆け寄ってくる。
その腕に、大きなカエルのぬいぐるみを抱えて。
「メガネのおにーちゃんがわたしてって」
「? これは……」
ここで事件の概要について確認しておく。
そう、
「―――ま、さか」
ニヤリ、とどこかで誰かが口元を歪ませた。
視認はできずとも、重力子の加速は着実に進んでいる。
少女の抱えていたぬいぐるみがとうとう
「あ、それちょっと貸りるぞ」
ひょい、と。
腕に抱えていたぬいぐるみが、いきなり横から取り上げられた。
「え、あっちょっ⁉︎」
慌てて振り返ると、そこにいたのは見知らぬ少年。歳は高校生くらいだろうか、初春よりは上に見える。
「どーも、通りすがりの
本気なのか冗談なのかわからない、無気力そうなポーカーフェイスでそんなことを宣う少年。しばし呆気に取られていた初春だったが、すぐにそんな場合ではないと思い出す。
「あ、あの! ここで例の
「知ってる。だからこうして、わざわざ爆弾処理しに出てきたんだが」
言いつつ、ぬいぐるみの中に手を突っ込んでまさぐり始める少年。
「スプーンねえ……ま、こいつが『芯』で間違いねえだろ」
「き、危険ですから! 早くそれを捨てて避難してください!」
言い募る初春に、少年は薄っすらと苦笑を浮かべた。
「あー大丈夫大丈夫、俺が
「止め……?」
その台詞の意味は完全には理解できなかったが、どうやら彼の能力で爆発を封じているらしいということは読み取れた。
……とりあえず、危機は去った、ということで良いのだろうか?
ぬるま湯のような空気が場を満たす。被害が出なかったことは喜ぶべきなのだが、どうにも腑に落ちない決着だった。
「……アンタ、何者?」
そして。
この場の全員が少なからず抱いていた疑問を、代表して投げかけたのは美琴だった。
重力子の加速は衛星でこそ確認されたが、まだその影響を視認できる段階には至っていなかった。ぬいぐるみの中などに仕込まれているという情報があったにせよ、それだけで爆弾を特定するなど現実的ではない。まして、それを爆発前に抑え込んだともなれば。
同系統の能力者ならば可能かもしれないが、『
「さっきも言ったろ。通りすがりの
「ふざけてんの?」
「何一つ嘘は言ってないんだがなぁ」
手にしたスプーンを弄びながら、少年は苦笑を深めつつ名乗りを上げる。
「日輪示現。学園都市第三位『