とある科学の永久機関   作:弥宵

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あけましておめでとうございます。


第一章 退屈なる大事件 Graviton.

 面倒だからとっとと潰そう。

 そう思い立ったは良いものの、別段『幻想御手(レベルアッパー)』について何かしらの手掛かりを持っている訳でもない。何とも間の悪いことにあれ以降絡んでくる馬鹿も現れず、あてにしていた情報通の知り合いも仕事にかかりきりだという。そもそもの行動理由が私情のため『裏』の情報網も大っぴらには使えない。

 そんな訳で普通にお手上げだった。

 

「手掛かり手掛かり降ってこーい」

 

 すっかりやる気を削がれつつもぼんやりと歩いていると、道を行き交う学生の数が増えていることにふと気づいた。

 どうやら、適当に進むうちにいつの間にか第七学区に差し掛かっていたようだ。

 

「こんなとこまで来てたのか」

 

 特に目的地もなく彷徨いていただけなので引き返してもいいのだが、せっかく来たのに何もせず帰るのももったいない気がする。

 幸い、第七学区は学生が一際多い区域だ。噂話レベルの情報ならば腐るほど転がっているだろうし、一つこの辺りで調査でもしてみようかと思い立つ。

 

「となると、さてどこへ向かったもんかね」

 

 第七学区は自宅のある第一八学区と隣接はしているが、そう頻繁に訪れることもないため地理にはあまり詳しくない。

 やっぱり適当に歩くしかないかと日輪が結論を出しかけた時、高層ビルの巨大スクリーンに流れている報道番組が目に留まった。

 

 虚空爆破(グラビトン)事件。一週間ほど前から立て続けに起こっている連続爆破事件とのことだが、不可思議な点が多数見受けられ捜査は難航しているようだ。

 

「使われた能力は『量子変速(シンクロトロン)』。大能力者(レベル4)は一人だけで、しかも昏睡中ときた」

 

 手持ちの端末と日輪の技術でハッキングできる範囲でも、事件の概要くらいは掴むことができた。

 結果はほぼほぼクロ。『幻想御手(レベルアッパー)』が関わっている可能性はかなり高いといえるだろう。

 

「十中八九当たりだな。被害者の傾向からしてこいつの狙いは……ん?」

 

 考察を進める間も適当に街をぶらついていた日輪だったが、セブンスミストなる洋服店の前でふと見知った顔を視界に捉えた。と言っても面識がある訳ではなく、こちらが一方的に顔と名前を把握しているだけだが。

 

 学園都市第四位、『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴。この学園都市で最も有名と言っても過言ではない超能力者だ。

 名門常盤台中学のエース。弱能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)にまで登り詰めたサクセスストーリーの体現者。電撃使い(エレクトロマスター)という身近で親しみやすい能力。それらの要因から、彼女は学園都市の看板として扱われているためだ。

 

(()()()()()()()()()()()()()って辺り、察するヤツもいそうなもんだがね)

 

 友人と思しき同年代の少女達と談笑している様子は、紛れもなく中学生の少女の姿そのものだ。

 表の世界に、光の中に生きる少女の。

 

 その光景に、日輪は特に思うところはない。

 そもそも彼女と自分には何の関わりもないのだから、進む道が違うなど当然のこと。その先がたまたま表と裏に分かれていただけに過ぎないのだ。

 

(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……まあそんなことより)

 

 益体のない思考をそこで打ち切る。第四位もいいが、今はその隣にいる少女の方が問題だ。

 より正確には、その少女の左腕に巻かれている腕章が、であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初春飾利は風紀委員(ジャッジメント)である。

 風紀委員(ジャッジメント)とは学生による治安維持組織であり、主に学内で発生した問題の取り締まりを行っている。危険度の高い案件には警備員(アンチスキル)があたるとはいえ、最も能力者が密集する場所である学校での秩序維持に高い能力が求められることは言うまでもない。

 正式に加入するには九枚の契約書へのサインと一三種の適正試験と四ヶ月に及ぶ研修が必要となり、さらにその活動は完全なボランティア。実力と性格の双方に秀でた一握りの学生にしか務まらないし務めたがらない名誉職なのである。

 

 とはいえ、そういった一握りの物好きである風紀委員(ジャッジメント)とて今時の学生であることには変わりない。思春期真っ盛り、箸が転んでもおかしい年頃である。

 そんな乙女初春に向けて、クラスメイトの佐天涙子は言い放った。

 

『初春ってさ、最近女を捨ててるよね』

 

 やってやりますよぉ‼︎ と一念発起した初春は、早速その日の放課後に洋服を買いに出ていた。焚きつけた張本人である佐天、道中でばったり出会った御坂美琴と連れ立ってセブンスミストへ向かうことに。

 

「初春、こんなのどう?」

 

「はい⁉︎ 無理無理無理ですそんなの穿ける訳ないじゃないですか!」

 

「これならあたしにスカートめくられても堂々と周りに見せつけられるんじゃない?」

 

「見せないしめくらないでくださいっ‼︎」

 

 佐天に紐パンを薦められたり、パジャマ談義に興じたり、水着を見て回ったり、先日知り合った女の子と再会したり。

 汚名返上と言わんばかりに、いかにも女子力の高い(?)ひとときを過ごしていた初春の元に、携帯電話の着信を告げるアラームが鳴った。名前を確認すると、同僚の白井黒子からのようだ。

 

「はい、もしもし」

 

『初春っ‼︎ 今どこにいるんですのっ⁉︎』

 

 白井の予想外の剣幕にたじろぐ初春。何をそんなに慌てているのかという疑問は、続く言葉によって解消される。

 

虚空爆破(グラビトン)事件の続報ですの! 衛星が重力子の爆発的加速を観測しましてよ』

 

 世間を騒がせている連続爆破事件、それがまたしても起ころうとしているという。となれば、風紀委員(ジャッジメント)として動かないという選択肢はない。

 

「か、観測地点は?」

 

『第七学区の洋服店「セブンスミスト」ですの!』

 

 セブンスミスト。

 それは、今まさに自分達のいるこの店の名前だったはずだ。

 

「私、今ちょうどそこにいます!」

 

『何ですって⁉︎ 初は―――』

 

「御坂さん!」

 

 白井はまだ何か言っているようだが、一刻も早く避難を済ませなければならない。近くにいた美琴に協力を要請し、どうにか来客の避難誘導を進めていく。

 

 

「ふう、とりあえずこれで全員……」

 

 目につく限りの来客や店員の避難を済ませ、ようやく人心地ついた様子の美琴。初春も一安心といったところだが、念のため最終確認をしておく必要がある。

 

「おい、あの子は?」

 

「は? まだ戻ってなかったの⁉︎」

 

 美琴と高校生くらいの少年が何やら話しているようだったが、その前に依然収まりを見せない白井の剣幕に対応することに。

 

『初春っ! 初春聞きなさい!』

 

「今、全員避難したか確認を―――」

 

『今すぐそこを離れなさい‼︎』

 

 聞けば、過去八件の事件に共通点が見つかったのだという。いずれの事件においても、負傷者の中に風紀委員(ジャッジメント)が含まれているというのだ。

 

 

『犯人の真の狙いは観測地点周辺にいる風紀委員(ジャッジメント)! 今回のターゲットはあなたですのよ初春‼︎』

 

 

 その言葉の意味を噛み砕くより早く、状況はさらなる加速を見せる。

 

「おねーちゃん、これ!」

 

 少女が初春の元へ駆け寄ってくる。

 その腕に、大きなカエルのぬいぐるみを抱えて。

 

「メガネのおにーちゃんがわたしてって」

 

「? これは……」

 

 ここで事件の概要について確認しておく。

 虚空爆破(グラビトン)事件の犯人は、『量子変速(シンクロトロン)』の基点となるアルミ製のスプーンや缶を別の物体の中に隠して破裂させている。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――ま、さか」

 

 ニヤリ、とどこかで誰かが口元を歪ませた。

 視認はできずとも、重力子の加速は着実に進んでいる。

 少女の抱えていたぬいぐるみがとうとう初春(ターゲット)の手に渡り、その異常が目視できるほどに現出する刹那。

 

 

「あ、それちょっと貸りるぞ」

 

 

 ひょい、と。

 腕に抱えていたぬいぐるみが、いきなり横から取り上げられた。

 

「え、あっちょっ⁉︎」

 

 慌てて振り返ると、そこにいたのは見知らぬ少年。歳は高校生くらいだろうか、初春よりは上に見える。

 

「どーも、通りすがりの超能力者(レベル5)です」

 

 本気なのか冗談なのかわからない、無気力そうなポーカーフェイスでそんなことを宣う少年。しばし呆気に取られていた初春だったが、すぐにそんな場合ではないと思い出す。

 

「あ、あの! ここで例の虚空爆破(グラビトン)事件の前兆が確認されていますので、速やかに避難を!」

 

「知ってる。だからこうして、わざわざ爆弾処理しに出てきたんだが」

 

 言いつつ、ぬいぐるみの中に手を突っ込んでまさぐり始める少年。

 

「スプーンねえ……ま、こいつが『芯』で間違いねえだろ」

 

「き、危険ですから! 早くそれを捨てて避難してください!」

 

 言い募る初春に、少年は薄っすらと苦笑を浮かべた。

 

「あー大丈夫大丈夫、俺が()()()()から。第二位とか第八位でもなきゃまず破れねえよ」

 

「止め……?」

 

 その台詞の意味は完全には理解できなかったが、どうやら彼の能力で爆発を封じているらしいということは読み取れた。

 ……とりあえず、危機は去った、ということで良いのだろうか?

 ぬるま湯のような空気が場を満たす。被害が出なかったことは喜ぶべきなのだが、どうにも腑に落ちない決着だった。

 

「……アンタ、何者?」

 

 そして。

 この場の全員が少なからず抱いていた疑問を、代表して投げかけたのは美琴だった。

 重力子の加速は衛星でこそ確認されたが、まだその影響を視認できる段階には至っていなかった。ぬいぐるみの中などに仕込まれているという情報があったにせよ、それだけで爆弾を特定するなど現実的ではない。まして、それを爆発前に抑え込んだともなれば。

 同系統の能力者ならば可能かもしれないが、『量子変速(シンクロトロン)』は高位能力者が一人しかいない能力だ。だからこそ虚空爆破(グラビトン)事件の捜査は難航していた訳であるのだし。

 

「さっきも言ったろ。通りすがりの超能力者(レベル5)だって」

 

「ふざけてんの?」

 

「何一つ嘘は言ってないんだがなぁ」

 

 手にしたスプーンを弄びながら、少年は苦笑を深めつつ名乗りを上げる。

 

「日輪示現。学園都市第三位『永久機関(メビウスリング)』だよ、第四位(こうはい)

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