お空の下でも不幸を叫ぶ   作:非人間

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第3話

 シェロカルテとの商談を終えた当麻は、かなり鬱蒼とした、ただの高校生が進むにはちょっと難易度が高めの森の中を、ひーこら言いながらすすんでいた。

 

「なーにが『私を出し抜いてやるぐらいの気概で~ここからの話は~聞いてください~』だ、結局剣ぶっ壊したことちらつかされたらこっちの負け確定じゃねぇかあの野郎」

 

 グチグチ恨み言を呟きながら進んで行く姿を見るに、どうやらシェロカルテとの商談には見事完敗したらしい。おそらく割りに合わない仕事をさせられているのであろう彼は、足を止めて地図とにらめっこする。

 

「こっちの方向であってるんだろうな、てか、こんな森の中で地図なんて役に立つのかよ」

 

 文句を言いながら、地図に書き込まれている情報と周囲の地形を見比べる当麻。2分程大自然と触れ合った後に、巨木に刻まれた特徴的な印を発見する。

 

「えーなになに、『ここが折り返し地点ですやったね、あと半分頑張ろう!!追伸ここからは魔物との遭遇率がグッと上昇するので、気をつけて進みましょう』ここまできてまだ半分かよ、だめだだめだ、腹が減ってもうだめだ昼飯にしよう」

 

 印のつけられていた巨木の影に腰を降ろし背負っていたリュックサックから弁当を取り出そうとする当麻。

 

「シェロさんの野郎にも感謝しなきゃな、貢献度マイナスの俺にも弁当持たせてくれたんだから」

 

 そういって当麻は、『これは先行投資です〜このお弁当の分もしっかり稼いできてくださいね〜』といって商品の一つを渡してくれたシェロカルテの姿を思い出し合掌する。

 そして、彼女のことを考えたおかげでもう一つ、彼女がいっていたことを思い出した。

 

「弁当開けるときは匂いにつられて魔物が集まるから気をつけろだっけ、先に安全確認しといた方がいいのかな」

 

 そこに思い至った当麻は、ポーションの類以外の荷物をひとまず木陰に置いておいて、ちょっと周囲を散策してみる。すると案の定そこには魔物の姿があった。

 

 少し離れた場所に狼型の魔物の姿が二つ程、隠れていて見えないだけで、まだ何体かいるのかもしれない。幸いこちらに気づいている様子はまだない。当麻は魔物の生物としての性能を正確に把握している訳ではない、だがわざわざあのシェロカルテが警告して来たのだ、あのまま弁当の蓋を開けていたらそのまま戦闘に突入し、最悪の場合死んでいたのかもしれない。そうで無くとも弁当や幾つかの荷物は破棄することになっていただろう。その未来を想像してゴクリと喉を鳴らした当麻。

 

「あんな連中相手にしてられるかよ」

 

 小さくそう呟いて、荷物を置いていた場所に戻って来た当麻は、手早く荷物を纏め上げ、静かにその場を後にした。

 

 

* * *

 

 

「何だか順調すぎる気がする」

 

 何度目かの地形確認を行いながら、当麻は呟く。地図を確認してみればもう既に道のりの9割程を踏破していた。5割地点で魔物のと遭遇した後は、大人しくそのまま少し進んで、安全に食事を行えた。道中にあった難所も地図にあった注意書きどうりの対処法で、なんとか乗り越えて来たし、途中で何度か魔物を見かけたが、どれに当麻が先に気づいたため、少し遠回りするだけで回避できた。当然その後に道を見失うなんてハプニングもなかった。

 

「なんていうか、俺もっと不幸な人間だと思ってたんだけどなぁ」

 

 自分で言ってて悲しくならないのか、上条当麻。

 

 この日に何度も行った地形確認には慣れたもので、30秒程で印を見つけた当麻は、印に魔物が引っ掻いた痕のようなものがついていたため、その情報を地図に書き込んでおく。これはもしや追加報酬の流れなのではないか。

 

 そこまで考えて同じ事をもう一度呟いた当麻は、ゴールの遺跡に向かって歩き出しながら、己の不幸について考えてみる。当然周囲への警戒も怠らない。新しいタスクが増えて、若干作業の難易度が上がってしまうが、そこはゴールまで残り1割という事実にもらった元気でカバーする。

 

「いやそもそもシェロさんが簡単な仕事だって言ってたんだし、何も無くて当たり前なのか?」

 

 それともあの島で記憶喪失になった事で不幸ゲージを使い果たし、幸福モードの真っ最中なのだろうか。でもなんと無くそうじゃない気がする。作業がうまく進んでいても、裏で何かが起こっているんじゃないかと疑ってしまって、素直に喜べない小市民上条当麻。記憶喪失何だから、今までの自分について考えて見たって無駄なのに、そういう風に思考が流れていかないのは、記憶を失う前の上条当麻がよっぽど不幸だったからなのだろうか。

 

 似たような話題を、ぐるぐると頭の中で回し続けて見ながら数十分歩き続けた当麻は遺跡の発見とともに、こう片付ける。

 

 今まで起こらなかった分の不幸が、あの遺跡の中に詰まっているのではなかろうかと。

 

「まぁ考えてたってしょうがねぇよな、早いとこテント立てちまおう」

 

 数時間1人で森の中を歩き続けたせいで増えてしまった独り言に悲しくなりながら、当麻は遺跡の中に入っていった。

 

 

* * *

 

 

「それで、こんなところに一体何があるってんだ?」

 

 野宿用のテントを早々に張り終え、その他諸々の準備も若干手間取りながら完遂した当麻は、やっとの事で依頼の解呪に乗り出していた。

 

 もうすっかり暗くなってしまった遺跡の中を、腰にサバイバルナイフを刺し、依頼書を眺めながら進んでいく。左手に持っている光の属性力を込められたランプに右手がちょっとでも触れてしまえばゲームオーバーだ。別にその場合も明日の朝に仕事をすれば別に構わないと思わなくもないが、今回は相手が相手ゆえにそれも難しい。

 

「遺跡の奥にいる幽霊を退治して欲しいんだったけか、なんだよ変な感じがしたからきっと幽霊がいるはずだって、自分で見てすらいない奴を退治してこいってこの依頼主バカなんじゃないのか?」

 

 その依頼を受けたシェロカルテの事も迂遠に馬鹿にしながら、遺跡の奥に進んでいく当麻。

 

 この依頼の発端は、この遺跡を調査していた調査隊からのものだったりする。詳しい事は当麻には理解できなかったが、錬金術の研究において貴重な資料が残されているんだかいないんだとか、また何か大きな存在がこの遺跡に封印されているんだとかいないだとかで、ちょっと前にソコソコの規模に調査がここで行われたらしい。

 

 当然大きな規模の調査隊の長にはそれ相応の人物が据えられる。そっちの方こそ当麻にとっては専門外だが、錬金術の界隈では結構大きな力を持っているらしい人物がその調査隊の長に据えられたらしい。

 

 そんな彼が調査の手が最深部に行き届いた時に言ったらしい『ここには何かがいると』。種族や職業に関わりなく、件のリーダーさん以外にその異常を感じ取れた人間はいなかったらしい。だが彼の錬金術師としての腕前を知っていた調査隊のメンバー達はきっとそこには何かがあるのだろうと思い、シェロカルテのよろず屋に依頼を出したらしい。

 

 だが何も見つからなかった。シェロカルテお抱えの腕利き解呪師達の手にかかっても。その場所には何も見つからなかったらしい。その何も見つからなかったという結果を聞いても、錬金術師は調査の許可を降ろさなかったらしい。シェロカルテも随分弱ったという。

 

 そんなところに彗星のごとく現れたのが俺だったらしい。今までこの世界に存在したあらゆる技術と比較しても、全く新しいアプローチで迫る俺の右手なら、事態を動かせると踏んだのかもしれない。

 

 全くの余談だが、この依頼も始めの頃は解呪師に護衛がついたり、それこそ調査隊のメンバーが同行したりしていたらしい。そんな事、全くこれっぽっちも気にしていないが。俺についてきてくれる人は1人もいないのかよとか思っても見ないが。

 

「改めて考えて見たら、これ全然簡単な依頼じゃなくねぇか?」

 

 何せシェロカルテ子飼いの腕利き達が揃って失敗しているのだ。とても自分に達成できる依頼だとは思えなかった。それもそのはずで、シェロカルテが当麻にこの仕事を簡単な仕事斡旋した理由は、その依頼の難易度ゆえではなかった。

 

 まず第1にこの依頼を受けるにあたって、当麻は更にシェロカルテに借金をしている。先程からちょくちょく出てくるリュックサック、あれの中身は全て借り物だった。

 

 この依頼を達成するには最低限例の森を突破する為の装備が必要になる。それがなければ、依頼の条件を満たせず、そもそもシェロカルテが依頼を斡旋出来なかったのだ。当麻が砕いたファイアバゼラードの分も効いている。あれ、実は結構な業物だったらしく、お値段も相応らしい。

 

 諸々の借金の影響で、当麻は下手な依頼に出れば寧ろ借金が増えていくような状態になってしまっている。ならばそれ相応の依頼を受けるしかない。だが、報酬の多い依頼というのは、当然難易度が高いものになり、失敗する確率は高くなっていく。今の当麻にとって、依頼の失敗は致命的だ、もともといなくてもいい人間にシェロカルテが特別に目をかけているだけの状態なのだから、利用価値を示せなければ、恐らく当麻は即豚箱行きだろう。

 

 それだけではない、難易度の高い依頼というのは重要度の高い依頼になっている場合が多い。つまり、どこの誰ともしれない上条当麻にホイホイと仕事を回すわけにはいかないのだ。

 

 以上の要素を持って、現在シェロカルテが当麻に斡旋できる仕事は、

 報酬が赤字にならない程度には高額で。

 失敗してもそこまで周りから失望されず。

 当麻でも受注できる程度には人気の低い依頼ではなくてはならなかったのだ。

 そんな当麻に転がり込んできた依頼がこれだったのだ。

 

 だがそんな事には気付けない鈍く頭の悪い男上条当麻は、降って湧いた仕事に歓喜しながら(ぶつぶつと文句言いながら)歩いて行き遺跡の最奥の部屋にたどり着いた。

 

「俺はここで幽霊を探しに歩き回ればいいってわけか」

 

 そこで当麻は、ランプの火を最大まで強くし、部屋の中央において全体を明るく照らした。そして入り口まで戻ると、右腕をブンブン振り回しながら部屋の中を練り歩き始めた。

 まさかのローラー作戦。確かに効果的かもしれないが、頭が悪すぎる。

 

「まぁこんな方法で方がつくってんなら、もうとっくに誰かがこんな依頼達成してるよな」

 

 1通り腕を振り回しきって満足したのか、部屋の奥の壁に背中を預けて、当麻は座り込んだ。

 

「ランプで照らしたら幽霊が浮かび上がってくるってぐらい単純だったらいいんだけどな」

 

 なんて、希望的観測を口にする当麻。心は若干くじけかけてた。

 

「シェロさんはなんて言ってたっけかな」

 

 今日何度も助けてもらったシェロカルテのアドバイスを思い出そうとする当麻。

 

「そうだ、ゴーストは闇の属性力が濃い場所に集まるんだったか、って言ってもなぁ」

 

 そんな分かりやすい方法、先人達が試していないわけがないし、そもそも当麻に空間の属性力の偏りを感じ取るような能力は無かった。こりゃ駄目だとばかりに寝っ転がった当麻の目に、天井の模様が入ってきた。

 

 きっと見る人が見れば、何かこう、凄いことが分かったりするのかもしれないけれど、当麻の目にはかっこよさげな幾何学模様としか映らなかった。

 

「この壁もなんかすげぇよな」

 

 体を横に倒して、壁に目をやる当麻。入り口から見て最も奥にあるこの壁は、他の5つの面から伸びてきた幾何学模様が絡み合い、より一層複雑な紋様をなしていた。

 

 それこそ、何かが封印されていそうな。

 

 そういえば、まだこのあからさまに怪しい壁には触ってなかったなと思った。あまりにもあからさま過ぎて、他の連中が調べているだろうと思い込んで、勝手に選択肢から除外していたかもしれない。

 

「まぁこんなもんで依頼達成だったら笑いもんだけど」

 

 そう苦笑いを浮かべて、右手をそっと伸ばして見た。

 すると

 

 ドゴオォォォン!!

 

 と、全く聞き覚えの無い音が鳴り響き、壁がこちらに向かって崩れ落ちてきた。すぐそばで寝っ転がっていた当麻にとってはたまったものじゃない。急いで跳びのき部屋の中央辺りまで移動する、その時に偶然右手がランプに当たってしまい、内部の光が飛び散ってしまった。

 

 だが当麻は、そんな事を気にしている暇もなく崩れた壁を見る。()()()()()()()()。人影が見えて当麻がそれに気づいたのとほぼ同時に、声も聞こえてきた。

 

「やっと封印が解けたか……あの小僧共も、少しはやるようになったじゃねぇか……」

 

 若干、その声の高さがこの場に不釣り合いに聞こえた。どう聞いても幼い少女の声だったからだ。だが、そんな思考はすぐに飛んでいく。絶対的な自信が含まれる声が、シルエットしか見えないにもかかわらず絶対的な存在感を持つその人型が、空間を席巻していく。

 

「随分と暗いな、こんなんじゃ何も見えやしねぇ」

 

 指を鳴らす音が1つ。部屋の中に光が灯る。

 

「あ☆ねぇねぇ、貴方がこの封印を解いてくれたの?」

 

 幼い少女の姿が、そこにはあった。

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