お空の下でも不幸を叫ぶ   作:非人間

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 ちょっと飛ばし過ぎたかなとは思わなくもない。


第4話

 夜の遺跡を見ず知らずの少女と一緒に歩く。封印がどうとか言われてもさっぱり話がわからなかった当麻は『取り敢えず落ち着ける場所で話さないか』と築十数分の仮説テントに少女を招待、それを承諾した少女と来た道を引き返していた。

 

 後ろをついてくる少女が辺りを見回し『こりゃ千年近くは寝たきりだったみてぇだな』なんて言いながら舌打ちするのを当麻は全力で無視することにした。

 

 そんなこんなで無事テントが設置してある場所まで引き返して来た当麻は、後ろの少女に声をかける。

 

「ここが俺が寝泊まりする予定のキャンプですよ。なんもねぇ場所だけど、服汚さずに座れるし、飯もあるから、これで我慢してくれ」

「えぇー、お兄さんこれで落ち着けるのぉ?カリオストロビックリィ☆」

「可愛く言ったってなにも出てこないぞ、っていうか上条さんだって我慢してるんだから、わがまま言っちゃいけません」

 

 なんていうか、確かに落ち着ける場所と称して人を誘うような場所ではなかった気もしたが壁をぶち抜かれた遺跡の最深部にいるよりは安全だろうと自分を誤魔化す当麻。少女の方もそれを承知しているからこそ、出口を知っている当麻にわざわざついて来たのだろう。

 

 しょうがねぇなと言った風の少女は勝手にテントに入っていき、リュックサックの中身を勝手に物色すると、保存食と寝具一式を取り出し、満足したように当麻に向き直る。

 

 それについでテントに入ってきた当麻は、素寒貧のまま地べたに腰を下ろす。

 

「それで?お嬢さんの名前はカリオストロでいいのか」

「うん☆貴方のお名前は?」

「俺は上条当麻だよ、上条がファミリーネームで、当麻が下の名前だ」

「そっか☆それじゃあトウマお兄ちゃんって呼ばせてもらうね☆」

 

 自分も晩飯でも食おうかと当麻が腰を上げ、リュックサックに手を伸ばしたが、その手が届きそうになった瞬間にカリオストロが再び物色し始めたので断念する。

 

「それで、トウマお兄ちゃんはあんなところで何してたの?」

 

 リュックサックの中に入っていたリンゴを見つけて、それに満足したのか、今度はカリオストロの方から当麻へと質問が飛んでくる。『そんなもんこっちが聞きたいんだけどな』と頭を掻いた当麻は返答する。

 

「実はちょっとだけ訳ありでさ、よろず屋ってとこで働いてんだけど、その依頼でここの幽霊退治に来たんだよ」

「幽霊退治〜?」

 

 幽霊という言葉にカリオストロが胡散臭そうな顔をしたが、当麻から受け取った依頼書を読み、今の当麻の話が嘘ではないと取り敢えずは納得したようだった。そしてそのまま『でも、残念だったね』と呟いた。

 

「残念?何がだよ」

「だってだって☆あの部屋にはゴーストなんて居なかったし〜このままだとトウマお兄ちゃん依頼失敗コース間違い無しなんじゃないかなって☆」

「ああ、そのことか」

 

 カリオストロにそう突っ込まれても、特に動じた様子の無い当麻に、カリオストロは怪訝そうな顔をする。それに気づいた当麻は、カリオストロの反応に注意しながら、依頼発生の経緯まで話を巻き戻す。

 

 突然関係のない話を始めた当麻になんだこいつといった表情を作ったカリオストロだったが、話が依頼主の錬金術師の話題に差し掛かったあたりでその表情を変えた。

 

「そんな訳でな、あそこに何かが封印されてるかもっていう話はもともと出てたものなんだよ、まぁそれがカリオストロみたいな女の子だって事には誰も気づいてなかったみたいだけど」

「ほう?」

「だからまぁ、その封印されてたものを無事発見してしまった上条さんは、もうほとんど依頼を達成しているようなものなのですよ」

「なるほどね」

「調査隊の元にお前を引き渡すのかどうかは知らないけど、どうしても行きたくないってんなら口添えぐらいするぞ?」

 

 得意げにそう語った当麻は、思っていたよりも反応が小さいカリオストロに若干戸惑う。というか、さっきから少しずつ返事が雑になってきたりしていなかっただろうか。

 

 カリオストロの様子を伺ってみれば、何かを考えるようにぶつぶつと呟いていた。話が途切れてしまい居心地の悪くなった当麻は心の中で『こちとら初対面の女の子と楽しくおしゃべりできちまうようなスキルなんて持ち合わせてねぇっつうの』などと愚痴りながらカリオストロに話しかける。

 

「それで?カリオストロこそなんだってあんなところに封印?……されてたってことでいいんだよな」

 

 次は当麻のターン。気になっていたことを単刀直入に問いかけてみる。思案していたカリオストロは、思考の1割程度だけを当麻の話に割き、どう答えるべきか考える。

 

 が、

 

「まぁ、もう別に構わねぇか」

 

 自分の膝を支えに頬杖をついたままリンゴを一齧りし、そう呟くカリオストロ。そこに一切異常な動きはない。だというのに、何故か感じる莫大な悪寒。

 もう一息、それこそ1秒もかかっていないような時間で自分の下した決断を再確認したカリオストロは、リンゴをもう一口齧った。

 

 全力で横に飛び退く。

 

 何かが起きる前兆なんて1つもなかったけれど、とにかく動かなければ死ぬ。そう叫ぶ体に押されて倒れこむようにして左に飛ぶ当麻。

 

 半手遅い。

 

 つい1秒前まで当麻が座っていた床が、突然盛り上がる。いや違う、それらの土塊は1秒前まで当麻の心臓があった位置に向かって殺到していく。より鋭く、より鋭利に、人肌を容易く貫く凶器へとその姿を変えながら。

 

「遅ぇ」

 

 その様に一瞥もくれないカリオストロ。彼女の言う通りだった。とっさに体を倒し何とか瞬殺される事だけは避けた当麻だったが、彼の行動は、彼女と相対するものが持つべき水準と比べれば、あまりにも遅すぎる。

 

 

 ()()()()()

 

 

 正確に言えば、右肩の付け根のあたりから先が、岩の刃によって切り飛ばされていた。自分の身に何が起こったのかも分からないまま、当麻の体は衝撃に吹き飛ばされていく。

 

 数メートル転がった後、漸く肩の痛みが脳に追いついた当麻は、腕の切断面の少し上の、肉が見えていない場所を掴み絶叫する。

 

「ガッ、アアアァァァァ!!」

「遅っせぇなぁ」

 

 それすらも意に返さない。噴水のように吹き出る血液すら無視して、そこに転がっていた当麻の右腕を蹴っ飛ばす。ちょっと靴が汚れてしまった。顔を顰めるカリオストロ。

 

「事態を把握するのも遅ぇ、戦闘態勢に入るのも遅ぇ、回避行動も遅ぇ、その上痛みに気付くのすら遅ぇだと?笑い話にすりゃなりゃしねぇよ」

 

 退屈そうなカリオストロが、続けて当麻に語りかける。

 

「第1問☆」

 

 冗談みたいに重みの感じられない声で。クルクル回りながら語るその姿を見て、それを人の腕を切り飛ばしたばかりの人間だと思う奴はいないであろう程の調子で。

 

「ねぇねぇ、トウマお兄ちゃん☆大昔に千年も続いちゃうような封印をかけられちゃう人ってどんな人か分かる?」

 

 返事をする余裕すらない当麻を視界にも入れず、誰に語りかけているのかも分からないカリオストロはそのまま続ける。

 

「どう考えたってよぉ、そんな奴、誰からも恐れられちまうような()()に決まってんじゃねぇか」

 

 返事をする余裕もなかったけれど、カリオストロの発する言葉は、不思議と当麻の耳にしっかりと届いていた。

 

「第2問☆」

 

 自らを怪物と称する少女は、ゆっくりとした足取りで当麻の方へ歩き出す。まるで断頭台へと赴く処刑人のように。

 

「そんな怪物が野に解き放たれたことを知っている、唯一のラッキーな人がいます☆そしてその事を怪物は知ってしまいました☆さて、その人はどうなってしまうのでしょうか☆」

 

 当麻の元までたどり着いた怪物は、足元に転がっているそれを蹴っ飛ばし、仰向けに調整し、姿勢を変えられないように踏みつける。当麻の呻き声が強くなる。痛みに耐え兼ねて見開かれた当麻の目には、どこから取り出したのか分からない本を左手に、岩で作られた粗末な剣を右手に持っているカリオストロの姿があった。まぁ、粗末なとはいっても、人を斬り殺す程度には何の不都合も無いのだが。

 

「そんなもん、食い殺されて終わりだってことぐらい、勉強してからここに来いよ、落第生」

 

 右手に持った剣を高く振りかぶったカリオストロは、それを振り下ろそうとした瞬間に、ふと1つのことを思いつく。

 

「考えてみればお前、この俺様の奇襲を受けて死ななかったんだよな、こりゃ落第生どころか百点満点なんじゃねぇのか?」

 

 驚く程どうでもいいことに思い当たったカリオストロは、何の気まぐれか当麻に1つ声をかけてきた。

 

「ご褒美だ、聞きたいことがあったら何か一つぐらい聞いてやってもいいぜ、何も分からねぇまま死ぬのは嫌だろ、まぁ喋る余裕があるってんならって話なんだが」

 

 「待つのは10秒だけだぜ」と続けたカリオストロは、岩の剣を一旦おろし、胸を圧迫していた足を退かす。足が外された瞬間に、ゴホゴホと咳き込み始めた当麻を見て、こりゃ駄目かとも思ったカリオストロだったが、8秒ほどで無理やり息を整えた当麻がたどたどしく喋り出すのを見て、満足げに頷いた。

 

「お、お前は、この、後、は、どうするつもり、何だ?」

「あ?この後?」

 

 当麻が何を言いたいのかさっぱり分からないといったカリオストロ。普通に考えればお前を殺すと答えれば良いのだろうが、流石にこの状況でそれが分からない馬鹿ではないだろうと判断して、ちょっと聞き返して見た。

 

 てっきり、お前は何者なんだとか、その岩の剣はなんなんだとか、どうして俺を殺すんだとか、そういった自分の死に関係する質問が飛んでくるものだとばかり思い込んでいた為、不意を突かれたカリオストロはその質問に少し興味が出たらしい。

 

「俺、を、殺した、後は、どこに行くんだって、き、聞いてんだ」

 

 痛みが口の動きを邪魔したせいで、はっきりとした発音にはならなかったが、その言葉の意味も、当麻がその言葉を発した意図も、カリオストロは正確に把握していた。

 それはつまり、

 

「シェロさん、も、調査、隊の、人達も、みん、なを、殺しに、行くの、か?」

 

 それはつまり、他人の心配だった。あったばかりの人間右腕を落とされて、命を奪われるまで秒読みの段階で、上条当麻は他人の心配をしていた。

 

 目の前に存在する脅威になど目も向けていなかった。その背中に背負った、いや背負ってすらいない、会ったこともない人間達が殺されるかもしれない。それが気になる。

 

 絶命を秒読みに控えた人間の思考ではなかった。

 

「成る程、そういう狂人か」

 

 言外にお前に殺されることになんて大した事じゃないと言われたカリオストロだったが、彼女は冷静なままだった。ちょっと苛立った様子も見えたが、そこらの羽虫の言葉で心を乱されることの方が、彼女のプライド的には許されないことだったらしく、律儀に羽虫と交わした契約を履行していく。

 

「そうだな、まずは手始めにお前をこの島に運んできた操舵士を殺すか」

 

 淡々と述べるカリオストロと同じように、当麻の表情にも変化は見られない。いや、それはカリオストロと同じものではなく、痛みにより表情を変える余裕がないだけなのかもしれない。痛みに歪んだ顔でカリオストロを睨みつけている。

 

「その次は件のよろず屋だな、そこまでは確定ラインとして……調査隊の連中はどうするか、無意味に殺して足跡を残すのもまずいか」

 

 あまりにも気負いなく殺人を予告したカリオストロは、そこで言葉を止めて、当麻の方に視線を戻した。睨みつけられているのが癪に触ったらしく、当麻の顔を軽く足で小突く。

 

「俺様の今後の行動方針はこんなもんだ、満足したか?まぁ出来てなくてもここで終わりだがな」

 

 サービスタイムは終了らしい。再び当麻の胸に足を乗せたカリオストロは、岩の剣を振り下ろそうとする。当麻も体をよじり必死に抵抗しようとするが、血を流し過ぎたのかまるで力が入っていない。

 

 致命的な一撃。絶対回避不可能な一撃が当麻の首筋を狙い、吸い込まれてきた。

 

(こんな狂人が抱えてる案件だ、ちょっとした訳ってのも大したもんなのかもしれねぇが……まぁ俺様には関係ねぇか)

 

 果たして、この思考に割かれた意識が原因だったのだろうか。

 作業の様に、無感動に剣を落としていたからなのだろうか。

 

 カリオストロは、致命的な事に気付くのに一歩遅れる。

 

「あばよ、トウマお兄ちゃん」

 

 右手の切断面の先で、()()()()()()()()()()()




 右腕落とされたくらいで上条さんが動けないのってちょっとおかしいですかね。

 後別に非人間が、カリおっさんの事嫌いな訳じゃありません。開闢の錬金術師様ならこのぐらいやってくれるんじゃないかなって思ってちょっとやり過ぎちゃっただけです。

 むしろおっさんは大好きです。
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