お空の下でも不幸を叫ぶ   作:非人間

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 正直に言ってしまうとまだ新約最後まで読んでなかったり、超電磁砲読んでなかったりするクソ雑魚なので、竜王の顎の効果はノリと雰囲気でやっていきます。注意して下さい。

 というか、設定とかを完璧に把握するのが苦手な人間なので、基本的に表現はノリとライブ感でやっていきます。(今更)


第5話

 粉塵が立ち込める。不安定さは感じられていなかったとはいえ、築何年かも分からなかった石造の遺跡は、その姿の半分程を失っていた。建物内部の装飾は既に原型を留めておらず、外壁は何か巨大な生物に噛み砕かれたの様に抉れていた。

 

「何が起こりやがった」

 

 その穴の向こうからカリオストロの声が聞こえてくる。建物の崩落には気を払っていない、先ほどまでと変わらず覇気に満ちた声。だがその肉体には決定的な欠落が見える。

 

 ()()()()()()()()

 

「何か妙な力を隠していやがるとは思っていたが、ここまでか」

 

 自身の肉体の欠落にすら興味が無いのか、平然としたまま現象の分析を行うカリオストロは、その片手間に自身の肉体を修復していく。周辺に転がっている石くれを失われた部分にかき集め、それを肉体に再錬成していく。

 

 しかし、

 

「なんだ?肉体に定着しねぇ」

 

 錬成された体のパーツは、切断面に接続されたとたんに腐り落ちていく。本来ならばありえない現象。限りの無い寿命で世界の全てを解析しつくした錬金術師の手にかかれば、欠損した身体機能を取り戻すなど、それこそ呼吸を行うことと同義だ。何せ切り開けさえすれば自分の体程手に入れやすい研究材料も無いのだから。だが、そうはならない。己の魂すらナノ単位で操作しつくすカリオストロの手による人体の再錬成において、元の肉体との拒絶反応など起こりうる筈が無い。

 

 しかし現実にはそれが起こっている。それはつまり、

 

「俺様の魂にすら干渉していやがるのか?」

 

 つまりはそういうこと。数え切れない、途方も無い、常人には想像する事すらもままならないほどの長い年月をかけて施されてきた保護術式さえ食い破って、先ほどの現象はカリオストロの魂すら貫いたというのか。

 

「何の面白みもねぇガキかと思っていたが、なかなかやるじゃねぇか」

 

 それは開闢の錬金術師が興味をそそられるほどの異常だった。

 

 決してカリオストロを滅ぼす術が、それしか存在しないわけではない。彼女と同等以上の力を持つ存在が、滅びに特化した力を振るえば、自分の存在が崩壊するであろうという結論をカリオストロは既に下しているし、その力を操る存在にも心当たりがある。だがこの現象は、その方針とはまったく異なったアプローチでカリオストロという存在を殺しにきていた。

 

 崩壊の現象が、構成された物質を一から順に解いていくような性質を持っているとすれば、これはそれのまったく逆。もっと大雑把に、もっと力ずくで、悪く言ってしまえばもっと雑に、構成された物質をその性質によらずに、丸ごとかき消してしまうような、そんな性質が感じ取れた。

 

「とりあえずはこれで十分か」

 

 考察と平行して、肉体の修復も行っていく。石くれの性質を捻じ曲げてまで人体(カリオストロ)を再現しようとするから崩れ落ちてしまうのだ。ならばこちらももっと雑に、石くれは石くれのまま、義肢のような扱いにしてしまえばそれで終わりだ。

 

「せっかくの世界一可愛い体が台無しじゃねぇか」

 

 問題点といえばそれぐらいか、左右非対称の不恰好な体で十全の機能を果たすのは難しいようにも聞こえるが、そこは年の功で何とかする。長い人生の中で肉体の錬成がうまく機能しなかったことなど腐るほどあるし、それこそ魂の錬成に手が届く前はどちらかといえばホムンクルスよりもゴーレムよりの体を使っていたのだ。相手が戦闘のプロフェッショナルともなればこの肉体では不足かもしれないが、たがだかおかしな力を使うだけのほぼ一般人(上条当麻)相手ならば、これでも十分に対応可能だろう。

 

 と、肉体の修復が完了したのとほぼ同時に、遺跡の中からも瓦礫の崩れる音が聞こえてきた。

 

「さあ、第二ラウンドと行こうじゃねぇか」

 

 向こうがこちらを認識するよりも早く、不死の怪物がイレギュラー(完全なる未知)に突撃していく。

 

 

* * *

 

 

 

 カリオストロが聞いた瓦礫の音の正体は、やはりというべきか、起き上がった当麻の立てた音だった。やはりとは言ってみたものの、当麻が立ち上がれたことにはやはり疑問が残る。先ほどまでカリオストロに嬲られながら、芋虫のように地面を転がっていた彼が何故立ち上がれるのか。正確な答えは分からない。だが、カリオストロと同じように、先ほどまでの彼とは決定的に違うものがあった。

 

 右腕の先で、()()()()()()()()()()()

 

 竜王の顎(ドラゴンストライク)。人間の肉体には決して発現しないはずの器官が、あまりにも当たり前にそこにはあった。一見すると何も不自然なことなんて無い様に、むしろ逆に、あの姿こそ正しい人のあり方なのだと主張するかのごとく、不自然な記号の集合体がそこには存在していた。

 

「ぁぁ……」

 

 一歩、力なく地面を踏みしめる。

 

 自分の足でしっかり立っているように見えて、実際には当麻の意識など、ほとんどそこには無かった。血を流しすぎた、激痛だって未だに治まってない、先ほど感じた絶大な恐怖に未だ体が震えている。立ち上がれない要素ならば腐るほどあった。立ち上がれる要素など、不確定なものを除けば一つとしてなかった。

 

 それでも、

 

「力なら、いくらでも湧いてくる」

 

 それが腕に居ついた竜から送られてくるものなのかは分からない。何か致命的なものを消費しているのかもしれない、どんな悪影響があるのか分からない、何の影響も無いのかもしれない、そもそも根本的に、これが何なのかが分からない。いや、そもそも当麻は己の身に起こっている異常に気付いていないのかもしれない。

 

「だったら、立たなきゃ」

 

 それらは全て、言い訳にもならない。正真正銘の怪物が正面から襲いかかってくる、自分に向かってではない、その後ろにいる人たちへと向かってだ。そもそも立ち上がらなけば自分が死ぬじゃないかなんていうくだらない理屈を考慮している時間は無い。

 

 ここで立たなければ、あの怪物が自分の恩人に襲い掛かっていくという、単純な理屈と、明快な理由がそこにはあった。

 

 だったらそれだけで立ち上がれる。共にすごした時間が短いことなんて関係ない。見ず知らずの自分にかけてくれたあの優しさだけで、彼が背中に背負う理由には事足りる。

 

 

 突然吹き荒れる突風、怪物が来た。

 

 

「お前の底を、この俺様に見せてみろ」

 

 漂っていた砂塵を全て吹き飛ばし視界を確保したカリオストロは、先ほどと同じように岩の刃を放ってくる。だがその威力は先ほどの奇襲とは比べ物にならない。単純に速度を比較してもそうだが、それ以上に、同時に放たれる数が桁違いだ。半壊しているとはいえ、遺跡の中にいる当麻は全方位を壁に囲まれている。それだけで単純に、回避の難易度が激増する。

 

 それに加え、技の精度も桁が違った。先程のように単純に心臓を狙うのではなく、脳や主要な臓器、果ては全身の動脈という動脈に、変幻自在の刃が食らいついていく。当然その中にはフェイクも含まれている。大量の刃で同時に攻撃するときにどう攻めるのか、単調な物量押しの極限がそこにはあった。

 

 おそらく、端から見ていようと主観的に見ていようと回避不能な攻撃。どこにどう体を動かそうと、必ず全身の急所を同時に捉え続けるように調節された攻撃だった。それが、十メートルほどの距離を一秒足らずで詰めて殺到してくる。

 

 右手の竜が、口を閉じた。ずらりと並べられた牙という牙が、ガチン!!という音を鳴らす。

 

 

 瞬間、世界が上条当麻に支配された。

 

 

 殺到していた岩の刃が、その陰に隠されていた第二から第五陣までをまとめて一度に破壊される。

 

()()()()、防いで貰えなけりゃむしろ困るってもんだ」

 

 大して気にして風でもなく、寧ろ喜色すら浮かべかねない勢いで、カリオストロの表情が歪んでいく。

 

 次の攻撃が始まる。竜が再び口を開け、当麻がカリオストロに向き直る前に、カリオストロがその左手を水平に振る。石片で構成されたその左手は、スイングが始まる瞬間にその形を変え、全長100メートル程にまで伸びる。

 

 その斬撃は、手元において半秒程で完了する。そう聞けば大した速さには感じられないかもしれない、だが円を描く様に放たれたそれは対象との距離が離れれば離れる程、爆発的に加速していく。壁に空いた穴の上で止まっていたカリオストロと当麻との距離は、約十メートル程。

 

 比喩ではなく、目にも止まらない速度で斬撃が走る。

 

 再び、右腕の竜が動く。

 

 音を置き去りにするほどの斬撃をさらに上回る速度で当麻の体と刃の間に潜り込んだ竜の顎は、接触の瞬間に首を持ち上げるだけで斬撃を粉砕する。

 

(対応が違った、変形中の刃は能力で、形の決まった刃には物理的な攻撃で)

 

 ならばそれを組み合わせれば?

 

 瞬時に仮説を組み立てたカリオストロは、次の一手を放つ。

 

 が、それに割り込むようなかたちで竜の顎が蠢く。

 

 錬成途中だった岩の塊を噛み砕くようにブチ破った竜は、どんな原理なのかその首を伸ばし、カリオストロに襲いかかる。舌打ちを一つ残し、紙一重で躱すように一歩引いた彼女は、反撃に移ろうとする。

 

 しかし、そこにまた竜が割り込みをかける。再び鳴らされる牙に発動する能力、至近距離でそれをもろに食らったカリオストロは、魂が弾けそうになるのをギリギリで抑えつける。

 

「思ったよりよっぽど厄介だな、あのドラゴン、相性が悪すぎる」

 

 大雑把にその能力を把握したカリオストロは、元いた位置まで戻って距離を稼ぐ。体感してみた感じ、恐らく全ての異常を消し去るといったところだろうか。刃の形をした岩なら自然に存在するが、岩が流動して刃の形をとる事はない。よって前者はその存在を許され、後者は消し去られたのだろう。

 

 ……あの竜の記号を象った能力から判断するのならば、どちらかといえば食い散らかされたと表現した方が適切なのだろうか。

 

「いや、そんなもんはどっちでもいい、要するに接近されたらアウトってだけなんだろ?」

 

 ならばいくらでもやりようはある。一番シンプルな対処法としては、やはり接近せずに遠距離を保ったまま岩の刃で刺しにいくことだろうか。だが岩の刃による攻撃だけに絞ってしまえば、どう工夫したところであの腕は食らいついてくる、そういった予感があった。そうなったら、後はもう我慢比べにしかならないだろう。別にカリオストロは耐久勝負になったところで負ける気はしなかった。細部まで完璧に制御し尽くされている錬金術と、何を力の拠り所としているのかすら不明の竜王の顎、どちらが不安定かと聞かれれば、それは答えるまでも無い。

 

「だがこれは実験であって戦闘ではねぇ」

 

 そうこれは彼女にとっては戦いですら無い、実験なのだ。両者の関係は、研究者とモルモットと同じく一方的なものでなくてはならず、それは決して敵という、対等なものにはなり得ない。

 

 実際に今までのやりとりが単純な殺し合いだったのならば、とうの昔にカリオストロは当麻の首をはねていただろう。彼女が全力で戦闘を行う、即ち真理の一撃(アルス・マグナ)を繰り出していれば、それで決着が付いていたという判断に恐らく誤りは無い。

 

 だから、

 

「コイツは温存しておきたかったんだが……まぁあのガキも似た様なもん使ってきやがる訳だし、寧ろ都合がいいか」

 

 そういって再び何処からともなく、例の本を取り出したカリオストロ。今度は無造作に握っておくだけでなく、特定の条件を満たす為にページをめくっていく。

 

「さぁ出番だぜウロボロス、貴重なサンプルだ、極力傷をつけない様に()()()()()()()()()()()()()

 

 その呼び声に答えて、一匹の赤くて巨大な蛇がその姿を現した。

 

 尾を飲み込む蛇(ウロボロス)

 

 死と再生、不老不死の象徴として扱われるその存在は、己の尾を飲み込ませない為に、その頭を針で滅多刺しにされた姿でその鎌首を持ち上げた。全長はカリオストロに食らいつこうとした時の竜王の顎と比べてもやや大きい。だが注目するべきはその肉体の強靭さではなく、その身に宿した神秘の総量だろう。竜王の顎と同等か、いやそれさえ凌ぎかねない程の莫大な神秘をその身に秘めている。

 

 その瞳が、上条当麻を捕捉する。

 右腕の竜が、それを睨み返す。

 

 カリオストロが一連の準備を整えていた間に、吸収した異能の力を全て消化し己の力と変えた竜王の顎は、先程までとはそれこそ軽く一つや二つぐらいは桁が違う力を蓄えていた。

 

 この世界の全てを見回してみても比肩する者はそういない、最強の錬金術師とその使い魔。

 

 ありふれた、平凡な、何処にでもいる様な少年と、彼の右腕に宿された規格外のイレギュラー。

 

 その2つが、真正面から衝突する。

 

 右腕から先を喰いちぎれというカリオストロの命令を正確にこなそうとするウロボロスは、当麻の右腕の付け根の少し先の半透明のエネルギーの出発点に喰らい付く。それを受けて、第一優先の撃滅対象をカリオストロからウロボロスに変更した竜は、ウロボロスの胴の中程あたりに牙を突き立てる。ほぼ同時に喰らい付き合った二頭は、爆発的に発生したエネルギーの奔流に煽られそれぞれ逆の方向へ吹き飛ばされそうになる。その程度では当然牙を抜くことなど叶わない。爆発の影響でお互いがお互いに噛み付いている場所を直径とした円描いた二頭はまるで、二頭一対の尾を飲み込む蛇の様ですらあった。

 

 竜王の顎が、押される。単純な出力を比較するのであればほぼ同等、それなのに竜王の顎が押されるる理由は、その担い手にあった。

 

「オラオラどうした!!その程度かよ!!」

「ッ!!」

 

 踏みしめていたはずの足が一歩後退する。それを皮切りに一気に後退しそうになるのを必死に堪える。その無様にカリオストロが煽りを入れる。

 

「貰いもんのオモチャ使ってはしゃいだ程度で、この俺様を超えられるとでも思ったかよ」

 

 それを宿している人間がお前である必要性を感じない、彼女はそう言った。正直に言って期待外れだった。久しぶりに面白いものが見れるかと思えばそこにあったのは己の力に振り回される不様な姿で、力の質すら既に割れてきたいると来た。そろそろ処分する時間かと見限り始めていたカリオストロは、最後通告として当麻に発破をかける。これでダメならもういらない。カリオストロは決定を下す。

 

 それが聞こえていたんだかいなかったんだか、一言分だって口を開く余裕のない当麻は、一歩前に思いっきり踏み込んだ。

 

 それはこの戦いの中で見ればあまりにも小さい一歩に見えただろう。実際彼の踏み込んだ十と数センチがこの戦いに与えた影響は無に等しい。だがここで初めて、上条当麻が竜王の顎を使うという関係が発生した。踏み込みとともに捻じ込まれてくる彼の右手が、爆発的にその力の総量を高めていく。

 

 ここに来て更なる出力の高まりを見せたそれに、カリオストロの表情が僅かに笑みを作る。片手に持った本のページを片手で操り、信じられない言葉を発する。

 

「ウロボロス、()()()()()()()

 

 青いウロボロス。一体目となんら変わりのない力を持って悠然とそれは現れる。一体目との拮抗に必死な当麻はそれに気付く事さえ叶わない。

 

「見せてやるよ、真理の一撃ってやつを」

 

 カリオストロの合図に合わせて、青い巨体が動く。赤のウロボロスに噛み付いている竜をその巨体で弾き飛ばすと、それは赤いウロボロスの尾に噛み付く。赤い個体もそれに合わせて動き、今度は完全な円を完成させる。呆気にとられた当麻が竜を仕舞い込むよりも早く、カリオストロが告げる。

 

 

「アルス・マグナ」

 

 

 小さく、けれどはっきりと発音されたそれを聞き届けた瞬間に、ウロボロスで構成された円環が回転する。その回転は暴力的に速いわけではなく、それ自体が当麻を襲うことはなかった。

 

 あまりにも正確に回転するその円環は、覗き込んだ人間が発狂する程に莫大な錬金術的記号をそこに宿し、最奥の力をここに引きずり出す。

 

 半透明の竜が、あっさりと右腕から千切れ落ちた。宿主には一切の被害を与えずに、必要最低限の、しかし極悪な破壊力で竜王を粉砕する。

 

「ったく、ギリギリで踏み止まるのが好きなやつだぜ」

 

 散りじりになる意識の中で当麻は、最後にそう呟くカリオストロが見えた気がした。




 少し上条さんの株を落とし過ぎてしまいましたかね。
 カリおっさん一応設定では世界の全てを解き明かしたってなってるのでメンタルの強いヘタ錬ぐらいの戦闘力をイメージして書いてみたんですけど、両方の作品のキャラの株を保つのは難しいですね。
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