機動戦士ガンダム SEED Another Destiny 作:ディアボロス
破滅は突然やってきた。
悲鳴も爆発音も怒号も銃声も聞こえはしない。
「なんだよ……それ。マユ! 父さん! 母さん!」
「はぁっ……はぁっ」
真っ暗な自室でシン・アスカは飛び起きた。
また、あの時の夢だ。
「くそ……」
汗ばむ額に手を当てて誰に向ける訳でもない悪態を吐く。あるいは未だに過去を忘れきれない自分に向けてか。
テーブルに置いてある飲みかけのペットボトルを手に取り、水を一口ふくむ。ちらと壁にかけてあるアナログ時計を見ると、まだ午前3時を示していた。プラントの日照時間まで後2時間以上あるが、再び眠る気など起きない。
どうせ明日は休養日だ。いっそ外に出て夜風でも浴びよう。
寝巻きから軽く着替える。プラントと言えど日照を制限される夜間は冷える。厚手のジャケットを手に取り羽織った。
『シン・アスカ。認証』
ピピッ、と電子音を立ててロックが外れ、自動で扉が開く。シンの住まう寮を含め、軍関係施設の出入りにはカードキーと二重扉によるセキュリティがかけられている。
多少煩わしく感じるものの、軍事施設など大抵このようなものなのだろう。
「軍か……」
プラントの人工的な風がシンの黒髪を撫でた。
シンは復讐の為にザフト軍の士官学校に入校した。あの青い翼の機体を破壊する為だ。その強い意志があったからこそシンは赤服の称号を手に入れることができたと言える。
「でも。あいつはいない。俺が殺さなきゃいけないあいつは」
ユニウス条約により停戦を迎え、青い翼の機体は消えた。一説にはジェネシスと共に爆散したとも言われている。
だがいつか。青い翼の機体が現れた時、その復讐を遂げる為だけにシンはここに居た。
「……こんなこと、考えてても仕方ないな」
思考を振り払う様に頭を左右に振って、繁華街に向かって歩く。
普段は人が溢れている繁華街だが、夜中ともなればひっそりとしている。繁華街の外れでは夜中でも賑わっているが、そんなところに行くつもりはないし年齢的にも相応しくない。
結局。やることもなく、大きく開いた噴水広場にたどりついた。
元々、何かするつもりではなかったが。
石でできた噴水の腰掛は、座るとひんやりとしていた。
「このまま……平和なのかな」
プラントの低い夜空を見上げ呟く。戦争が起これば、あの青い翼の機体は現れるかもしれない。でも、そんなのは真っ平ごめんだ。復讐の為に、もっと悲しい未来を進むなんて間違っている。
でも、未だにそんな未来を望む様な人達がナチュラルの中には居るという。
結局世界は2年前から変わってはいない。
疲れた様な溜息をはいて、視線を落とした。空なんか見ても気分は晴れはしない。
「ごめんな。マユ……こんな兄ちゃんでさ」
何もできず。何もせず。ただ安穏と暮らしていく事が時に辛く感じてしまう。
いっそ生きているより……。
「君。悲しい顔をしてる」
不意に頬を撫でた手に、ハッとして顔を上げる。
頬を撫でたのは、シンの知らない少女だった。丁度、シンと同い年ぐらいだろうか。
「辛いこと、あった?」
金髪の少女は優しく語りかける。突然のことにシンは目を丸くするも、言葉を吐いた。
「いや、別に。あんた一体……」
「おい! ステラ、何やってる」
シンの声を遮る様に男の声がした。友人か何かだろうか。少々棘のある言葉だが、語気は強くはない。少女は「じゃあね」と、小さく言ってくるりと踵を返した。
「ま、待って」
思わず背を向ける少女を呼び止めると、少女は足を止め顔だけを少しだけこちらに向けた。
「その……ありがとな」
「うん」
短く言葉を交わして、少女は再び街灯の逆光の先にいる二人組みの元へと走っていった。
「あんまり絡むなって言ってるだろ」
「仕方ねーよ暇だもん。なあ?」
なんだったのかシンにはよく分からない。
闇に消えていく3人を遠巻きにボーっと見送った。
「ステラ…か」
なんとなく、その名前を呟いてみる。
久しぶりに人間の暖かいところに触れた気がした。