楓
「聖グロリアーナ、フラッグ車戦闘不能 黒森峰女学院の勝利」
我々の勝利が確定した放送を聞いて私は安堵した。今回の対戦相手である聖グロリアーナとは過去何度か練習試合を行っているが、今年は一味違った。過去よりも動きが俊敏で砲撃精度も一段と向上していた。噂では今年の隊長であるアールグレイが、練習体制を大幅に変更したと言う。
黒森峰の体制を変更していなければ今回の練習試合の結果はどうなっていたか分からない。今回相手に撃破された車両は5両。ナナ曰く、ここまで撃破された事は過去に無いとの事。という事は確実にアールグレイの改革は効果があったという事だ。全国大会前に我々と練習試合を行う理由として、改革の結果を目で見える結果として残すのが目的と示唆出来る。黒森峰が変わっていなければ・・・結果は・・・。
アールグレイ
今年から聖グロリアーナを任されたことで、改革を行いましたわ。最初は反発はありましたが、過去の結果などからそれらを論破し、排除しました。結果他校との練習試合では良い結果を出し、最後は黒森峰との練習試合のみとなりました。
部員総出で黒森峰のデータを集め、各車長と打合せを行い、万全の体制で挑みました。しかし結果は敗北。相手の車両を5両撃破できましたが・・・黒森峰は状況の急激な変化に対応出来ない、これが弱点と思っていましたが・・・結果は状況に応じた動きが出来ていましたわ。これには我々も驚きを隠せませんでしたわ。そしてあの前線で一際目立っていたあの一両。正確すぎる砲撃により我々の車両の半分を撃破され、予定していた作戦を潰されあげく、私たちの載るフラッグ車を撃破するという・・・言葉が出ませんでした。
「ごきげんよう西住さん。今回はありがとうございました。残念ながら負けてしまったわね」
「こちらこそ。こちらも危ないところだった。まさか聖グロリアーナが戦術を変えてくるとはな」
「御謙遜を。私達は5両しか撃破できませんでしたわ。それに戦術の変更はお互い様ですわ。まさか状況の急激な変化へ対応できるようになっているなんて・・・どういう風がふいたのか、是非お聞きしたいですわ」
「5両・・・この5両は作戦の要というえる立場に居た。それを瞬時に見抜いたそちらのレベルの高さには驚きを隠せない。素直に称賛する。しかしその5両を撃破される事を過程に作戦を立てていたからこそ、早急に対応出来た。この作戦を考えた人間は余程そちらの性格を熟知しているか、人間的に嫌らしいという事だな」
え?今・・・なんといいました??『この作戦を考えた人間』??
「あの・・・聞き間違えでなければこの作戦を考えたのは西住さんでは・・・ないと?」
「ああ、この作戦を考えたのは私ではない。ちょうどあそこにいる。おい、霧林少しこっちに来い」
西住さんは一人の隊員を呼んだ。その子は・・・一言で言うと「普通」「一般的」どこにでもいる女の子・・・というのが第一印象だった。
「こちら聖グロリアーナの隊長アールグレイだ」
「黒森峰女学院、第10号車、砲手の霧林ナナです」
「アールグレイと申します。今後ともよろしくね」
「はい」
「ところで?今回の作戦を考案したのはあなたと聞きましたわ。どういう経緯でこのような作戦を立案したかご教授できないかしら?」
私の言葉で周りにいた聖グロリアーナの隊員から驚きの声が上がりましたが、それを私は静止させる。私は聖グロリアーナの隊長を就任する時に決めましたわ。プライドは捨てると。静止後、再度彼女に申し出る。
「失礼しましたわ」
「いえいえ。今回の作戦の立案に関して、まずした事は2つ。一つ目は、隊長であるアールグレイさんの過去の車両運用。去年まで副隊長であったので情報はいくらでも収集できました。常に前線に立ち、作戦に必要な場所まで最速で到着する事で最高のタイミングで行動できていました。結果部隊全体の士気も向上し、作戦成功率も向上傾向でした。しかし今年は隊長という事で、今まで自分の居たポジションを他人に委ねている。今年の練習試合を見ましたが、後継の人もレベル高いですが、まだまだアールグレイさんのレベルには至っていません。結論・・・去年より作戦成功率、士気は低下する。しかし戦術眼は昨年の隊長よりも遥かに高い。作戦成功率や士気の低下を持ち前の戦術眼でフォローしている。ではこれに対する対策は?簡単です。戦術眼の高さを利用し、こちらの作戦の要である車両を撃破させます。これにより油断が生じます。要は意識をAというところに向けて置き、別のBというところでAのフォローを行えばいいという事です。戦術眼が届かないところでは作戦成功率は低いという事です」
「しかし私は戦況を常に確認していましたわ」
「はい。しかし常に確認していたというだけで、『全体を把握している』という事にはなりません。いつ、どこで、誰が、どのように、何をしている、までは把握できていません。あくまでも『ある程度把握している』だけなんです。だから今日重要な作戦の要である作戦場所に部隊が1分遅れた事はご存じでないかと思います。これが今回敗北した理由の要因ではありますが」
この子は・・・ここまでこちらの動きを予測しているなんて・・・
「ありがとうございます。今後の参考にさせてもらいますわ」
「いえ、聖グロリアーナの隊長へ偉そうな意見を進言してまいました。私はこれで」
「それにしても黒森峰は良い隊員をお持ちで。西住さんも後継者育成に力を入れていらっしゃいますね」
「いや、彼女はまだ1年生だ」
「え?1年生であれだけの事を?」
「ああ、優秀なだけに扱いが難しいところがある」
「あら西住さんでも持て余しているという事ですの?それは大変、もしよければ私が引き取りますわよ?」
「本当か!?」
ナナ
今日は『俺』がメインという事で私はお休み。でもただヒマをもてあそんでいたわけではない。ちゃんと試合の状況から相手を分析していた。もしも呼び出されたら、本当の事と嘘を交えて話せと『俺』から指摘された。どうして『俺』がしないのかと問うと『久しぶりの試合だったから眠くなった』とのことだった。だから、嘘と真実を交えて話をした。
そもそもアールグレイのポジションだったところに後釜で入った部員のレベルはアールグレイと引けを取らない。ここが一つ目の嘘。1分到着が遅れた事が敗因の要因という事も嘘。戦術眼に関しては真実。何故こんな嘘と真実を混ぜて話をしなくてはいけないのか?
『相手は最近体制を大幅とはいかないが変更した。今日は体制変更後の評価を行うだろ?結果は恐らく過去と比べ黒森峰に大きな損害を与えたとなる。撃破5、損害4(中破1、小破3)であればそこそこだろ。相手は今の体制は有用である。と結論付ける。そこで、相手の弱点もしくは欠点に目を向けない様に、まったく関係のない場所に目を向けさせる必要がある。野球で例えるなら「フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ」とでもいって投球フォームを何度も確認するためにボールを投げるだろ?そうすると神経質な人間であればそのまま肩や肘に負担がかかり、やがて潰れる・・・俺達はただ「フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ」という一言をいってやるのさ。実際の欠点に目を向けさせないようにな』
「でもそれは時間経過で露見するんじゃないの?相手に考えさせる時間を与えていいの?」
『ああ、普通なら考える時間を与ええず倒せ・・・でも今回は違う。考える時間を与えるんだ。アールグレイなら「フォームに問題がある」といえば、フォームの他にも問題がないかを確認するはずだ。俺達が言った言葉の真偽もその時分かるだろう。そうこうするうちに、引き返す事が出来ないところまで彼女は学園を率いるだろう。そうなれば全て計画通りとなる』
「ようするに自分が行った体制変更が実はとんでもない弱点を生んでいるってこと?」
『正解率50%」
「ん~」
『そもそも体制変更で弱点は生じていない。まぁゆっくり考えな』