みほの一件で大幅にレギュラー陣が変更されたが、練習試合等している暇は無く、初陣が全国大会準々決勝という前代未聞の事態となった。1回戦、2回戦は参加車両が少数であるため、変更前のメンバーで対応できた。これにより入れ替えたメンバーの錬度を仕上げる事が出来たことで危なげもなく勝利した。またこの勝利に大きく貢献したのは副隊長であるみほであった。今回が初めての公式試合というメンバーが大半であったが、みほが試合中に掛ける言葉により緊張が解れ、自身の実力が出せた事が勝利出来た要因であった。
そして次は準決勝、相手はアールグレイ率いる聖グロとなった。情報では前回練習試合した時よりも全体の実力は上がっているとのことだ。しかし『俺』が過去に言った『そもそも体制変更で弱点は生じていない。』についての答えは出た。答えは簡単だった。
・率いているアールグレイの実力が原因である。彼女が立案する作戦、作戦を指揮する能力の高さは西住まほに勝るとも劣らない。彼女が聖グロが得意とする浸透強襲戦術を強化する事でより勝率は向上する。そして勝率が向上する事で聖グロは全国大会で準決勝まで上り詰めた。この実績は聖グロでもかなりの高評価となるだろう。しかしそれの評価があだとなる。
『俺』が言った『フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ』という言葉は、正に灯台下暗しだった。アールグレイが優秀過ぎる故に、現状の聖グロの戦力で結果を出す。しかしそれはアールグレイの能力があっての結果であり、次期隊長には重荷にしかならない。次期隊長が、戦力増強や戦術の変更を進言してもOG、OBからは、「前年はこの戦術、戦力で準々決勝まで勝ちあがっている。隊長であるあなたの実力不足では?」と問答無用で突き返される。=来年以降聖グロは脅威ではなくなるという事だ。
『俺』からの宿題を解いた私は、資料室で『俺』のように資料を作成する。『俺』とは違う私なりの資料を作成し、俺に添削してもらう。その添削された場所について、私なりの考えを俺に返答する。俺への返答を考察している途中、資料室のドアがノックされる。そしてドアから入ってきた人物はみほだった。
「どうしたの?こんな時間に」
「あ・・あの、少し聞きたい事があるんだけど、今時間大丈夫?」
「大丈夫だけど」
みほからは、いじめ問題解決に関して改めてお礼を言われた。しかし本題はお礼では無い事は、早々に分かった。
「西住さん?本題はお礼じゃあないよね?」
「・・・」
「もしかして、イジメが再発したの?」
「違うの!」
「じゃあどうしたの?」
「私は・・・今の黒森峰が怖いの」
現在黒森峰は全国大会9連勝中であり、今年優勝する事で全国大会10連覇という偉業を達成する。10連覇は学校の威信を掛けた偉業であり、その重圧は隊長である西住まほだけではなく、戦車道メンバーにも連鎖する。
しかし今回全国大会中にイジメが発生してしまい、尚且つ被害者が副隊長である西住みほである。そしてイジメの加害者を粛清し、大幅に人員入れ替えが生じた。これにより入れ替えた人員には、今まで体験した事のない重圧が重くのしかかった。この重圧の緩和は、並大抵では緩和しない。
例とするなら、新人社員が入社直後に10億円の取引の責任者になる。殆どの新人は重圧に押しつぶされるだろう。これと同じ現象がレギュラーメンバーの半数で生じている。
だから皆潰されないように勝利を我武者羅に欲する。それをみほは「怖い」と言う。
「西住さん、それは普通の事だよ」
私はみほの考え方を、視か方を変えるように伝える事にした。しかし
「勝つ事が、10連覇する事がそんなに大切なの?」
「大切だよ」
「どうして?」
「西住さん。多分貴方は知らない、いえ、知らなさすぎるの。自分の見える部分しか『見ない』。視野に入らない部分は見ようともしない。だから大事な部分が『視え』ずに周りを混乱、誤解させるの」
「・・・」
「だから見にいこうか。西住さんが見えていない部分を」
私達は資料室を出て、別棟に向かった。夜中の本館と別棟の移動は本来許可が必要だが、全国大会中は免除される。
「ここからあそこの部屋を見て」
私はみほに光のついている部屋を見るように言った。
「あれは・・・」
みほは数十人の生徒が何かを調べている風景を見た。
「あれは2軍のメンバーで、過去の他高の戦術について調査しているところだね」
「でも、それって・・・霧林さんが」
「うん。調査済みだよ。でも何か見落としている部分や間違っている部分が無いかを再調査しているの」
「どうして?」
「分からない?」
「私を蹴落とすためだよ」
西住みほside
「私を蹴落とすためだよ」
「なんで!?」
「私の調査結果は、黒森峰の作戦立案に大きく影響しているよね?じゃあそこに欠点もしくは修正点が有れば、作戦を大きく変更もしくは別の作戦に変更する必要がある。もしもそれを自分達2軍メンバーが発見出来れば、あわよくば自分達がレギュラーに昇格出来る」
「それって!」
「唯の粗探しだね。でも、それだけ必死って事だよ。彼女達は皆3年生、3年間に戦車の試合に出場出来た回数は5回未満、戦車に乗る事すら、いくつもの申請が必要になってくる。そんな状況から抜け出すには、人の粗を探して、その功績で昇格する」
「でもそんな事、おね・・隊長が許可するはずないよ!」
「かもね。でも彼女達には、それが最もレギュラーに昇格出来る可能性が高いって事なんだよ」
「でも・・・」
「『チャンスを探すことすらしないヤツは真の弱者に成り下がる』」
「え?」
「ある人の言葉だよ。皆弱者より勝者になりたいからね」
霧林さんのまとめた資料はお姉ちゃんも絶賛するものだった。その資料を私も見たけど、物凄く詳細にまとめられていた。この資料をまとめるだけでも、相当な時間を要した事は見ただけで解る。その資料の粗を捜すという事は、もう一度その資料を作成することと同じ意味をなしてくる。そんなの・・・間に合う筈がない。
「そう、間に合う筈がないよね。彼女達がしている事は無意味といってもいい」
「!!」
「顔に出てるよ。西住さんは考えてる事が顔にすぐに出るから分かりやすいよ」
「ごめん」
「そして、すぐに謝る」
「ご・・あっ・・・」
こういう性格を直したいと思ってるけど・・・
「こんな風景はまだ一部だよ。他の2軍、3軍のメンバーだって、人の粗を探したり、自分のスキル向上に努めているよ。勝者になるために」
「・・・うん。黒森峰の内部でもメンバー同士の勝負・・・が、あるんだね」
「そう、だから「勝つ事が大切なの?」っている考え自体がおかしいの。西住さん、覚えてる?イジメの加害者の中に2軍、3軍のメンバーが含まれていた事に」
「覚えてる」
「どうして?って思わなかった?」
「え?」
「2軍ならまだ分かるけど、3軍のメンバーが含まれている事自体可笑しい事。だって、彼女達は昇格したとしても2軍だよ?西住さんを苛めるメリットがない」
「・・・」
「答えは簡単だよ。その態度、考え方が気に入らないの。自分達が死に物狂いで欲しているレギュラー枠に、それにそぐわない人間が入ったら、皆の気持ちは「憤怒」一色に染まるよ」
「そう・・・なんだ」
「うん。退部した人の中に中学の先輩が居てね・・・全部聞いたの。勿論西住さんだけでなく、他の1年生レギュラー陣にも嫉妬はしていたって。でも西住さんに対する感情は・・・そんな生易しいものじゃあなかったって」
「・・・」
「勝つ事が確かに大切だけど、西住さんの言っている事も正しいと思う」
「え?」
「学校のため、10連覇という偉業のため、西住流のため、OB、OGのため、スポンサーのため、3年生達の3年間の努力のため・・・だって黒森峰が戦車道を継続するためにはこれらは必須だよ。でも、それって、赤の他人のためだよね?
でも、みんな心の底では違う思いだと思う。そう
『私が黒森峰を勝利に導きたい』って
小学校、中学校で戦車道を受講したメンバーもいるよね。じゃあ勝った時、どう思ったかな?
隊長なら私の指揮で勝利出来た
砲手なら私の砲撃で勝利出来た・・・
そう、
「みんなで」じゃなくて
「私が」
「私が」黒森峰を勝利に導いた
もしも皆がそんな気持ちになれば、黒森峰は負けない」
私も昔は・・・昔はそうだった。戦車に乗る女性を見て、私もああなりたい、小学校の時、隊長として初めて試合に挑んで勝利した時、
私が
私が皆に勝利を与えた
「そうだね、私も忘れていた事だね」
「それを西住さんが、皆に教えてあげればいいんだよ」
「え?」
「今の黒森峰を変えたいなら、みほが動かなければ、だめ。そうじゃないと、何も変わらないよ」
私が変わる・・・変われば周りも変わる
この引っ込み思案の性格を
このオドオドした態度を
自分から・・・
そうすれば・・・