『選択肢だろ?検証してくれなきゃ一緒に地獄に落ちましょ♪といえばいい。相手も身から出た錆だ。なんせ高校生に『勝たなくては意味がない』と堂々と言い放っているんだからな』
「じゃあ決行はいつ?」
『今のナナなら分かるだろ』
「そうだね」
「『今から逝きましょう』」
私は隊長である西住まほに連絡を取った。そして西住まほの口から出た言葉は
「これは脅迫と取ってもいいのか?」
「いいえ、これはお願いです」
「言わなかったか?あれは偶然であった、と。勿論家元にも報告している。・・・霧林はそれを信用しないのか?」
「はい、覚えています。しかし隊長は何か対応したのでしょうか?」
「何?」
「未だOB、OGの訪問は継続しています。もしも対応しているのであれば、何故継続しているのでしょうか?」
「それに関しては家元から厳しく言ってもらっている。今週末には周知されるはずだ」
「戦車道連盟の黒森峰への対応はどうでしょうか?」
「それに関しては・・・」
「・・・」
「私の発射した砲弾、疑惑の砲弾が解決されない限り、黒森峰の優勝は撤回されるはずです。そうなれば世論は挙って黒森峰を叩きに来ます。そうなれば今回の件から黒森峰は人の命を平気で無視し、勝利のみを目指す学園である。そして連鎖的に西住流も同様もしくはそれ以上の非道な流派である報道され、世間に認識される可能性があります」
「確かにその可能性は否定できないな。ただえさい黒森峰には敵が多い」
「マスコミが殺到し、戦車道受講者が標的にされるでしょう。勿論一番の標的は、私もしくは西住流後継者の隊長の可能性もあります」
「・・・」
「今回私が行った行為は、黒森峰の勝利のためには正しい行動と思っています。しかし一般論からすると正しい行為とは言えないかもしれません。あの状況で敵戦車に砲撃する事で、相手の隊員に危険が及ぶ可能性は十分ありました。しかしそれは、危険が及ぶ可能性がある状況でも試合続行を決定した戦車道連盟にも非があります。また崖崩れ発生後、通信状態の回復を期待し、作戦と同時進行で連盟への通信を継続した事についても同様です。一般論であれば連盟の待機所に向かうのがベストな判断と思いますが、勝利のため、あの時点で持ち場を放棄するという選択肢はありませんでした。まぁ通信状態を正常に維持出来なかった責任は戦車道連盟にあると思いますが」
「その危険管理の甘さ、通信状態の維持を怠った責任を追及しろと?」
「追及する必要はありません。疑惑の砲弾についての黒森峰側の見解、今回の件を基に通信の改善、危機管理意識の改善要望、これらのみを世論に報告するだけでいいと思います」
「世論を味方にするという事か?」
「その通りです。ある意味大人の対応という事です。必要な事を報告し、不要な事は伝えない」
「しかし砲弾に関して確認する時間が少なすぎる。あと2日で確認する事は不可能だ」
「いいえ隊長、現実的に可能にする方法はあります。シミュレーターの使用です。シミュレーターに当時の状況を入力し、実際に発生した事例が発生する確率を計算する。それを報告するだけです」
「しかしシミュレーターの依頼を何処に依頼する?」
「日本戦車道連盟の強化委員である蝶野亜美に話を持ちかけ、自衛隊で実施してもらうのがベストでしょう」
「そう簡単に承諾してくれるだろうか・・・」
「黒森峰の栄光ではなく、一人の戦車乗りの汚名を隊長自らが返上するというシナリオであれば、十分協力してくれる方かと思います」
「分かった」
「しかし気になる事がある」
「何でしょうか?」
「この方法を『誰』と考えたんだ?」
「どういう事でしょうか?」
「霧林・・・君の過去を色々調べさせてもらった。特に小・中学校の担任に話を聞いた。しかし返答は良しも悪くも「平凡」だった。だが今の状況を見ていると「平凡」という言葉が当てはまらない。人間は急激には変化しない。そうなれば協力者が居るという結論になる」
流石と言わざる得ない。私には確かに協力者は居る、『俺』の事だ。でも『俺』は人じゃない、ならば
「確かに私は平凡です。でも何とか平凡から一流になりたいと思いました。平凡のまま黒森峰にギリギリ入学出来てもレギュラーには遠く及ばず万年補欠であるのは目に見えていました。ならばどうする?と考えた結果、過去の戦車道のデータを蓄積し、そのデータから試合の戦略、戦術を予測し対応しようと考えました。結果は隊長の知る通りです。
人間は急に変化する事はできません。しかし生き方、考え方を変化させる事で、平凡から二流に変化する事は出来ます。結果周囲から急激に変化したと誤認させてしまいましたが・・・」
「そうか、しかしそれでも分からない事がある」
「?」
「君の口調についてだ。みほから聞いたのだが、口調が男口調になる時があるようだが・・・それについてはどうなんだ?」
「そ・・それは」
「普段からは想像も出来ない荒い口調だったと聞いている。それらを合わせて考えると、多重人格の可能性もある。その場合病院で検査も必要になるだろう」
「そんな訳ありません。口調については、スイッチみたいなものです」
「スイッチ?自分を変化させるための?」
「そうです。副隊長の件では如何に主犯格や協力者への制裁について検討する必要があったので、そうした意味でも」
「なるほど、理にかなっているいい訳だな」
「・・・」
「今回の件は私から依頼しておく。霧林、結果が出るまでは何とか出来るか?」
「問題ありません」
「分かった。後は任せろ」
「ありがとうございます」
しばらくして自衛隊から戦車道連盟に『疑惑の砲弾』について正式な報告が実施され、発生率は5%、偶然であると報告された。また詳しい調査を行わず身勝手な言い分で混乱させたと言う事で、戦車道連盟のお偉いさんの何人かが処罰される事になった。
正式に黒森峰が優勝となり、中断された祝賀会が再度行われる事になった。祝賀会が開始される前、戦車道受講者全員から私は謝罪され、この件は一見落着となった。