今回の件、俺にとっては想定外の出来事だった。本来は西住みほが決勝戦でミスを犯し、糾弾され大洗に転校する流れのはず・・・しかし西住みほではなく俺にその流れが生じた。それは何故か・・・既に2日間それについて考察している。大きな要因の一つとして「霧林ナナ」とうい存在だ。この存在がこの世界に大きな影響を及ぼしているのであれば、必ずまた同じ事が発生する可能性がある。
しかしそこでひとつの疑問が浮かび上がる。俺を排除し、元の原作の世界に戻すのであれば、西住みほはいつ大洗へ転校するのか?もしも全国大会の一回戦、サンダースとの試合までに俺を排除し、みほを大洗に転校させなければ大洗はみほ抜きでサンダースと試合を行い勝利しなければ廃校になってしまう。来年の全国大会までには確かに時間はあるが、早々俺を排除する理由もなければ、みほを吊るし上げるネタもない。
しかし俺の予想は想定外の出来事により、大きく裏切られる事になる。
それは全国大会が終了し、優勝後の浮かれた空気も落ち着いてきた頃だった。西住まほ隊長より来週から西住みほ副隊長中心の指揮系統に移行する事が通達された。理由は西住まほのドイツ留学が来年度の7月と決定した為だ。そのため来年度の全国大会はみほが指揮することとなる。ならば今の内からみほ中心の指揮系統を構築する事で、チームワークを強固にすることが狙いとの事。当然と言えば当然の策であり、特に反対意見もなく、練習前のミーティングは終了した。
しかしみほ中心の指揮系統に移行し、しばらくして問題が生じた。
合わない。
みほの指揮が部隊、隊員に合わない・・・という訳ではない。寧ろ当初はみほの指揮は賞賛されていた。ならば何が合わないのか
みほが提示する作戦は、西住流に合わないのだ。
「撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流」
この言葉通り、黒森峰は西住流だ。しかしみほの作戦内容は西住流から逸脱する内容が多い。最初は皆「多少」の違いに戸惑っていたが、時間が経てばみほの作戦が西住流に似て非なる内容と気付いた。そうなってしまっては不満、不安は伝染する。
「西住流と違う!」「副隊長は大丈夫なのか?」などの声が隊員から聞こえてくる。勿論現3年生からもそういった意見が出ているのは間違いない。しかし過去に副隊長を糾弾した者がどのような末路を送ったかを皆知っている。そのため大きな声で副隊長に意見する人間はいない。
だかそんな状態のみほに更に追い討ちをかける出来事が生じた。
「副隊長が自分に都合のいい人材を厳選している」
「来年は副隊長の独裁」
「強力な後ろ盾を使って、西住流に反逆する」
このような意味のわからない噂が広まったのだ。何故か?
過去に、みほに反感を持ちながらも状況的に息を潜めるしかなかった反みほ派が、今の状況を見逃さず復活、ここぞとばかりに噂を流したのだ。通常ならそんな噂等ヒト蹴りされるが、不満、不安が蔓延る今の黒森峰には効果は絶大であった。そして噂という伝染病が感染した黒森峰は再度崩壊の危機を迎えようとしていた。
隊員達の空気が刻々と変化する様子は実に滑稽だった。
皆が言っているから・・・
あの先輩から聞いた話なんだけど・・・
実際に副隊長から聞いた・・・
話の本質を見抜けず真に受け、さらに周りを汚染していく。。一度ならず二度までも同じ事を繰り返す・・・だが、彼女達の言っていることも間違っていない。黒森峰に西住流と異なる事を実施した場合、どのような弊害が生じるかなど考えるまでもなく分かる事だ。
しかしみほは実行した。
誰にも報告せず、連絡せず、相談せず (報・連・相)
俺はナナと相談し、まほ隊長に相談する事にした。直接みほに伝えてもいいのだが、みほと同じ轍を踏むのは如何なものかと思い、ホウレンソウを行った。
「やはりそうなったか・・・」
まほに話があると言い、放課後相談に来た俺は、粗方のことをまほに伝えた。そして最初の一声がこの言葉だった。
『やはりそうなった・・・その言葉が意味するところを隊長は予期していた・・と?』
「みほには才能がある。だがその才能を開花させるには西住流は邪魔でしかない」
『西住流以外であれば副隊長は、隊長を超えると?』
「ああ」
『なら、解決策は転校ということでしょうか?』
「そうなるかもしれん」
『家元はご存知で?』
「ああ・・・」
『近々西住流を破門にでも?』
「いや、そこまでの処分は検討していない。西住流の名は私が継ぐから、みほには自由に戦車道を『そこまでです』え?」
『それ以上先は私は聞く権利はありません。私は一介の学生です。西住流内部の事情までもらしてはいけません』
「そうだな。現在の予定では、みほは副隊長を一時的に解任される。理由はみほ自身の気持ちを整理させるためだ。以降はみほの気持ち次第という事だ」
『了解しました』
「臨時副隊長には逸見エリカが就任する。そして参謀には霧林ナナ・・・君が就任する」
『・・・』
「以上だ」
『失礼しました』
俺の蒔いた小さな花(嘘)は
ゆっくり時間をかけ育ち、種(噂)となった
風が吹いた事で(状況の変化)、種(噂)は広範囲に蒔かれた
そして様々な土地(人々の心)で育ち,花(嘘)は育つ
それを繰り返す
とある先輩の言葉を借りるなら
『こんな格言を知ってる?』
『ヒトは小さな嘘より、大きな嘘の犠牲になりやすい』
『俺は味方ではない』