「皆さんお疲れ様です。どうでしたか?本日から開始した紅白戦は?正規軍側、賊軍側も色々意見があると思います。今すぐは頭が整理できていないと思いますので、明日またこの場で意見を交わしましょう。そういう訳で本日のミーティングはなし」
第一回目の紅白戦は、賊軍側の勝利となった。一番驚いているのは恐らく賊軍側の2軍、3軍の生徒達だろう。何せ自分達が目標としていた1軍が、あっけなく敗退したのだから。
翌日
昨日しなかったミーティングを開始した。最初あまり意見はなかったが、時間が経つにつれ紅白戦についての発言が増加傾向を示し始めた。
正規軍からは
「こんな紅白戦は意味がない」
「紅白戦の意味は?」
「もっとちゃんとした練習がした」等といった意見が大半を占めていた。
賊軍からは
「何故勝てたのか、よく分からない」
「本当は・・・黒森峰は・・・」と言った内容だった。
いい傾向だ。実は彼女達の反応は私と『俺』の予想通りの反応だった。そして2度、3度紅白戦を行い、彼女達は段々意見がいえなくなった。そして
「はい。皆さん今日はおまちかねの紅白戦で。今日は何時もと違った紅白戦をします。正規軍と賊軍を入れ替えます。今まで賊軍の3連勝ですが、今日は正規軍が勝利できる事を期待しています」
しかし入れ替え後においても正規軍は勝利する事が出来なかった。そして恒例のミーティングを行うが意見は勿論一切出ない。そして黒森峰の雰囲気は一掃悪くなった。通常の練習においても、指示の聞き間違いや状況把握間違いが目立ち始めた。そしてエリカからも紅白戦を中止するように要請された。
「ナナ、あなたの目論見通り今の黒森峰はかなり最悪な状態になっているわ。でも今のままじゃ今後予定している練習試合までにチームが仕上がらない」
『エリカ?』
「何?」
『お前・・・この紅白戦の意味を理解しているか?』
「え?」
『お前は何だ?』
「私は副隊長代理よ」
『そうだな。そして実質隊長だ。その隊長は今何をしている?参謀が立てた目論見すら見抜けないで、呆けいるのか?』
「なっ!!なんでって!!」
『なら教えてくれないか?何故正規軍と賊軍に別れ紅白戦を行うのか。そして立場を入れ替えているのかを。是非副隊長代理の意見が聞きたい所存だです』
「・・・くっ!!」
『な?回答できない。何故か?簡単だ、エリカ君もこの紅白戦の「意味」を理解していない』
「意味なら分かっているわ」
『西住流を黒森峰側と相手高側から見た時の意見を取り入れて我々の修正点を確認する。相手高の作戦の脅威を確認する。が目的ではないぞ?』
「え?」
『確かに表面上の目的は今話した内容で間違いない。「表面上」はな」
「じゃあ裏の目的があるという事?」
『当たり前じゃないですか』
「なら、どうしてそんな遠回りを?皆にちゃんと説明したら」
『エリカ?遠回りに何故行うのかをちゃんと考察しろ。ちゃんと話したら?書面で?口頭で?それを行うことで理解できるのか?体得できるのか?』
「出来ないから・・・受け入れられないから・・・遠回りな方法を選択した・・・」
『正解』
「じゃあ裏の目的は・・・基準?」
『ほう』
「私達は黒森峰、西住流が基準だった。ナナはそこに他校の伝統を体験させ基準を増やした」
『正解。以前の私達は西住流、黒森峰だけが絶対的な基準だった。その基準が1つから2つに変わるのには大きな意味がある。その意味は自分達の長所と短所を知れる事だ。戦車道に限らずどれほどの技術を習得していても、これでもういいと思ってしまえば
その状態を維持することもむずかしい。常に上を向いて努力をつづけていなければ、上のレベルに移行する事はできない。道を極めるという事は、そういう事だと私は思っている。紅白戦をする前、彼女達は上を目指していなかった。目指す必要がなかった。それは自分達がトップ、つまり一番だと驕っていたからだ。そんな連中に書面や口頭で伝えて何になる?表面上は従うが、身に付くことはない。ただの時間の無駄遣いだ。だから体験させた。一番と思っていた自分達を2軍、3軍が叩きのめした。一回はまぐれと認識しても2回、3回と続けばまぐれ、偶然ではなく本当に負けたと認識する。そして賊軍で自分達が信じていた西住流が如何に弱いものか知る事が出来る。彼女達は今悩んで、悲しみにくれているわけでもない。認めることが出来きずに幼児みたいに駄々を捏ねているだけだ』
「・・・それを彼女達が気付くのは・・・」
『いつだろうな?明日か・・・明後日か・・・1年後か2年後か』
「そんな悠長に待っていいの?」
『自分達で答えを探す事も大事なことだが、ヒントを与え気付かせることも必要だと思う。何せ彼女達は問題の意味を理解していない可能性が高いからな』
エリカは暫く考え「わかったわ」と言って部屋を出ていった。そして数日後から少しずつだが、黒森峰の空気が改善傾向を示し始めた。恐らくエリカが行った策の効果が出始めたのだろう、紅白戦後のミーティングでもしっかりした意見が出始め、練習後に何を調べている子達も目立ち始めた。これで黒森峰は一段階上に行く事が出来る。