『俺』の協力を得て私は、新入生テストに向けて練習に励んだ。
『俺』は言った。
砲撃に必要なのは風を読む力だ。スナイパーと砲手は同じで、風速、風向を把握し、スコープから目を離さない。それこそ標的が現れるまでずっとだ。お前もスコープから目を離すな。見るのではなく『観ろ』。車長からの周りの状況、通信士からの味方の状況を頭に入れろ。そして頭の中で状況を整理しろ。砲手は撃つのではなく『討つ』だ。その違いを忘れるな。
情報とは勝利するためのものではなく、勝利する確率を上げるもの。
攻撃とは敵を倒すものではなく、敵を殺すものである。
防御とは敵からの攻撃を防ぐものではなく、相手を殺せる距離まで近づくまでに必要なものである。
『お前』はこれから生死を分ける戦いを行う。生はレギュラー、死は一生補欠・・・
練習においても絶対に的を外すな、例外はない。外せば『お前』の大切な物を一つずつ捨てる。
高校になるまでにたくさん物を捨てられた。大切にしていたアクセ類、親に懇願して買ってもらった服類、頑張って無課金で育てたスマホゲーのキャラクター、そして、ボコの限定のぬいぐるみの数々・・・
有言実行・・・流した涙は一体どのくらいだろうか・・・
そうして迎えた新人テスト。毎年黒森峰には全国から戦車道経験者が集まる。その数数百人。中には特待生も居るが、このテストに合格しなければ剥奪される。皆必死にこの試験を受ける。そして砲手である私が受ける試験内容は
「2000m先の的に向けて一発当てる。但し5分以内に砲撃を行う事」である。ただ当てるだけでなら簡単だが、その的の周りには強風が吹いている。
「外れ」
「外れ」
「外れ」
試験は進んでいく。今のところ的に当てたのは2人のみ。後は残念な結果となっている。しかし妙だ。本来私から見て『当てる』と思った砲撃が、何故かあたっていない・・・強風の影響もあるだろうけど、外れた時の砲弾の着弾点と的の距離が開きすぎている。恐らくこの試験用の戦車の照準がズレている。意図的に?今のままでは私は間違いなく落ちる。
「次!」
試験官である先輩の声で我に返る。次は私だ。
「試験官」
仕方ない。ある意味ルール違反になるかもしれないが・・・
「なんだ?」
「その戦車の照準、少しおかしいと思います」
試験官
「その戦車の照準、少しおかしいと思います」
ほ~、気づいた?それともたまたま?
「悪いけど、この戦車の整備は試験開始直前に終わってるわ。勿論私が試射して、照準のズレが無い事も確認しているわ」
どう反論する?
「先輩が試射を行ったと?」
「そうよ」
「少しお尋ねしますが、いつも先輩はこの戦車を使っているんですか?」
「ええ」
「では、この戦車の照準は『先輩仕様』という事ですか?」
「そうね」
あらあら、頭がそこそこまわるのね。
「では、この試験は無効では?」
まったく・・・
「照準のズレがどうしたの?戦車道の試合では、試合途中で照準がズレる事なんてよくある事よ。試合中に一々照準を調整するなんて・・・論外だわ」
「分かりました。では照準を『私仕様』に変更してください」
「今の話聞いてた?調整は論外よ」
どう出る?
「試験官の話は理解しました。しかしこれは試験では?試験官の話は試合であって、今は試験です。状況が違うと思います。それに」
「それに」
「この試験の内容は砲撃を5分以内に行い、的に一発当てること。実戦を想定してとは一言も仰っていませんし、照準を自分仕様に変更してはダメとも仰っていません」
この試験では、砲手のレベルが問われる。他人が放った砲弾の着弾点と的との距離からこの戦車の癖を把握する。把握した癖から照準の調整を申し出る。勿論ここまで説明する必要がある。「照準がズレているから外した」→「何故?」→「理由」この過程を説明出来て初めて、私は照準の調整を許可する。
「分かりました。調整を許可します」
事前に隊長と話し合い、許可はもらっている。この試験は表向きは的を当てる事だが、それではまぐれもある。先の2人はまぐれ当たりなので、次の試験で落ちるだろう。裏の試験は、『試験用の戦車の照準がズレている事を指摘する』だ。まぁこの状態の照準で、周りに強風が吹いている的を当てられたら、100%合格の上、レギュラー確定だけどね。まぁこの子は1軍補欠にはなれるわ。
しかし私はこの後、信じられない言葉を聞く事になる。
「あ、調整は不要です。時間が惜しいので」
そう言って彼女は砲手の席に付き、砲撃を行った。
試験後の報告会
「各試験での合格者について報告してくれ」
隊長である西住まほに、皆合格人数を伝えていく。車長、通信士、装填士・・・そして
「砲手、3名合格、内1名は試験車両の照準のズレを指摘し、調整せずに的に命中させています」
皆、驚きを隠せない。当たり前だ。今回の試験内容が難しすぎる事は隊長である西住まほからも指摘されていた。
『この試験は難しくはないか?』
『しかし従来の試験方法では偶然砲撃が当たる事があります。そうなれば、今後の黒森峰の砲手のレベルが下がります』
『・・・しかし合格者が居ない場合は従来の試験方法とする。それでいいか?』
『一人でも合格者が居た場合は?』
『今年の合格者はその者だけになるだろうな』
『分かりました』
「分かった。その合格者の名前は?」
西住まほが私に問う。
「霧林ナナです」
「合格出来た!!『俺』のおかげだよ」
『まぁ最初の一歩がちゃんと踏み出せただけだ。まだまだ先は長い。頑張れよ』
「うん」
『合格したか・・・・いつかな?いつかな?楽しみだ♪ あ~楽しみだ♪』