新人テストに合格した事で1軍の補欠となったと思っていた。しかしテスト翌日に知らされた結果は、何とレギュラー入りとの朗報であった。今回のテスト内容の意図を明確に捉える事が出来、尚且つ的へ命中させた事が大きく評価されたとのことだ。
『テスト内容は毎年変わるのか?』
「うん。でも基本的には的に当てる事が前提らしいよ」
『もしも「当てる」だけなら簡単すぎる内容だ。的に当てるまでの何かを試験官に申し出る必要があるかもしれないな』
「何か?」
『そう、何かだ。但しそれに関しては、試験が開始されてからになるがな』
『おい、今の砲撃可笑しくないか?』
「確かに。あの人確か中学で結構有名な砲手のはず。それなのにあんなに的から外れてる」
『もしかするとこの試験で使用している戦車の照準が狂っている可能性がある・・・しかし確証がない』
「試験内容は、強風が吹く中で5分以内に的に一発当てる。でも照準が狂っている可能性がある。でもその狂っている事を証明する必要がある」
『その通り。恐らく試験官も砲手のはずだ。この車両に関しての情報を手に入れる必要がある。照準に関して誰が調整し、試射したのか?調整は可能か?それとこれが試験である事を忘れるな。試験であるならある程度許される。』
「わかった」
『それと、もしも自信があるなら、ここのままの状態で当ててみろ。外したらかっこ悪いがなw』
試験前と試験中に『俺』とのやり取りが無ければ、間違いなく落ちていた。試験内容の難易度に関して試験官を担当した先輩『凪』先輩に尋ねてみた。先輩曰く、ここ数年で最も難しい内容である。とのことであった。その試験に合格した者は無条件でレギュラー入りが出来るほどの。私はその難関の試験に合格しレギュラー枠を勝ち取った。
レギュラーに選ばれたといっても、最初の1週間は他の1年生と同様に学校の雰囲気に慣れるために練習は見学のみであった。その後試験に合格した数名の1年生と共にレギュラーの練習に加わったが、その内容は苛烈を極め、少しのミスですら許されず、一時も気を抜く事も許されなかった。私が砲手として配属された車両の構成は3年生で固められており、去年も同じメンバーで砲手が3年生であったため、砲手が居ない状態だった。そこに今年の1年生である私が砲手として配属された。何故?と最初は思った。普通は1年、2年生で構成されている車両に配属されるのが普通。
『それは仕方ないだろ?この車長の『楓』という先輩は砲手の試験を担当した試験官凪先輩の双子の妹だろ?姉が考えた試験に合格した1年を使ってみたかった・・・みたいな理由だろ』
「なるほど、隊長車の砲手のお墨付きってやつ?」
『まぁ尊敬する姉のお墨付きをもらっている1年が、自分の知らないところでヘマやらかして姉の顔を潰すような事があった場合を考えると・・・自分の手の届くところに置いておき、使えない場合は姉の顔を潰さないように辞めさせればいい。・・・ってことかもしれんな』
「・・・」
『まぁ精々ヘマしないようにな。ところで今日は資料室借りるように頼んでいたはずだが、手配は出来てるか?』
「うん。18時から」
『OK。体を借りるぞ』
楓
凪は素晴らしい砲手だ。それは周りが、それも西住まほ隊長でさえ認める実力だが、私と違って拘りが強すぎる。それが災いしてよく周りの砲手と衝突する。今回の試験内容だってそうだ。去年とレベルが全然違う為、誰もが合格者は0と思っていたが、結果は1名合格。本当は3名だったが、2名はまぐれで的に当たっていたため、補欠となり、凪の直々の推薦で1名が即レギュラー入りとなった。問題は何処の車両に配属されるかだ。少数だが、凪をよく思っていない人間も居る。そんな人間の所に配属にでもなると凪の顔を潰されかねない。それならば、今年私の車両の砲手が居ない事を理由に配属させた。
第一印象は、普通の女の子だった。しかし砲手としては異様だった。練習中、スコープから目を離さない。車両に搭乗してからずっと顔はスコープの前から動かない。車両の移動中等を除くと基本的に動かない。試合形式の練習の場合は終始動かなかった。それともうひとつ。私の指示より少し、ほんの少し早く動く。右に砲塔を動かせと指示しても先に砲塔が動いている場合があり、私の指示は砲塔が動いた後となる。あり得ない事だと思う。何せスコープで見る視界は私の視界より狭い。凪の目は正しかったかもしれない。
今日の練習に関して他の車長と話し合い、今後の方針などをまとめたレポートを隊長に提出した時には21時頃だった。不意に校舎を見た時資料室の明かりが付いており、消し忘れかと思い、面倒と思いながらも資料室に向かった。資料室に近づくにつれ音が聞こえるえ、人の気配もした。なんだと思い帰ろうかと思った時、扉の開く音が聞こえ振り返るとナナが居た。彼女は私に気づくことなく反対側の通路を歩いて行った。恐らくトイレであろう。資料室がある階のトイレは現在故障中のため、上下どちらかの階に行かなければいけない。1年生でレギュラー入りしたので頑張って勉強しているのかと思い、何を調べているか興味がわいた。チラッと見て帰るつもりだったが、内容を見て目を疑った。設置されているモニターには過去黒森峰が行った試合が映っていた。しかしそれだけなら驚きもしないが、4つのモニターに同時に違う試合が映っている。4試合同時に見ている?何故?驚きが収まらないまま机の上のノートが目に入った。その内容を見た瞬間、私は茫然とした。過去9年間の黒森峰の試合や練習試合を解析し、黒森峰の弱点という問題点を算出していた。ノートには考察などを書き込み、手元の私物PCにそれをまとめ、データ分析していた。
過去にデータをまとめた事があるが、ここまでまとめたデータは見たことない。それも弱点と言える箇所が明確に記載されており、もしもこの情報が外部に漏れた場合、黒森峰は敗北する・・・この情報を私物のPCに打ち込んでいる時点で彼女は・・・いやあいつは他校とつながりのあるスパイであると断言出来るが、このままでは凪の顔が潰れる。ならばどうする?
その時だった。
『お疲れ様です、楓先輩』
ブラックの缶コーヒーを持ったナナが私の後ろに立っていた。
缶コーヒーはUCC