『お疲れ様です、楓先輩』
ブラックの缶コーヒーを持ったナナが私の後ろに立っていた。
『どうしました?お・・私の顔に何かついてますか?』
「これは何?」
私はナナの私物と思われるPCを指差した。
『PCですけど?』
そういう意味じゃない。
「これは私物のPCよね?資料室で保管されている資料の持ち出し、コピー等は禁止されてるわよ?知らない訳ないわよね?」
少し強めの口調で問いただすが、
『そもそもこのPCは私物じゃないですよ。実は資料室の資料をまとめたいという事で、学園用のPCを借りれるか聞いてみたところ、全て貸出中とのことでした。事務で色々相談したのですがダメでして・・・その時事務にたまたま凪先輩が居られ、その話を聞いて私物のPCを一時的に学園用にして頂けると。なので、このPCは凪先輩のであり、学園用です』
ナナは何事も無いかのように答えた。確かに凪のPCだ。良く見ると家で凪が使っていたPCだ。でも
「PCの件は分かったわ。問いただしてごめんなさい。でもこの資料は何?黒森峰の弱点が記載されてるわ。それもかなり詳細に」
『・・・』
「どうしたの?答えられないの?」
このままダンマリであれば、後ろに誰が居るかを情報部で調べてもらいましょう。そんな事を考えていると、
『この資料は黒森峰の弱点・・・いえ、弱点以外にも作戦傾向、相手への対応なども記載しています。試しに練習試合、公式試合を含め9年間をまとめました。結果、7年前より黒森峰の作戦内容にあまり違いがありません。多少は違う程度で、殆ど内容の構成は同じでした。また、試合中に発生した突発的な事態への対応は、全ての試合で遅延傾向がみられました。これは命令系統の一本化によるデメリットと考えます。
これらを証明するため、西住流の試合と比較しました。やはり良く似ている傾向が見られました。よって、黒森峰の弱点は、西住流の弱点であり、その対策を行う事で・・・っとなりますね』
はぁ?何よそれ、9年間?試合?黒森峰と西住流の試合の傾向の比較?え?意味が分からない。
「あなた・・・それをいつからまとめてるの?」
『本格的にまとめ始めたのは入学してからですね。入学前にもネットで過去の試合を見て、色々まとめました』
普通・・・普通はそこまでしない。9年前と現在じゃあ、まったく黒森峰は似ても似つかないレベルになっている・・・あ、そういう事か。
『例え、9年前だろうが、7年前だろうが、関係無いですよ。基本が同じなら・・・基本が変わらなければ、自ずと変わる事が出来ないんですよ』
私の頭の中を見透かしたかのようにナナは答える。そして私は
「・・・その資料をどうするの?」
この資料が他校、もしくは西住流以外の人間に流れたら・・・終わる
『何も』
意外な答えだった。そのため私は
「は?」
っと、素で答えてしまった。
『何もしません。ただまとめただけです。まぁ自分用の資料ですね』
そういってナナは缶コーヒーを飲む。そして続けて
『もし必要でしたらお渡ししますよ?それとも使いますか?下剋上とかw?』
その言葉を聞いた私は
「ふざけないで!!」
私の・・・私の!!!
『ふざけないで?別にふざけてませんよ楓先輩。ふざけるどころか、真面目な話です』
「どういう事?」
『いえね。この資料を使えば凪先輩の企みというか考えている事の近道になるかと思います』
「考えてる事?」
『あれ?ご存じない?凪先輩が今の黒森峰に不満があり、その不満を改善すべく今年の新人テストの内容を難関にした。しかし悪い意味では、西住まほ、もしくは西住流に不満があるという噂話・・・まぁ後者は無理やり話を捻じ曲げた感じがしますがね』
「・・・」
『そんな西住に不満がある人間がいつまで、隊長車の砲手が出来るんでしょうかね・・・隊長に対し不満がある人間が隊長車に乗る。これは許される事ではないと考えます
凪が今の黒森峰に不満がある事は知っていた。その不満を改善すべく色々動いている事も。勿論そのことへ異論がある人間がおり、その人間がある事ない事噂話をしている事も。私も少し前に協力を申し出たが「楓を巻き込む訳にはいかない」と断られてしまった。もしもこの資料があれば・・・
『現状に不満があるなら、何が悪いか、そしてその点の改善ポイントまで示す必要がある。もしもそれが出来なければ、ただの妄想となってしまう。本気で改革するというのであれば、この資料を使って、「実際」に示す必要があります』
彼女はさらに続ける。
『丁度いいじゃないですか。黒森峰の現隊長は西住まほ・・・西住まほに勝つ事が出来れば、もしきは西住まほを納得させる試合が出来れば・・・その妄想が真実という事を、皆に分からすことが出来れば・・・』
ナナから資料の一部をもらった。資料室からの持ち出しは禁止であるが、
『この資料はここの資料の内容は一切書かれていません。私の考察です』
資料室の内容を読んで考察したのであれば・・・いや、これ以上考えても無駄だ。この資料を凪に渡してどんな反応が来るのか・・・
「楓!!連絡もしないで遅いじゃない!!」
「ごめん」
「それより御飯よ。手を「凪?」・・・何よ?」
「少し話があるの」
まずこの資料を読んでくれと凪に資料を渡し、用意されていた御飯を凪が読み終えるまで少しの間に完食した。そして
「楓!この資料は何処で手に入れたの!!?」
ナナとの約束で、この資料の出所は一切話さないと約束している。私は出所は言えない、でも信用出来る内容であることを伝えたが、
「信用とかじゃない!!内容が・・・内容がヤバイの!!これが流出したら、間違いなく西住流が他の流派に潰されるの!!分かる!?もしこれを誰かに見られ隊長にでも報告されたら、私達潰されるどころか、一生西住の監視が張り付く事になるのよ!!事実上の監禁みたいなものよ!!」
ここにきて私は嵌められたと感じた。凪のPCを何かの理由で借りる→使っていると、この資料が出てくる→隊長へ報告→西住流へ報告→私達姉妹の人生終了・・・
霧林ナナは・・・敵だった。
①ナナを殺す
②ナナに相談する
私の中に2つの選択肢が発生した。
選択肢・・・俺は今・・・
①やるべきか
②やらないべきか
これで迷ってます。