目を覚ませと五月蝿く叫ぶアラームが、彼女の部屋に響き渡る。しかし、彼女は目を覚まさない。それほどまでに彼女の睡眠は深いのだろう。そしてそれは彼女自身も理解しているのだろう。でなければ、年頃の女の子が20時に床に就き4時半にアラームを設定などしないはずだ。
しかし、彼女が目を覚ましたのは6時半だった。
「...ん〜...もう2時間経ってる...」
クミはベッドを後にして、台所へと向かった。個性を使って昨晩の残り物の味噌汁と白米を温め、それと同時に冷蔵庫から取り出した卵を片手で割ってフライパンに垂らす。その傍で冷蔵庫から取り出したキャベツをまな板の上に置き、手作業で千切りにしていく。キャベツを皿に盛り付けた後、温め終えた白米、味噌汁を茶碗に注ぐ。完成した目玉焼きを皿に注いで朝食の完成だ。
「いただきます」
早々に目の前の物を胃の中に流し込んだ後、自室のクローゼットを開け、未だ新しい制服に身を包み込む。
スクールバッグに必要な物を詰め込み、兄の部屋の前に朝食を置いて、家を後にするのだった。
「...行ってきます。」
雄英高校の最寄り駅を後にしたあと、マイは腕時計を確認する。時刻は7時45分。歩いていっても着くのは8時だろう。
ホームルームは8時25分からだ。まだ時間はある。
「あと30分弱...周りを見て回るかな。」
そう言って、彼女は駅周りを見て回った。やはり、大きな学校が近場にあるだけあって、学生を呼び込む店が幾つもあった。
ふと腕時計を見てみると時刻は8時10分、夢中になっていたことを後悔した彼女はスグに登校を再開するのだった。今すぐ向かわねばHRに遅れてしまう時間だ。
さすがに遅刻ぎりぎりに雄英へと向う生徒は、電車の時間も相まって誰一人いなかった。と、思ったのだが、一人いた。
髪は緑。ボサボサの頭で、制服は未だ新しい。靴もリュックも新品だった。歩き方がたどたとしいところから、恐らく新入生だろう。
「...」
━━━━━━━━失敗しちゃったなぁ...
クミは自身の行いを反省した。彼女の目はしっかりとクミを捉えており、その目からは何を考えてるか読み取れず、敵対心さえ感じられた。
気まづくなってしまったクミは逃げるようにその場から離れる。足早になって坂を駆け登るが、気の所為か後ろからも足早に駆け登る様な感覚がした。糸を伸ばしてみると、その感覚は的中していた。
━━━━━━━━気まづい
どうするべきか、と悩みつつ歩いていると、もう目の前に校門が迫っていた。そしてそのまま校門を通過、下駄箱を通り過ぎ、彼女のクラス、1-Aの前へとやって来た。
後方部分をチラ見すると、後ろの彼女はクミを通り過ぎ、隣のクラス 1-B へと入っていた。
ソレに安堵したクミは気兼ねなく自分のクラスへと入っていく。
教室へと入ると、ほとんどの席が埋まっていた。座っている生徒は皆大人しく、礼儀正しく、誰も喋っておらず、高校生というより軍隊らしさを感じられた。
━━━━━━━━これなら安心して、寝られる
自身の席についた後、黒板にひれ伏すように頭を下げ、腕を枕代わりに仮眠を取るのだった。
しかし、その仮眠は1分にも満たなかった。と言っても、彼女は寝ていて気づかなかったのだが、遅刻ぎりぎりに登校してきた生徒と担任の登場だった。
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
しかし、クミは起きない。そんな彼女を、担任は気づいているのか気づいていないのか分からないが、体操服に着替えてグラウンドへ出るよう全体へ指示した。
クミは後方の女子生徒に起こしてもらい、流れに身を任せ共に移動した。
「わざわざごめん...」
「困った時はお互い様だよ。私は麗日お茶子、よろしくね!」
「私は糸包クミ、よろしく。」
新たな環境で初めて喋った彼女、麗日お茶子と共に更衣室へと向かうのだった。
グラウンド移動後、担任の口から告げられた言葉に生徒達は驚きを隠せずに嘆いていた。
「「「「「個性把握テストぉぉ!?」」」」」
「そうだ」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「そんな悠長な行事出る時間ないよ。たった3年でヒーローになるんだから」
担任の口から出る言葉はどれも冷たいものばかりで、無慈悲にも生徒達に突き刺さる。
そんなことには目も暮れず、担任は個性把握テストの意味について話し始めた。
これから始めるのは個性を用いた体力テスト。中学までの個性禁止の体力テストとは違い、自身本来の能力を見るものらしい。
「じゃあ試しに...爆豪、こっち来い。」
「あ”?」
嫌悪的な雰囲気を醸し出しつつも、担任の傍へと歩いていく彼をクミはしっていた。
━━━━━━━━あの爆発野郎...!
しかし、怒りを胸の内に抑え、成り行きを見守るクミ。なんでも、担任は爆豪にソフトボール投げをやらせたいようだった。
「中学ん時のソフトボール投げ、何mだった?」
「...67m」
「じゃあ"個性"使ってやってみろ」
そう言って担任は、ボールを爆豪に投げ渡す。ボールを受け取った彼はサークル内へと入る。円からでなければ何をしてもいい、と言われた彼はボールを握り締め
「死ねえぇ!!!」
物騒な掛け声と共に爆発に乗せてボールを投げた。投げられたボールは遥か彼方へ飛ばされる。
相澤の持っているタブレットからピピッと音がなり、数字が表示される。画面には『705.2m』という数字が表示された。
ソレを見て生徒達は盛り上がっているが、その中から面白そうという言葉が聞こえた。ソレを聞いた相澤は口角を上げ口を開く。
「よし...トータル最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「「「はあぁぁ!?」」」」」
相澤の唐突な提案に驚きを隠せない生徒達。しかし、相澤は雄英高校のモットー"Plus Ultra"を盾にして、コレが雄英だと言う。
━━━━━━━━入学初日に退学ってどこの遠〇学園だよ...
不審に思ったクミは糸を相澤目掛けて伸ばしてみる。思考を読み取るのだ。
しかし、糸は途中で消滅した。なぜ、と相澤の方をみると目が合った。恐らく相澤の個性だろう、とクミは思った。
「どしたのクミちゃん」
隣にいた麗日が、クミに声をかける。驚いて目を見開いてるクミを心配したのだろう。心配そうな顔をしてクミを見つめている。
「大丈夫だよ、気にしないで」
麗日を宥めるようにして誤魔化すクミ。
━━━━━━━━読まれたくない...嘘?
少し考え、相澤の先刻の言葉を嘘だと推測したクミだったが、その事は誰にも言わないでおこうと決めた。
嘘を言う必要があるのであれば、何かしらの理由があるのだろう。担任の意向なら、それを邪魔するのは申し分無い。第一、自分には関係の無い話だからだ。
そう思いながら、クミは他の生徒と共に移動するのだった。
〘50m走〙
所定の位置についたクミは隣の麗日を見る。麗日は靴やら服やらを触っていた。
━━━━━━━━触ることで発動する"ゼロ・グラビティ"...服と靴を軽くしたのか
クミの視線に気づいたのか、麗日もクミの方を見返す。
「頑張ろうね!クミちゃん!」
「う、うん。」
ここで、話を遮るように開始の合図がなる。
「Ready━━━━」
「早━━━━━」
「━━━━Go!!」
開始の合図と共に走り出す2人。特徴的なことはせず、ただただ真っ直ぐ走り続ける。唯一違うのは、2人の距離が離れていることだろう。
先にゴールを切ったのはクミ、続いて麗日だった。記録は順に「5秒02」、「7秒15」だった。
麗日もクミも中学時代より早くなっているようで、満足そうな感じではあった。
「すごいねクミちゃん!めちゃくちゃ速いじゃん!」
「え?あー、個性使ったからね。」
そう言ってクミは指先から糸を複数出す。クルクルと動き回る糸たちに、麗日は笑みをこぼす。動き回る、と言ってもコレらに意思はないのだが。
━━━━━━━━体操服に糸を巻き付けるというのが予想以上に痛い...
痛みを紛らわすように腕を振るうクミ。
彼女が思った通り、走る直前、クミは体に纏っている衣服の袖に自身の糸を通した。そしてそれらを使って無理矢理動きを早くしたのだ。
その代償はクミが本来予想していたものより大きく、両腕両足をひどく痛めてしまった。
━━━━━━━━次は楽なのがいいんだけど
〘握力〙
「糸と一緒に...ッ!」
糸も巻き付け共に握力を計った。
結果:62kg
〘立ち幅跳び〙
スタートラインに着いたクミは立ち幅跳びの砂場の先にある懸垂用の鉄棒目掛けて糸を伸ばした。伸ばした糸は鉄棒へと巻き付き、ミシミシと音を立てている。
「せーのっ!」
掛け声と共に糸を引っ張り、尚且つバネにした足を解き放たつ。空中では鉄棒を壊れんばかりに力強く引き、距離を伸ばそうとしてみる。
宙でなんとか距離を伸ばしたクミは背中から転がるように着地、記録は「5.21m」
「まぁまぁ...だな」
〘反復横跳び〙
反復横跳びは、50m走と同じく糸を各部に巻き付けて臨んだ。結果は64回。
〘ソフトボール投げ〙
投げられる範囲内のサークルに入った後、ボールを受け取ったクミは自身の糸をボールに縫い付けた。
「糸を縫い合わせて...」
さらに、自身の利き手側の右手首を中心に、左手首、両足首に糸を巻き付け、投球の構えを取るのだった。
「せーのっ!」
掛け声と共に地を踏んづけ、右腕を思い切り振るう。投げ飛ばされたボールは放物線を描き飛んでいく。角度で言えば91°を越したところでクミは右手の掌から出していた糸を掴み、釣り糸を遠くへ投げ飛ばすように投げ飛ばした。
結果は「306m」
「ちなみに、除籍処分は嘘な。」
「知ってた」
「えええぇ!!??」
相澤の何食わぬ顔で吐いた嘘に、そしてそれを理解していたクミに生徒の大半は驚きを隠せずにいた。
「君達の全力を引き出す、合理的虚偽」
口角を上げ、校舎へと戻っていく相澤について行く生徒、批判する生徒や安堵する生徒の中、クミは前者の集団に紛れていた。
そんな中、クミには一つ気になることがあった。ソレは個性把握テストで最下位をとった緑谷出久という存在についてだった。
彼は、ほとんどの競技で個性を使用せず、また使用した後はその圧倒的なパワーに体が追いつかず、使用した部位は血を流しボロ雑巾の様になっていた。いや、ソレ自体はクミは入試で見ていたため、別に気にしてはいない。
━━━━━━━━あの熱いの...
問題は、それを見た
━━━━━━━━ちょっと覗いてみるか
覗きの常習犯の様な感覚で彼に向けて糸を放つ。勿論、誰にも気づかれないように。しかし、ソレはある人物に阻止されてしまった。
「やぁ新入生諸君!精が出るね!」
その人物とは━━━━━━━━
「「「「「オ、オールマイト!!」」」」」
No,1ヒーロー オールマイト
今年から雄英高校に就任した彼は、
ソレに相容れない生徒も複数いたのだが、その中の一人が少ないながらも殺気を放ったことにクミは気づいた。
━━━━━━━━紅白饅頭...
その彼を認識したクミの第一印象はこれだった。彼の髪色は左右で紅白になっている。個性の影響だろうか。
短時間に膨大な情報を脳内に取り込んだクミは、脳と体を休めるため教室へと戻るのだった。