私の小虎   作:ジト民逆脚屋

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私の小虎(シャォフー)

人の身で頂に至る。それが何を意味するのか。解っているつもりだった。

 

……あれがそうか

……まさに――に相応しい

 

誰も見てくれない。

誰も聞いてくれない。

誰も私の事を見てくれない。

誰も私の声を聞いてくれない。

 

……まさしく――

……まさしく最強

 

こんなもの欲しくなかった。

こんなもの要らなかった。

私はただ、私を見て聞いてほしかっただけなのに。

誰も誰も誰も、私を見もしなくて、聞いてもくれない。

誰か、誰か私を……

 

……――、どうしたの?

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

たった一瞬の事だった。〝人類至高〟織斑千冬の知覚を以てして、ただそうとしか認識出来なかった。

 

……何だ今のは?!

 

眼前に広がるのは、瓦礫と倒れ伏す戦友達。

誰もがヴァルキリーに数えられる実力者で、機体も装備も相応の品で揃えられていた。

故に、眼前に広がる光景が信じられない。

 

「あ、あぁぁぁ……!」

「くっ!」

 

一撃、力任せに降り下ろされた、たった一撃でISという、超兵器に守られた体が悲鳴を挙げる。

何が起きている。一体、己は〝何〟と戦っている。

 

「あぁぁぁ……!」

 

目の前で長柄物を振るって、己を圧倒しているのは、生身の少女だ。平均よりほんの少しだけ背が高くて、ほんの少しだけ目付きの鋭いだけの少女が、悲愴な雄叫びを挙げ、手にした戟でこちらを攻める。

一撃一撃が、簡単にこちらを削り、機体からの警告が鳴り止まない。

異常な膂力、だがそれだけ。

〝人類至高〟織斑千冬は次第に、少女の動きを見切り始めていた。

しかし、千冬は得物を振るえなかった。

相手は生身なのだ。仮に得物を振るえば、少女の体など簡単に両断してしまう。

千冬は殺したくない。だから、千冬は少女の隙を伺う。

そしてそれは、さして難しい事ではなかった。

 

いくら異常とは言っても、力任せに振るわれるだけの長柄物。千冬ならば、その隙に懐に潜り込む事は容易い。

故に大振りを避け、少女の体に当て身を叩き込んだ。

……その筈だった。

 

「な、に?」

 

だがそれは、見えない力場によって遮られた。

あまりに予想外の事態に、呆気に取られ、反応が遅れた千冬を貫こうと、少女の戟が迫り、

 

「……小虎(シャォフー)……」

 

掠れた弱々しい声により止まった。

何が起きたのか、千冬が辺りを見渡せば、小さな人影が瓦礫の中で動いていた。

生存者が居たのか。千冬が視線を向ければ、少女が生存者に猛然と駆けていた。

 

速い。間に合わない。千冬は歯噛みし、せめてこれ以上は、少女が殺める事を無い様にと、少女を斬り伏せようとした。

だが、

 

鈴音(リンイン)……!」

 

聞き覚えのある名前に、千冬は止まった。

混乱、今何が起きているのか、千冬は混乱の極みにあったが、それと同時に理解もしていた。

 

「大丈夫、大丈夫よ。私の小虎(シャォフー)

「鈴音、鈴音……」

 

抱き着く少女を落ち着かせる知人の姿に、千冬は理解した。全ては一度決着したのだと。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「ほら、小虎(シャォフー)。こっちよ」

「待って、鈴音」

 

小柄な姿に、長身が続いていく。手を引いて廊下を進むその姿は、何やら微笑ましい印象がある。

 

「ふふふ、一夏待ってなさい」

「鈴音、一夏って、あの?」

「そうよ、話した事あるでしょ」

「……うん」

 

頷く姿は弱々しく、おどおどとした小動物を連想させる。

 

「大丈夫よ。取って食われたりしないわ」

「うん」

「よし、着いた」

 

その情報、古いよ。

鈴音が言って、教室に入れば、僅かなどよめきとある筈の無い男の声が聞こえる。

 

小虎(シャォフー)、ほら、こいつが一夏よ」

「……」

「あ、えっと?」

「もう、小虎(シャォフー)。自己紹介しなきゃ」

「……呂・宝仙(リョ・ホウセン)

「え?!」

「一夏?」

 

鈴音が笑みのまま、一夏を呼ぶ。声と顔は笑っているが、目が一切笑っていない。

一夏は冷や汗を流しながら、咳払いを一つ。改めて、名乗った。

 

「ごめん、歴史上の人と読みが一緒だったからつい……。鈴から聞いてるかもだけど、俺は織斑一夏。宜しく」

「……宜しく」

 

それだけ言うと、宝仙は鈴音の背中に隠れる様にして、一夏から離れる。一夏の背中に冷や汗がまた一つ流れる。

鈴音の目が、先程から笑っていない。

 

「俺、何かしちゃった?」

「……違う」

「はぁ……、もう小虎(シャォフー)。それじゃ、いつまで経っても、私以外に友達0のままよ?」

「鈴音が居る」

「まったく、この小虎は。……っと、一夏、時間だから退くけど、後で時間空けといてね。じゃあね」

 

言って、鈴音は宝仙の手を引いて、教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「ダメよ、小虎(シャォフー)

「……でも、鈴音泣いてる」

「大丈夫、大丈夫よ、小虎(シャォフー)

「…………」

 

鈴音が涙を流しながら、部屋に戻ってきた。何があったのか、宝仙には大体の検討がついている。

あの男だ。

 

「織斑、鈴音泣かした」

「ダメよ、小虎(シャォフー)。ダメよ」

「でも」

「大丈夫、大丈夫だからね。小虎(シャォフー)、一緒に居て」

 

あんな男、一瞬で片がつく。だが、宝仙は鈴音に言われるまま、彼女の隣に腰掛けた。柔らかいベッドが、二人の体重分軋んだ。

 

「貴女は私の小虎(シャォフー)。だから、絶対に一夏と戦っちゃダメ」

「…………」

「貴女と戦ったら、あいつ直ぐ死んじゃう。貴女に私はもう殺させない」

 

だから、私の小虎。

 

「今は一緒に居て」

「うん」




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