私の小虎   作:ジト民逆脚屋

3 / 8
一発で名前当てられたので初投稿です(全ギレ


協力者

ハラハラと、書類を捲る音が室内にあった。数枚の多くない枚数に綴じられた束を、彼女は一度机に置くと、溜め息を落とした。

 

「はぁ……、どうしてこうなるのかしら?」

 

机の上には山と書類が積み上げられ、手にしていたものも、その中に埋もれる一つに過ぎない。

だが、その内容は埋もれていいものではなかった。

 

「呂・宝仙に凰・鈴音、織斑一夏。そして、三機の無人機……」

 

頭を掻けば、手入れの行き届いた髪が乱れる。日々移り変わる情勢、だが出来る事なら、自分の在校中は平和でいてほしかった。

たまに起こる騒動、そんなささやかな波瀾でよかった。

なのに、

 

「おかわりは要らないわよ……」

 

ドイツとフランスからの書類を睨みながら、彼女、IS学園生徒会長更識楯無は呻いた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

もぞりと、何かが蠢いたと、鈴音は知覚した。まだ朝早い布団の中、しかし鈴音は焦らない。

 

「……こら、小虎(シャォフー)。どうしたの?」

「うー……」

 

唸り、鈴音の胸に額を擦り付ける。寝惚けているのか、鈴音にしがみつき、しかしまた静かな寝息が聞こえ始めた。

 

「まったく、この子は」

 

丸まり己に抱き着く宝仙の背を、鈴音はゆっくりと撫でる。

 

「もう少しだけ、寝てなさい。今日は休みだから、ゆっくり寝ましょ」

 

おやすみ、私の小虎(シャォフー)

甘える宝仙の体温を感じ、鈴音は朝の心地好い微睡みの中に落ちていく。どうせ、今日は休みで外出もする予定は無い。

昼前まで惰眠を貪るのも、たまにはいいだろう。きめ細かく柔らかい、本当に猫の様な髪を手櫛で櫛梳る。

 

「りーいん」

「ふふ、どうしたの?」

「だれかくる」

 

猫の様な目が開かれ、扉の方向に向けられる。宝仙を抱きながら、鈴音が身を起こし、同じく視線を向ければ、指先に小さな痛みを感じた。

 

「大丈夫よ、小虎(シャォフー)

「う」

 

紫電にも成らない静電気が、呂虎の体から発されていた。

頭を撫でて、宝仙を落ち着かせてから、鈴音はノックが響く扉へと向かう。今日が休日で、まだ早朝の域だという意識があるのか、控えめな音だ。

 

「どちら様?」

「……朝早くに済まない。私はラウラ・ボーデヴィッヒ。凰・鈴音と呂・宝仙の部屋で、間違いないだろうか」

 

覗き窓から見えるのは、まず銀髪。それも珍しいくらいに、はっきりとした銀の髪だった。

そして、左目を覆う黒い眼帯と、その持ち主の小柄な姿。弱々しさは感じない。氷の様な冷たさと、刃の様な鋭さがある。

 

「……間違いないわ。で、何の用かしら?」

「ああ、ただの挨拶だ。私は明日から、正式にこの学園に編入する」

「それで?」

「まあ、国からの意向だ。あとは、個人的に私が呂・宝仙と話がしたい」

 

背後の宝仙が警戒している気配は無い。声からも敵意や、害意の類いは感じ取れない。

 

「いいわ、入りなさい。けど、妙な真似したら、只じゃおかない」

「私としても、敵対するのは本意ではない。それに、ちょっとした手土産もある」

 

扉を開けた先には、先程とは違う気さくな笑みがあり、手には上品なデザインの紙袋があった。

 

「呂・宝仙は甘味を好むと聞いた。日本製のドイツ菓子の詰め合わせだ」

「有難う、でも、自国のもの持ってこなかったの?」

「いやな、こう味的にもいいのが、見付からなくてな。しかし、日本はスゴいな。万国の味が手軽に楽しめる」

「鈴音、誰?」

 

鈴音が紙袋を受け取ると、部屋の奥から宝仙が顔を覗かせた。そして、ラウラを見付けると、警戒した様に目を細める。

鈴音が紹介しようと口を開いた時、ラウラが掌を見せてそれを止めた。

 

「お初にお目にかかる。私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ人だ」

「鈴音、私ドイツ人初めて見た」

「そうだったかしら?」

 

にこやかに現れたラウラに、興味を惹かれたのか、呂虎はラウラの周りをキョロキョロと回る。

 

「ほら、小虎(シャォフー)。初めて会った人にする事は?」

「あ、……呂・宝仙です」

「ははは、まあ宜しく頼む」

 

歯を見せた笑みで、ラウラが右手を差し出す。一瞬、それが何なのか、理解出来てなかった宝仙だが、握手だと気付くと、恐る恐るラウラの手を握った。

 

「ふむ、なるほど」

「?」

「なに、気にするな。呂・宝仙、君は甘味を好むと聞いている。土産を凰・鈴音に渡してあるから、後で楽しんでくれ」

「それなら、今からでもいいんじゃない? 今日は休みよ。だらけても、誰も文句は言わないわ」

 

鈴音の言葉に、ラウラは少し考える素振りを見せ、直ぐに頷いた。

 

「なら、呼ばれよう」

 

歯を見せた気さくな表情、扉の前で見せた冷たさは感じなかった。こちらが彼女の素なのかもしれない。

 

「わあ、鈴音。丸い」

「あら、ケーキ?」

「ツッカークランツ、確か日本語だと砂糖の冠だったか」

 

ドイツのバターケーキ、リング状のそれを鈴音が切り分け、今か今かと待ち構える宝仙の皿に乗せる。

 

「まだよ、小虎(シャォフー)

「うー」

 

フォークを構えた宝仙に、鈴音が待ったをかける。宝仙はそれを聞き分け、フォーク片手にウズウズと体を左右に揺らす。

自分、ラウラの分を切り分け、ペットボトルだが茶を用意する。

 

「はい、じゃあいただきます」

「いただきます」

 

目を輝かせて、ケーキをフォークで口に運ぶ。

 

「おいしい!」

「ふふ、そうね。なら、ボーデヴィッヒにお礼を言わないとね」

「ありがとう!」

「ははは、気にする事はない」

 

にこやかにラウラが言えば、宝仙は再びケーキに集中する。

ラウラはその様子を微笑ましく眺め、鈴音に向き直る。

 

「凰・鈴音」 

「何かしら、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「実を言うと、私も呂・宝仙と同じだ」

「いきなりね。……つまり、ドイツにもバカがいたのね」

「私は遺伝子強化個体(アドヴァンスド)、創られた命、所謂クローンだ」

「……〝炉心〟は無いのね?」

「生体反応式縮退炉、通称〝雷公鞭(らいこうべん)〟、嫌な言い方をするが、あれを搭載して人間として振る舞えるのは、呂・宝仙の性能があってだろう」

「本当、嫌な言い方するわね。……あの子、私の小虎(シャォフー)は人間よ」

「ああ、無論だ」

 

茶を一口飲む。寮の購買で買ったものだが、思ったより味がいい。また、後で買いに行こう。

鈴音がそう思い、宝仙に目を向ければ、既に己の分を食べてしまい、こっそりと箱にあるケーキにフォークを伸ばしていた。

 

「こーら、ダメよ小虎(シャォフー)。一度に全部食べたらダメ」

「でも鈴音、おいしいよ」

「美味しくてもダメよ。残りは明日」

「むぅ……」

 

むくれる宝仙の前に、ケーキが乗った皿が出された。

ラウラだ。

 

「なら、私の分を食べるといい」

「いいの?!」

「ボーデヴィッヒ、あまり甘やかし過ぎないで」

「ははは、凰・鈴音。実を言うと、私は甘味はそれほどな」

 

宝仙が再びケーキに集中するのを見て、ラウラは鈴音に己の眼帯を指し示す。

 

「炉心は搭載されてないが、私には越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)という、解りやすく言うと、反応速度等を強化する施術が為されている」

「また、いきなりね。制御は?」

「私は少々、出来が良くなくてな。眼帯無しでは厳しい」

 

湯飲みを置いて、ラウラ一つ吐息する。

 

「凰・鈴音、ドイツ本国は君達に対し不干渉、または協力を考えている。私はその窓口だ」

「へえ」

「信用も何も出来ないだろうが、頭の隅に留めておいてくれ。私個人としても、呂・宝仙を害意に晒したくない」

 

真っ直ぐに鈴音を見据えるラウラ。目に偽りは無い。

国云々は信用出来そうにないが、彼女個人は信用してもいいかもしれない。

 

「私の小虎(シャォフー)に、何かしたら容赦しないわ」

「知っている。友を助ける為に、たった一人で死地に赴いた侠よ」

「…………」

 

鈴音が無言で睨み、ラウラは肩を竦める。

 

「ごちそうさま」

 

そんな剣呑な雰囲気を、宝仙の呑気な声がぶち壊した。

 

「あれ、鈴音どうしたの?」

「……何にもないわ。ほら、口の周りに着いてるじゃない」

 

宝仙の口の周りを拭き取る鈴音、その光景にラウラは、口の端を僅かに吊り上げる。

 

「では、そろそろお暇するとしよう」

「あら、別にいいのよ?」

「いや、まだ手続きが残っていてな。早く済まさねば、教官から御叱りを受けてしまう」

 

立ち上がり部屋を出る前、ラウラは呂虎を見る。

 

「呂・宝仙、何かあったら私も頼れ。私は君達の味方だ」

「うん?」

「ではな。ああ、後、私は一組に編入される」

「……分かったわ」

「バイバイ、また明日」

「ああ、また明日」

 

手を振り、微笑む。扉を閉め、部屋から離れたところで、機体のディスプレイを立ち上げる。

体に核兵器すら凌駕する、狂気を埋め込まれているとは、とても思えない。

だが、自機からの情報が、その現実を教えてくる。

 

……ISコアに縮退炉、仮に火が入れば、学園島だけで済めば奇蹟だな

 

ラウラもそんな事は起きてほしくないし、起こす気も無い。だが、考え無しな愚か者は、何処にだって居るものだ。

自分は織斑千冬に救われ、部隊に支えられた。なら、呂・宝仙は?

 

……凰・鈴音が全ての鍵だ。

 

彼女がそうだと言えば、白も黒になる。それだけ、呂・宝仙は凰・鈴音に依存している。

もし仮に、彼女にもしもの事があれば、呂・宝仙はその〝人中〟の性能を、遺憾無く発揮する事になるだろう。

 

「まあ、そんな事はさせんよ」

 

救い支えるのが凰・鈴音なら、その手助けをする者が居てもいいだろう。

ラウラは残る煩雑な手続きに、頭を悩ませながら、人気の少ない廊下を歩いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。