さて、鈴音は細い首を鳴らしてから、そんな言葉を吐いた。隣でラウラが、一歩引いた顔で立ち、その隣にいつの間にか眼鏡の生徒が居た。
「さてさて、これは一体どうして、こんな事になったのかしら?」
ねえ、
ビクリと、正座をしている宝仙の体が跳ねた。身を竦め、宝仙は震えながら、鈴音から顔を逸らした。
「あらあら、どうしたの? 私の
笑みで宝仙の顔を覗き込む。だが、宝仙は冷や汗を流しながら、また顔を逸らす。
「
身を竦めた宝仙が、ソロソロと顔を上げ、鈴音の様子を伺う。そこには今にも泣き出しそうな鈴音が居た。
「ねえ、
「うぅ……」
縮こまった体を更に竦めて、宝仙は小さく呻く。一番見たくない鈴音の顔に、宝仙は何も言えない。
ただ優しく頭を撫でる手を受け入れ、鈴音の言葉を待つだけだ。
「
「え?」
宝仙が顔を上げる。
「私は貴女に、戦い以外の方法を教えてあげてなかった。貴女は悪くないわ」
「……違う」
「あら、何が違うの? 実際、貴女は戦って、炉心に火が〝入りかけた〟じゃないの」
宝仙の隣で、奇抜な水色頭が突然顔を上げた。睨めば、すぐに顔を下げた。
「鈴音悪くない。私が悪い」
「あら、どうして? 私は貴女に戦い以外教えてないのよ?」
「私がバカだから、鈴音教えてくれた事、全然分かってなかったから……」
消え入りそうな声、ちらりとラウラに助けを求めるが、今は怒られておけと、首を振る。
「なら、次からは私の所に来なさい」
「え?」
「変なのに絡まれたら、私の所に逃げてきなさい」
「でも、鈴音危ない……」
宝仙が何故、戦う事をまず第一に考えるのか。それは、彼女自身の強さにある。
なまじ、並の相手では抑える事も出来ず、もし炉心が稼働すれば、相手は形を判別出来るものが残れば、奇跡と言える。
だから宝仙は、そういった者達が関わってきた、又は敵意を感じた場合、鈴音が知る前にそれを力尽くで排除する。
そうすれば、鈴音が危険な目にあわないから。
「
だがそれは、鈴音の望むものとは違う。鈴音は、宝仙に戦いを望んではいない。
鈴音が彼女に望むのは、ただ一人の学生としての日々だ。
誰かと笑って泣いて、明日はどんな日だろう。きっと良い日だろう。そんな日々を過ごしてほしい。
「だから
「うん、でも……」
やっぱり、鈴音が危ないよ。
宝仙がそう言おうとした時、鈴音が言った。
「
「分かった……!」
宝仙にとって、鈴音が一緒に居てくれる。それ以上に望む事は無い。
鈴音と一緒に居たいから、鈴音の傍に居たいから、鈴音と並びたいから、あの誘いに乗った。
宝仙の全ては鈴音と一緒に居る為、その為に〝神殺しの炉心〟を受け入れた。
「一緒! 鈴音と一緒!」
「そうよ、私の
宝仙は鈴音に抱き着いた。己よりも低く細い体、しかし宝仙にとって、これ以上に頼りになる存在は居ない。
額を擦り付け、頭を背を撫でる手の心地好さを感じながら、宝仙は鈴音の腕の中で喉を鳴らす。
「鈴音鈴音」
「はいはい、良い子ね。私の
「……な、何かしら?」
そんな宝仙をあやしながら、鈴音は正座のままの水色に目を向ける。
表情は先程の目の笑ってない笑顔、宝仙が理由も無く、自分から他者を襲う事は有り得ない。だから、確実にこの水色が何かしでかしている。
「あんた、私の
「あ、いや、そのぅ……」
「それに関しては私から」
「虚ちゃん?!」
虚と呼ばれた生徒が、溜め息混じりに鈴音の前に出る。
「こちら、彼女が貴女に贈ろうと、初めて作ったクッキーを、無断で食べ尽くした愚か者です」
「へえ? 自殺志願ね」
鈴音の目がすっと細くなる。あの料理をした事の無い宝仙が、初めて料理をした。それも己に贈る為に。
最早、鈴音に容赦の文字は無く、この愚か者をどうするか、それを考えていた。
「取り合えず、首を落とそうかしら?」
「クッキー=命……?!」
「あら、私の
安いわね。青竜刀が首筋に当てられ、楯無は慌てて弁明する。
「いや、待って待って! 態とじゃない態とじゃないの!」
「でも、謝りもしなかったのよね?」
さっと、楯無の顔色が悪くなる。確かに、謝罪していなかった。あの宝仙が、こちらの話を聞いてくれるかはともかく、謝罪をしていなかったのは悪手だった。
「水色意地悪する」
「あら、そうなの?」
「ん、美味しくないって言った」
「へぇ……」
肌に刃が立った。振り抜けば、楯無の首は容易く飛ぶ。
確かに、少し中が半生で表面が焦げていて、あまり美味とは言えない出来だった。
「成る程ね、美味しくないって言ったのね……」
殺気が膨れ上がった。この軽口は、妹の件から何を学んだのか。
この状況を何とか打破しようと、楯無はその優れた頭脳をフル回転させる。
「絞首からの斬首ね」
だが、宣告の方が早かった。しかし、この問答無用の死刑宣告に、無言だったラウラが待ったをかけた。
「待て、凰・鈴音。そいつはちょっと面倒な一族の当主で、ロシアの国家代表でもある。面倒だぞ?」
「あら、そうなの」
「そうだ。ついでに学園最強らしい」
正座する水色を見るが、あまりそうは見えない。宝仙に負けたせいだろうが、あれで本気だったとするなら、今の学園の程度が知れる。
無論、国家代表があの程度で、本気を出すとは考え難い。恐らく、装備や出力を絞っていた筈。
しかしまあ、それはそれとして、鈴音はじゃれつく宝仙を撫でながら、脱力の息を吐いた。
「まあ、あれね。
青竜刀を退け、楯無を真っ直ぐに睨み付ける。その瞳は冷たく、先程まで突き付けられていた青竜刀の様だった。
「あんた達が何しようが、私達は知ったことじゃないわ。でもね、私の
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「それで、どうだったのですか?」
「完全にこっちの目算以上、あれは手に負えないわ」
正座から解放された楯無が、溜め息混じりにそう言った。
「旧型の装備とはいえ、ここまで簡単にやられるなんて、学園最強の看板降ろした方がいいかしら?」
「ご冗談を。貴女以外に、今の学園最強が務まる者が居るのですか?」
まさか。
軽い口調で楯無が答える。今のIS学園は、第二世代から第三世代への過渡期、世界各国から代表候補生や、それに準ずる実力の持ち主達が集まっている。
「でも、最悪は無理矢理にでも、彼女に出てもらう事を考えないと」
「例の無人機ですか」
「それだけじゃないわ。色々、面倒な事になりそうなのよね」
楯無はシャツのポケットから、一枚の紙を取り出す。
「それは?」
「お隣からのお手紙」
そこには〝項羽〟と記された紙と、一つの医療ポッドの写真があった。