呂・宝仙、彼女の強さは底知れない。
他代表候補生や、専用機持ちを圧倒出来る実力もあるが、最大の理由は彼女が戦いたがらない。これにある。
学園に流れる噂には、あの〝学園最強〟更識楯無を打ち負かした。〝人類至高〟織斑千冬と互角である。
流れる噂のほぼ全てが、その武力に集中している。
だが、噂する誰もが、宝仙の戦っている姿を見た事が無いと言う。
「凰鈴音」
「ボーデヴィッヒ」
それは何故なのか。
「呂・宝仙はまた寝ているのか」
宝仙は基本的に、日々を眠って過ごす事が多い。まるで、野生の獣の様に、自分から活発に動く事はあまり無い。
「あら、私の
「いや、ただ話にきただけだ」
「そう、まだ起きないだろうけど、ゆっくりしていきなさい」
「そうさせてもらおう」
ラウラが鈴音達とは、違うベッドに腰を下ろす。
「それにしても、よく眠っているな」
ラウラの視線の先には、クッションを背凭れにした鈴音に、しがみつく様にして眠る宝仙の姿があった。
安らかな寝息が聞こえ、鈴音が宝仙の背を優しく撫でると、鈴音の腹に宝仙が頬を擦り付ける。
心地好さそうに眠る宝仙を見ながら、ラウラが鈴音に問うた。
「呂・宝仙は何時もこうか?」
「まあ、そうね。この子は基本こうよ」
「そうか」
ラウラが頷き、気付くと宝仙が薄目を開けていた。瞼の奥の瞳で、まだ眠気が勝っているのが解る。
ラウラは宝仙の額に手を伸ばすと、宝仙は猫の様に両手で顔を隠してしまった。
「む」
「あらあら」
体を丸める宝仙に、鈴音は微笑み、毛布を引っ張り掛ける。宝仙が喉を鳴らし、更に体を丸めて、鈴音に身を寄せる。
さながら、幼子の様な仕草。ラウラはその仕草に、ある一つの疑問を口にした。
「凰・鈴音、呂・宝仙は思うに、年に合わぬ幼さがあるな」
「はっきり言っていいのよ? 精神が子供だって」
呂虎を撫でながら、鈴音ははっきりと言った。
「……それは、〝これ〟の影響か?」
ラウラが己の左胸を指差す。心臓の位置、宝仙のそこに生体反応式縮退炉〝
宝仙の感情の昂りを着火点とし、内部で圧縮と膨脹を繰り返し、生成したエネルギーを宝仙体内に高速循環させる。それによる人外の膂力と、反応速度と各器官の強化と活性化、高速循環時の余波による防護性能。
「まあ、それもあるけど、単純にこの子が、そういう性格だって事の方が大きいかもね」
そして、内蔵された生体反応式兵器〝
これらによる負荷の為か、宝仙の精神は同年代に比べ、幾らか幼さが強く出ている。
「ふむ、だからこその凰・鈴音か」
ラウラが納得し、宝仙を抱き、慈母の微笑みを浮かべる鈴音が首を傾げる。
「いやなに、こちらの話だ」
「なにそれ?」
穏やかな休日、二人の話し声と静かな寝息が聞こえる昼下がりだった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
織斑一夏の日課は、毎朝のランニングだ。毎朝5時には起きて、ダッシュとランニングを繰り返し、軽いジョギングで締める。
誰に言われたとかではなく、剣道から離れる事になってから、体が鈍らない様にする為に始めた。
だが、最近ではそれも足りない。そう感じていた。
「朝から精が出るな」
「千冬姉じゃなくて、織斑先生」
自分と同じくシンプルなジャージ姿の姉が、そこに居た。慌てて言い直す一夏に、気にするなと手を振る。
「悩みか?」
「え?」
「凰・鈴音と呂・宝仙の事だろう?」
千冬の指摘に、一夏は驚く。
それらしい素振りは、見せていなかった筈なのに。
「お前は昔から、悩みがあると眉間に皺が寄る」
「あ……」
眉間に触れてみれば、確かに寄っていた皺の手触りを感じた。
「何かあったか?」
「いや、最初以外は何も無いよ」
「そうか」
鼻につく臭いがした。見れば、千冬が止めた筈の煙草を咥わえていた。一般販売の煙草の一般的な銘柄。現役を退く少し前に、また値段が上がったからと、言って止めた筈なのに、何があったのか。
「気にするな。私にもそういう時はあるさ」
「お、おう」
何を言いたいのか、一夏にはいまいち理解出来ないが、節制はするつもりだという事は、なんとなく伝わってきた気がするのでよしとする。
「一夏」
そう一夏が思っていると、千冬が先程までの表情を引き締め、〝人類至高〟としての顔を向けた。
この顔の時は、何か大事な話がある時だ。一夏は気を引き締める。
「……凰・鈴音と呂・宝仙の抱えているものは、お前の予想を遥かに超えておぞましく、光の一切差さぬ闇だ」
「何を、言ってるんだ千冬姉?」
「一夏、もし関わるなら私にまず言え。さもなければ、お前は拠り所としている正義すら失う」
一夏には千冬の言っている事が、理解出来ない。だが、友人二人の抱えているものは、己の理解を超えているものだと、薄々気付いていたが、千冬の言葉に確信を得た。
「……なら、どうすればいいんだ」
鈴音も宝仙も、一夏にとってはかけがえの無い友人だ。そして一夏は、友人が苦しんでいるなら、その苦しみを見過ごせない。
「何もする必要は無い。何時もと変わらず接してやれ」
一夏の問いに、千冬は当たり前に返した。
「え? 何時もと変わらずって、そんなので?」
「ああ、それがあの二人の望む事だ。何時もと変わらぬ、学生としての日々。今の時間がそうなんだ」
だから頼む。
一夏を見詰める表情は、何処か壊れてしまいそうで、何故か申し訳なさそうで、一夏は何も言えず頷いた。
そうしないと、千冬だけでなく、鈴音や宝仙まで消えてしまう。そんな気がした。
次回辺りでモッピー出したいよね?
紅椿?
ははは、なんだねそれは? これは鈴音と小虎のお話だよ。