男、須賀京太郎は高校時代の同級生である原村和からの連絡であることを知った。
「咲さん、不倫してますよ」
「は?」
そりゃそうである。急に高校時代の同級生から配偶者が不倫しているだなんて言われたのだ。焦らないわけがない。
「え?まじ?それ」
「ええ…街中で久々に見かけたので声をかけようとしたのですが…あー……えっと、男の方と腕を組んでホテルに入っていったので……私も弁護士をやっている身ですので写真は撮っておいたんですが……みますか?」
そうして送られてきた画像には見たことの無い女が映っていた。そこそこ濃いメイクにとても既婚者が普通着るものではない攻めた服装。
ただ
ただそれでもその女は間違いなく彼の妻だった。
開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。彼が汗水垂らして働いている最中に専業主婦の彼の妻はどこの誰とも知れぬ馬の骨とイチャコラしていたわけだ。
まあわかる、と女は嘆息した。
女、原村和は至極まともな女性である。いくら高校時代からの親友だからといって倫理観的にも職業的にも不倫など認められるわけがなかった。その夫の須賀京太郎も憎からず想っているし昔はともかく今はとても紳士的で信用に足る友人であった。だからこそ不倫は許せなかったのだ。
「落ち着いてください。京太郎くん」
「あ、あぁ和。そっか……不倫か……」
沈黙が暫く続いた。時間が経ち彼が口を開いた。
「そうだ、和お前に弁護士を頼むことって出来ないか?」
「離婚の…ですか?」
「そうだ。」
彼女にとっては同じ仕事である。が、見知らぬ夫婦の不倫と結婚式でスピーチをするレベルの夫婦では訳が違った。だが、弱々しい彼の声を聴いていると何とかしてあげたいという気持ちが心に芽生えていた。
「いいですよ、請け負いましょう。」
※
彼は彼女の助言に従い、妻にバレないように相手の男の情報と決定的な証拠を興信所に依頼することにした。
そうして相手の有責で離婚できるだけの情報が集まりいざ内容証明を送ろうという時期の話だ。
原村和は一抹の不安を感じていた。
基本不倫された人間は息巻いて離婚したはいいもののまるですることは終わったかのように抜け殻のような状態になることが多いのだ。
今の彼女にとっては親友だった彼の妻は軽蔑すべき対象でしかなかった。それほどまでに酷かったのだ。
「京太郎くん、明日の話し合いには私も同行しますから……ね?安心してください」
「あ、あぁ、ありがとな和。ほんと良い友達を持ったよ俺は…」
彼のお金を不倫相手のプレゼントに使い込み、挙句の果てには家事の放棄。
興信所から届いたその結果を見た彼は声を荒らげることもせず、怒りに身を任せることもなく、ただただ泣いていた
女はすこしときめいた。
※
予想に反し彼の妻は意外とすんなり離婚や慰謝料の請求などに承諾した。
どうしようもなくなっていた。
少し助かったかもしれない。
不倫相手にも逃げられたというのに彼女は何処か救われたような表情をしていた。
離婚してからのの彼は見ていられない状態だった。
たまに様子を見に行った時には部屋を暗くし天井をみつめボーッとしている。
その状態が心配であると共に女はどうしようもなく満たされる気分になっていたのだ。
そうして女が彼の世話を焼き数ヶ月がたった。
「和はなんでここまでしてくるんだ…?」
弱々しい声で彼が聴いた。
「離婚したあと、抜け殻みたいな状態になった京太郎くんをみて思ったんです。『この人は私がついてなきゃダメだって』」
彼は馬鹿にされたと感じたのだろうか。女を押し倒した。
「いいですよ、あなたなら……うん京太郎くんなら」
色んな感情が一気に押し寄せてきたのだろう、彼は大泣きしながら女の身体を貪り尽くした。
※
それからの彼は徐々に快方へと向かっていった。
女はそのことに安堵はしていたがと同時に嫌だという気持ちもあった。
彼に必要とされなくなってしまう。切り捨てられる。
治るまでの間傍からみれば依存していたのは彼だが実質的なところは共依存だったのだ。ではここで問題がある。共依存であった関係が片方は依存をしなくなった、さてどうなるだろうか
答えは簡単だ。ずっと一緒にいたい、私を必要としない彼なんてダメだ。
だからだろうか。
「本日、東京都世田谷区のマンションで若い男女2人の死亡が確認されました。遺書などの内容から2人は心中だと―――」