とりあえず、令和最初の投稿は調子に乗ってこちらの「闇の書事件」のお話。相変わらず事件そのものにはさっぱり関与しませんが、最後の最期で美味しいところはかっさらっています…触れてないけど、立香の仕業ってこの時点では誰も知らないけど。
そんなお話。
闇の書事件について、か……。まぁ、私を除くわけにはいかないな。……そうだな、うん。わかってる、わかってるんだが……はぁ。
―――(あれ? なんか、予想外の反応。なんでこんなに落ち込み気味?)
あぁ、すまない。私としても色々と思うところがあるというか、複雑というか…な。
―――そう、なんですか?
己の罪も咎も理解しているつもりだ。だから、この身が消え果るその日まで、私は贖い続けなければならない。許されるかどうかの問題ではなく、それが私にできる……ただ一つの責任の取り方なのだ。
だが、その贖罪の道に我が主や騎士たちを巻き込んでしまっていることには、正直忸怩たる思いがある……と言うと、また主や将に怒られてしまうのだろうがな。
―――というか、表立って怒らないのなんてザフィーラぐらいなんじゃ……。
そうだな。ヴィータはそれこそ将のお株を奪う勢いで烈火の如く怒ってくれるだろう。
―――シャマルさんならやんわりと…でも、笑っていない目で怒りそうですよね。ザフィーラだって、表には出さないだけでしっかり怒ると思いますよ。
末っ子たちには「何を水臭い」と滾々と説教されそうだ。それも、寂しそうな顔をして……説教以上に、そんな顔をされては困る。
だから、実を言うとこのことは今まで皆には言ったことがないのだ。すまないが、オフレコで頼む。
―――まぁ……はい。
だがな、それでもやはり……申し訳ないという思いは拭えない。特に、士郎には。
―――(なんで士郎さんなんだろう? そりゃ、厳密には夜天の書の関係者ではないわけだし、わからないではないけど……それならリインさんやアギトだってそうなわけだし)
……その様子だと、聞いていないのだな。
―――あの、何を……。
士郎もまた、私の……闇の書の被害者なのだ。ハラオウン家の様に…あるいは、より直接的な。
―――え……。
主はやての先代の時のことだ。先代は…なんというか、力に対して貪欲な方だった。積極的に騎士たちに蒐集を命じ、それこそ殺生も厭わないほど強引に蒐集を進めておられた。
しかし同時に、狡猾な方でもあった。管理外世界では蒐集の効率が悪いことから管理世界を主に狙いながらも、管理局の手が及ぶのを遅らせるために主要な管理世界は避けるといったようにな。
結果、開拓地の集落を壊滅させるといったようなことも少なくなかった。
―――それって、トーマの故郷みたいな……?
確か、スバルが保護した子だったな。うん、あの二人は生い立ちが似ているかもしれない。なにしろ、その一つにいたのが……士郎だったのだから。
―――っ!
彼らは勇敢に戦った、大切なものを守るために。だが、開拓に従事する者たちの戦闘能力はそう高くはない。そんな、ささやかな抵抗はかえって先代の怒りを買ってしまったのだ。蒐集や戦闘による死者は決して多くはなかったが、生じた炎を先代は放置した。その結果……集落は炎に飲まれた。
士郎はな、その集落の唯一の生存者なんだ。
……いや、管理局とは別に闇の書を追っていた衛宮切嗣が遅ればせながら駆け付けなければ、それこそ命はなかっただろう。燃え盛る集落の中、助けを求める声を置き去りに、無残に焼かれる命を見捨てることで……士郎は、辛うじて衛宮切嗣に命を拾われたのだ。
―――……そんなことが、あったんですね。でも、こういったらなんですけど、どうして士郎さんは、その……。
今なお我らとともにいるのか、か? 当然の疑問だ。
ただ、その様子だと士郎の来歴は知らないようだな。
―――あ、はい。士郎さん、自分のこととか全然話しませんし。私にとっては、美味しいご飯を作ってくれる食堂のおじさんってイメージで、逆に他のイメージってほとんどないんですよね。クリスはああですからお世話になることもないし。
おじ……いや、懐かしいな。お前は知らないだろうが、当時局内報で「管理局一美味しい食堂」として報じられたこともある。なにしろ、六課解散の半年前の時点で高級士官用の食堂に勧誘されたこともあったし、一流ホテルやレストランから散々声をかけられもした。まぁ、結局蹴ってしまったわけだが。
―――そう考えると、私スゴイ贅沢な環境で育ってたんですねぇ。
そういえば、ヴィヴィオを引き取ることを決めた後、なのはも随分と悩んでいたな。“ヴィヴィオが士郎さんの味を基準にしちゃったらどうしよう……”とな。がっかりさせたくないからと、こっそり士郎に教わったりしていた……しまった!? これは言ってはいけないんだった。すまないが……
―――? ヴィヴィオは何も聞いてませ~ん♪ ただ、ママに“いつも美味しいご飯ありがとう”とは言うかもしれませんが。
そうしてくれ。
―――で、六課解散後は八神家の専業主夫、と。あ、でも確か、お知り合いのレストランとかホテルにヘルプに行くことはあるんですよね。しかも、ほとんどが一流とか高級とかがつく。で、偶に騎士カリムとかの依頼で刀剣系のアームドデバイスを手掛けてるんでしたっけ。
ああ、なんでも受けていると大変なことになるからな。主の提案で、知り合いの紹介に限定しているんだ。そうでもしないと、限界ギリギリまで受けてしまうからな、士郎は。
まぁ、デバイスマイスターとしては事実上、半ば将の専属のようなものだが。
―――加えて、アインスさんがマネージャーとして調整してるんですよね。
……そうしないと、他の仕事もどんどん入れるからな。いくらリインやアギト、主やシャマルも家事を手伝うとはいえ、ヘルプにデバイスにと……自分のキャパシティは平気で無視する男だ。本当に、頭が痛い。
―――あ、あははは……そういえば、ミウラさんに聞いたんですけど、八神家道場に通うようになったのは士郎さんの紹介って本当なんですか?
ああ、そうだよ。ミウラのお父上とは店を開く前、当時働いていた高級ホテルのヘルプに行った時に知り合ったらしい。開店間もない頃や、ニュースや雑誌で取りざたされて忙しい時には今も手伝いに行っている。
かけがえのない、士郎の良き理解者だ……っと、話が逸れたな。
―――あ、そういえば……たしか、士郎さんの過去でしたよね。
ああ。
―――でも、私が聞いちゃってもいいんでしょうか?
昔のことを話すなら、そこに触れないわけにもいかないさ。士郎も、わざわざ話さないだけで別に秘密にしているわけでもないからな。
―――それなら、まぁ……。
衛宮切嗣に拾われた後は、彼に頼み込んで助手としてついて行っていたらしい。
一人でも多くを助けるために……ただそれだけなら、局員を目指すという手もあった。だが、士郎は知っていた。
管理局は法の下に動く組織だ。だからこそ、動きたくても動けない時、手が回らない場所、対処できない事案というものが存在することを…身を以て、な。
だからこそ、アイツは衛宮切嗣の後を追おうとした。管理局の手が及ばない場所、動けない時、対処できない事柄を処理する……それは、一般的な倫理や道徳で見れば善しとはされない、いうなれば“闇の正義”の執行者として。
―――そういえば、衛宮切嗣さんってどんな人だったんですか?
……難しいな。直接面識のある者自体が少ないし、士郎自身まだ当時は幼かった。彼の人物像、在り方を正しく把握できていたかというと……だから、情報はどうしても断片的なものになる。
それでも、一言で言うなら“傭兵”だろうな。依頼を受け、金銭を報酬に活動する……とはいえ、どちらかと言えば“殺し屋”あるいは“暗殺者”というのが妥当かもしれない。
法の目をかいくぐる違法研究者、強力な力を有した武装組織、そういった連中を相手に真っ向から仕掛けるのではなく、彼らの死角を、盲点を突く形で無力化する。例え、どんな手段を使ってでも。そういう男だったようだ。
ただ、根底の部分でなにを考えていたかはよくわからない。彼は戦場にも赴いていたようだが、どれも戦況が最も激化した時期だったらしい。同時に、ロストロギアの収集にも精を出していたようで、闇の書事件の後彼の集めたそれらは管理局が預かることになったが、相当な量があったそうだ。
これだけ派手に動いていた分、界隈では相当に悪名が広まっていたらしいがな。何しろ、同業者からすら“外道”の烙印を押された男だ。管理局でも、危険人物の一人としてマークしていたようだ。
ただ、裏で一部の高級局員や聖王教会の上役とも繋がっていたのだと思う。そうでなければ、騎士たちが動き出す何年も前から、主の下に士郎がたどり着けるはずがないからな。
―――じゃあ、士郎さんはずっと切嗣さんの指示を受けてたんですか?
……いや、士郎が主と接触した時にはすでに帰らぬ人だったらしい。確か、患っていた病が急激に悪化したのが原因だったと聞いている。
そして、衛宮切嗣が病に倒れる前に受けた仕事を士郎が引き継いだのだと。まぁ、士郎自身その仕事が誰からもたらされたかまでは知らなかったようだが。彼は士郎を助手としていながらも、徹底して依頼主などとは会わせなかったそうだ。
―――切嗣さんなりに、士郎さんのことを心配してたんですかね?
まぁ、それも完全ではなかったようだが。おそらく、騎士カリムなどはその当時の士郎と面識があるはずだ。
―――え、そうなんですか!?
なんでも、主に付き添って聖王教会に行った……というか、相当に抵抗するから連行したらしいが。その際、騎士カリムに明らかに動揺し、騎士カリムも少し驚いていたそうだ。それに、シスター・シャッハも難しい顔をしていたと聞いている。まぁ、ヴェロッサは無反応だったようだが。
―――どんな関係だったんでしょうね?
それが、何を聞いても三人とも答えてくれないのだそうだ。士郎はあからさまに話題をそらすし、騎士カリムは鉄壁の微笑みで寄せ付けず、シスター・シャッハは不機嫌そうな顔で「あんな人は知りません」の一点張りだ。
―――結構複雑な間柄なんでしょうか?
実を言うと、主は少し騎士カリムを警戒していてな。
―――え? でも、お二人って仲いいですよね。こう、姉妹みたいというか……。
無論、邪見にしているとかそういうことではない。ただ、士郎のことに関しては、ということだ。
なんでも、騎士カリムの士郎を見る目が怪しいとかなんとか……。
―――まぁ、士郎さんぶっきらぼうに見えてあれで結構ドン・ファンですもんね。
一途な男だから、主以外の女性に手を出すような真似はしないだろうが、それはそれとして他意なく「可愛い女の子は好き」とかいう男だからな。困ったものだ。
まぁ、それはともかく。そういった経緯で、士郎は主に接触した。
そのあとのことは知っての通りだ。士郎はヘルパーとして主の下を通うという形で監視し、主の覚醒を待った。そこで監視役に徹しきれず、料理をはじめアレコレ教えていたのは、実に士郎らしい話だが。
―――でも、その間に何かがあったんですよね。だって、そうじゃなかったら……
ああ。いつからかはわからないが、士郎はきっとずっと悩んでいたのだと思う。
夜天の書…いや、闇の書の悲劇は繰り返されてはならない。他ならぬ士郎自身が、誰よりも強くそう思っていたはずだ。
だが同時に、願っていたんだ。どうかこのまま、主が覚醒の日を迎えることがないようにと。
そして、一つのきっかけがあった。主の誕生日の少し前、夜二人で星を見上げながら贈り物には何が欲しいかと。
―――八神司令は、なんて?
………………………「本当の兄妹になりたい」と。
それ以前から、主は「しろ兄」と呼んで士郎を慕っていた。だが、同時にわかっていたんだ。士郎がご自身を見る目が、時折ひどく辛そうな、あるいは苦しそうな目をしていることに。
はじめは、その目がひどく嫌だったのだそうだ。同情か、憐みの目で見られているのではないかと。士郎以前にもヘルパーはいたが、そういった目で見られるのが嫌で長く同じ人物に通ってもらったことはないらしい。それこそ士郎も、しばらくしたら……そう思っておいでだったそうだ。
しかし、主は聡い方だ。だから、お気付きになられたのだろう。士郎の目が、今までの誰とも違うのだということに。そうして二人の関係は続き、いつの間にか兄妹の様になっていた。主ご自身も、いつから「しろ兄」と呼ぶようになっていたかは憶えておられないそうだ。
―――それで、「本当の兄妹」なんですね。
主は、ご自身の命が長くないことを察しておられた。きっと、大人になることなく……と。
あの頃から、主は士郎を好いていたよ。だが、ご自身の幼さや長くない余命をよくご存じだった。だから、恋人やそれ以上など望むべくもない。ならせめて「兄妹」に、「家族」になりたいと願ったのだ。
家族ならば、きっと士郎は長くご自分を憶えていてくれるだろうから。士郎の“疵”としてではなく、優しい“思い出”として。
きっと、主も心のどこかで気付いておられたのだろう。士郎の“歪さ”に。だからこそ……
―――歪さ、ですか?
我らは、士郎にとって仇だ。それと家族になるなど、普通ではない。
―――でも、リンディさんやクロノさんは……。
確かに、お二人にとってもそうだろう。だが、士郎にとって我らはより直接的な仇だ。
なにしろ、直にその目で見ているのだからな。騎士たちが、自身の故郷を蹂躙する様を。
だというのに、士郎は一度として我らに恨み言を口にしたことがない。それどころか、自分から過去のことに触れたこともない。
そして、騎士たちが主を救うべく誓いを破ろうとしたあの日、己の知る全てを明かして懇願したのだ。主を救うために、共に死んでくれと。
―――そういえば、映画でもヴィータさんたち言ってました。ママたちが夜天の書のことを話そうとしたら、「こちとら全部承知の上でやってんだ」って。
そういえば、そういうものもあったな。
―――それでヴィータさんはママに、シグナムさんはフェイトさんに……。
ああ、アレは事実だよ。主は二人にとって何なのかと問い、あの子たちは「友達」と答えてくれた。
だから、将たちは二人に託そうとしたのだ。騎士たちを、兄を失って一人残される主と、あの大馬鹿者の真実を。
―――確か、元々は士郎さんが黒幕扱いにする計画だったんでしたっけ。
士郎はそのつもりだったし、確かに主をお守りする上ではそれが最善だ。
だが、同時にそれは主を酷く傷つける最悪の嘘でもある。なにより、主ならいずれその嘘にお気付きになる。その段になって、真相究明に動かれてはことだ。万が一にも真相にたどり着かれでもして、それを公表されたらどうなる。せっかくの嘘が台無しだ。
ならばいっそのこと、信頼できるものに真実を委ねようと決めていたのだ。どうか士郎の思いを汲んで、真相を闇に葬ってもらうために。
―――でも、ママたちは納得しなかった。
泣きながら怒っていたよ。「そんなのないよ」「そんなに愛しているのにどうして」とな。
ふっ……衛宮切嗣も、まさか士郎が主のために命を捨てるとは思わなかっただろう。
もしかすると彼は、士郎を救うためにあの仕事を受けたのかもしれん。士郎の歪み、そのきっかけとなった闇の書。その悲劇の連鎖を止めることで過去に決着をつければ、あるいは……と。
しかし、実際には士郎は自らのうちに封印することで主の身代わりとなり、当初の予定通り虚数空間に身を投じることで連鎖を断とうとしたのだから。
―――そういえば、士郎さんはどんな夢を見てたんですか? やっぱり、八神司令との日々? それとも、故郷の……
……いいや。士郎には夢は見せていない。
―――え、どうして……。
簡単な話だ。士郎を取り込んだ時、私は知ってしまった。その心のうちは、故郷のような焦土となり果てているのだと
―――焦、土?
実感がわかないかもしれないが、士郎はそもそも生きるのが辛いのだ。息をしているだけでも苦しく、幸福であればあるほどに……。士郎にとって、生きるということは溺れているのと同じなのさ。ある意味、誰かの不幸に直面した時だけ自らの生に意義を見出せる。そんな歪んだ男なんだ。
私はそれを、士郎を取り込んだ時に知ってしまった。初めはせめてもの感謝と思い、優しい夢を見せようと思っていた。だがその過去を、心の在り様を知って……どうして夢を見せようと思う。
なにも見せず、ただ静かに眠らせる。それこそが、それだけが私にできる唯一のことだった。あの時、私は本気で思っていたんだ。“死”こそが、士郎の救いなのではないかと。
さっきトーマの名前が出たが、あの二人は似ているようで似ていない。
実を言うとな、あの子の生い立ちを聞いて一度士郎と会わせてはどうかという話になったことがある。だが、私と主、それに士郎が反対したんだ。きっとあの子は、士郎を受け入れられないだろうから。
―――そう、でしょうか?
ハラオウン提督の様に遺恨を飲み干したのではなく、士郎はそもそも我らに恨みや憎しみを欠片も抱いていない、抱くことすらできない。
トーマはきっと、大なり小なり犯人を憎んでいるはずだ。そしてそれは、人として当然の感情でもある。
だからこそ、彼にとって士郎は理解できない“ナニカ”に映るだろう。ハラオウン提督ですら、昔は士郎のことを苦手にしていたからな。
―――私の知ってる範囲だと、割と仲良くしてる気がするんですが……。
性格的に相性は悪くないからな。放っておけない妹を持つ身として、シンパシーもあるだろう。海鳴にいた頃は、恭也と三人で縁側でよく茶を飲んでは、妹たちに「枯れている」「若さが足りない」と酷評されていたそうだ。
要は、士郎の歪みに関連する感情にさえ折り合いがつけられればいいんだが……言うほど簡単ではない。提督の場合、すでに過去の遺恨は飲み込んでおられたのも大きいだろう。
だが、トーマはそうはいかない。あの子が士郎と会うのは、まだ早い。
―――もしかして、さっきちょっと落ち込んでたのって……。
まぁ、そういうことだ。士郎には言わないでくれ。きっと、余計な気を遣わせてしまうだろうからな。
それに、別に責任を感じてばかりというわけではないんだ。昔に比べ、士郎はずいぶんと穏やかに笑うようになった。今思えば、昔はどこかぎこちなさがあったが、さすがは我らが主だ。
―――どういうことですか?
さて、夫婦のことだからな。私からは言えないよ。
―――え~! ここまで話しておいてそれはないですよぉ~!
(かつて主はやては事件の後、士郎を散々詰った上で“苦しいなんて思えないくらい、最高にハッピーにしたるから覚悟しとき”と宣言しておられた。そして、プロポーズの言葉は“まだまだこれからや。もっともっと、世界一幸せになるんが私らの未来なんやから、楽しみにしててな”だったと。
ありがとう、衛宮切嗣。主はやてと士郎を引き合わせてくれて。そして、見ているか。あなたが思っていたものとは別物だろうが、それでもあなたの息子は―――――)
* * * * *
「モグモグ……それで、こんなところで何してるのさ。あ、これ美味しい。モッキュモッキュ……」
「どれどれ、ヒョイパク」
割と年季の入ったアパートの二階、ワンルームの和室の中央に置いたちゃぶ台には似合わない彩り豊かな洋食の数々に箸を伸ばす立香と金髪の美青年。普通ならせまっ苦しい部屋に男二人ではむさくるしいことこの上ないはずなのだが、目の前の爽やかイケメンの前では「むさくるしい」の「む」の字も出てこない。
いくつかの皿に盛られた可視化された女子力の塊を箸でつつきながら、作り手と持ってきてくれた少女へ感謝の念を送ることも忘れない。
ただし、いくら美味しいからと言っても際限なく食べるのはだめだ。
「ムグムグ……ふむ、これはなかなか…ヒョイパクヒョイパク」
「あ、取りすぎ!?」
「いいじゃないか。何日か分まとめて持ってきてくれてるんだし」
「と言っても、あくまでも俺が一人で食べる前提だから! 大食漢の同居人は想定されてないから!!」
そのまま、醜いおかずの奪い合いに発展するが、相手が悪い。すました顔で優雅に、しかし確実に
まぁ、彼とて鬼ではないので、しっかり立香の分のおかずは残してくれているわけだが……数日分がほぼ一日で消費された事実は消えない。
だから、箸を咥えながら恨みがましい目を向けても仕方がないだろう。
「……サーヴァントは食事いらないんじゃなかったっけ?」
「それはちゃんとした契約者がいて、なおかつ十全な魔力供給が受けられればの話だね。足りない分は、別の方法で補うのが魔術の常道だろう? かといって、魂喰いなんて論外。となれば、後は食事での補給になる」
「ぐう……」
「ぐうの音も出ない……というわけではないみたいだね。まだまだ余裕じゃないか」
甲冑姿のままズズッとお茶を啜る騎士様。なんというかこう……和室ということも相まって死ぬほどミスマッチだった。
「……一応聞くけど、私服というか現代風の服ってあるの?」
「ん? これなら……」
そういって現れたのは真っ白のタキシード。似合っている、それはもうすごく似合っている。絵本か恋愛小説か、はたまた少女コミックの世界から現れたかのような非の打ちどころのない王子さまっぷり。なんというかこう、意味もなくキラキラ輝いていそうに見える。その輝きは百万ドルの夜景かキラキラ王妃様にも比肩するだろう。おかげで、危うく目がつぶれるところだった。
とはいえ、そんな恰好で街を出歩けるかと言えば……
「無理だよなぁ……」
一歩外に出れば、逆ナンとスカウトの嵐に見舞われること間違いなしだろう。
それ以前に、TPO的に不釣り合いだ。不適切ではないが、浮いてしまう。
「……はぁ。とりあえず、明日何か買ってくるか。安物になるけど、勘弁してよ王様」
「すまないね、苦労を掛ける。この礼は、いずれ必ず」
居住まいを正し、真面目な顔と感謝の言葉には確かな誠意が感じられた。
「でも、そんなに貧乏なのかい?」
「こっちにいる時間がものすごく不定期なんだ。数時間の時もあれば、数日いる時もあるからね。おかげで、バイトも入れられやしない。だから、基本は日雇いで何とか……」
一つ溜息をついて、残り少ないおかずを口に運ぶ。ゆっくり咀嚼して味わいながら、白米を一口。
白米のお供には著しく向いていないが、贅沢は言わない。むしろ贅沢を言えば罰が当たる。この場合、パンを用意できないくらい赤貧の立香が悪いのだ。ちなみに、炊飯器は中古のものをさらに値切りまくり、米は品質の怪しさに目をつむって購入している……健康面には著しい不安があるが、やむを得ないのだ。だって、先の理由でお金がない。
「……とりあえず、僕も仕事を探そう。何か紹介してくれないかい?」
「ホストでもやる? 絶対即日ナンバーワンになれると思うけど」
「ハハハハ! 君の冗談は面白いね」
(目が笑ってない……冗談にしないと『マジ許さん』と目が言ってる)
まぁ、彼は彼でいつここを去るかわからない身の上だ。腕力は折り紙付きだし、立香同様日雇いの肉体労働が妥当なところだろう。
(天下の騎士王、“ブリテンの赤い竜”アーサー・ペンドラゴンが極東の地方都市で日雇いの肉体労働……イギリス人が知ったら発狂するな)
この点に目をつぶりさえすれば、だが。
「それで話を戻すけど、なんでこんなところにいるのさ?」
「いつもと同じさ。獣の気配を追っていたらこの世界に出た」
「つまり、ビーストが現れる?」
「さて、それはどうだろう。ここはあくまでもただの通過点かもしれないし、たまたま立ち寄った可能性も否定はできない。逆に、ビーストが顕現することも否定できないのだけど。あるいは、もっと別のナニカかもしれないが」
「…………」
アーサーの言葉に、難しい顔をして考え込む立香。何も起きないに越したことはないが、何か起きたとして果たして自分には何ができるだろう。あるいは、立香がこの世界に紛れ込んだのはそれに備えてなのかもしれない。
とはいえ、現状ではサーヴァントを呼ぶことは非常に困難だ。念のため、できる限りの準備はしているが、それでも……。
それに、一つ気がかりなことがある。
(フェイト……)
「一ついいかい、立香。さっき、君にこの差し入れを持ってきた子だけど、彼女は何者だい?
あの年で、随分と良い足運びをしていた。筋も良さそうだし、既に相当な腕だろう。そんな子が、戦いの気配を帯びていたのは、穏やかとは言えない」
アーサーの言わんとすることはわかる。立香には、見ただけで相手の力量がわかるような眼力はない。
ただ、数多の経験からフェイトがアーサーの言うところの「戦いの気配」を帯びていることは察することができた。
アーサーの見る目は確かだろうし、戦いに赴くことへの不安はあるが、ある程度の実力があるというのは安心材料だろう。とりあえずは、アーサーの質問に答えることにした…のだが。
「ふふっ……」
「どうしたの?」
「いや、随分とあの子に入れ込んでいるようだからね。もしや……」
「そういうのではありません。あくまでも、フェイトは友達。あるいは……恩人だよ。今俺が立っていられるのは、フェイトと会えたからだ。フェイトを見ていると、俺も頑張らなきゃなって思う。あの子に恥ずかしくないように、さ」
「そうか、それは良かった。友人として、君の性癖を受け入れるべきか矯正すべきか、どちらなのかと……」
「お゛い……」
思わずドスの利いた声を出せば、“もちろん冗談さ”と肩をすくめる騎士王であった。
「ところで、これは彼女の手作りかな?」
「ん? いや、確かリンディさん……保護者の人が作ってくれたものらしいよ。
男の一人暮らしは栄養が偏るからって気を遣ってくれてるんだ」
「なるほど。どちらかと言えば、懐事情のせいで偏りがちみたいだし、有難いことじゃないか」
「そう思うなら少し自重して」
ジト目を向ければ“善処しよう”とにこやかに返してくる。
しかし、こういう話をしているとどうしてもフェイトと再会してからのことが思い出される。
何とか日雇いの仕事で借りる部屋と最低限生きていく上で必要な物品を揃えられ、この世界での不定期の滞在にも慣れた冬のある日。
肉体労働を追え、貰った給金にちょっとホクホクしながら「帰りにコロッケでも買って食べるか」と、ささやかな
なぜか一度だけ見たアルフの狼形態の縮小版のような子犬を連れ、あの時よりも少しだけ背が伸びた女の子。だが、身にまとう雰囲気があの時とは別人のようだった。
張り詰めて張り詰めて、今にも切れてしまいそうだった危うさは最早なく、共に過ごす中で垣間見えた穏やかさが見ただけで伝わってくる。それは本来の、フェイト・テスタロッサの姿だった。
あの優しい少女は、今はもう
もう一度会える気がしていた。
あの時フェイトに言った言葉は正しかったのだと。
フェイトもまた驚きに目を見張り、やがて目尻にうっすらと涙を浮かべながら立ち尽くしていた。
ゆっくりと立香が歩を進めれば、“アワアワ”と慌てだす。どうやら、頭が真っ白になって何を言えばいいかわからなくなってしまっているらしい。助け舟を出すべきかと思ったが、その前に子犬がフェイトの後ろに回ってグイグイ足を押していることに気付く。
どうやらここは、フェイトから切り出すのを待つべきだろうと察し、手を伸ばせば届く距離で足を止める。
そして、最後の一押しとばかりに勢いをつけた子犬により、一歩を近づくフェイト。
間近から立香の顔を見上げた彼女の混乱はいよいよ頂点に達したようだったが、それでも辛抱強く待つ。少し視線を下げれば、“それでいい”とばかりに子犬が満足げに首を縦に振っていた。
そうして待つことしばし、ようやく少しだけ落ち着いたフェイトはしっかりとした眼差しで立香を見る。
「スー、ハー……は、初めまして! フェイト・テスタロッサです! あの! 良ければ、私と友達になってくれませんか?」
不安に瞳を揺らしながら、それでも最大限の勇気を振り絞っただろう言葉。もちろん、答えなど決まっている。
「藤丸立香です。俺でよければ、喜んで」
差し出された手を優しく握れば、心底ほっとした様子でほほ笑むフェイト。そこにはかつてあった翳りは微塵もなく、それだけでこの半年が彼女にとってとても優しく暖かなものだったとわかる、そんな笑顔だった。
それをもたらしてくれた、フェイトを救ってくれた、顔も知らない誰かに立香は心からの感謝をささげた。
その後、久しぶりの再会ということもあって互いの近況について伝え合う。
もちろん、言えないことは多いがそれはフェイトも同じようなのでお互いさまということにしておく。
その時はそれで別れたのだが、翌日フェイトは立香のアパートに突撃を仕掛けてきた。驚くべき電撃作戦だった。
なんでも、今お世話になっている保護者の人が差し入れを用意してくれたというのだ。ちなみに、フェイトも毎回手伝っていたらしく、しかも徐々に比率がフェイトメインに変わっていき、一年も経つ頃にはほぼフェイトが作っていたと知ったのはずいぶん後のことだ。
とはいえ、この頃には全く知らないことだし、知っていたとしてもせっかく作ってくれたものを無碍にするなどできるはずもない。そもそも、割と赤貧の立香にとっては何よりの救援物資だ。有難く頂戴し、持ってきてくれたフェイトを含め、あらん限りの感謝を伝えた。
とりあえず外で話すのもなんだからと、若干世間体に不安をおぼえつつも部屋に入れて昨日の近況報告の続き。ちなみに、その日例の子犬は同行していなかった。後に子犬ことアルフは「馬に蹴られたくなかったからねぇ」と語る。その言葉が示す通り、彼女はフェイトが立香のところに来るときは決して同行しなかった。
それはともかく、話す中でフェイトは今お世話になっている人たちに感謝しつつもいささかの遠慮があることに気付く。
(フェイトの性格上、遠慮するなとか甘えろとか言っても……無理だよなぁ。でも、本音はもっと仲良くしたいと見た! となれば、フェイトにもできそうなところから……)
と思案し、一つの提案をする。
「そういえば、その人たちってこの辺の地理には明るいの?」
「え? あ、どうだろう。ある程度は知ってると思うけど……」
実際にはあまり街に降りたことはなかったので、情報として知っている程度。フェイトもそのことを知っているので、表現に気を遣いながらそのように答えてくれる。となれば、あとはしめたもの。
「だったら、買い物の時とか一緒に行って案内してあげるといいよ。フェイトはこの街のこと、それなりに知ってるでしょ?」
「ま、まぁそれなりに……」
(慣れてきた頃を見計らって、今度は逆に自分から誘うように仕向けて、そのあとは……)
恥ずかしそうにしつつもソワソワしているフェイトに、それが彼女の本心に沿っていることを確信する。
遠慮して甘えられないのなら、少しずつ削ってなし崩しに甘えさせてしまえばいいのだ。ちょうど、半年前に立香がやったように。
そのまま若干悪い顔をしつつその後のプランを考える立香。最終目標は、フェイトがワガママやおねだりができる関係性。余計なお世話かもしれないが、フェイトの幸せには必要なことだろう。
と思っていたのだが……
(まさか、すぐに感謝の手紙がくるとは思わなかったよなぁ)
次にフェイトが来た時の差し入れの容器に忍ばせてあった手紙には、立香への感謝と今後もフェイトをよろしくという文面が書かれていた。どうやら、出かける際にフェイトが勇気を振り絞って案内役を買って出た時の様子に、少しばかり違和感を覚えそれとなく聞いたらしい。普段、どれだけフェイトのことをしっかり見ているのかということだ。
加えて、おおよその狙いまで看破されたのには戦慄を禁じ得ない。正直、「この人コエー!」と思ったのは秘密である。
ちなみに、お返しとばかりに「私たちだとわからないことも多いし、なのはさんも
「なんか、ごめんね。色々やってもらっちゃって」
「ううん。前は私がお世話になったんだから、少しくらい返させて」
「俺にできることがあれば何でも言っていいんだよ。例えば、勉強とか。な~んて……」
「じゃ、じゃあ、お願い…していい?」
(え? でジマ?)
差し入れを持ってくる際に掃除や洗濯の手伝いをしてくれるようになり、割と雑というか適当な立香に対し、女の子らしい細やかな気配りを見せるフェイトには正直感謝していた。
なので、少しでもお礼ができないかと思っての提案は、見事に保護者の方のアドバイスと合致。
結果、「差し入れを持っていく→そのまま家事手伝い→勉強を教わる」という流れが定着。立香は文系の方が得意だったことと、サーヴァントとの付き合いのおかげで歴史系に強かったのが幸いした。特に歴史系は割と雑学まみれになりがちだったが、フェイトからは「面白い」と好評を博す。
実際、後に内容をかいつまんで聞いた彼女の友人の一人は「どこの予備校の名物講師よ! 私にも教えなさい!」と騒ぎ立てたとか。まぁ時々、「沖田総司女性説って、斬新すぎるでしょ」と呆れられたりもしたが。
余談だが、妹分のためにわざわざ異世界の歴史を学んだ、多忙なはずの某真っ黒クロスケがorzしたとかしないとか。
そんな感じの日々を送っていたある日、立香はフェイトに続きちょっと思わぬ再会を果たした。それが目の前の騎士王様である。
この部屋には風呂もシャワーもないので、近くの昔ながらの銭湯を利用している。夜通しの仕事を終えたその帰り道、「そういえば今回は長いなぁ」とこちら側に思いのほか長くいることをかみしめていると、現界したばかりの彼とバッタリ遭遇。とりあえず、行く当てもないだろうしと部屋に招いたのが今朝のことだ。
今日もフェイトが差し入れ兼家事手伝い兼勉強を教わりに来たのだが、その間は霊体化して身を潜めていた。なにしろ、甲冑姿の外国人とか怪しいにもほどがある。
そうして現在に至るわけだが、立香もアーサーの言うことには薄々気付いていた。だから、これは丁度いい機会なのかもしれない。
「ねぇ、アーサー」
「なんだい?」
「一つ、頼まれてくれないかな」
半年前に続き、また今回も何もできないことに忸怩たる思いはある。
フェイトはきっと、あの時と同じように頑張っているのだろう。違いがあるとすれば、それはしっかりと胸を張って誇れることだということ。今の彼女を見れば、あの時とは違うことが良くわかる。
だから、止めようとは思わない。あれで意志が強いというか頑固な子だし、その意思は尊重したい。
とはいえ、やはり心配なものは心配だ。しかし、立香自身にできることはないとしても……
「できる範囲で良い。フェイトを、助けてほしい。この通り」
「……まったく、頭をあげてくれ。そんなことをしなくても、友の頼みを無碍にするはずがないだろう。この剣にかけて、君の小さな友人を守ろう」
そう言い切ってくれる友には、本当に感謝しかなかった。
とはいえ、立香たちもまさか事件の舞台がこの星の外にまで及んでいるとは思いもしなかった。
おかげで、少なくともアーサーの見ている範囲でフェイトたちが荒事の渦中に晒されるようなことはなく。
時は進み、世は聖夜。誰もが祝福されるべきその夜になってようやく、彼らはその機会を得たのだ。
「お願いヴィータちゃん! 話を聞いて!」
「闇の書は悪意ある改変を受けて壊れてる。このまま完成させても、はやては……」
「……それがどうした」
「「え?」」
「それがどうした、つってんだ! こちとら、そんなもん全部承知の上でやってんだよ!」
はやてが入院する病院の屋上で、何とか守護騎士たちの説得を試みようとするなのはとフェイト。だが、返ってきた答えは予想外のものだった。
病室で見たはやてと守護騎士たちの間に確かに感じられた絆。だからこそわからない、どうして破滅の未来しかないとわかっていながら、闇の書を完成させようとするのか。思いもしない答えに絶句する二人に、感情を押し殺すように震えるヴィータの肩に手を置きながら、シグナムが問い返してきた。
「こちらからも一つ聞きたい、テスタロッサ。主はやては、お前たちにとってなんだ」
一瞬、その質問の意図が見えずに困惑する二人だったが、答えは簡単だった。
「……友達だ」
「今日初めて会ったばかりだというのにか」
「時間なんて関係ないよ。会って、お話しして……私ははやてちゃんと友達になりたいと思った。それ以上の理由なんて、いらないよ」
「………………………………そうか。確かに、その通りなのかもしれんな。お前たちはどう思う?」
「……私はいいと思うわ。この子たちなら……信じられる。ヴィータちゃんは?」
「正直、気に入らねぇ……だけど、馬鹿みたいに人の事情に首を突っ込みたがるこいつらだったら……だぁもう! おい! 高町な…のは」
(ぁ、私の名前……)
「はやてを頼む。あたしたちはもう、一緒にいられねぇから」
「それって、どういう……」
「散々あなたたちに迷惑をかけておいて、こんなことを言えた義理じゃないのはわかっているわ。だけどそれでも、はやてちゃんのこと…どうか、お願いします」
「なにを……何を言っているんですか!? シグナム!」
「初めて会った時から、お前たちには迷惑をかけてばかりだったな。
挙句の果てに、我らの嘘につき合わせ、お前たちに重荷を背負わせるのだから……詫びねばならないことばかりだ。許せ、とは言わん。だが、どうしても必要なのだ。真実を知る者が」
訳が分からず問い質せば、返ってきたのはこの事件の真相。守護騎士たちが何を思い、何を願い、何を為そうとしてきたのか。
それは、騎士として、家族として、愛する者のためにできる精一杯の足掻きだった。
そうして役者が揃う。はやてを横抱きにした士郎が遅れて姿を現せば、そこには両目に一杯の涙を湛えたなのはとフェイト。
状況についていけず困惑をあらわにするはやてだが、士郎はその意味を即座に理解した。「秘密にするって言っただろ」と思うも、守護騎士たちの意図もわかる。だからこそ、彼も腹を括った。嘘を塗り重ねるのではなく、せめて最後は……。
「ごめんな、こんなことしかしてやれない、ダメな兄貴で」
「……ちゃう、そんなんちゃうやろ! どうして、こんな……!」
(ダメだな、俺は。結局、お前を泣かせることしかできないんだから。
昔
これから家族がやろうとしていることを理解し、滂沱の涙を流すはやて。それが彼女の望みから遠くかけ離れたものだとは承知していたが、やはり胸が痛んだ。
同時に脳裏に浮かんだのは、随分前に数度だけあった金髪の少女。穏やかな微笑みと声音で……彼の歪みを指摘した優しい人。彼女の言葉の正しさは理解していたつもりだが、改めて思い知る。結局は彼女の言う通り、間違えてばかりの人生だった。こんな自分の行く末を案じ、「いつでも頼っていいんですよ」と言ってくれたというのに、懐かしさがこみ上げると同時に申し訳なく思う。
だがそうとわかっても、決意は揺らがない。どれほどに歪で、愚かだったとしても……誰かを守りたいという思いは、間違いの筈がないのだから。それに、なにより……
「……兄貴は妹を守るもんだからな」
間もなく、書完成のために守護騎士たちが別れの言葉と共に消えていった。それと共にはやての前に浮かび上がった闇の書は漆黒の輝きを放ち、はやての身体を包み込んでいく。
だが突如としてはやてと士郎が入れ替わり、寸前のところで光に飲まれたのは士郎の方。思わず手を伸ばすはやてだが、「これでいい」とばかりに士郎が本当に安らいだ笑顔を浮かべて消えていく。
ずっと頭の中を「なぜ?」という言葉が駆け巡っていたが、ようやく気付いた。はやてがかつて口にした願い、彼はそれを叶えようとしているのだと
「ぁ、私…そんな、そんなつもりで……」
伸ばされた手は届くことなく、虚しく宙を彷徨う。
やがて黒い光の中から姿を現したのは、どこか見覚えのある銀髪の女性だった。
「どうかお聞き訳を、我が主。これは我らの、そして士郎の望みなのです」
「せやけど! しろ兄も、みんなもいなくなったら、私はまた……」
「いいえ、一人ではありません。あなたには身を案じる友と、無限の可能性があるのです。今は寂しくとも、きっと彼女たちがあなたを支えてくれるでしょう。いずれは新たな家族を得る日が来るでしょう。あなたは、幸せになれる。幸せになってよいのです。それが、我らの願い。ですから……」
「でも! そこにはみんながおらん! みんながいない幸せなんて、そんなん幸せやない!」
「はやて……」
「はやてちゃん……」
泣き叫ぶはやてに、なんと声をかければいいのかわからないフェイトとなのは。理屈としては目の前の銀髪の女性、闇の書の管制人格の言うこともわかる。だが、納得できるはずもない。他ならぬはやてが、それを受け入れられずにいるし、彼女たちもそれでいいとは思えないのだ。
「お聞き訳を、我が主。我が儘はご友人に嫌われます……なにより、士郎にとってはこれこそが救いなのです」
「なにを、言って……」
「この男の心は空っぽです。いいえ、それどころか一度は壊れた、ツギハギだらけのその心は……酷く歪なのです。彼にとって、この世界は苦界と同じ。生きることは苦行であり、幸福は自らを苛む毒でしかない。あなたとの日々ですら……ならばせめて、唯一持てた人間らしい望みを叶え、夢を見ることさえない静かな眠りにつく。それこそが士郎への救いではありませんか」
その言葉を、はやては否定できない。薄々勘付いていた、士郎の異常性、心の歪さ。
しかし、確かな形を伴って突き付けられたそれは、はやてにとって自らを貫く刃に等しい。
士郎との時間は、間違いなく幸せだった。あるいは、士郎にとってはそうでなかったと言われた方がまだましだったかもしれない。だが、実際には彼も幸せを感じてくれていた。嬉しいことだ、嬉しいはずなのに…それが彼を苦しめていたというのなら、己の存在は害にしかならないのではないか。
(しろ兄と一緒にいたい、たとえ短くてもみんなと幸せに……それは私の我儘なんやろか。その我儘に突き合わせて、あまつさえしろ兄を苦しめて……私のために死ぬ。だとしたら私は、生まれてくるべきやなかったんじゃ……)
「違う、違うよはやて! 生まれてくるべきじゃなかったなんてあるはずない!」
「そうだよ! お願いだから、そんなこと言わないで!」
「二人とも……でも、私は……」
声が漏れていたのか、懸命にはやての考えを否定する二人。
確かにその通りなのかもしれない。でも、そうだとしても……大切で大好きな人たちに死を選ばせる。そんな自分が、何よりもはやては許せないのだ。
だがそこへ、聞き覚えのない声がはやての思考を遮った。
「本当に、それでいいのかい?」
「あな、たは?」
「なるほど、死が救いになることもあるだろう。大切なものを守るために死を選ぶ、それは尊い選択かもしれない。少なくとも、僕にはその選択を否定することはできない。
でも、果たして…………それはこの子の望みなのかな?」
「何者か知らないが、余計なことはするな。主のご意志に沿っていないことは承知している。だがそれでも、我らは選ばなければならないのだ。主を救うために消えるか、諸共消えるか。士郎も同じだ。己を犠牲にするか、主を犠牲にするか。そして、我らは前者を選んだ。たとえそれが、主への裏切りだとしても」
「なるほど、時には選ぶこと自体が答えになる。だとすれば、それが君たちの答えか。だけど、君たちに選択の自由があるのなら、彼女にもまたその自由があるべきじゃないのかな。
もう一度聞こう。本当に君は、君たちはそれでいいのかい?」
目深にフードをかぶった青年の問い。
いいはずがない。それでいいはずがないのだ。そんな決断も、そんな未来も認められない。
どれほど正しくても、どれだけの愛情の果ての選択だったとしても、助けたい人を泣かせる答えが正しいはずがないのだから。
ならばその選択に、その意志に、騎士の王は敬意と共に剣を取る。
友との約束を果たすため、愚かしくも尊い決断をした少女たちの道を開くため。
折しも、一人の少年が駆け付けたことでその選択は現実味を帯びることになる。
闇の書が完成していながら主が意識を失っていないという、過去に前例のないこの状況。ならば、“夜天の魔導書”を“闇の書”たらしめる防衛プログラムさえ一時的にでもダウンさせることができれば、管理者権限の行使が可能になるはずだ、と。
方法は単純にして明快、とにかく徹底的に負荷をかける。要は、魔法の使用と魔力ダメージで“処理を落ち”させろということだ。
とはいえ、夜天の書の防衛プログラム“ナハトヴァール”は強力だ。生半可なことでは一時的にでも機能を停止させることは難しい。
幸いだったのは、管制人格こと管制融合騎が現在融合しているのが正規の主ではないこと。加えて、正体不明の騎士が飛行こそできないがちょっとわけわからんレベルで強かったことだろう。
なにしろ、相当に強力なはずの魔法の直撃を食らっても「対魔力が作用しない?」と驚きはしても、「割と効くけど、問題はなさそうだ」とケロッとしているほどだ。技術のベクトルの違いか、それもと法則の違いか、いずれにせよ対魔力が作用しないとしても、「耐久:A+」は伊達ではない。
その上、動きはフェイトに迫るほどに早く、見えない得物による一撃はなのはのバスターにも劣らないときた。
しかし、外部からの攻撃だけではどうにも埒が明かない。斬り伏せれば解決するのなら機会はあったが、狙いはそこではないのだ。そこで、内外から負荷をかけようという話になるのは当然の帰結。
とはいえ、管理局からの応援が来るにはまだ時間がかかる。つまり、現状のメンバーでやりくりするしかない。
まず、ユーノは夜天の書へのアクセスを試みるはやてのサポートで手が離せず、これは他の誰にも代われない重要な役割だ。ユーノと同時に駆け付けたアルフは残りのメンバーに比べ、使い魔ということもあり能力が一段劣ることから、無防備な二人の守りを任されている。現状最大戦力の謎の騎士を失うのは論外。強力な前衛がいるのなら、後衛を重視するのが手堅い判断だろう。フェイトも強力な火砲支援はできるが、それはどちらかと言えばなのはの領分。
結果、フェイトが夜天の書と繋がっているはやてを介して入り込むことに。
紆余曲折はあったものの、その作戦自体は功を奏し、無事はやては管理者権限を掌握、夜天の書本体から防衛プログラムを切り離すことに成功。一度は書完成のために消えた守護騎士たちも復旧し、あとは切り離された防衛プログラムを破壊するだけ……とはなったのだが。
「遅れてきた僕が言うのもなんだが、あなたはいったい……」
クロノの指摘は、ある意味その場にいる全員……どころか、この状況をモニターしている管理局関係者も含めた共通の疑問だった。なにしろ、何らかの魔法などを使用した形跡もないまま海上を突っ走り、なのはの砲撃の直撃を食らってもピンシャンしている管制融合騎と互角以上に斬り結んでいたのだ。
問い質す間もなかったから仕方がないのだが、大筋の作戦が決まった以上は聞かないわけにもいかない。
「僕かい? ああ、そういえば自己紹介もまだだったか」
そう言って、彼は目深にかぶっていたフードを取る。
「あらやだ……すっごい美形」
思わず、といった様子で本音が漏れるシャマル。とはいえ、声に出さないだけで、みな似たり寄ったりの反応だった。なにしろ、子どもたちでさえも「王子様みたい」と内心で思っていたのだから。まぁ、実際には「王様」なのだが。
ちなみに、アースラ女性局員が発端になり、謎の騎士ファンクラブが管理局内で結成されたりするのは全くの余談だろう。
「僕はアーサー。ここには……そうだね、友人の頼みできたんだ」
「友人? それはどういう……」
「……すまないが、どうやらあまり時間がないらしい。あれは僕が探していたものとは違うようだ。それがハッキリしてしまったせいで、ここにいられる時間はもう残されていないみたいだからね」
答えるアーサーの身体からは、光の粒子のようなものが舞い上がりつつあった。
「最後まで共に戦えないのは残念だが、露払いくらいはしていこう」
そう言い残し、展開されていた魔法陣から飛び降り海上に降り立つ騎士王。
風の鞘を解けば、その手に握られた無骨な白銀の聖剣が姿を現す。
「
宣言すると同時に、彼の周囲に12の人影のようなものが浮かび上がる。
遠間からではよくわからないが、人影が揺らぐと同時に剣が微かな光を放つ。
そして、アーサーが最後の封を解く。
「是は、世界を救う戦いである」
するとどうしたことか、白銀の刀身は失われ燦然と輝く黄金の剣が姿を現した。
剣はますます輝きを増し、それに呼応するように小さな光が立ち上る。そして、剣の光が臨界に達したのと、防衛プログラムを覆う闇の繭が取り払われたのは同時だった。
「―――――
姿を現した醜悪な姿の防衛プログラムに向けて放たれる一閃。
それは巨大な光の奔流となって襲い掛かり、ナハトヴァールを覆う多層防壁の悉くを飲み込んでいく。
あまりの光に思わず目を閉じたなのはたちが目を開けた時、もはやそこにアーサーの姿はなかった。
まるで幻のように消え失せた騎士。だが、彼は確かにいたのだ。
最後に放った一閃により半身を蒸発させたナハトヴァールを、何よりの証拠として残して。
* * * * *
「……行っちゃった。やっぱり、ちょっと寂しいな」
「君は、本当にこれでよかったの?」
重い曇天が空を閉ざす中、大きな木の下でフェイトとよく似た少女……アリシアと呼ばれた女の子に語り掛ける立香。
フェイトたちのことが気がかりで清掃解体をさぼったつけか、唐突に意識を失って目覚めれば見覚えのない草原の真っただ中。「またか~」とか悠長に考えながら当てもなく彷徨っているうちに、フェイトとこの少女にバッタリ遭遇。フェイトは驚きながらもどこか納得した様子でいたのだが、「この際だから甘えちゃえ~♪」というアリシアに背中を押され、恥ずかしがりながらも膝の上にのせてもらったり、髪を梳いてもらったりしてはにかんでいた。で、そのフェイトを見てアリシアは「私の妹カワイイ、萌え!」「サイコー、マジ天使!!」と大はしゃぎ。それでますますフェイトが照れて……まさかフェイトも、これが本物だったなどと思いもしないだろう。
そうしてひと段落ついたところで、今度は何やら立香にはよくわからない会話が繰り広げられ、アリシアからフェイトはいつも持ち歩いている三角形の小物を受け取って駆けて行ってしまった。別れ際に、立香に抱き着いたうえで顔をぐりぐり押し付けていた……その後ろでアリシアが、何かジェスチャーしていたが意味は察したくない。「抱き寄せろ」とか「キス」とか口パクしていた気がするが、チョット意味ガワカリマセン。
で、フェイトの後姿を見送りつつ密かに「俺こっちだと蚊帳の外がデフォなのかなぁ?」とぼんやり思っていたところに、先のアリシアのつぶやきである。
「だって、私はお姉ちゃんだもの」
「そっか、お姉ちゃんなんだ」
「うん。本当はもっとお話ししたいこととか、したいこと…いっぱいあるんだけどね。でも、フェイトは進まなきゃいけないから。だから…これでいいの」
事情とかその辺はさっぱりわからない立香だが、彼女の言葉には「なるほど」と感じさせるものがあった。というか、カルデアには「年下の父上」とかもいるので、おかしなことは何もない。
「と・こ・ろ・で……」
「ん?」
「お兄さん、フェイトのことどう思ってるの?」
こういう時、一癖も二癖もあるサーヴァントたちとの交流の中で磨き上げられたコミュ力が恨めしくなる。
アリシアが何を聞きたいのか、わかりたくないくらいにわかってしまう。誤魔化すこともできなくはないが……なんとなくあまり不誠実なことはしたくなかった。
「……かわいいと思うし、いい子だと思うよ。控えめすぎるのは、考え物だと思うけど」
「………………………………だったらなんでさっきはキスしなかったの? というかもっと先ま「やめようかそういうの!?」ちぇっ」
ちょっと食い気味に止めに入る。フェイトそっくりのさらに幼い外見でそういうこと言われるのは、何だかスゴイ悪いことをしている気分にさせられる。
「ふ~ん……じゃあ、やっぱりまだ対象外? でもフェイト、将来絶対キレイになるよ! いや、今もすっごくかわいいんだけど…これから先もっともっと! 周りの男が放っておかないこと間違いなし! お姉ちゃんのお墨付き! 買うなら今!」
「そんな通販じゃあるまいに…それ以前に、フェイトは別にそういう意味で俺のことを好いてるわけじゃないからね」
「言い切るんだ。もしかして経験豊富?」
「…………まぁ、ある意味?」
なにしろ、愛の重い連中には心当たりがたっぷりある。
そこまでではなくても、好意を向けてくるサーヴァントはそれなりにいるのだ。おかげで、その辺の見極めもいつの間にかできるようになっていた。何しろ、下手なこと言うと地雷を踏んでしまうことになりかねない。
これは、生き残るために磨かれた生存能力の一端なのである。
「……むむ、ライバル多いんだ。フェイトには頑張ってもらわないと」
「いやだから、フェイトもそこまでは思ってないって」
「いまは、でしょ? この先はどうかなぁ~?」
クロエほどではないが、ちょっと小悪魔っぽい笑みを浮かべるアリシア。ただ、頑張って背伸びしてる感が強いので、微笑ましいだけだが。
(とはいえ、この先か……フェイトとのかかわり方、少し考えた方が良いのかな?)
突き放すとか疎遠になるよう仕向けるとかいうわけではないが、応えられないのなら責任をとれないことをすべきではないだろう。こんな幼い女の子の前で声には出せないが、なにしろ……
(俺“勃たない”しなぁ……あ、なんか泣きたくなってきた、グスン)
意識が落ちるのと同様で、どうもこれも心因性らしい。ロストベルトを超えていくうちに、あるいはコヤンスカヤに一服盛られたのも影響しているのか、そんなことになってしまった。
なので、立香はマシュの想いにも応えるつもりがない。それが全てというわけではないのはわかっているが、一般的な幸せというものを考えるのなら……自分は不適切だろう、と。
まさか数年後、二人がかりで誘惑されて落とされることになるとは思いもしない立香であった。
「……ところで、さっきフェイトが夢とか言ってたけど、ここって夢なの?」
「え? まぁ、そんな感じだけど……」
「そうかぁ、夢かぁ……」
「驚かないの?」
「まぁ、慣れてるから」
言っている意味がよくわからないのか、不思議そうな顔をするアリシア。顔立ちは瓜二つなのだが、仕草や表情はあまり似ている感じがしない。性格の違いが表れているのだろう。
あるいは、そっくりさんを見分けることに慣れているせいかもしれない。なにしろ、カルデアには同じ顔が割とわんさかいる。間違えると大変なことになる場合があるので、非常に重要な能力なのだ。
とそこへ、実にうっさん臭い声がした。
「やぁやぁマスター君、どうだい今日の夢見心地は……って、なんだい? その何とも味のある顔は」
“夢見心地ってそういう意味か?”と突っ込んでやろうと思ったのだが、それ以上に「うわっ、でやがった」という思いが顔に出てしまったらしい。契約で繋がった立香を介せば、こういう離れ業もやってのけるのだこの
「……………とりあえず、さっさと帰るよ。この馬鹿ナイトメア」
「あいたたたた…耳、耳を引っ張るのはやめておくれよ。最近君、割と容赦ないよね?」
「ここがフェイトの夢の中だとするなら、即刻退去。もちろん俺もだけど、女の子の夢に男が入るとか十分セクハラ案件だからね。というか、まさかこの状況マーリンの仕業じゃないよね?」
「え~、夢は人権の管轄外じゃないかい?」
「答えになってない! いいから、とにかくお得意のクロロホルム魔術でさっさと出る!」
「やだなぁ。アレはより深く眠りに誘うためのもので、起きるのには使えないよ? それに、良いのかい私の話を聞かなくて」
今すぐフェイトの夢から叩き出してやりたいが、こういう以て回った言い方をする時は重要な話の場合がある。そうじゃない時もあるが。
後者なら立香の精神衛生以外には問題ないが、前者だと聞かないわけにはいかない。
そして、今回は前者だった。相変わらず蚊帳の外のまま終わったことの顛末を聞いて一安心したのも束の間、実はまだ終わっていないことを知ることに。どうやって情報収集したのかは割と謎だったのだが、この夢はフェイトのものでありながら見せているのはこの事件の中核だとかなんとか。そこで、夢を介してその中核から必要な情報を抜き出したらしい。
相変わらず抜け目ないというかなんというかな話だが、それでも助かったのは事実。
目を覚ました立香はさっそく行動を開始。街で何度か見かけた
足りない魔力は少年に霊基を貸し、彼の魔力を借りることで賄い何とか宝具を発動できたのだから十分だろう。
ただし、ただでさえ魔力切れ寸前なうえ、氷点下を下回る屋外を走り回って汗をかき、着替える余力もないまま布団にダイブ。その結果、思いっきり風邪をひいて様子を見に来たフェイトを心配させることになるのだが……終わり良ければ総て良しということにしておこう。
とりあえず、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるフェイトが天使に見えた立香だった。
(うん、女神はない)
だってあの連中、とことんトラブルメーカーなんだもの。
立香君、若くして不能に…哀れ。仕方ないよ、それだけ過酷だったんだから。ある意味名誉の不能。
それに大丈夫。数年後、立派に成長したフェイトと大人の色気を身に付けたマシュが何とかしてくれるから。まぁ、自己嫌悪で数日引きこもったみたいだけど……問題ない問題ない。
例え、二人だと相変わらずだから毎回三人でイチャイチャすることになったとしても。
だって、ちゃんと幸せになれるから!
ちなみに、立香的に「女神」は褒め言葉ではありません。蔑称というわけではありませんが、少なくとも褒めてはいない。
あと、基本「対魔力」や「破魔」系の能力は魔導に通じません。逆に、AMFやら魔導殺しも魔術やサーヴァントには無効です。お互い、法則もあり方も全く別物過ぎて範疇外なのです。まぁ、ちゃんと研究すれば対策を講じることはできますが。