魔法少女リリカルなのは Order   作:やみなべ

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今回は事件とかさっぱり関係ないお話。


EX03 それぞれの恋愛事情

―――というわけで! ママたちの恋愛事情とか聞きたくて来ました!

 

また単刀直入というか、ぶっちゃけたねぇ……。でもそうかぁ、ヴィヴィオもそういうことに興味を持つ年かぁ。そりゃ私も年を取るわけだねぇ。

 

―――あのぉ、しみじみしてるとこ申し訳ないんですが、できればマキでお願いします。ママの里帰りの合間に、ちょこっと抜けてきた状況なもので……。

 

あれ? なのはちゃんには秘密なの?

 

―――だって、照れたり恥ずかしがったりで教えてくれないんだもん。

 

あ~、なるほどねぇ~。フェイトちゃんも似たようなものだろうし、赤裸々に話してくれそうなのははやてちゃんくらいかぁ。

 

―――あとは客観的な感想とか聞いてみたいなぁっていうのもあります。本人たちに聞いても、砂糖吐きそうになるのが目に見えているので。

 

どこも見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにラブラブだしねぇ。いやぁ、みんなまだまだ若いなぁ。

 

あ、でもはやてちゃんのところは最近割と落ち着いてきたかな? 結婚前から同居してるし、家族歴は10年どころじゃないから。

 

―――そうですね。何というか、新婚の初々しさと長年連れ添った熟年夫婦感、両方ある感じです。

 

その点で言えば、フェイトちゃんもなのはちゃんもまだまだ新婚気分が抜けてないよね。結婚してもうそれなりに経ってるってのに、落ち着くのはまだ先かなぁ。

でもそういう話が出たってことは、ヴィヴィオも実は結構悩んでたりする?

 

―――……割と目のやり場に困るというか、気付かないフリをするのも楽じゃないのです。フェイトさんの場合、サーヴァントの皆さんに牽制が必要なのはわかるので仕方がないと思うんですが、ママにはもうちょっと娘の目を気にしてほしいなぁ、と。

 

高町家の長女も大変だぁ。

 

―――ヴィヴィオさんも結構苦労しているのですよ。……あ、参考までに、エイミィさんたちにもそういう時ってありました?

 

私とクロノ君も長い付き合いだからねぇ。姉弟兼親友兼仕事上の相棒関係から夫婦になったようなものだし。

 

―――あれ? 恋人期間は?

 

なかったわけじゃないけど、確かちゃんと付き合った時間は一年なかったんじゃないかな?

 

クロノ君ってば、仕事人間過ぎてプライベートに何していいかわからない子だったからね。休みの日でも隙を見ては仕事しようとするし、艦や臨時支局から出禁食らった完全オフの日でも訓練か勉強、ニュースと事件のチェックばっかりだったんだから。

私が強引にでも連れ出さないと、ホント「プライベート? 何それ美味しいの?」状態。まぁ、海鳴に来てからは恭也さんとか趣味の合う人もいたし、ヴェロッサ君も連れ出してくれたから、少しはマシになったけど。それでも、なかなか休みが合わないから、もっぱら私が連れ出していたのですよ。

 

―――でも、クロノさんが自分の買い物をするのって、あんまりイメージできませんね。

 

まぁね。実際私の買い物メインで、クロノ君荷物持ち。ついでに、私がクロノ君の服を見立てたりするって感じだったから、そのイメージも間違ってはいないよ。

映画とか娯楽施設とかにもほんと疎くてねぇ。任せっきりにはされないけど、こっちで候補を絞らないとフリーズしちゃうの。だからもっぱら私が「これとこれが面白いけどどっち見る?」「おススメはこことここ、どこに行く?」って提案して、その上でクロノ君が決めるって感じ。

 

―――プライベートでも副官なんですね。というか、完全にデートですよね、それ。

 

そうそう。まぁ、アレで律儀だから偶には自分でプラン考えたりしてくれるんだけど、微妙に自信なさそうなのが可愛いというか……。

 

―――(結局こっちでも惚気られるのかぁ……)

 

とまぁ、そんな関係が続いてたんだけど……クロノ君真面目だからねぇ。中途半端はいけないと思ったのか、関係をはっきりさせるために告白してくれたんだ。でも、正直告白前も後もあんまり変わらなくって、一年くらい経ってプロポーズされたわけ。

 

―――なるほど、それで恋人期間が抜けてるわけですか。

 

そういうこと。その点で言えば、私たちの関係ははやてちゃんに近いかな。闇の書事件の後からは同居してたし、それまでも半ば士郎さんは八神家の一員だったわけだしね。

違いがあるとすれば、私たちと違ってはやてちゃんは計画的だったこと。しっかり外堀埋めて、数年計画で落としにかかってるんだもん。既成事実を積み上げて、中には「あれ、まだ結婚してないの?」とかいう人もいたんだよ。守護騎士たちも率先して「我が家の嫁」って吹聴してたし……「まるで追い込み漁だ」って言ってたのは誰だったっけ?

 

―――黒いよ!? 八神司令…というか八神家コワッ!? って、あれ? でも、ティアナさんたちは結婚してるの知らなかったって言ってましたけど?

 

あの子たちが訓練校に入ったのって、はやてちゃんが結婚したくらいの頃でしょ? 目的を達成した以上、それ以上手を打つ必要がなかったんじゃないかな。

それに、訓練校とかは(地上本部)の色が濃いし、その後も陸士隊だったら噂とか聞いたことがなくても仕方ないと思うよ。はやてちゃん、本局寄りで陸とはあの頃あんまり繋がりなかったしね。エリオとキャロはそもそも噂を耳にする機会自体なかっただろうし。

 

―――なるほど……。

 

なのはちゃんに関しては……まぁ、ユーノ君の忍耐勝ち、かな。あと、なのはちゃんが結構めんどくさかった。

 

―――それ、割とよく聞くんですよねぇ……。

 

なのはちゃんってば、ユーノ君のこと好きなくせに「私にはもったいない」とか「悲しませたくない」とか言って尻込みしてるんだよ。周りから見れば相思相愛なのにだよ?

しかも、ユーノ君は好意を示しつつも答えは急がないっていうスタンスで覚悟決めてどっしり構えてるし。

 

―――不安とか、なかったのかな?

 

なかったわけじゃないみたいだよ。クロノ君とか立香さんとかとは、男の子同士でなにかあったみたいだしね。

でも、そこはなのはちゃんの一番の理解者というべきか……なのはちゃんの答えを待つっていうことだけは決めてたみたい。

 

いやぁ、いい男に育ったよ、ユーノ君。

出世街道驀進して民間協力者ながら若くして一部門の長だっていうのに、局の外では歴史学者として学会でバリバリ活躍。職場が職場だから色白で線が細いけど、実は結界魔導士としてもクロノ君と訓練できるくらいの腕は維持してるし、アレで結構力あるんだよね。

 

―――そうですね。地味に体幹いいですし、重いものもひょいっと持ち上げてくれるんですよ。

 

元々は遺跡発掘が生業の部族の出だからね。今でもフィールドワークに出てるみたいだし、直接戦闘向きではないだろうけど基礎体力はかなりのものだと思うよ。

ヴィヴィオくらいの頃には魔法学院の修士課程を修了してるし、学歴もしっかりあるんだよね。

 

つまり社会的地位を確立した高学歴高所得、線の細い中性的な美形でありながらいざとなれば守ってくれる頼り甲斐もあり、柔和な性格でリーダーシップも発揮できるわけだ……言っててなんだけど、ユーノ君って実在の人物だよね? こう、実は空想の産物とかじゃない? 女のバカな夢が山盛り詰め込まれたみたいなプロフィールになってるんだけど……。

 

―――いや、それを言ったらフェイトさんもじゃないかと……。

 

確かに、あの子も大概男の子の夢の具現化だしなぁ……。待てよ、それを言ったらなのはちゃんたちだって似たようなものか。それぞれタイプは違えど、属性山盛りなことに違いはないし。改めて考えると、あの子たちって濃いよねぇ。

 

―――そ、それについてはノーコメントで。自分で言うのもどうかと思いますが、私も属性過多ですから。

 

失われた王家の血統で、親はエリート公務員と高名な学者さん。名門校に通う優秀な若手競技選手であり、無限書庫司書をはじめいくつかの資格を取得済み。本人も明るく闊達な美少女……確かに、負けず劣らずか。

 

まぁそれはともかく、そんな超優良物件のユーノ君だから当然人気もあるわけなんだけど、彼自身はなのはちゃん一筋。なのに、当のなのはちゃんは足踏みしてるんだから、面倒臭いったらないよ。

 

―――それは、はい。我が母ながら、心底メンドクサイと思います。

 

しかもね、それを聞いた美由紀ちゃんがやさぐれて大変だったんだよ。私も何度愚痴に付き合ったことか……。

 

―――え、美由紀さん?

 

そうだよ。中学生くらいになるとね、やっぱりそういう話題が増えるわけ。

フェイトちゃんとはやてちゃんは心に決めた人がいたし、小学生のうちから手を打ってたりしてたとはいえ、周りも中学生になるとそういうことへの興味も強くなるわけですよ。女の子たちだけで集まって恋バナに花を咲かせたり、ね。

私はまぁクロノ君がいたわけですし? むしろ、色々相談される側なんだけど……妹たちが年頃の女の子らしくキャッキャウフフしているのを聞いては凹み、相談されないことに荒んでいく友人を放置はできません。

 

―――(なんだろう、すごくリアルに想像できる)

 

恭也さんに「なのはのことより、自分の恋人を探せ」とか言われた時なんて、「ユーノ~、私をお嫁に貰って~(泣)」とか言い出しちゃうくらいだからね。

 

―――……ちなみに、その時ママは?

 

目から光が消えたね! シュテルもそうだけど、身内にも容赦はないみたい!

自分はふさわしくないと思ってるから他の人がちょっかいかけるのは我慢できるみたいだけど、近しい人だと抑えられないってことかな? 今はもう抑える気がないみたいだけど。

 

―――ですねぇ。場合によっては、私にもヤキモチ妬きますし。

 

完全にタガが外れておりますな。

まぁ、あのまま進展がないよりかはいいんだろうけど。ホント、ヴィヴィオは二人の恋のキューピッドだよ。

なにしろ、ヴィヴィオがいたからこそなのはちゃんも覚悟が決まったわけだしね。

 

―――そういえば、良く私がいたから覚悟が決まったって聞きますけど、具体的に何があったのかって知らないんですよね。

 

まぁ、あの頃はヴィヴィオもまだ小っちゃかったからね。

 

…………ヴィヴィオが聖王家の血統であることは、割と早い段階でアインスは気づいてた。とはいえ、流石に聖王のクローンなんて爆弾情報は早々口外できない。特に聖王教会の場合、色々刺激しちゃう危険もあるから。

それにやろうと思えば、紅と翠の虹彩異色の子どもだって作れないことはないからね。だから、確信を得るまでははやてちゃんとアインス、後は極一部の人にしか知らせてなかったみたい。もちろん、なのはちゃんやフェイトちゃんにも秘密。

二人のことをママって慕っているからこそ、ありのままのヴィヴィオを受け止めてもらうのがいいっていう判断だね。

そういえば、もう「フェイトママ」とは呼ばないの?

 

―――う~、実は今でも言いそうになることが……。

 

言ってあげたら? 喜ぶと思うけど。

 

―――でも、そうすると色々外聞が……。

 

まぁ、捻った目で見ればユーノ君が二股してるとか、フェイトちゃんが浮気してる……みたいに見えないこともないか。

 

―――はい。今でもフェイトさんのことは大好きですし、もう一人のママって思ってますけど、だからこそ気をつけなきゃいけないと思うわけで。

 

なるほど、確かにちょっと野暮だったかもね。

 

じゃ、話を戻そうか!

そんなわけでアインスが中心になって密かに調査して、公開意見陳述会の前には確信は得られてた。でもだからこそ、六課は板挟みになってたんだ。

あの時はまだヴィヴィオとレリックの関係は不明だったし、聖王のゆりかごをスカリエッティが確保してるなんて知らなかった。だから、地上本部が狙われる可能性が高いっていう判断が有力で、六課もそっちの警備に向かうのが当然。

 

でも、現代では遺伝子情報を手に入れるのが難しい「聖王のクローン」なんてものをわざわざ作ったからには、当然何かしらの思惑がある。聖王教会の過激派が神輿にして権威を高めようとしているのか、あるいはどこかの誰かが……

 

―――諸王時代のように兵器として使おうとしている、ですね。

 

どっちもありうるし、どっちも実際にやられたらすごく危険なことに変わりはない。六課はレリック関連と騎士カリムの予言への対策部隊で、地上本部を守るのは最重要事項。でも、だからと言ってヴィヴィオを軽視することはできない。心情的にも、実際的にもね。

一応、前線メンバーの一部を六課に残す案もあったんだけど、地上本部側に却下されたんだ。あれだけ騎士カリムの予言を重視しておきながら、警備に手を抜くつもりかって。正論っぽく聞こえるし、一応は正論なんだけど、レジアス中将たちが予言自体信用してなかったことを考えると、実際にはほとんど嫌味だね。

そんな中、なのはちゃん(エース・オブ・エース)が六課に残るのなんて論外だったわけだ。

 

―――え、でもあの時……。

 

ちょっとした裏技。替え玉を使ってなのはちゃんは地上本部の警備に行ったように見せかけて、実は六課に隠れてたんだ。

出力リミッターとかもあったからできたことだね。リミッターなしだと、流石に誤魔化すのはきつかったと思う。何しろ、空戦S+の魔力だから。

 

―――……………あの、それって相当不味いんじゃ?

 

ま、普通に懲罰ものだね。管理局は戦時でもない限り基本刑殺とかないけど、良くて降格、場合によっては不名誉除隊だってあり得た。

 

―――そんな……。

 

それがなのはちゃんの覚悟だったんだよ。これまでのキャリアもこれからの未来も、全部捨ててでもなのはちゃんはヴィヴィオを守りたかった。なにもかも覚悟のうえで、なのはちゃんはヴィヴィオを守るために行動することを選んだ。謹慎してる間に通信したけど、“教官のくせに命令無視なんてして、教え子たちに合わせる顔がない”って苦笑してたっけ。

 

―――謹慎だけで、済んでたんですか?

 

ん、まぁ結果的にはヴィヴィオを守り切るのが正解だったわけだしね。強引なこじつけだけど、三提督からの秘密任務扱いってことにしたんだって。まぁ、対外的には六課防衛戦の負傷で療養ってことになってたから、謹慎処分のことを知ってる人はほとんどいないけど。

実際、高強度AMF下でガジェットの大群と戦闘機人を相手にしての大立ち回り。ブラスターシステムまで使って心身ともにボロボロだったから、療養っていうのも嘘じゃないしね。

 

―――ベッドの上のママたちのことは、私も覚えてます。腕にギプスをはめて、包帯でぐるぐる巻きになって本当に痛そうなのに、それでも「ケガはない? よかった」「ちゃんと守れた」って嬉しそうに笑ってたんです。

 

なのはちゃんらしいというか、なんというか……。

そういえば、あの時ユーノ君もいたんだよね。なのはちゃんが前に出てユーノ君が結界と支援……はじまりのタッグ再結成だ。

 

 

―――あの、もしも六課が襲われなかったらどうなってたんですか?

 

……替え玉がばれなければそのまま誤魔化してただろうけど、ばれたら最悪厳重な魔力封印の上で除隊もありえただろうね。

三提督の秘密任務っていうのも、ヴィヴィオがスカリエッティの計画で重要な役割があることが分かったからこそ、後付けできた言い訳だし。

 

―――じゃあ! ママは本当に……

 

うん。自分のこれまで(過去)これから(未来)を投げ打つ覚悟だったと思う。はやてちゃんたちは「本当にいいのか」って相当に念を押したらしいし、リンディさんもだね。それでも、なのはちゃんはヴィヴィオを守ることを優先した。それどころか、“無限書庫司書長夫人っていうのも悪くない未来でしょ”って笑うんだもん。みんな、最後はそれで納得しちゃってた。

むしろなのはちゃんね、「私の我儘のせいでみんなに迷惑をかけてごめんなさい」って頭を下げてたんだ。少しでも飛び火しないように“独断”っていう形にするつもりだったみたいだけど、それでもはやてちゃんなんかは“監督責任”を問われるのは避けられないだろうからって。ま、当の本人は「そんなんええ! ちゅーか、絶対やめさせたりなんてさせへんからな!」って、なんとしてでも局に残れるよう手をまわしてたんだ。

 

とはいえ、今も局にいられるのははっきり言って“偶々”だね。スカリエッティが仕掛けてくれたから、ヴィヴィオを守る選択が正しかったと裏付けられたし、無事捕まえられたから“言い訳”を並べることができた。

まぁ、ゆりかごについては“必要以上に破壊した”って突っついてくる人もいるけど……実はあれ、わざとなんだよ。そこにスカリエッティがいないことは予想してたんだけど、“念のため”って言って侵入して、ガジェットに襲撃されたから“応戦”したっていう形で駆動炉とか中枢を徹底的に破壊。こっちは本当に騎士カリムからの任務だったわけだけど。確かに強力な力だけど、もうこの時代にあんなものは必要ないから。

 

―――ママは、どうしてそこまでして……。

 

月並みだけど、愛してたからだよ。ヴィヴィオが大切で、愛していたからこそなのはちゃんは“守る”ことを選んだ。本当に、ただそれだけ。そして、その覚悟が結果的にユーノ君の想いと向き合う勇気をなのはちゃんにくれた。

 

だからヴィヴィオ、そんな顔しちゃダメ。なのはちゃんは今間違いなく幸せで、それはヴィヴィオがいたからこそ得られたものなんだから。

というか、処分が確定するまでの間やめた後のことを積極的に考えてたくらいなんだよ。桃子さんに弟子入りして、“翠屋二代目店長”を目指すのもいいし、これまでのコネを使って“翠屋二号店”を開くのも捨てがたい、ってね。

 

あとは……そうだね。“知っていた”からかな。

 

―――知ってたって、なにを?

 

“ゆりかごの聖王”になることの意味を。その果てにある可能性の一つを、私たちは知っていた。

だからこそ、なのはちゃんは強く思ったんだと思う。ヴィヴィオを“あの人”と同じにさせちゃいけない、させたくないって。

 

まぁ、その結果“あの人”から「お母さま」呼びされるとは思わなかっただろうけど。

 

―――あ~、今も会う度に「ヴィヴィ! お母さまが認知してくれません!」「お姉ちゃん、ほしくありませんか? ほしいですよね! ほしいと言ってください!」って泣きついてくるんですよね。正直……勘弁してほしいです。

 

“姉”というか、むしろ“母”だよね。

 

―――まぁ、フェイト“ママ”と違って絶対に呼びませんけど!!

 

なのはちゃんはなんて?

 

―――「こんな大きな娘を持った覚えはありません!」「私の娘はヴィヴィオであってあなたじゃありませんから!」って。別に嫌ってるわけじゃないと思うんですけど、グイグイ来るのには辟易してるみたいです。

 

まぁねぇ……手順とかすっ飛ばしてるからなぁ。いや、生い立ち的に“母恋し”っていうのはわかるんだけど……。

 

―――とりあえず、この話もうやめません?

 

うん、そうしよっか。

 

で、まだ話してないのがフェイトちゃんとすずかちゃんに、アリサちゃんか。フェイトちゃんの方は?

 

―――あ~、立香さんの話を聞くと、割と……。

 

そっか。まぁ、あの二人は二人で結構面白いからねぇ。

 

―――面白い、ですか?

 

そうだよ。例えば、すずかちゃんが男の子を飼ってたりとか。

 

―――……………………………え?

 

あと、アリサちゃんが婚約者に三行半突き付けられて、復讐に走ったりとか。

 

―――ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「なのはちゃん! フェイトちゃん! はやてちゃん! ひさしぶり!!」

「元気そうで何よりね。まったく、ミッドに行ってから一年ちょい、ほとんど帰ってこないじゃない。べ、別に心配なんかしてないけど! ま、まぁ、無事ならそれでいいわ」

「相変わらずの伝統芸能、いやぁ帰ってきた気がするわ」

「どういう意味よそれ」

 

中学卒業と共に、活動の拠点を次元世界に移したなのは達三人。久しぶりとなる揃っての帰郷を出迎えてくれた幼馴染も、代わらず元気らしいことに表情をほころばせる。

まぁ、はやての言で若干苦笑が混じっているが。

 

とはいえ、久しぶりの再会だ。積もる話は山とある。

早速場所を月村家のテラスに移し、優雅なティータイムと相成った。

 

「で、それぞれの近況報告…と言いたいところだけど、なのはたちだと言えないこととか多そうよね」

「公務員さんだし、やっぱり守秘義務とかあるんだよね?」

「まぁ、それなりに」

「でも、プライベートなことだったら全然♪ というか、お話ししたいこと、いっぱいあるんだ」

(ワクワク)

「じゃ、とりあえず……はやては最後で」

「なんで!? ちゅーか、むしろ話題の中心は私と違う? ほらこれ!」

 

そういってはやてが指さすのは、自身の左手薬指に収まった一見するとシンプルな、だが目を凝らすと精緻な模様の彫り込まれた白金の指輪。その意味するところは一つ、だからこそアリサはスルーする気満々なのだが。

 

「だって、どーせ旦那とのラブラブ新婚生活の話でしょ。というか、あからさまな新婚アピールがウザイ」

「まぁ、さっきからこれ見よがしに指輪を見せつけてるもんね、はやてちゃん」

「ごめんはやて、ちょっと弁護できそうにない」

「あ、あははは……」

 

“そんな~”とテーブルに突っ伏すはやてと、苦笑しながら背中をさすってやるすずか。

まぁ、わかり切ったことではあるが幸せいっぱいで浮かれまくっているらしい。幼馴染にして親友の幸せは大変結構なことだが、色恋と縁遠い身としては「うぜぇ」と思ってしまうのも本音なのだ。

アリサも興味はあれど、諸事情からあまり縁がないというか、縁を結ぶわけにいかないというか……。

そういう複雑な事情があるからこそだろう。あと、もう少し控えめというか、隠す気があれば聞く気になったかもしれない。

とはいえ、目の前でしょげられるとやはり気になって落ち着かない。さすがにちょっと言い過ぎたかな、と思ったのか、アリサの方から話を振ってくるあたり、つくづくツンデレ。

 

「ま、ちょっとくらいは聞いてあげるわ。興味がないって言えばウソになるしね」

「まぁ、私たちの年で結婚ってミッドでも滅多にないし」

「にゃはは、わかってたつもりでも、やっぱりこの年で友達の結婚式に出るって変な感じだったしね」

 

なにしろ、まさかまさかの16歳の誕生日その日にプロポーズ。その夜には入籍を済ませ、新郎新婦にとって少々特別な意味を持つ聖夜に挙式をあげるという、実に華々しい夫婦生活のスタートを切った幼馴染だ。今現在の様子が気にならないはずがない。

アリサやすずかとは生活の拠点が遠く離れてしまったし、なのはやフェイトは仕事の関係からそうそう休みが合うわけでもない。ましてや、こうして五人勢ぞろいするなど本当に久しぶりなのだ。

 

「で、実際どうなの? 新婚生活っていうのは?」

「あ、そういえば新婚旅行はもう行ったの?」

「うん、行ったよ。士郎の故郷に寄って、そのあとは知り合いに紹介してもらったリゾート。普段忙しいから中々新婚気分も味わえへんかったけど、満喫させてもらったわ」

「いや、新婚気分も何も、アンタたち昔から一緒に暮らしてるじゃない」

「チッチッチ! 甘いで、アリサちゃん。やっぱり結婚したのとしてないのとでは大違いや」

「わぁっ、やっぱりそうなんだ……」

「具体的には、夜の爛れた性活g…あべし!?」

「ヤメイ! 真昼間から何言ってんのあんたは!」

 

ちょっと花の16歳がしてはいけない表情を浮かべたはやてに、アリサのハンカチが叩きつけられる。

 

「ぅ~、軽い冗談やのに」

あんた(新婚)が言うと生々しすぎるのよ」

「まぁ、ラブラブしとるのはほんとやし、あえて否定はせんけど」

「…………何かしらこの余裕、妙な敗北感をおぼえるんだけど」

「「まぁまぁ」」

 

ジト目を向けるはやてはあくまでも余裕綽々で、それがなおさら釈然としない。

両サイドからなのはとフェイトが宥めてくれなければ、今頃もっと気持ちが荒んでいたかもしれない。

 

「……ま、幸せならそれでいいわ。どうせ、不満の一つも……」

「不満? あるよ」

「え?」

「あるの?」

「そらあるよ。自分やない誰かと一緒に暮らすんや、不満なんて出て当然。それとどう折り合いをつけるか、あるいはお互いの間でどんな妥協点を見出すか。それが夫婦生活の肝や。一緒に暮らしてるだけやと見えてこんかったもんが、結婚した途端に見えてくる。結婚は……深いで、一月で人を哲学者にしてくれる」

 

“フッ”と遠い目をするはやてからは、言葉にできない何かがにじみ出ている。

それは不快や嫌気とはかけ離れた、静かで落ち着いた…重みのある幸福のオーラだった。

 

「ふ、ふ~ん。例えば? 士郎さんが方々でフラグを立てるとか?」

「そんなん昔からや」

(言い切った!?)

(前だったら少しは動揺してたのに、この落ち着き……はやてちゃん、いつの間にこんな貫録を)

 

“あ~、相変わらずなんだな~”と呑気なことを考えているなのはを除き、全員がはやての変化に戦慄を禁じ得ない。

 

「そ、それじゃ、何が不満なの?」

「まぁ、とりあえず…………士郎のご飯が美味しすぎる」

「「「「あ~……」」」」

「前は誇らしかったし、今も誇らしいことに変わりはないんやけど……なんちゅーか、台所に立つ姿が様になり過ぎて腹立つ」

 

はやての料理の師匠は士郎だ。幼き日、彼と出会って間もない頃、母との思い出を辿る様に残されたレシピを前に悪戦苦闘するはやてを導き、“八神家の味”を共に復活させてくれた。感謝してもしきれないし、いつか追いつき追い越したい背中であることに変わりはない。

今までも、なかなか追いつけないことに“悔しい”思いはしていたが、結婚してもなお“家事の主”として不動の座に君臨する姿に、なんというか……すごく納得がいかないのだ。

 

「そらな、ほとんど私が外で稼いで、士郎が主夫してくれてるんやから、そうなるんも当然なのはわかる。せやけど、やっぱり日本人だからやろか。台所は女のもの、的なイメージがあるみたいなんよ。

 あと、新妻ムーブできないのがめっちゃ悔しい。むしろ士郎の方が“おかえり。飯と風呂、どっち先にする?”って聞いてくるんやで」

「妙に似合うんだよね、士郎さん」

「なんとなく、はやての悔しさが分かった気がする」

「いったい何度私が“じゃ士郎で”と言いそうになったことか……」

「お~い、結局爛れてんじゃないの、脳内ピンクも大概にしなさいよ」

 

これは、一緒に暮らしている守護騎士たちもさぞ気を遣うことだろう。

 

「でも、不満がそういうことならちょっと安心かな。だって、仲良しだからこそだろうし」

「まぁ、浮気の心配はハナからしてないけどね」

「当然や。そもそも、シャマルにシグナムっちゅう極上の美女が一緒に暮らしとる状態で、私だけを愛してくれとる士郎に浮気の心配なんてあるわけないやん」

 

そして、守護騎士に浮気などしようものならその瞬間血を見るのは明らかだ。騎士たちが、はやてへの裏切りを赦すはずがない。たとえ相手が士郎であろうとも、その点は譲らないだろう。

 

(可能性があるとすればカリムやけど、あんな清々しい敗北宣言されたら、疑う気にはなれへんしなぁ)

 

士郎との結婚が決まった後、一人呼び出されてカリムにあった時のことだ。結局彼女は士郎との関係性を明かしてはくれなかったが、「士郎は、本当に幸せそうに笑うようになったわ」「それは私にはできなかったことで、はやてだからできたこと」「だからはやて、決して彼の手を放しちゃダメよ」と少しだけ寂しそうに微笑んでいた。

きっとカリムは士郎を幸せにしてやりたかったのだろう、はやてがそうであるように。もし彼女が士郎に手を伸ばすことがあるとすれば、それははやてが彼の手を離した時だ。

 

(ま、そんなんするつもりないけどな)

「でも、士郎さんにその気はなくても、近づいてくる人はいるんじゃない?」

「関係あらへん。誰が来ようと、私が士郎の一番であり続ければいいだけや!」

「はやてちゃん、スゴイ」

「うん、カッコいい」

 

“お~”と手をたたく幼馴染一同。

 

「じゃ、外の心配はしてないわけね」

「そやね。心配はしてない……あ、でも」

「「「「でも?」」」」

「やいのやいの言うてくる連中は……そろそろ我慢の限界や」

 

その瞬間、はやての表情が一変した。幸せそうなそれから、凄絶な鬼の如き微笑み。

笑っているはずなのに、目も口元も一切笑っていない。子どもが見たらトラウマ間違いなしだ。

正直、あまり聞きたくはないのだが、ここまで来た以上聞かないわけにもいかない。というわけで、止む無くアリサは貧乏くじとわかってそれを引く。

 

「ぐ、具体的には?」

「……ほら、士郎ってデバイスマイスターとしても料理人としてもビジネスネームつかっとるやん」

「そ、そうだね。“エミヤ”の名前は色々刺激するから、“センジ”って名乗ってるんだっけ」

「そうや。だから、士郎のことな~んも知らん連中が色々言うてくるわけや。やれ“あんな男、君にはふさわしくない”だの、やれ“悪い男に騙されている”だの。そらもう言いたい放題にな……まぁ、それ位ならまだ我慢はできる。あの連中はただ無知なだけや、士郎が奥ゆかしいのにも原因はある。でも、我慢できんのは、どこから調べてきたのか、“君に復讐するつもりだ”とかアホな事ぬかす奴や」

 

思い出せば出すほど怒りがこみあげてくるのか、はやての背後に鬼神の幻影が浮かび上がる。

オカシイ、彼女に加護を与えたのは神霊であって、鬼ではないはずなのだが……。

 

「フッザケンナ――――――――――――――――――――!! 復讐するつもりやったらとっくの昔にやっとるに決まってるやろ!! 機会なんぞいくらでもあったっちゅうねん!! そもそも、復讐する気の人間が身代わりになって死のうとするかぁ!!!!」

 

そりゃ怒るのも無理はない。特に最後の阿呆は、二人の絆の根底を土足で踏みにじっている。それでも、はやては懸命に怒りを押し込め我慢しているのだろう。だからこそ、二人の関係を理解している人たちの前ではタガが緩む。そして、一度緩めば膨大な内圧故に大爆発してしまうのは必定。

 

「フヒ、フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……なあ、みんな。私、我慢したよな。我慢して我慢して、我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢…………もう我慢の限界や!! ええ加減にせんと、モーモーちゃん喚んで“ストライク”したるぞ!!!」

「ちょっ、はやてちゃん!?」

「それはダメ!? そんなことしたら周囲が更地になる!」

「せやったら“キガルシュ”」

「「もっとダメ――――――――!?」」

 

八神はやて、神々の痕跡すら定かではないこの世界にありながら、彼女は複数の神から加護を受けた稀有な存在だ。基本的に目に見える恩恵はない。ただし要所要所で運が良かったり、妙なトラブルに巻き込まれたりする身だが、加護との明確な関連性は不明のまま。

だが、少々例外がある。それは、彼女に加護を与えた神々の中でも妙な相性の良さを発揮した“天の女主人”に由来する二つの力。

 

山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)

天の牡牛(グガランナ・ストライク)

 

彼女はこの二つを、限定的ながら使用することが可能なのだ。

 

「お、落ち着きなさいよ! いいの、神様の力をそんなことに使って!」

「そ、そうだよはやてちゃん! さすがに怒られちゃうんじゃ……」

「心配あらへん。競争相手は周回遅れ、刃向かう奴は二度と立ち上がれなくなるまで叩き潰せが、イシュタル様の教えや! なぁんにも問題ない! むしろ、もっとやれと言ってくれるに違いない!」

((((言いそ――――――――――――!?))))

 

カルデアきってのトラブルメイカーだけに、十分にあり得る可能性だった。

 

その後、何とかはやてを宥めすかし、辛うじて概念惑星による砲撃も、黄金の大蹄も回避された。管理局は、今日も騒がしくも平和である。

 

「そういえばアリサ、すずか。高校生活はどう?」

「どうって言われても、ねぇ?」

「うん。みんながいなくなってすっかり寂しくなったけど、それ以外だとあんまり」

「まぁ、しゃーないか。編入生もおるやろうけど、基本的にはそうメンバーに変わりはないやろし」

 

この辺り、大学までエスカレーターの聖祥ならではのつまらなさだろう。

これで受験などがあればいろいろばらけたりもして代わり映えもするのだろうが、ほとんどの生徒はそのまま進学する。なのはたちの様に外部に出る方が珍しいのだ。

 

「強いて言えば、男たちが一層色気づいて告白が増えたくらいかしら」

「校舎別なのに?」

「選択授業とか委員会、部活によっては一緒になることもあるから。あと行事もだね」

「あ~、その辺は中学の頃と同じなんやね」

 

聖祥は中学から男女別れるが、それでも完全に隔離されているわけではない。すずかが言ったように、男女で交流する機会は一応設けられている。ただなのはたちの場合、その頃から管理局の仕事が入っていたため、委員会や部活には不参加、選択授業も本当に興味があるものしかとっていなかったので、実質行事の時くらいしか男子と接触を持つ機会がなかった。おかげで、男子の間でアリサとすずかも合わせて「女神」と称される中、さらに「幻の三女神」と呼ばれ、見かけたら幸運の証、挨拶出来たらしばらく話題に事欠かないという妙なプレミアが発生していたことを、当の本人たちは知らない。

 

「私たちがいた頃は、告白ってそんなになかったよね」

「いや、それなりにあったわよ。アンタたちの場合、さっさと帰っちゃうから知らないだろうけど」

「あ、そうなんだ」

 

ただ、どちらかというと精神的に早熟な女子から男子への告白の方が多く、まだ気恥ずかしさが勝る男子の告白はそう多くなかった。そこへ男子たちも追いついてきたらしく、高校に上がると共に比率がほぼ同じになったわけである。

とはいえ、基本学校外も忙しくしていたなのはたちの場合、男子には告白のために彼女たちを発見すること自体が難しかったのも事実。校舎が別の為、下駄箱にラブレターといった古典的な手法も使えない。おかげで、なのはたちが告白を受ける場面というのはそうなかった。

強いて言えば、“偶々”の機会を逃さず告白に踏み切った猛者が稀にいた程度だろう。

 

しかし、すずかとアリサの場合、委員会や部活にもそれなりに参加している関係から、当然比例して告白される機会は多い。だからこそ、進学と共に頻度が増したこと実感しているわけだ。

 

「ま、もちろん全部ノー(ごめんなさい)だけど」

「ありゃ…いい男はおらん?」

「というか、幼稚過ぎるのよね。周りが周りだから、理想が高くなってるのは否定しないけど」

 

お金持ちの名家の出身であり、なのはたちとの関わりで同年代より何となく精神年齢が高めな二人だ。同年代の一般的な男子では、子どもっぽく見えてしまうのも仕方ないだろう。

彼女たちにとって身近な同年代の基準がユーノなのも、男子たちにとっては不運の一つだ。彼を基準にされては、たいていの男子は子どもにしか見えまい。

 

「あ、でも最近すずかが家で男を飼い始めたわよ」

「「「…………はぁっ!?」」」

「あ、アリサちゃん……」

 

あまりの爆弾発言に、目をむいて驚く三人。3対の視線にさらされたすずかは、顔を真っ赤にして抗議しているが、それが事実である何よりの証明だ。

 

「飼うとか、そういうのじゃないから……」

「ちゅーことは、男がおることは否定しないんやね」

「うぅ……」

「と、とりあえず、経緯を聞いてもいいかな?」

「そ、そうだね。まずはお話聞かないと」

「えっと、あんまり驚かないでほしいんだけど、高校に上がってすぐの頃に……その、襲われて」

「ちょっ……」

「襲、われ」

「大丈夫なの!?」

「ほ、ホントに大丈夫。恭也さんとノエルたちが何とかしてくれたから」

 

なんでも、親戚筋との間で以前からあったトラブルが原因となり、いよいよ痺れを切らした相手が強硬手段に出たらしい。すずかがノエルの運転する車で習い事から帰宅する途中、行き倒れの少年を発見。介抱しようと近づいたところ、その少年は隠し持っていたナイフで襲い掛かったのだが、それ自体はノエルが対処し事なきを得る。

ただし、少年は囮だった。護衛でもあったノエルの意識が少年に向いた瞬間、潜んでいた本命が動きあわや…というところで、父や叔母のルートから情報を掴んだ恭也が駆け付け鎮静化。

 

月村家とその一族は故あって一族同士の繋がりが強い。だからこそ、できれば穏便な解決を図ろうとしていたのだが、こうなってはさすがにそういうわけにもいかない。速やかに対処はなされ、もうすずかや周囲の人間が危険にさらされることはないだろう。

そこまで聞いて安堵したなのはたちだが、気になる点が一つ。

 

「じゃあ、その囮になった子が?」

「うん。行く当てもなくて、うちで保護してるんだ」

「えっと、大丈夫なん?」

「良い子だよ。ファリンたちに聞いて色々家のことも手伝ってくれるし、猫たちもなついてるんだ」

「ま、元々孤児だったらしくてね。利用するために引き取られたんじゃないかって話よ」

 

その生い立ちには同情するし、一度の過ちで危険人物扱いするのも良くはないと思う。そんなことを言い出すと、フェイトや守護騎士たちも危険人物扱いしなければならなくなるからだ。

とはいえ、やはり親友の身は心配になる。なにしろ、どんな理由があれすずかは一度その少年に命を狙われているのだから。そんな皆の危惧もわかるが、すずかには件の少年を放っておけない理由があった。

 

「……あの子も、ちょっと普通じゃない生まれみたいなんだ」

「そう、なの?」

「うん。私を襲おうとした時、あの子の目…蒼かった。凄く、怖いくらいに綺麗な蒼。意志みたいなものは感じられないのに、でもはっきりとした殺意。

それが、すごく印象に残ってた。きっとこの子は望んで、自分の意志であんなことをしたわけじゃない。もっとなにか、どうしようもないものがあったんじゃないかって」

 

生い立ち…というよりも、出自の関係から彼女はそう言ったものに少しばかり聡い。だからこそ、わかったことだった。

 

「目が覚めてからも、しばらくは茫洋として意識がはっきりしないみたいだった。でも時々、あの時に似た目をしていることに気付いたんだ。その度に、あの子は凄く苦しそうだった。

どうしても気になって、お姉ちゃんとか恭也さんに調べてもらって……那美さんが教えてくれた。昔、蒼い目を持った特殊な退魔師の家系があったんだって。もう名前も残ってないけど、あの子は多分その末裔なんだと思う」

「「「……」」」

「詳しいことはわからないけど、代わりにあの子が教えてくれた。私たちを見ていると、偶に頭の中に“殺せ”って声がするんだって。色々調べて分かったのは、私たちが“一族の力”を使う時なんかにそれが顕著なこと。それどころか、那美さんの霊力にも反応してた。

 たぶん、“普通じゃないもの”を排除しようとする本能みたいなものがあるんだと思う。

 あの子、泣いてたんだ。“うるさい”“殺したくなんかない”って……それを聞いたら、放ってなんて置けないよ」

 

確かに、少年には何の咎もないだろう。むしろ彼は、懸命にその本能に抗おうとしている。とはいえ……

 

「でも、そんな体質なら、すずかのところにいるのはやっぱり……」

「何なら家で預かろうかって言ったんだけどね」

「もう、それはアリサちゃんにも原因があるよ」

「何があったん?」

「悪かったわよ。あの時は私も気が立ってたし、つい“次すずかに手を出したら、首輪つけて閉じ込めるわよ”って言っちゃったのよね」

「それですっかりアリサちゃんに怯えちゃって……」

 

聞けば、中学生になるかならないかくらいの少年らしい。そんな微妙なお年頃が、年上女性にそんな風に脅されたら、おかしな恐怖心が植えつけられるのも無理はないだろう。ただでさえ難しい生い立ちな上に、アリサは妙に威厳というか風格があるのだから始末に負えない。

 

「というか、なんで首輪?」

「……いや、第一印象的に…首輪が似合いそうだなぁって」

「「「「うわぁ……」」」」

「ちょ、引かないでよ!? 割と傷つくんだけど!?」

「アリサ、とりあえずエリオには近づかないで」

「フェイトもそんな汚物を見るような目で見ないでよ!?」

 

ちなみに、まだ人前には出てきたがらないので写真を見せてもらったところ、確かに「子犬」っぽかった。それも、“雨に濡れた子犬”的な庇護欲を誘うタイプの。

 

「一応、意識がはっきりしてる時は自制できるみたいだし、しばらくはうちで面倒を見ようかなって。うちは姉妹だったからお母さんも可愛がってるんだよね。お父さんなんか、いつか一緒にお酒が飲みたいなんて、気の早いこと言ってるし。お姉ちゃんも“いいわよね~、弟♪”って揶揄って遊んでるんだ」

「だれも反対してないなら……」

「いいの、かな?」

「まぁ、写真を見た限り本人もまんざらやなさそうやし、アリサちゃんのところでホンマに飼われるよりかはマシやろ」

「それ引っ張るのいい加減やめてよね!?」

 

当分の間、このネタで弄り倒されることになるアリサであった。

 

「とりあえず、ちゃんと生きて行けるように責任を以て面倒を見ようと思う。そのうち皆にも紹介するね」

「自分好みに育てて収穫、なんてことのないようにね」

「アリサちゃん!」

 

先ほどまでの意趣返しとばかりに揶揄うアリサ。

だがまさか五年後、どこに出しても恥ずかしくないようにと気合を入れて教育した結果、あまりにも“自分好み過ぎる”成長を果たした少年にすずかが葛藤することになるとは思いもしなかった。ついでに、子犬だと思っていた少年は立派な(夜限定の)“オオカミ”になり、すずかとそういう関係になってしまうという、とんだ予言になってしまうのだが……人生とは、わからないものである。

まぁ、すずかも満更ではなかったので良しとしよう。それはそれとして……

 

「ま、そもそもすずかの好みは立香さんだし、その心配はないわよね」

「アリサちゃん、それ秘密やん!?」

「あ……」

「すず、か……?」

 

まるで油の切れたロボットのようなぎこちなさですずかの方を見やるフェイト。

知っていたらしいはやてと、ついうっかり口を滑らせたアリサの表情が凍る。

言葉の意味を理解し、親友の胸の内を察して瞳を潤ませるフェイト。自分はいったい、今までどれほど無神経だったのだろう。すずかが立香のことを好きなどと思いもせず、アレコレ相談して……どれだけ彼女を傷つけたことか。すずかが何も言わなかったのは、きっとフェイトに遠慮して……とそこまで思ったところで、当のすずかは一つ溜息をつくと、ほほ笑みながら首を振る。

 

「フェイトちゃん。たぶんフェイトちゃんが思ってることは、全部勘違いだよ」

「で、でも……!」

「確かに、私は立香さんが好きだった」

「っ……」

「でもそれは、“立香さんのこと”が好きだったんじゃない。私は、“私を受け入れてくれる”、その確信があったから好きになった」

 

藤丸立香の懐の深さ。神も魔も、悪も怪物も受け入れてしまえる度量。夏のあの日、すずかはそれを知った。

伝説に語られる鬼を、知らぬ者のいない怪物を、手に負えぬ神すら彼は受け入れてしまえる。

そんな彼なら、すずかもまた受け入れてくれるに違いない。それは期待ではなく、確信だった。

不安に怯えることなく、安心して好意を向けられる相手。だから好きになった。

 

しかし、それは違うのだ。

それが不純だとか間違っているとか、そういうことではなく……。

 

「でもそれは、私が欲しいモノじゃない。フェイトちゃんを見てて、それに気付いちゃったんだ」

「わた、し?」

「そう。だって、フェイトちゃんは立香さんが好きだけど、別に生まれのこととかを受け入れてくれたから好きになったわけじゃないでしょ」

「それは…もちろん」

「私もね、それが欲しかった。“嫌わない”人を好きになりたいんじゃない。私は“好きな人に受け入れてほしい”んだって。だから、謝らないで。そして――――――ありがとう。私に、大切なことを気付かせてくれて」

 

そう言ってほほ笑んだすずかの顔は、本当に透き通ったものだった。

 

「まぁ、それはそれとして…………ア リ サ ち ゃ ん ?」

「ひっ!?」

「今日は、ちょ~っと口が軽すぎるんじゃないかなぁ? いくらみんなと会えてうれしいからって、ハメを外し過ぎるのは良くないと思うの、私」

「ご、ごめんなさい!?」

 

極寒の眼差しに、すっかり縮こまって借りてきた猫のようになるアリサ。

口は禍の元という言葉を、深く深く実感した瞬間だった。

とはいえ、謝罪の言葉一つで済むほどアリサの罪は軽くない。この話をしたら絶対にフェイトが気にするとわかっていたからこそ秘密にしていたのだ。そんな口の軽い悪い子には、相応の罰が必要だろう。

 

「まったくもう、アリサちゃんにも困ったものだよね」

「た、助けてなのは! フェイト! はやて――――――――!!」

(普段怒らへん人が怒ると怖いって、ホンマなんやね)

(うん、すずかちゃんは怒らせないようにしよう)

「アリサ…えっと、その……頑張って!!」

「中身のない励ましなんているか――――――――――っ!?」

 

襟首つかまれて、見た目にそぐわない力を発揮してアリサを引きずっていくすずか。

十分後、外傷はないもののすっかり憔悴しきったアリサがすずかに連れられて戻ってきたのだが、誰もあえて藪を突こうとはしなかった。

 

「グスッ、ヒグッ…う、裏切り者。これだから女の友情は…薄情者~……エッグ」

(アリサちゃんがマジ泣きしとる)

「えっと、近況報告の方はどうしようか?」

「とりあえず、すっかり異性関係の話になっちゃったし、二人のことが聞きたいな」

 

なんというか、今のすずかに逆らう胆力はフェイトとなのはにもない。

とはいえ、だからと言って素直に話すのは恥ずかしいわけで……

 

「じゃあ、フェイトちゃん」

「は、はい!」

「立香さんとはどう? 私としては、フェイトちゃんにはしっかり幸せになってほしいんだけど」

「そ、その! 母さん…あ、プレシア母さんが色々準備をしてくれてて、とりあえずあの時の私の心配とかは杞憂みたい」

「そっか。じゃあ、もう何の気兼ねもなくアプローチできるね、良かった」

 

実際には、立香の方も似たような理由でフェイトの思いに応える気がなかったのだが、この数年の間に色々あった。

フェイトの騒動が記憶に新しいが、フェイトが立香の背負うものの意味と重さを知ったりもしたし、他にも本当に色々。

 

当初はとりあえず、マシュと二人でどちらが先に立香の“男”を反応させるかで勝負になった。立香が二人の思いにこたえる気がないのは、男性機能が原因。なら、それを回復させた方が……という話だ。

 

だが実際には全戦全敗、ピクリとも反応しない。おかげで、割と女として自信を喪失したものだ。さすがにそんなことはいくら親友でも口にはできない。あと、立香の名誉のためにも。

 

なのでつい最近、本格的に活動拠点を本局に移してからはなりふり構わない方向にシフト。具体的には、もうどっち“が”ではなく、どっち“でも”いいから立香のリハビリを優先したのだ。要は、二人がかりで誘惑することを考えたのである。

結果、効果はあった。二人の愛が、立香を苛んだ重荷を上回ったのである。本人は自己嫌悪でしばらくふさぎ込んでいたが、大いなる一歩であることに違いはない。二人ももうこの際なので、“どっちも必要”ということで折り合いはついている。片方になって元の木阿弥になっては、それこそ元も子もない。

何しろ、二人以外には相変わらず反応しないのだ。どうせなら立香の唯一になりたいが、その結果振出しに戻るのは困る。なにより、戦友というか同志のような連帯感が生まれてしまって、今更……というのもある。

 

(い、言えるわけないよ~……恥ずかしすぎるし、なによりあの時のことなんて……///)

 

ただ、問題もあった。確かに立香の封は解かれたのだが、解かれた以上はあふれ出すのが人の性。

今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、それはもう激しく立香は求めてくれた…と思う。なにしろ、その時のことをフェイトもマシュもあまり覚えていない。薄らぼんやりとは憶えているのだが、記憶がはっきりしないのである。

憶えているのは、身体と魂を隅々まで満たす多幸感と脳が焼き切れるかのような壮絶な快楽の余韻だけ。そして、目を覚ました時の“ドロドロ”になった三人の姿。

 

加えて、その後も事あるごとに大体そんな感じ。どうやら、立香は色々ギリギリなこともあり、生存本能が働いてすごいことになっているらしいと知ったのはしばらく後のこと。ちなみに、草食系と見せかけてそこは肉食な「フェレット」のユーノも致すときは凄いらしいと知ったのは、無事結婚したなのはに夜の生活について相談された時のことだ。無限書庫も激務なので、無理もないとは思うのだが……現役教導官が根を上げるほどなのだから、推して知るべし。まぁ、それを言うと現役執務官とデミ・サーヴァントの双方を上回ってしまう立香も大概なのだが。

 

当面の目標は、意識と記憶を失うことなく乗り切ること。正直、何が起こったかすらいまいち覚えていないので対策の立てようもないのだが。バルディッシュに記録してもらう手もないわけではないが、万が一を考えると恐ろしすぎる。

 

(すごく幸せだったのは憶えてるけど、中身を覚えてないのがもどかしい!? だから思い出したい、あるいは憶えておきたい……だけど、ちょっと怖い。私はどうしたら………!!!)

「あ、とりあえずフェイトちゃんに新妻はやてちゃんからアドバイスや」

「な、なに!?」

「新妻アピールがウザイわぁ」

「フェイトちゃんのことやから、いざという時テンパって頭真っ白になりそうやん」

(ギクッ!?)

 

実際、最初に立香を誘惑しようとした時、例の事情から困り果てた彼を“戸惑っている”と勘違いし、「カワイイ」と思ったのも束の間、「ここからどうしたら……」「何をするかはわかってる、わかってるけど~~~~~っ!!」とテンパりフリーズしたのはよく覚えている。まるで見てきたようなはやての指摘に、フェイトの額から脂汗が滝のように流れ落ちる。

 

「そういう時はな、いっそのこと立香さんに全部委ねてまうのがええよ。無理して見栄張って失敗すると、後々支障が出るからなぁ~」

「いや、フェイトにはまだそういう話早いでしょ」

「というかはやてちゃん、生々しすぎるよぉ!?」

「う、う~ん、昼間からする話じゃないと思うなぁ」

(それをして何も覚えてないんですが!?)

 

実はとっくにその先に進んでいるとは思いもしない幼馴染たちであった。

 

「まぁ、はやての与太話はおいておくとして……実際どういう状況なの?」

「い、一応受け入れてはもらえたと…思う」

「それは、フェイトちゃんから告白したってこと?」

「ま、まぁ……でも、それとは別に、ずっと一緒にいてほしいって……」

「「「「おぉっ!」」」」

 

フェイトから告白するのは想定済みだったが、まさか既にそこまで言っていたとは……みなの顔に喜色が満ちる。

実際、機能の回復とともに立香も腹を決め、“殴られても”どころか“殺されても”と覚悟を決めて二人に思いを告げた。とはいえ、二人の間には固い結束が生まれた後だし、そもそも立香が背負うものはどちらか一人で支え切れるほど軽いものではない。

 

彼らが背負うものの一端を背負うことを選択したフェイトには、それが良くわかる。

だからこそ、二人で支えようと決めたのだ。どこまでも平凡でありながら、一人で背負うにはあまりに重いものを背負ってしまった人を。

 

「それじゃ、立香さんの恋人はフェイトなわけね」

「えっと、それは、その……」

「え、違うの?」

「まさか、二人?」

「え~、それはちょう……」

 

歯切れの悪いフェイトに、みなの表情に陰りが生じる。本人たちは納得しているが、それが普通の反応であることは理解できる。だから、なんと言えばいいかわからずうつむいてしまうフェイト。

しかしそこへ、アリサが有無を言わせぬ口調で問いを発した。

 

「フェイト、一つだけ聞かせなさい」

「う、うん」

「あんたは、それで幸せ? 後悔はない?」

「…………………………………………ないよ。これは私が、私たちが選んだことだから。私だけじゃ、立香を支えきれない。たぶん、マシュだけでも……だから、二人で支えるんだ。三人で支え合って、幸せになる。それが、私たちの選択」

 

ハッキリと、顔をあげて断言する。それだけは、誰にも否定させない。たとえ、自分の身と幸せを案じる親友であっても。そんなフェイトの想いを汲んだのか、それまで厳しかったアリサの表情が僅かにほころぶ。

 

「そ、ならいいわ。おめでとう、フェイト。幸せにね」

「今でも幸せだけど…本当に幸せになるのは、これからだもんね」

「えっと、いいの?」

「いいのよ。フェイトが自分で考えて、納得して出した答えなら、それで。それに、あの人が背負ってるものがどれだけ重いかなんて、私よりあんたたちの方がよく知ってるんでしょ」

「それは……」

「確かに、それを言われるとなぁ……」

 

彼女たちも、少なからず立香の道程を知っている。そして、フェイトの選択の意味も。

だからこそ、アリサの言葉に何も言えない。ならばあとは、親友の前途を寿ぐだけだ。

どうかこの優しい親友の幸せが、翳ることのないように。

 

「そういえばフェイトちゃん、アレはどうなったの?」

「あれって?」

「ほら、前に言ってたでしょ。立香さんが全然困ってくれないって」

「あ、あぁ……そのこと」

 

以前より、立香はフェイトのことを甘やかしてばかりで、多少の我儘や失敗くらいではその鉄壁のほほえみを崩すことができずにいた。いつでも、どんな時でも受け止めてくれるのはうれしい。そういう意味で、立香に対して不満など抱いたことはない。

不満だったのは、自分自身。「迷惑をかけて嫌われたら……」と恐れる反面、「困ってくれない」ことに対し寂しさも覚えていた。まるで、自分は彼にとってとるに足りない存在であるかのように感じられたのだ。

“迷惑をかけたくない”だが“少しは困ってほしい”、そんな相反する思いがフェイトの胸の中で渦巻いていたことを、親友たちは知っている。そもそも、“立香を困らせられるようになれ”と言い出したのはアリサだ。

 

「そうよね。付き合うようになったわけだし、その辺少しは変わったの?」

「ま、まぁ、ちょっとは困らせられたよ。うん」

「ほぉ……あの立香さんを困らせるとは、フェイトちゃんも成長したんやね。で、何やったん?」

「え〝」

「どうしたの、フェイトちゃん?」

(い、言えるわけない!? Yシャツ一枚で誘惑したなんて、言えるわけないよ~!?)

 

正確には、どうしても誘惑する勇気を持てずにいたため、景気付けと勢いをつけるために慣れない酒精を一気飲み。酔った勢いで突撃し、ついでにどこかで聞きかじった“濡れ透け”なるものを実践したのだ。

ただ、体質的にアルコールに強かったのか、辛うじて理性が残っていたのは幸いだったのか不運だったのか。いずれにしろ、迫りながらもブレーキをかけたのは彼女の生来の優しさ故だろう。内心、不安に押し潰されそうになりながら、「本当に嫌ならそう言って」「でも、少しでもいいと思ってくれるなら……」と覆い被さりつつ踏み止まった。そして、拒絶されないことに安堵し、半ば強引に唇を奪ったこともしっかりばっちり覚えている。まぁ、自分からやっておいてキスがきっかけで完全に酔いが覚め、素面に戻って最後はテンパってはやての言う通り頭真っ白になってしまったのだが。

正直、今思い出しても顔から火が出そうなほど恥ずかしい。しかし同時に、心の片隅で「ようやく困らせられた」と少し嬉しかったのも事実。

 

最近、親友たちに言えない黒歴史が大量生産されている気がするフェイトだった。

何しろつい先日も、ちょっとやらかしてしまったばかり。とはいえ、正直そっちに対する助言が欲しかったのも事実。詳しくは言えないまでも、かいつまんでなら……と口を開く。

 

「じ、実は……ちょっと変身魔法を使って」

「あ、もしかして大人の姿になったんやな。いやぁ、私もやったことあるで。士郎がな、それはもう目が泳ぎまくって……」

「惚気はいい! それで、やっぱり大人に?」

 

フェイトの対抗馬はマシュだ。いくら双方納得しているとはいえ、それでも二十代半ばも近づきつつあり、まさに大人の女、あるいは女盛りのマシュの色気は最近スゴイ。相変わらずショートなおかげで住み分けはできているが、それでも劣等感のようなものを抱くのは無理もないと言えるだろう。十代半ばの青臭い小娘と二十代の大人の女性、些か分が悪い……と十代半ばの少女たちが思うのも仕方がないことだ。

だが、フェイトが考えたのは全く逆のことだった。

 

「ううん。それだと、やっぱり本物の大人のマシュには勝てる気がしない。だからいっそ、逆にいこうかなって」

「え、それってつまり……」

「出会った頃の姿になって、その……くっつきました」

 

すずかの想像は正しく、九歳当時の姿を取ったのだ。ただし、誘惑したことは…さすがに言えなかったが。

 

「なるほど、大人の魅力で勝負するのは確かに分が悪いかもしれないわね」

「いや、発想はわかる。せやけど、それはちょっと……」

「絵面がすごいね」

「うわぁ、うわぁ……///」

 

二十代半ばの青年にくっつく齢一桁の少女……犯罪臭がスゴイ。しかも、片方は恋愛感情で頭がいっぱいと来た。その様を想像したのか、全員が頬を引きつらせる中、なのはだけはなぜか耳まで真っ赤になっている。

どうやら、彼女にとっては十分刺激的な光景になるらしい。

まぁ、実際にはもっと過激なことをしていたわけだが。恥ずかしそうに衣服をたくし上げたり、半裸の幼い肢体を密着させたり…挙句、そのまま上目遣いに「興奮、する?」と小首を傾げて問いかけるとか。

 

「えっと、フェイトちゃん。立香さんはなんて……」

「“俺を変態にしないで……”って、頭を抱えてた」

(無理もないわ~………)

(それは、流石の立香さんも困るよね)

(フェ、フェイトちゃんが大人だ!)

 

実はとっくに大人の階段を駆け上っていることを、なのはは知らない。

 

(嘘やなさそうやけど、全部は話していないと見た。それに、さっきから時々フェイトちゃんが“女”の顔しとるし、実際にはもっと進んでそうや。ふっふっふ……フェイトちゃんもやることやってたんやね)

「なんかさっきからはやてちゃんの表情が妙に優しいのが気になるんだけど……」

「確かに。あと、微妙な上から目線が鬱陶しいわね」

「さっきからアリサちゃん、私にあたりキツない? 私なにかしたん?」

「べつに~……あんた達がしっかり青春してるのがうらやましいとかじゃないから」

「そうだよね。アリサちゃん、婚約者さんがいr」

「なのは、次アイツのこと口に出したら〆るわよ」

「ふぇっ!? なんで!?」

「このド天然娘! 私がアイツのこと嫌いなの知ってんでしょうが!!」

 

さながら連続殺人鬼のようなドスのきいた目で睨みつけるアリサ。歴戦の勇士と言っても過言ではないはずのなのはだが、思わず身の危険を感じてしまった。とても、幼馴染に向けていい目ではない。

 

「仲の悪さは相変わらずみたいやね」

「まぁ、どうしてもソリの合わない人はいるから」

 

カルデアに関わっていると、そういうのが良くわかる。そして、アリサにとってはその婚約者がそうなのだろう。

 

「でも、悪い人じゃないんだよね」

「……そうね。成績は優秀だし、スポーツも得意よ。たしか、サッカーでU-15の代表にも選ばれてたはず。顔立ちも、まぁ美形と言えばそうね。クール系というか、クロノさんに近い感じ。性格も……悪いわけじゃないわ」

「なのに嫌いなの?」

 

聞く限り、これと言って欠点のなさそうな人物のようだが。

 

「嫌いというか………………………………生理的に無理」

「そこまでいうほどなの……?」

「いっそキモオタ系の方がマシ」

「韓信さんと「万倍(か?」)マシね」

「おおぅ、食い気味に言い切ったわ」

「黒髭となら……悩むわね」

「そ、そこまでなんだ……」

 

ほんとうに、どれだけ嫌いなのだろうか。

 

「どこがそんなにダメなの?」

「……………………………………………………………………………………俺様なとこ」

「俺」

「様?」

「あ~、あるよね、そういうところ」

「あ、すずかちゃんは知ってるんや」

「まぁ、ちょっとだけね」

 

能力があり、家の力も強く、親も甘いからこそ、これと言って苦労なく生きてきた弊害ですっかり「自分が世界の中心」みたいな考えの持ち主に育ってしまったらしい。昔からその傾向はあったらしいが、最近は特にその傾向が強まっているとか。また、「お前は女らしく大人しくしていろ」と男女差別と紳士をはき違えた態度も目立つ。

向こうは向こうで負けん気の強いアリサが気に食わないらしく、「俺の邪魔をするな」「一々口を出すな」と取り付く島もない。こんな二人では、確かに仲良くできないのもうなずける。

 

「アイツが欲しいのは、ステータスとしての女性。自分に逆らわない、従順で、大人しい、意見を持たない、お淑やかで儚げな庇護欲を誘う大和撫子……私にできると思う?」

「「「「無理」」」」

「当然よ! 後ろで守られるお姫様なんて私のガラじゃないっての! 私だったらむしろ、自分で剣持って敵陣に突撃してやるわ!!」

 

その場合パートナーに求める役目は、共に戦い背中を預ける戦友か、思う存分戦えるよう支えてくれる副官か、らしい。少なくとも、件の婚約者殿には無理な注文だ。

割と我が強い者同士ではあるが、両者の一番の違いは自分が一番・中心であることに拘りがあるかないか。勝負事には全力で勝ちに行くし、白黒はっきりつけたがる気質のアリサだが、必ずしも自分が一番や中心であることに拘りはない。まぁ、どうせなら“一番”の方が気持ちがいいとは思っているが、そうでないならそれはそれで構わないと思っている。仲間と協力したり、誰かを支えるというのにもやりがいを覚えるからだ。

ただしあちらの場合、プライドの高さから自分が“一番”であることに執着する。まぁ、だからこそ代表チームのストライカーとして活躍している面もあるので、一概に欠点とも言えないが。

それでも、どうしても生理的にアレだけは無理なのだ。

 

「そういえば、前からいつか解消してやるって言ってたけど、どう?」

「パパの実家のババ…こほん、偉い人が決めたことだから、簡単には無理ね。でも、もう見通しは立ったわ。高校卒業までには、円満に解消してやるわよ」

「円満?」

「えっとね、一応婚約者ってことで周りに紹介してるから、強引に破談にすると色々と風聞が悪くなっちゃうんだ。そうすると、会社の方にも影響が出ちゃうわけだね。アリサちゃんもそうだし、相手の人も」

「なるほど……」

「ま、嫌いと言っても社会的に破滅しろ、とまでは思ってないからね。お互い後腐れない方がすっきりするでしょ、縁を切るならきっちりしっかり切りたいし。できれば二度と顔も見たくないのよね、そのための努力は惜しまないわ」

 

と、大人の対応を考えていたアリサだったが、高校卒業を前にまさかの電撃破談。しかも、アリサのように慎重に手回しをした上でのそれではなく、後先考えず「お前との婚約を破棄する」というぶった切り。

しかも理由というのが「俺は真実の愛を知った」「彼女が、俺に大切なことを教えてくれたんだ」「俺に愛されているというお前の勘違いにはもううんざりだ。お前のような傲慢な女、愛したことなど一度もない」と、どこかで聞いたようなもの。

想定外というか、いくらなんでも想像の外の現実に思考が停止し、気付けばすべてが終わった後。とりあえず、現実に戻った彼女がまず叫んだのは……

 

「あんたはどこの乙女ゲーの攻略対象で! 私はどこの悪役令嬢だ―――――――――――――――――――――――――――!!」

 

だった。

そして、その手回しとは無縁の婚約破棄のおかげで割を食ったのがアリサ。互いに社会的な評価は高かっただけに、先手を打たれたことからすっかりアリサが悪者扱い。表面的な事実しか見ない者、分かっていて噂に乗って自らの利益を追求する者が多く、味方があまりいなかったのが痛い。

隙を見せた者は追い落とされ、食い物にされるのが世の常。むしろ、利益追求のためにバニングス家を叩きに動いた連中をこそ褒めるべきだろう。表面しか見ない連中はただのバカだが。

 

とはいえ、そうとなればアリサも容赦する気はない。売られた喧嘩は全力で買うファイター、それが彼女の本質だ。むしろ、逆境から逆転してこそ腕がなるというもの……と言わんばかりに早速反撃開始。互いに傷なく、円満に解消しようという配慮を示したのが間違いだった……というよりも、家のこととか色々気にして表面だけ取り繕っていたのが失敗だった。その結果、あの“俺様男”に「アリサが惚れている」とか「愛されていると勘違いしている」といった有り得ない誤解を生む羽目になったのだと反省。

しかも、父の実家からは”丁度いい試練”とばかりに勘当扱いされ、学費くらいしか出してもらえないことに。なので、自力で仲間を集め、数少ない味方やありったけの個人的なコネを使い、大学在学中に起業。飛ぶ鳥も落とす勢いで会社を発展させ、舐めたことしてくれた馬鹿に一瞥もくれずに駆け上がっていくという、これまたどこぞの成り上がりストーリーを展開するのであった。

ついでに、これが地球初となる管理局との交易会社となるのだが……まだまだ未来のお話。

 

「というわけで、私の話はおしまい。

あとはなのは、そっちはどうなのよ。ユーノとはいい加減少しは進んだんでしょうね」

「す、進むも何も、私とユーノ君は幼馴染の友達で……」

「その言い訳は聞き飽きたわ」

「ついでに言うと、“空の人間だからいつ墜ちるかわからない”っちゅうのも耳タコや」

「なのは、ユーノはいつもなのはのことを一番に考えてくれてるよ。無限書庫で働いているのだって、かなりの比率でなのはの力になりたいからだと思う」

「なのはちゃん、そろそろ観念した方が良いよ」

 

口々にそう言ってくる親友たちに、なのはもたじたじだ。

 

「なのはももう気付いてるんでしょ。自分がユーノのことをどう思ってるか」

「それは……」

「そやな、例えばクロちゃんがユーノ君と」

「ダメ! それはダメ…ぁ」

「なによ、全然取り繕えてないじゃない」

「なのはちゃん」

「…………ダメ、やっぱりダメだよ。ユーノ君は優しい。でもだからこそ、私のことで責任を感じてくれてる。私はその優しさに、甘えちゃいけない」

「責任?」

「それは、なのはに魔法を教えたこと?」

(コクッ)

「だけど、それは……」

「フェイトちゃん」

 

何か言おうとするフェイトを制するはやて。彼女には、フェイトが言おうとしたことが分かった。

なのはがいたからこそ解決できた事件があり、彼女に救われた命は数えきれない。それは本当に素晴らしいことだ。そんななのはに魔法を教えたことは、称えられこそすれ、咎められることではないのではないか、と。

しかし、違うのだ。だってそれは……

 

「フェイトちゃんが言おうとしてることは正しいと思う。せやけど、それは管理局員、あるいは公僕としての正しさや。個人の正しさとはまた別。ユーノ君が感じとる責任は、個人のもの。なのはちゃんに魔法を教えた結果、一人の女の子から平穏を奪ってしもた。そのことを言ってるんやろ?」

「……うん。私自身はそのことを不幸とか、奪われたなんて思ってない。だけどユーノ君は違う。優しくて、責任感が強いから、だから自分を赦せない。そんなユーノ君に“好き”なんて言ったら、きっと……」

 

今まで以上に、彼の人生を縛ってしまう。それは、なのはが最も望まない未来だ。

 

「私はもうユーノ君から一杯貰った。だからこれ以上は、欲張りになる」

「……ったく、この子は」

(ユーノが責任を感じてるっていうのは、確かに本当だと思う。クロノからも、立香からも聞いたことがある。

 だけど、それとは別にユーノはなのはのことが好きなんだ。好きで、責任を感じているから、押し付けようとはしない。ただ静かに好意だけを示して、なのはが降す決断と、その時を待っている。

 でも本当は、決断なんて必要ない。なのはだって、ユーノのことが好きなんだから。なのに、どうして……)

 

互いを向いているにもかかわらず、こうも二人の想いは重ならないのだろう。より正確には、ユーノの好意を無意識のうちに気付かないふりをしている、というべきか。それが、フェイトは無性に悲しかった。

 

「じゃあ、少し話を変えよっか」

「すずか……」

「だって、これ以上言ってもなのはちゃんを追い詰めちゃうだけだよ」

「せやね。確かに、意固地になられても困るしなぁ」

「ったくしょーがないわね。じゃなのは、ユーノの愚痴とかないの?」

「ふぇ?」

「だから愚痴、不満でも文句でもなんでもいいけど」

「ぐ、愚痴って言われても、私別にユーノ君に文句なんて……ぁ」

「あるのね」

 

ちょっと意外に思わなくもないが、これは丁度いい機会だ。吐き出すものを吐き出させてしまえば、あるいは何か進展があるかもしれない。

 

「え、えっと、その……」

「この際だから言っちゃいなさいよ。ほら、どうなのよ」

「……………………………………………実は」

「「「「ふんふん」」」」

「時々……ユーノ君といるのが辛い」

「「「「え〝」」」」

 

想定外の答えに、全員の表情が凍り付く。が、それも束の間……

 

「だ、だってユーノ君ってばすっごく無防備なんだよ! さらっと手を握ってくるし! 優しい目で微笑みながら“なのはは凄いね”とか言ってくるし! あ、あんなことされて、勘違いする女の子がどれだけいると思ってるのかな!!」

(いや、それは……)

(普段からなのはちゃんがやってることやん)

 

教導の時は別としても、異性同性を問わず、「凄いね、頑張ってるね」と手を握ったり、上目遣いをしたりは日常茶飯事。時には、手元のモニターを触れ合えそうな距離でのぞき込んだりもする。基本、誰とでも距離感が近いのだ。それは、相手を男性と認識はしていても、異性と捉えていないからこそ。要は、なのはにとってユーノ以外の男は異性ではないのだ。

そんな彼女に、過去いったいどれだけの男性が弄ばれてきたことか……本人に自覚がないのが始末に負えない。

 

「まったくもう! 私が普段どれだけ我慢してるか、ユーノ君は全然わかってない!」

(むしろ……)

(わかってないのはなのはちゃんの方なんじゃ……)

 

アリサとすずかも顔を見合わせ深々と溜息。唯々、ユーノの苦労が偲ばれる。彼がそんなにも距離感を詰めて接する相手など、なのはしかいないというのに。

ちなみにその頃、偶然にも野郎共で駄弁っていたユーノがくしゃみを一つ。ちょうど「最近なのはに避けられてる気がするんだ」「目を合わせようとすると真っ赤になって逸らされるし、人込みではぐれないようにと思って手を握ろうとしたら変な声をあげて引っ込められるし……僕、嫌われるようなことしたのかな」という話をしている時だった。もちろん周りからは「ないない、それはない」と呆れ気味に否定されていたが。

 

とりあえず、なのはに言いたいことは一つ。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

「どういう意味!?」

 

あるいは“リア充爆発しろ”のどちらかだろう。

 

「せやけどなのはちゃん、ユーノ君のことはホンマに気を付けた方がええで。ユーノ君、めっちゃ人気あるんやから」

「やっぱりそうなの?」

「うん。地位と能力もそうだけど、加えて、ユーノって無限書庫勤めだから日に当たらないでしょ。元の体質もあるんだろうけど、ちょっとズルい位に肌とか髪がきれいなんだ」

「あ、それ私も思った。やっぱりあれって、ケアとかしてないわけ?」

「ユーノがそういうことすると思う?」

 

正真正銘の本の虫、仕事中毒なだけに、小まめに手入れをしている姿がまず浮かばない。

正直、女としての自信を喪失してしまいそうになったのも一度や二度ではないのだ。

 

「で、でも私この前“資料整理でお金がもらえるんだからぼろい職場だ”みたいなこと言ってる人たち見たよ!

思わずバスターしそうになったけど、何とか我慢したからよく覚えてる」

「それはそれで怖いんやけど……まぁ、我慢したんならよしや。気持ちはようわかるし」

「いや、というか情報馬鹿にするとか、そんな頭の沸いた連中ホントにいるの?」

「もしかしてその人たち、ガチガチの武装隊じゃないかな? なのはみたいに捜査とかに参加しない、武装隊一本の人たちだと直接情報を受け取ったりしないこともあるだろうし……」

「指揮官ならともかく、脳筋タイプの一兵卒やと情報のありがたみはわからんかもしれへんからなぁ」

 

無限書庫が正式稼働するようになってもう数年であり、まだ数年だ。以前は碌に活用されないままでもなんとかやってこれたからこそ、軽視する傾向も根強い。とはいえ、情報のありがたみを知る部署や指揮官クラスに、そんな蒙昧はそうはいない。まぁ、フェイトの言う通り武装隊の下っ端にそういう傾向が濃いのも事実だが。

そして、当然わかる人にはユーノの重要性も有能さもわかるわけで……。

 

「話そうか迷ったんやけど、実はこの前お世話になった指揮官さんにユーノ君を紹介してくれって頼まれたんよ」

「え…な、なんで!」

「娘さんとお見合いさせたいんやて。ちなみに、この手の話は結構来る。親戚の子やったり、友人にやったり…なかには、本人がっちゅうこともな。多分、クロノ君とかリンディさんにも来てるんちゃうかな?」

「……………………」

 

あからさまにショックを受けるなのは。それでも、ボソボソと何やら自分に言い訳しているのが聞こえてくる。

 

「あとな、美味しそうな油揚げを狙っとるのはトンビだけやないよ」

「ちょっと待ちなさい、はやて。それどういう意味?」

「ユーノ君のファンは多いっちゅうこっちゃ。それこそ、性別問わず」

「「「「え〝」」」」

「確かにユーノ君…っちゅうか無限書庫を軽視する武装隊はおる。せやけど、逆にファンも多いんよ。中性的っちゅうか、綺麗な顔しとるからなぁ。線も細いし、普段接点のないタイプやからこそクラッと来るんやろ。

 でまぁ、比較的無害なところやと、ユーノ君の写真持って血走った目でハァハァしてるだけなんやけど」

「いや、それも十分危ないわよ!」

「話の流れ的に男性、だよね?」

「そ、そういうことがあるっていうのは聞いたことがあるけど……」

「ディープなところやとユーノ君の純潔が欲しい、あるいは純潔を捧げたいとか言い出す人もおるとか。あ、ちなみにこれ、シグナム情報な」

「「「うわぁ……」」」

 

一番その手の冗談を言いそうにない人がソースなだけに、信憑性が半端ない。

人の趣向はそれぞれなれど、幼馴染の男の子がその対象にされているというのは……。

 

「まさか、まさかユーノ君! 本当は男の人が……!?」

「いやいや、それはないでしょ!」

「なのはちゃん、正気に戻って!?」

「ダメだよ! それ、ユーノには言っちゃダメだからね!!」

「できれば何とかしたいってシグナムも言うてたんやけど、別にまだ何もしてへんのに理不尽なことはできんって悩んでたんよ。どないしたもんやろ……」

 

後日、なのはがかつての「ユーノ君の初めて取られた!?」に続く爆弾発言第二弾「ユーノ君のお尻は私が守るんだから!」をぶちかますことになるのだが……まぁ、そういうこともあるだろう。

 

 

 

そんなこんなで話は横道わき道に逸れながらも、それなりに盛り上がる。

途中アリサが……

 

「立香さんがいなかったら、ユーノがなのはと結婚して、なのはとフェイトが結婚してたかもねぇ」

 

なんて冗談を言い出し、すずかは首を傾げながら……

 

「ユーノ君がなのはちゃんとフェイトちゃん、二人と結婚するってこと? そんな器用には思えないけど……」

「いや、そうじゃなくて…ユーノがなのはの婿、フェイトがなのはの嫁って意味」

「ああ、ユーノ君が二股するんやなくて、なのはちゃんが両手に花するんやね。確かに、有り得たかもしれへん」

「いやいや、何言いだしてるのみんな!?」

 

慌てて待ったをかけるなのはだが、その傍らでフェイトは「立香がいないなんて考えられない」と思いつつも……

 

「あ、でもなのはとなら別にそれはそれで……ユーノのことも嫌じゃないし」

 

と言い出し、「まんざらでもないみたいな反応しないでよ、リアクションに困るじゃない」とアリサに突っ込まれるのだった。




実はガールズサイドとは別にボーイズサイドもちらっと考えたのですが、長くなり過ぎたのでお蔵入りに。まぁ、実際にやろうとしたら3割にも満たない量になりそうですけどね。
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