魔法少女リリカルなのは Order   作:やみなべ

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ロストベルトⅣまであと一週!? 石と符、合わせて200連分相当準備よ~し。いつでもかかってこいや―――!!

とまぁそっちはおいておくとして、デトネーションの円盤発売も近づいてまいりました。できれば、そっちが出る前にデトネーション関連の話は終わりにしてしまいたいなぁ。
とりあえず、色々すっ飛ばしている部分は皆さんの記憶と円盤で補完してください ネ♪


イリスの場合

やっぱり、悪魔の娘はアクマか……。

 

―――のっけから酷い言われよう!?

 

安心しなさい、本気だから。

 

―――そこは冗談にしておきましょうよ!?

 

いやだって、よりにもよって“あの時”のことをわざわざ“私”に聞きに来るとか、どんな拷問よ。

 

―――それはまぁ……そうなんですけど。

 

……ま、そもそも聞く相手が少ないんだから仕方ないってのはわかるけど。所長に会うのはそもそも無理だし、ユーリもキリエも操られてたか利用されてたか。いうなれば被害者側でしょ。

なら、犯人側の当事者の中で話を聞けるのは、私位だもんね。

 

―――イリスさんも利用されてたって意味では……。

 

そうだとしても、私はキリエほど優しくない。あの子は極力迷惑をかけないようにって考えてたけど、私は地球もそこで暮らす人たちも、全てを巻き込んでやるつもりだった。

“被害者”って括りに入れるのは、少しばかり無理があるわ。

 

―――……。

 

そんな顔しないの。

そりゃね、真相を知った時とか、事件が終わった後とかは罪悪感やら自分のバカさ加減やらで、正直死にたい気持ちだったけど……今はそれなりに自分の中で折り合いもついてる。エルトリアの惑星再生と復興、それが私の贖罪であり責任の取り方。今までも、そしてこれからも。この命がある限り、私は…贖いの花を植え続ける。

 

―――で、でも! 皆さん赦してくれてるんですよね! 事件のことだって、ちゃんと償って……。

 

そういう問題じゃないのよ。これは、私自身の気持ちの問題。いくらユーリやキリエが赦してくれても、罪を償ったと誰かが認めてくれたとしても、私はそれじゃ納得がいかない。

言ったでしょ“死にたい気持ちだった”って。今もそういう気持ちはある。でも、そんな“逃げ”は私には許されない。ユーリもキリエも、みんな私に生きてほしいと望んでくれてる。そして、幸せになってほしいとも。

 

……私は、せめてみんなの思いを裏切りたくない。

だから、気持ちの折り合いをつけるために必要なのよ。気兼ねなく、とはいかないまでも、私が笑っているためにはね。

 

―――そういう、ものでしょうか。

 

分からなくていいわ。あなたには、分かる必要のないことだから。

 

って、話がいきなり逸れちゃったわね。あの事件の時のことってなると……正直、途中から何もかもうまくいかなくて苛立ってたわね。

 

―――それはやっぱり、カルデアが介入してきたあたりからですか?

 

そう。それまではおおむね順調だったのに、途端に想定外の事態ばかり起きるんだもの。

ユーリとの分断に始まり、動こうとすれば用意していた工廠の半分以上が機能停止、限られた戦力を動かせば魔導士たちがサーヴァントを引き連れてるのよ。情報不足が一番の問題だったけど、それ以外にもこっちが打とうとする手を悉く先んじて潰してくるんですもの。頭が痛いどころの話じゃないわ。

 

―――あれ? でも確か、サーヴァントの皆さんって立香さんが近くにいないと魔力供給に難があるんじゃ……。

 

基本的にはね。“偽臣の書”って言ったかしら? サーヴァント一騎あたり一つそれを用意して、主要メンバーにそれぞれ持たせてたのよ。代理のマスター権と、魔力供給の代行のためにね。

 

―――そんなことできるんですか? マスター権はともかく、魔力供給しようにも似て非なるものって聞いてますけど……。

 

ええ、リンカーコアの魔力と魔術回路の魔力は、名称こそ同じだけど本質が異なる。だから、本来なら魔導士にサーヴァントへの魔力供給はできない。やろうとすると、生命力そのものを持っていかれることになるそうよ。

 

だけど、あそこにはダ・ヴィンチやシオン、そしてプレシアがいた。

魔力の質が違うのははじめから織り込み済み。書に変圧器みたいな機能を持たせて、リンカーコアの魔力を魔術回路のそれに変換できるようにしたのよ。ま、変換効率は相当悪かったみたいだから、主要メンバー位の魔力持ちじゃないと、使い物にならなかったみたいだけど。

 

―――あ~、そういえばプレシアさんって元はエネルギー関連の技術畑の人でしたっけ。

 

そういうこと。加えて、プレシア自身もリンカーコア持ちだからサンプルには困らないって寸法よ。その上、カルデアには“頭脳の怪物”共がいる。時間さえあれば、それくらい訳ないんでしょうね。

 

―――なるほどなるほど……ちなみに、誰がどのサーヴァントを連れてたかは。

 

確か、はやてちゃんがアルジュナ、シグナムが沖田、ヴィータが金時、フェイトちゃんがアタランテ、なのはちゃんが哪吒を連れてたはずよ。

 

―――能力的な相性優先、ですかね? 剣士同士(シグナム&沖田)パワーファイター同士(ヴィータ&金時)スピード特化同士(フェイト&アタランテ)ですし。なのはママの場合、飛べるオールラウンダー(哪吒)がいると助かるから。

 

どうかしら、性格面も考慮してたと思うわよ。フェイトちゃんとアタランテは子ども好き同士仲が好いし…あ、でも昔は子どものフェイトちゃんをアタランテが気に掛けるって感じだったっけ。

 

―――私的には、ヴィータさんと金時さんはよくケンカしてるイメージというか、子ども扱いされて怒るヴィータさんと、それを笑って流す金時さんって印象ですね。

 

ああ、そういえばあの時もそんな感じだったわ。

とりあえず、シグナムのところは「斬り合いの場で主義主張なんて何の意味もない」「戦場に事の善悪なし、ただひたすらに斬るのみ」って考えに結構共感してたみたいよ。

ま、なのはちゃんとかは沖田のそういうところがちょっと苦手みたいだけど。

 

―――あ~、ママは「お話聞かせて」の人ですからね。やる時はやる人ですけど、それでも相手の想いとか気持ちとか、そういうのを「知らん」って切って捨てれる人じゃないですし。普段はむしろ仲が好いくらいなんですけど……。まぁ、恭也さんとかは人斬りモードの時でも特に気にしないみたいですが。

 

ふ~ん、そうなんだ。フェイトちゃんなんかは、ああいうマインドセットは見習うべきかも、みたいなことを言ってたわね。なのはちゃんもはやてちゃんも、根本的なところでブレない子たちだけど、フェイトちゃんは結構揺れるからねぇ。

 

―――へぇ~……じゃ、八神司令のところは?

 

特に、性格的な相性の善し悪しはなかったような……とりあえず、はやてちゃんの広域攻撃とアルジュナの宝具の組み合わせが“鬼”だったわ。

 

―――アルジュナさんの宝具って言うと、あの“まとめてドッカ~ン(パーシュパタ)”な奴ですか?

 

いや、私が見た時は投げた光球による“大気圏外からの精密同時狙撃(破壊神の手翳)”みたいな感じだったわね。

 

―――発動形態の違いでしょうか?

 

知ってるようで、案外あいつらのことってあんまり知らないのよね。

 

―――言われてみれば、確かに。宝具を複数持ってる人とかもいるらしいですけど、あんまり知らないんですよね。

 

そういえば、あの連中普段は何して過ごしてんの? やっぱり、どこかしらで問題起こしてるとか?

 

―――いやぁ、流石にそんな連日騒動を起こしてるわけではないと思うんですが……。

 

だからと言って、いつもいつも全員がスペース・ボーダーに乗ってるわけでもないんでしょ。

 

―――みたいですね。その時々の行く先に応じてある程度メンバーを選んで、必要に応じて都度召喚してるみたいです。なので、ほとんどの人たちはムンドゥス・カルデアの方に残ってるってフェイトさんに聞きました。まぁ、だからこそあそこにちょっかいかけるのは自殺行為らしいですけど。

 

あ、そういえばあの子、今はスペース・ボーダーに乗ってるんだっけ。

 

―――はい。以前はクロノさんのクラウディアに乗ってたんですけどね。機動六課が解散してしばらく経ったくらいから、でしょうか。立香さんたちも、一通りの管理世界をカルデアスで観測し終えてからは管理外世界の観測をして回ったり、カルデアの方で見つけた“ナニカ(特異点)”への対処をしたりで、結構色々飛び回ってるみたいなんですよ。そこに便乗させてもらってるらしいです。

 

フェイトちゃんの専門って確か……

 

―――古代遺物(ロストロギア)の私的利用とか、違法研究とかの捜査ですね。どっちも、管理局の目が届きにくい管理外世界に拠点があることも多いので。

 

なるほど。局の船だと色々縛りもあるけど、外部の船ならかえって緩い部分もあるからいいとこどりしてるわけか。ま、愛しの旦那様と一緒にいられるわけだし、一挙両得でしょうね。

でも、流石に一人でってことはないわよね?

 

―――あ、はい。シャーリーさんが一緒ですし、確かティアナさんも一時期乗せてもらってたって聞いてます。

 

………………苦労したでしょうね。

 

―――執務官として独り立ちした今も偶にお世話になるみたいですけど、ウェンディと一緒に物凄く疲れた顔してました。あと、状況によっては借りた捜査要員とか武装隊の人たちも乗せてもらったりするとか……割と不人気で、人手の確保が難しいって困ってますが。

 

結婚しているとはいえ、フェイトちゃんは人気者でしょうから大喜びで参加しそうなものだけど……場所が場所だし、むしろ当然の反応ね。

 

―――でも、シャーリーさんは楽しそうにしてますよ。

 

……案外大物ね、あの子。

ま、いざとなればカルデアからも人を出してくれるでしょうし、何とかなるでしょ。

 

というか、良くカルデアが部外者を乗せてくれるわね。

 

―――あ~、なんかその辺いろいろ訳アリみたいですよ。詳しくは知りませんけど、協定とかに関わることなんじゃないかと……。

 

ふ~ん……まぁ、管理局としては少しでも技術を盗みたいところでしょうし、カルデアとしても局との関係を悪化させたくないとか、その辺の思惑の結果かしら? いずれにせよ、乗せても盗まれない自信があるんでしょうね。

 

―――そうなんでしょうか?

 

なにしろ、あっち側の技術の基礎理論すらわかっていないような状態ですもの。そんな状態で、最高レベルの技術の塊を盗もうなんて無謀もいいところよ。火の起こし方も知らないままで、ロケットエンジンの構造を盗む方がまだ楽なんじゃない?

 

―――それなんて無理ゲーですか?

 

だからこその自信なんでしょ。

だけどそうなると、本当にあの連中のプライベートが謎ね。スペース・ボーダーに乗る機会自体が少ないなら、普段何して過ごしているのやら……。

 

―――……とりあえず、いくつかサークルみたいなのはあるみたいですよ。

 

サークル? それって、サバフェスとかでやる?

 

―――そういうのじゃないのもあるみたいです。商人系みたいな、割と近いカテゴリーの人の集まりとかがあるらしいですよ。“アレ”なところだと、海賊会とか悪人会とか。

 

カルデアらしいというか、なんというか……犯罪臭を隠そうともしないわね。

 

―――その中に、趣味人の集まりもあるって聞いてます。カルデア裁縫部…って言ったかな? サバフェスで出品したりとか、カルデア・コレクションとかもやってるみたいですよ。フェイトさん、その人たちと懇意にしてるみたいで、結構な衣装持ちなんですよねぇ。私たちも、良く色々着せてもらってます。ほら、こんな感じで……

 

(これ、細部はかなりアレンジされてるけど、ベースはウチ(エルトリア)の古い民族衣装じゃない。そういえば、フェイトちゃんにエルトリアの服飾の資料とか頼まれたことがあったわね。何のためかと思ったら、そっちに流してたのか。ま、その衣装をさらにどう使ったかはおおよそ察しがつくけど)

 

―――そうだ、ちょっと聞いてみたかったんですけど……

 

なに?

 

―――イリスさんって恋愛マスターなんですか?

 

ぶはっ!? ど、どこでそれを……っ!

 

―――キリエさんとアミタさんから。

 

あんのふたりは~!

 

―――違うんですか? お二人とも、イリスさんのアドバイスのおかげで今の幸せがあるって言ってましたけど。

 

いやまぁ、確かに多少のアドバイスはしたけど……。

 

(少なくとも、恋愛“マスター”なんて言うほど大層なものじゃないわよ。というか、あの当時なら私だって恋愛経験なんてなかったわけだし、今思えば“耳年増”もいいとこだったのよねぇ)

 

―――ああ、やっぱり! キリエさんが“先生が良かったから”って自慢してましたよ♪

 

(そう言ってくれるのは嬉しいし、髪のケアやファッション、笑い方に立ち振る舞い……色々指導したのは本当だけど、過大評価が過ぎるわよ、まったく。

 ……ああ、思い出した。そういえば、昔似たようなことをフェイトちゃんにも聞かれたっけ)

 

もしかして、フェイトちゃんからも聞いてる?

 

―――はい。立香さんとのことで色々相談に乗ってもらったって。

 

……一応聞くけど、あの子の本棚とか見たこと、ある?

 

―――………………………ぷいっ(目逸らし)

 

誤解のないように言っておくけど、アレは私のせいじゃないわよ。

 

―――え、違うんですか?

 

違うわよ! というか、普通「男をダメにする100の方法」とか「女の包容力」とか、「ママみ道」なんて怪しい本をだれが薦めるか!?

 

―――で、ですよね~……。

 

アレはね、立香さんに甘えてほしいフェイトちゃんの暴走…いえ、迷走の結果よ。

 

―――あ~、そういえば偶に「立香ばっかりズルい」とか呟きつつ読んでますね。

 

……その様子だと、進歩はなさそうね。

 

―――10分もしないうちに逆転されて、「悔しい…でも幸せ」「違う、そうじゃないの~」とか言いながら膝枕されたり、膝の上で髪を梳いてもらったりしながら蕩けた顔してます。

 

仲のよろしいことで……。

 

―――で、そんなお二人をマシュさんが微笑ましそうにお茶を入れたり、立香さんの肩を揉んだりしてますね。

 

本当に、仲の良いことで……。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「え、立香もう戻ってるの!」

「うん、しばらく前にね。無事ユーリって子と接触できたみたい」

 

新たに得た情報を基に、装備の更新のために一度本局へと向かっていたフェイトだったが、そちらの目途がついて戻ってみれば、早速の朗報に表情が綻ぶ。

迷宮の主(アステリオス)が手ずから用意したマップと、頼りになるサーヴァントたちがいるとはいえ、それでも迷宮の概要を知れば不安は拭えない。モヤモヤとしたものを抱え、気が急いていたのは誰の目にも明らかだった。

しかし、立香の無事を聞いて安堵したようで、ほっと息をつく傍ら目尻にうっすらと涙が浮かんでいる。それだけ、心配していたということだろう。そんな妹的存在の様子を微笑ましそうに見やりながら、エイミィはより詳しい情報を伝えてくれる。

 

「話はあんまりできなかったみたいだけど、夜天の書の紙片みたいなのをもらって帰ってきて、そっちはレヴィが解凍してる。今は確か談話室の方で休んでるはずだから、会いに行って来たら?」

「うん! ぁ、でもいいのかな……」

「装備のこととかは報告が上がってるから、こっちは大丈夫。気にせず行っておいで。でも、場所分かる?」

「う、それは……」

 

あたりを見回せば、見慣れない様式の荘厳な回廊。天井まで軽く10メートル以上あり、道幅も相当なもので、柱や壁の装飾は素人目に見ても大変手が込んでいる。つい先ほどまでいた、一切の無駄をそぎ落とした機能美そのものと言える本局の廊下とは似ても似つかない。何処かの王城を思わせる作りに、若干の気後れを感じないでもない。

そして、初めてここに足を踏み入れたフェイトには、当然土地勘などあるわけもなく……。

 

「バルディッシュ…は、まだむこう(本局)か。なら、モニターに地図出しておくから、それを見ていくといいよ」

「ありがとう、エイミィ。ところで、この灰色になってるところは?」

「入っちゃダメな場所だって。入った場合、命の保証はないって女帝さんが」

「わ、わかった」

 

立香と夢で繋がっているからか、その言葉が冗談ではないことを理解してわずかに頬がひきつる。あるいは、チラッと見たこの庭園の主の恐ろしいほどに整いながらも酷薄な笑みを覚えているからか。

いずれにせよ、不用意なことはすまいと誓う。今重要なのはその点だ。

 

「まぁ、物騒ではあるけど指揮船(大型クルーザー)よりずっと堅牢だし、前線基地としては申し分ないんだよね。隠蔽能力も相当なものみたいだし、使わせてもらえるなら有難く使わせてもらおう」

「うん」

 

実際、通常のセンサーなどでは観測することができず、目視も基本的には不可。少なくとも、地球の様々な機関に怪しまれる心配はない。そして、(主曰く「小ぶりな」)庭園の防御性能は一級品だ。機動力こそ乏しいが、その分守備と迎撃に関しては並外れている。

関係者を安全に収容し、現場に迅速に指示を出すという点では現状これ以上は望めない。

それを使わせてくれるというのだから、多少の物騒さには目を瞑るべきだろう。実際、基本的なルールさえ守っていれば多少出歩いても問題ないのは、先んじて色々見学させてもらったアリサたちが証明している。

 

「あ、そういえばなのはとはやては?」

「二人とも戻ってきてるよ。なのはちゃんはちゃんと治療を受けたからもう大丈夫。レイジングハートの方はエルトリア式フォーミュラとの同期がてら微調整中、そっちはマリーがやってる。はやてちゃんも、ついさっき戻ってきた。たしか、そっちはダ・ヴィンチちゃんが見てくれてるんだっけ?」

「うん。私の方はシオンさんが」

「残ったナノマシンだとフォーミュラは使えないらしいけど、いったいどうするつもりなんだろうね、あの二人」

「わからない。でも、二人とも物凄く頭がいいらしいから、何か考えがあるみたい」

「“万能の人”レオナルド・ダ・ヴィンチ……地球の歴史上でも屈指の“智慧の怪物”か。で、シオンさんはその人が認めるほどなんだから、どっちも何とかしちゃうんだろうけどね」

「そ、そうだね」

(ん?)

 

スカートの前後を両手で押さえ、若干頬を染めながらモジモジした様子を見せるフェイト。

そのことを少し不思議に思いつつも、早く立香に会いたくて気が急いていると解釈したエイミィは、これ以上恋する乙女を引き留めては悪いと、笑顔を向ける。

 

「ほ~ら、私のことは気にせず早く行っておいで」

「ご、ごめんね。行ってきます!」

(ひらひら~)

 

パタパタと走り去っていく背中に手を振りながら、その様子に首をかしげるエイミィ。

スピードを出すために腕を振るのではなく、両手でしっかりとスカートを抑え、両足は気持ち内股。短めのスカートなので、それがめくれない様にと気を付けているようにも見えるが、やはり若干の違和感を拭えない。

先ほどの少しモジモジした様子と合わせて考えると……

 

(トイレでも我慢してるのかな?)

 

まぁ、女同士とはいえ、言葉にして聞くようなことでもない。

そのまま臨時司令部として借りている部屋へと向かえば、道中どこか疲れた様子のクロノと出会った。

 

「どしたの、クロノ君?」

「……エイミィか。いや、ちょっとな……」

「? ? ?」

「アレを見てくれ」

 

そういって右手でうつむいた顔を抑えつつ、左手親指でぞんざいに示した方向を見やる。そこには……

 

「えっと……どこまでついてくる気なの、シュテル」

「どこまでもお供します、師匠」

「いや、そもそもどうして師匠?」

「異なことを。あなたはなのはの魔導の師なのでしょう?」

「まぁ、一応は」

「そして、アレンジしているとはいえ、私の魔導のベースはなのはのもの。つまり、あなたは私の師も同然」

「言わんとすることはわからなくもないけど……」

 

困惑した様子でコリコリと頭をかくユーノと、自信満々に自論を展開するシュテル。

その後ろでは、なのはが餌をほおばったハムスターの様に頬を膨らませている。

 

「むぅ~……ユーノ君はなのはの先生なの!!」

「ええ、ですから私の師でもあるのです」

 

抗議しても、シュテルは柳に風とばかりに受け流す。表情の変化に乏しいクールな彼女に、子どもっぽい抗議は意味をなさないらしい。

 

「ま、まぁ、僕が誰の師匠で、誰の先生なのかは一度置いておくとして……」

「置いちゃダメ~! とってもとっても大事なことなんだよ!」

「な、なのはぁ……」

 

珍しくというかなんというか、普段が年齢不相応にしっかりしている分、こうして年相応の幼さを見せられると新鮮というか、悪い気がしないというか。そんな反応すら“カワイイ”とか思ってしまうあたり、自覚はなくともすでに十分やられてしまっているユーノ。

なのはに抗議されて困っているのが半分、もうちょっとそんな彼女を見ていたい気持ちが半分。

まぁそれはそれとして、とりあえず今は二人に解放してもらう方が先決だ。

 

「えっと、その…とりあえずトイレに行きたいから、その話はまたあt」

「お供します」

「とでねってハイィ!?」

「ちょっ!? なに言ってるの、シュテル!?」

 

予想だにしない爆弾発言に、目をむいて驚く二人。

だが、そんなユーノとなのはを他所に、シュテルはいたって冷静だ。

 

「何かおかしなことでも?」

「イヤイヤ、どう考えてもおかしいでしょ!?」

「ユ、ユーノ君トイレに行くんだよ! それなのに……」

「ふっ、なっていませんね、なのは」

「なんか見下された!?」

「師のお世話は弟子の役目。湯浴みでも御不浄でも、どこまでもお供して当然でしょう。よもや、師のお世話ができないとでも?」

「いや、そんなこと別にしてもらわなくてm」

「な、なのはだってできるもん!」

「なのはも何言ってるの!?」

 

そのまま、どっちがユーノの(下の)世話をするかでもめ始める二人。

間に挟まれたユーノからすれば、ある意味恥辱の極みだろう。同時にその視線が「タスケテ」とクロノの背中に突き刺さるが、本人は我関せずを貫くつもりらしく見向きもしない。

さらに、その奥では……

 

「待て小鴉! 貴様、そんなものを持ってどこに行くつもりか!」

 

ディアーチェに服の裾をつかまれながら、迷いのない足取りで突き進むはやて。その手には、タライとシャンプーやせっけん、バスタオル等々……要はお風呂セット一式。当然、そんなものを持って行く先など一つしかない。

 

「何言うてんねん、王様。もちろん、お風呂に入りに行くに決まっとるやん。こんだけのお城…ん、お城? まぁええ、とりあえずこんな場所のお風呂なら、そら大層ご立派に違いない。温泉とお風呂の国『日本』の生まれとして、ここはしっかり堪能せな」

「そういうことを聞いているのではないわ、戯け!! いま、風呂はあの赤毛の男が入っているはずだと言っておるのだ! そして、貴様は既に一度湯あみを済ませていよう!」

「いややなぁ、こんなん兄妹の微笑ましいスキンシップの一環やん」

「そんな爛々とした目をして、どこが“微笑ましい”か!! どう見ても、獲物を前にした獣の目ではないか!!」

 

怒鳴りつけるディアーチェだが、気にした様子もなく引きずるようにして進むはやて。むしろ、心外そうな表情を“作って”いる。

 

「人聞きの悪い、こんなか弱い女の子捕まえて“獣”はないやろ」

「曲がりなりにも我と打ち合える貴様の、どこがか弱いのクワァ!?」

「そもそも、何が問題なんよ。この国では、11歳までは男の子は女湯に入ってもええことになっとる。なら、その逆も然り。私まだ11歳、オッケー、モーマンタイ、問題なし! ちゅーわけで…行く!」

「そういう問題ではないわ! 貴様には、恥じらいというものはないのか!」

「あのトーヘンボクが恥じらって落とせるなら苦労せんわ」

 

引き留めようとするディアーチェと気にせず進むはやての向こうでは、守護騎士たちが乾いた笑みで傍観に徹している。一人ザフィーラだけは、風呂の方を向いて「強く生きろよ」と誰かに向けて呟いているが。

そして、間もなく……

 

「「「クロノ(君)!!」」」

「執務官」

「そこの貴様!!」

「僕にどうしろと言うんだ……」

「お兄ちゃんは大変だぁ」

 

当事者一同から呼びつけられ頭を抱えるクロノと、それに苦笑いを浮かべるエイミィなのであった。

 

 

 

時を同じくして、エイミィにモニター上に表示してもらった地図を頼りに談話室を目指していたフェイトは、旅の道連れと遭遇していた。

 

「フォ?」

「君は確か…フォウ、だよね」

「フォウ!」

 

名前を呼ばれ、元気よく返事をするフォウ。しかし、そこでふと疑問に思う。

 

(あれ、私この子と会ったこと、あったっけ?)

 

カルデアがこちら側の世界に浮上してからこっち、折衝などはほとんどリンディなどを中心とした上層部が担っていた。また、フォウ自身があまり人の多い場所に来たがらなかったこともあり、これまで接点らしい接点はなかったはず。なのに、一目見ただけでフォウの名前が浮かんだことに疑問を覚える。

 

(立香に写真を見せてもらった、んだっけ? それとも、マシュと話をさせてもらった時かな?)

 

似たような生い立ちということから、マシュのことは紹介してもらっている。なので、そのどちらかが割と有力なように思える。ただ、あまり自信はない。振り返ってみても、そういった話題が出た覚えがないからだ。

忘れてしまったのか、それとも本当にそんな話題は出なかった(・・・・・・・・・・・・・・)のか。

 

ただ、記憶の片隅に引っかかりのようなものはある気がする。それはデジャブ(既視感)にも似た、何かの残滓。

 

「フォ~! フォウフォフォウ?」

「えっと……ごめんね。なんて言ってるか、良くわからないんだ」

「フォゥ?」

 

何かをしきりに訴えてきてはくれているが、その意味までは拾いきれない。

だがなんとなく、「そんな恰好でいいのかい?」的なことを言われたような気がする…ようなしないような。

しかし、もしもそうだとすると……

 

「……見たの?」

「フォァ!」

(ち、違うよね? 確かに、この子の角度からなら見えたかもしれないけど……)

 

今は肩の上に乗っているが、発見した時は当然床の上。フォウはかなり小さいので、出会ったときは見上げる形になっていた。それなら確かに、見えていても不思議ではない。

しかし、使い魔の類でもないであろうフォウに、そんな知性があるとも思えず……。

ただ何となく、スカートを抑える手に少しばかり力が籠る。

 

そうしているうちに、目当ての談話室の入り口が見えてきた。

 

「立香~、いる?」

 

ちょっとした会議室くらいの広さがある談話室をのぞき込んでみれば、壁際に置かれたソファの上で横になった立香の姿。見慣れた、でもどこか安心感を与えてくれる寝姿にほんの少しだけ微笑みを浮かべたのも束の間、すぐにフェイトの表情が凍り付いた。

 

「ぇ……」

「フォ?」

「なに、してるの…レヴィ」

「ん~、むにゃむにゃzzz……」

 

一瞬青いタオルケットか何かかと思ったそれは、立香の上に覆いかぶさるようにして寝息を立てるレヴィだった。

仰向けになった立香の上で丸くなり、頬どころか全身を摺り寄せるネコの如き仕草と涎を垂らし緩み切った表情。警戒心の欠片もない、リラックスの手本のような様子には微笑ましさを覚える……のだろうが、今のフェイトにはそれどころではない。

 

まるで、自分の居場所を奪われたかのような寂しさと虚無感、続いてそれを我が物顔で占拠する相手への怒りとも違う熱い感情が胸をいっぱいにする。

何かを思考する間もなく、気付けば魔法さえも発動して接近し、立香の上で丸くなるレヴィを引き剥がしにかかっていた。

 

「なんで、なんでレヴィがそこ(立香の傍)にいるの~!!」

「ふにゃっ!? なんだなんだ、奇襲とは卑怯だぞ! ボクのベッドを取ろうとはふてぇ野郎だ!」

「それはベッドじゃなくて立香なんだってば!」

「やー! ここはボクが先に見つけたんだ! だからボクの場所!」

 

反射的に細い四肢を使って立香にしがみつくレヴィ。

フェイトも負けじと力を入れ、何とか引き剥がそうとするが上手くいかない。

 

「レ、レヴィのじゃないでしょ!」

「じゃあ、誰のなのさ」

「そ、それは……」

 

ここで「私の」と言えないのが、フェイトのフェイトたる由縁だろうか。

その一瞬のスキを逃さずレヴィはフェイトの手を振り払い、再度立香の上でリラックスモードに入る。ただし、その手はしっかりと立香の身体に回され、足も右足に絡みつけている。無理に引き剥がそうとしても、即座に力を入れて抵抗する気満々だ。

というより、全身を使って立香に抱き着いている、というのがフェイトにとっては一番の重大事。やりたいと思っても、自分では恥ずかしくて到底できないこと。もう羨ましいやら、妬ましいやらで頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「んふ~、なんかキモチ~♪ よ~し、ここをボクの専用ベッドに決~めた♪」

「だ、ダメダメダメダメ! そんなの絶対ダメ!」

「なんでフェイトが決めるのさ。別にフェイトのじゃないだろ~」

「そ、それは! そう、だけど……」

 

自分に素直な者と、事情はどうあれ素直になれない者。勝負は、初めから決まっていた。

が、それで諦められるほど、フェイトは「物分かり」が良くない。

 

「な、なら代わって! 代わってよぉ~!」

「え~、やだぁ~!」

「少し、少しでいいから~!」

「え~~~~~~~~~~~~~~、やだぁ~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

再度始まる引っ張るフェイトとしがみつくレヴィの攻防。その間、立香の身体は相当な力で締め付けられ、あるいは“ガックンガックン!”と揺らされることになるのだが、一向に目覚める気配はない。

フェイトたちはそのことに気付く余裕もないわけだが、通りかかった管理局員やカルデア職員はその限りではない。

 

「彼、良くあの状態で寝てられますね」

「あ~……立香君はね。一度寝ると二時間は何しても起きませんから」

「そうなのか、アルフ」

「まぁね。そういえば、昔起こそうとした時も、叩こうが殴ろうが、何しても起きなかったっけ」

「なんという図太さ……」

 

呆れた様子の局員たちだが、真実は違う。立香のそれは、精神の清掃解体によるものだ。こうなると、二時間の間は精神が意味のない断片に分解されたまま。何をどうしたところで起きないのも当然だろう。

職員たちはそれを知っているが、迂闊に話すわけにもいかないので誤解するままにしているのだ。

まぁ、それはそれとして……

 

「そういえば彼女、レヴィでしたか。確か、例の紙片を解凍してたんじゃありませんか?」

「もう終わったみたいですね。どうやら中身は動画データみたいで、今は再生するためのプログラムを用意しているところです。多分、もう直そっちも準備ができますよ、ブレゼさん」

「ムニエル、俺ムニエルですから。にしても早いですね。でも、なんであんなところに?」

「なんでも疲れた~、寝る~、とか言ってたそうで……」

「それでちょうどいいベッドを見つけたと」

 

おおよその経緯はわかった。とりあえず、立香に関してはほっといてもいいだろう。しばらくはどうやっても起きないし、彼にとってはこの程度トラブルのうちにも入らない。

それに、局員にしても職員にしてもやることはいくらでもある。言っては何だが、どうやっても深刻な事態になりそうにない些事に、一々関わってはいられないのだ。

 

というわけで、大人たちは早々に談話室での出来事をスルーすることに決めて立ち去っていく。アルフも、アレはアレでフェイトが積極的になるきっかけになればと放置することに。

そのためフェイトは孤軍奮闘を強いられ……結局、レヴィを引き剥がすことを断念。

 

「むふふ~♪ ヴィクトリ~、というわけで僕は寝る~。フェイトは…まぁ、好きにすれば」

「も~……立香だって疲れてるのに」

 

とはいえ、冷静になってみれば睡眠を妨害していたのは自分も同じなことに気付き、あまり強くも言えないフェイトだった。

しかし、こうして冷静になってしまったからには再度引き剥がしにかかることもできない。とそこで、フェイトはソファから落ちた立香の右腕に気付く。だらりと下がった腕は床についているので宙ぶらりんというわけではないが、結構無理のある状態だ。

 

(このままじゃ、返って疲れちゃうよね。でも、どうしたら……)

 

とりあえず、ソファに戻してみようとするが元からそれほど幅がないのですぐにまた落ちてしまう。床に激突しそうになる腕を慌てて抱き留め、ホッと一息つく。

肉付きこそまだまだ薄いが、それでも僅かにふくらみだした胸を押し当てている自覚などないままに。

 

(あとは、身体の上だけど……)

 

だがそこには、今も堂々と立香の身体の上でうつぶせになっているレヴィの背中がある。

もしそれをした場合、見ようによっては立香がレヴィを抱きしめているようにも見えるだろう。

 

(なんか……ヤだな、それ)

 

想像しただけで、とても嫌な気持ちになる。それが身勝手なものとわかっていながら、どうしても納得がいかない。頭の片隅で、「こんな我儘、いけないのに……」とわかっていながらも。

そこでふと、フェイトに一つの案が浮かび上がった。

 

(あ、そっか。なら、このまま私が支えていればいいんだ)

 

横に戻せば落ち、上に乗せるのもダメ。ならば、立香が目覚めるまで彼が疲れないよう支えていればいい。

穴だらけどころではない理屈なのだが、フェイトにはそれが無上の妙案に思えた。

 

早速ソファの横に女の子座りし、立香の腕……その肘から先を両腕で抱きしめる。目の前には立香の、男性らしい骨ばってゴツゴツした手。何度も頭を撫で、頬に触れ、優しい温もりを与えてくれた大好きな人の手。

 

だがよく見れば、細かな傷がいくつも残っていることに気付く。初めて会った頃には気づかなかった、再会し心に余裕が生まれてからようやく気付いたもの。だがあの頃は、日雇いの仕事でついたものと思っていた。あまり、“普通の男性”というものと接点がなかったからだ。肉体労働をしていれば、そういう傷がつくこともあるのだろう。男性なら、別に不思議なものではないのだろうと。しかし、今はもうそうではないことを知っている。

同時に、藤丸立香が尋常ならざる人生を歩んできたことも。だって、そうでなければ元の世界から遠くかけ離れた場所になど、現れたりしないはずなのだから。

 

(ねぇ、(立香)はどんな旅をしてきたの?)

 

フェイトはまだ、立香がここに至るまでの道筋を知らない。知りたいという思いと裏腹に、聞いていいのかどうかわからない。

できれば知りたい。知って何ができるかわからないが、かつて彼がそうしてくれたように…寄り添い、支えになれたらと思う。

 

立香の平凡さを、フェイトはよく理解している。彼は決して特別ではない。

フェイトやなのはのような稀有な才能はなく、はやてのような持って生まれた大器もない。ありふれた、どこにでもいるような人。

彼にできることは、おおよそ誰にでもできることだろう。能力的には誰でも代われるはずなのに、誰にも代わることのできない不思議な人。なぜかはわからないが、フェイトは立香がそうであることを知っている。

それでも、藤丸立香が平凡な人間であることに変わりはない。誰にも代われない何かを為し続けてきたその重みは、きっと彼を……だからこそ、支えたいのだ。重荷を分かち合うことはできなくても、倒れそうになる身体と心を。

 

(ぁ、ダメだ。やっぱり、こうしていると眠く……)

 

一緒に暮らしていたころからの習慣なのか、眠っている立香の傍にいると心が緩んで無性に眠くなる。

知らずフェイトの身体から力が抜けソファに身を預ける。反対に、腕には力が籠りキュッと立香の腕を抱き寄せ、無意識のうちに彼の手に頬を摺り寄せる。もう間もなくフェイトの意識は眠りの海に沈むだろう。

だがその直前、聞き覚えのない声…でも、どこかで聞いたような声が聞こえた気がした。

 

(知りたいのかい? なら、今日も見せてあげよう。彼の旅路、我らが契約者の功績(罪過)を)

フォウフォフォ(なにやってんだよ)フォッフォーウ(このバカナイトメア)!)

(あいた!? こら、やめないかキャスパリーグ! 僕はほら、マスターのためを思ってだね。断じて、こんな面し…もとい、可愛らしい子で遊ぼうなんて思ってないよ?)

フォアフォウ、フォーラー(清姫に焼かれて死ね)!!)

(……でも、きっと彼女はマスターの支えになる。いや、既に…というべきかな。君も、それに気付いているんだろう)

(……)

(夢とは消えるもの。だけど、覚えていなくても残るものはある。その果てに何を選ぶかは、彼女が決めることさ。僕が用意できるのは機会だけ、それをどう使うかは僕のあずかり知るところじゃないよ)

フォウッフォ(つくづくゴミクズ)

(ハハハハ! 今夜はそうだね、趣向を変えてハロウィンとかどうだい? ほら君、以前友達の関係者のコンサートのチケットを渡そうとして、トラウマ刺激したことがあっただろ? その理由がわかるよ)

 

友人の関係者でもあるプロから“上手い”とお墨付きをもらいつつも、恥ずかしさからあまり人前で歌いたがらないフェイトだが、この日を境に立香に対しては割とよく披露するようになる。

理由はよくわからないが、“優しい歌をいっぱい歌ってあげたい”と思うようになったのだ。あと、チケットを融通してくれる友人(なのは)には悪いが、当分彼を誘うのはやめておこう、とも。

 

 

 

それから数十分後。無事清掃解体を終え、意識を覚醒させた立香は……困惑の極致にいた。

 

(どういう状況、これ)

 

身体の上にはだらしのない表情で寝こける水色の少女(レヴィ)、右側にはソファの傍で座りながら立香に身体を預けるようにして穏やかな寝息を立てる金色の少女(フェイト)

この時点ですでに割とアレなのだが、状況はさらに一歩以上踏み込んでいた。

 

「ん~、ソーダ飴おいち~、むにゃむにゃ……」

(くっ! そんなしがみつかないで! そしてそのまま身体を擦り付けないで!

 これがアレか、良く言う「最近の子どもは発育が云々」というやつか!?)

 

自分が子どもだった頃の同世代がどうだったかは、ほとんど意識していなかったこともありあまり覚えていない。だが、なんとなくイメージ的に10歳前後だと“ツルッ”として“ペッターン”な気がする。にもかかわらず、今まさに身体を押し付け、あまつさえこすり付けるレヴィからは“や~らかな感触”だけでなく、わずかながらも起伏、凹凸の存在が感じられる。

 

そして、レヴィの肉体はフェイトのデータを基にしている。少なくとも、身長や体格などはほぼ同じだ。特に、布越しながら伝わってくる感触がそれを裏付けている。

なんでわかるかって? カルデアが浮上するまでは、稀にではあるものの一緒に風呂に入ったりしていたからだ!!

 

もちろん、いつも一緒に入っていたわけではない。そもそも、立香が海鳴で借りていた部屋は「トイレ共同風呂なし和室ワンルーム」のボロアパート。風呂に入ろうと思えば最寄りの銭湯に行くしかないのだが、偶にフェイトと一緒になる時があった。

で、海鳴の銭湯は大概「女湯への男児入浴は11歳まで」とされている。そして、その逆も同じ。フェイトが男湯に入ってきて立香がその面倒を見る、という形になったため、極力見ないようにしつつもある程度は把握してしまったのだ。ちなみにこれ、小鴉とか子狸と呼ばれる人物の入れ知恵である。

なので、視覚的にはある程度理解してしまっていた立香だが、そこに感触が加わってしまい、より一層のリアリティが生じてしまったのだ!!

 

(なんだろう、別に俺悪いことしてないよね? すっげぇ罪悪感というか、イケナイことをしてる感がヤヴァイ……それに)

 

チラリと横を見れば、そこには穏やかな寝息を立てるフェイトの寝顔。

それ自体は何とも微笑ましい限りなのだが、問題なのは彼女の口元だ。そこでは、今まさに立香の人差し指と中指に、フェイトが舌を這わせている真っ最中。

 

「ん、はぁ…ちゅぱ、ぁ、れろ……ちゅ…ふ、ぁ……」

(なに、ホントなんなのこの状況!?)

 

小さな、だが熱く弾力のある舌が指先を(ねぶ)り、唾液を絡ませ、時に吸い上げる。

本人はおそらく飴かアイスでも食べている夢を見ているのだろう、たまに甘噛みされるし。

だが、されている立香からすれば落ち着かないことこの上ない。

 

「……んっ、ちゅぅ……はぁ」

「っ!?」

 

おもむろに指の腹を舐めあげられ、続いて指先にフェイトの小ぶりな唇の感触。それらに身体がビクッと震える。

指先は全身でも特に神経の集中した、敏感な個所の一つ。そんなところに舌を這わされる感触は、何とも形容しがたい。くすぐられるのともまた違う、むず痒いような、あるいは熱く包み込まれるような……。

馴染みのない感覚に身体が驚いてしまうのは仕方がないだろう。せめもの救いは、それでもなお一切反応しないある一部分だ。

 

(ぁ、あっぶねぇ! いつもはちょっとあれだけど、今だけは体が反応しないのに感謝だ! いや、マジで!?)

「……ふぅ、ふぅ……はむ。ちゅ、ちゅぱ…んん、れろ……ぁ」

(でも絵面がヤベェ!? 絶対これ見ちゃいけないし、見られちゃいけない奴だ! 死ぬ、社会的に!)

 

全力でフェイトから目をそらすが、現在進行形で吐息が指先にかかり、耳に息遣いが聞こえている。そもそも、一瞬だけ視界に入った淫靡な姿が脳裏に焼き付いて離れない。

いや、“淫靡”と感じている時点で“ギルティ(有罪)”なのは理解しているが……だって、しょうがない。まだまだ“幼さ”が優勢とはいえ、それでもフェイトはいっそ”奇跡的”と称していいほど整った顔立ちをしている。そんな子が、瞼を閉じながら自分の指にぎこちないながらも舌を這わせている光景というのは……あまりに背徳的過ぎる。

一心不乱とか、情欲の色とか、熱っぽさとか、そういったものがないのが救いなのかもしれないが、それらを抜きにしても十分すぎるほど“アウト”だ。

 

(何とかフェイトに起きてもらって、あとついでにレヴィにも降りてもらわないと……)

「……んん!」

(って、腕に力入れないで!? や~らかい感触がぁ~!)

 

立香の身じろぎを感じ取ったのか、逃がさないとばかりにフェイトの腕に力が籠る。おかげで、前腕あたりにフェイトのささやかな膨らみの感触が……。それでもなお、立香の身体は反応しない。それは果たして、喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか……とりあえず、どっちもできねぇ、というのが立香の本心だった。

 

「お~い、フェイトさんや~い。お願いだから起きてくれ~。このままだと俺、死んじゃうから。社会的に、場合によっては生物としても」

 

通りかかる人物(サーヴァント)によっては、本当にその可能性を捨てきれない。

だが幸いなことに、元から無理のある体勢だったこともあってか、フェイトの眠りは浅かったらしい。

少し呼び掛けただけですぐに閉ざされた瞼が反応し、間もなくうっすらと開かれた隙間から赤い瞳がその姿をのぞかせる。立香にはそれが、天からの祝福に思えたものだが……

 

「んぅ…あれ、立香? ぁ、私……そうか、寝ちゃってたんだ」

「無理な体勢で寝てたから、痛いところがないかとか聞きたいことはあるんだけど……とりあえず手、放してもらえる?」

「て? ひゃわっ!? ご、ごめんね! 私…っわわ!?」

「フェイト!?」

 

驚きのあまりのけぞり、そのままバランスを崩すフェイト。咄嗟に立香も手を伸ばそうとするが、上に乗ったレヴィのおかげで間に合わない。

結果、フェイトはそのまま後ろに向かってひっくり返ってしまう。幸い、後ろにテーブルなどはなく、敷かれた毛足の長いカーペットがクッション代わりになり、あまり大きな音を立てることなく“コテン”と倒れるフェイト。

頭を打った様子などがないことに一安心し、レヴィの背中に左手をまわして体勢を保持しつつ上半身を起こす。そうして、まだ頭がはっきりしないのか、倒れたままのフェイトに右手を差し出そうとしたところで立香は慌ててそっぽを向く。

 

「立香?」

「フェイト、それ」

 

固有名詞を使わず、フェイトのスカートを指さす立香。そこには、ひっくり返った勢いで盛大に捲れた丈の短いスカート。その意味を理解し、声にならない悲鳴と共にフェイトは身体を起こしスカートを抑える。

顔がものすごく熱く、自分がこれ以上ないほど真っ赤になっていることが嫌でも理解できる。それこそ、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

一緒に風呂に入った時に裸を見たり見られたりはしているので、いまさらと思うかもしれないが……これはそういう問題ではないのだ。だって、いまフェイトは……

 

「立香」

「……なに?」

「……………見た?」

 

“見てない”あるいは“何のこと”と誤魔化したい。というか、真実はどうあれ、ここは誤魔化すべき場面だ。

なので、立香もそうしようとしたところで、談話室の入り口の前を通り過ぎる白い人影を発見してしまった。

 

(あれは、清姫!?)

 

あまりの間の悪さに意識が遠のきかける。

よりにもよって、ここで清姫(嘘つき絶対焼き殺すガール)とは。

 

彼女の前で嘘をつけば、その瞬間自動的に令呪が一画消費される。今はこちらに気付いていないようだが、その状態で嘘をついた場合どうなるかはわからない。気付かず行ってしまうのか、それとも嘘の気配に反応するのか。

いまは無駄に令呪を消費してよい状況ではない。微かな希望に縋るなど愚の骨頂だ。

フェイトには悪いが、彼女自身尋ねてこそいるが真相は既に承知しているだろう。先の問いは、「そうでないと良い」という希望…あるいは願望の現れだろう。

だから、ここは真実に殉じるしかない。自分一人ならともかく、万が一にもフェイトを巻き添えにするわけにはいかないのだ。

 

「…………………………ごめん」

「……ふ、ぇ…見られ、ちゃった。全部、全部ぅ……」

 

羞恥で顔を真っ赤にしながら、涙目になってうつむくフェイト。

無理もない。早ければ、もう十分“思春期”と言っていい年頃だ。思春期の女の子が、色々と思うところのある男に“そこ”を見られるというのは、あまりにもショックが大きかろう。

 

しかし、立香にも言い分はある。

立香自身は悪いことはしていないと思うが、状況的に悪いのは自分()だと思うし、そこに異論はない。

問題なのは、どうしてフェイトは……

 

(なんで、なんで……履いてないんだぁ~!)

 

そう、スカートの下にあるべきものがなかったのだ。ある意味、“最後の砦”ともいうべきものがフェイトにはなかった。おかげで、普通スカートがめくれたところで見えるはずのないものが見えてしまった。アレさえあれば、“下着を見る”という十分ギルティ(有罪)ながらも、まだマシな結果で済んだというのに。

裸体を見るのと下着を見るのでは、また罪の程度、あるいは種別が違うだろうが、それでも割と最近まで一緒に風呂に入ったりしていた間柄だけに、そちらならまだ何とかなっただろう。

 

だが、長い付き合いで、一緒に風呂に入ったこともある身でありながら、今まで一度も見ることのなかった、見えるはずのない領域を今日、立香は見てしまった。そこは、ある意味背中以上に本人の目の届き難い場所だろう。

人間、こういう時ばっかり記憶に焼き付いてしまうのはどうかと思うと、現実逃避せずにはいられないくらいにくっきりはっきりと。

 

(それにしても、あんなところにホクロがあるとはなぁ……って、そんなことはどうでもいい! というか削除! 今すぐカットだ、カット!

……カット? そういえば、フェイトにそんな(履かない)趣味はないはず……でも、そういうことをやらせそうなのには心当たりが……)

 

正直、これ以上この件を掘り下げるのはよろしくないとわかっているものの、だからと言って無視もできない。

止む無く、立香はスカートを足の間にしっかり挟み込み、体育座りをして微動だにしないフェイトに声をかける。

 

「フェイト、シオンに何か言われた?」

「                   」

 

ぼそぼそと、蚊の泣くような声で語られたのはフォーミュラに関するとある顛末。

ナノマシンの量が足りず、フェイトやはやてではフォーミュラを使うことができない。できれば、事件解決のためにフォーミュラを取り入れたいところだが、局にも余裕がないためそちらにまでは手が回らない。そんな時、カルデア側から技術協力の申し出があった。それが、ダ・ヴィンチとシオンである。

二人はそれぞれのアプローチでフォーミュラの活用案を用意し、それをはやてとフェイトが使わせてもらうことになった。

 

そう、ここまではいい。問題なのは、シオンがフェイトに協力する際「下着(パンツ) 履かせ ない」と言い出したこと。一応これ、シオン一流のジョークなのだが……真顔で言ってくるので慣れていないと判断が難しい。

カルデアの面々なら、戯言と切って捨てるか聞き流すので問題ないのだが、今回の被害者は生真面目なフェイト。どうやら、真正面から鵜呑みにしてしまったらしい。

 

(とりあえず、後でシオンは〆よう)

 

娯楽の何たるかを知り、無駄や無意味にもそれなりに理解はある彼女だが、元が技術屋なだけに「意味のない機械」「無駄な道具」というものは受け入れがたい。要は「意味もなく回り続ける機械」とか、「無駄ばかりでいつまで経っても目的を達成しない道具」を見せると……割と発狂する。今度、シオンにはそういうのを山ほど見せてやろうと決意する立香だった。

 

あとついでに、遅れて目を覚ましたもののまだ寝惚けているレヴィが「見たいの?」とスカートをたくし上げようとしたり、それを「しなくていいから!!」と必死に止めたり、そこにようやく騒動を収めたクロノたちが居合わせて誤解を生んだり……なんてこともあったが、まぁ余談だろう。

 

とりあえず、紆余曲折はあった物のようやくユーリから託された紙片の再生が開始。

管理局とカルデア、そしてディアーチェたち一行は事件の裏側を知ることに。

イリスの過去、ユーリとの確執の真実。それらは十分に衝撃的なものであったが、逆に言えばイリスを説得し、ユーリとの関係回復のための道筋が見えたことを意味する。それが一つの希望なのは確かだろう。

 

ただ、立香の表情は険しい。

そんな立香をようやく立ち直ったフェイト(さっきまでなのはに抱き着きながら「全部、全部見られちゃったよぉ……」と凹んでいた)が、心配そうに見上げている。

やがて、何か考えがまとまったらしく、フェイトを安心させるように微笑み、続いてアミタへと視線を転じる。

 

「確認なんだけど、エルトリアとの通信とかはできる?」

「ユーリのデータのおかげで一応は可能になりましたが……ああ、この情報の裏付けをとるんですね。母さんなら知っているでしょうし……」

「まぁ、それもなんだけど……」

「他に、何かあるんですか?」

「惑星再生委員会とかのことも調べてほしいんだ。あと、マクスウェル所長のことも」

「ですが、あの方はもう……」

「先輩も、そう思われますか?」

「うん。たぶん、生きてる気がするんだよなぁ」

『えぇっ!?』

 

その場にいるマシュを除いた一同の声が重なる。

どこからどう見ても、フィル・マクスウェル所長はユーリの手で死んだようにしか見えない。

なるほど、それは当然の反応だろう。しかし、立香とて根拠なくそんなことを言っているわけではない。

 

「なんとなくだけど、パラケルススとコロンブスを足して水で割ったような印象が……」

「……ですね。確かに、一筋縄ではいかない方だと思います」

「なんというかこう、自分なりの善意とかで行動してる割に、周りにとっては大迷惑なタイプというか……何度転んでもめげずに立ち上がって進み続ける、超がつくくらいのポジティブというか」

「……だが、だとしても彼は死んだ。それは間違いないのでは?」

 

所見を述べる立香に、みなを代表してクロノがその事実に言及する。

だが、甘い。魔術の世界では、一度や二度殺したくらいでは死なない連中など掃いて捨てるほどいる。

 

「でも、イリスは身体を取り戻したよね?」

「それは、まぁ……」

「意識というか、精神というか、そういうのを保存する技術があるのなら、多分あの人は自分にもそれを使ってるはずだ」

「そう言い切る根拠は?」

「だってあの人、自分が死ぬの織り込み済みだったでしょ」

「そうですね。だからこそ、イリスさんとユーリさんを戦わせるためのメッセージを用意できたわけですし」

「そんな人が、簡単に死ぬとは思えない。最低でも、自分が復活するための仕込みはしてるはずだ。エルトリアに予備の身体があったりするとか。あ、でも、それならもう復活してないとおかしいか」

「いえ、何らかの条件付けをして、それが満たされた時に起動するようにしている可能性もあります。そのまま目覚めても、居場所がないでしょうから」

「ああ、確かに……」

(どうして、そんな可能性がどんどん浮かんでくるんだ、この人たちは……!)

 

立香とマシュ、二人の間でさも当たり前のように交わされる議論に、思わず息をのむクロノ。

いや、それは何もクロノに限った話ではない。その場にいるほとんどの面々が、「復活できる」ことを前提に話をする二人に圧倒されていた。

死は覆しようのない絶対のもの。一度死んでしまえばそれで終わりのはずなのに、その前提をないものとして考えることができる。それは二人が特別頭が切れるからではなく、そもそもの前提条件が彼らとは違っているのだ。

いったいどんな経験、どのような修羅場を超えれば、その可能性を即座に考慮できるのか。

とはいえ、圧倒されているものばかりではない。

 

「……驚くべきことではあるが、確かにあり得ないとは言えないか」

「そうね。私たちだって、ある意味では似たようなものだし」

 

シグナムとシャマルの二人が立香たちの考察に同意を示す。特に口にはしないが、ヴィータやザフィーラも同様だ。彼らもまた、消滅と復活を繰り返してきた者たち。

自分自身のことを考えれば、その可能性を頭から否定することはできないだろう。まぁ、似たような存在というのにはちょっと心当たりがないので、当初は頭から外していたようだが。

 

「ユーリと、あと夜天の書にも執着してたみたいだし、こっちで出くわす可能性もあるかな?」

「十分にあり得ると思います。イリスさんを追いかければ、必然的にユーリさんを追うことにもなるでしょう」

「欲張りっぽいもんなぁ。ユーリの復活に反応して、イリスを目印にして追いかけてくる、とか有り得そう」

「でしたらやはり、マクスウェル所長の存在も前提に対策を講じた方が良いかもしれませんね」

「その場合、二人とも手に入れる算段がついているはずだよね。場合によっては、機動外殻とイリス、それにユーリ……あと、ディアーチェたちが操られる可能性も考えた方が良いかな?」

「我らが操られるだと!?」

「なんだよそれー! 僕たちを操ろうなんて図々しいぞー」

「ですが、あながち否定はできません。実際、ユーリはイリスの支配下に置かれているわけですから。我々も、十分に注意して事に当たるべきでしょう」

「おのれ、忌々しい……!!」

 

そのまま作戦会議は続く。事件が再度動き出すまで、あともう少し……。




できれば、次あたりでデトネーションには区切りをつけたいと思っています。その後にサバフェスを一話、EXの話を一つか二つ、でそれからアインハルトたちのカルデア訪問……にできたらいいなぁ。
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