というか、最近になって一気にお気に入りの数が急上昇したのですが……本当に、いきなりどうしたというのでしょう?
あと、第一話から読んでくださっている皆さんにお知らせです。この次は一度目次に戻って「聖別秩序機構ベルカ」という章の「Next Order」か「カリム・グラシアの場合」からお読みになることをお勧めします。まぁ、別にこのまま「次へ」を押して進んでもさして困らないとは思いますが、念のため。
クヌクヌ!
―――(う~ん、よく似てることは同意するけど、体質は関係ないんじゃないかなぁ……血縁ないわけだし)
だいたいね、私が遅いんじゃなくてなのはたちが早いだけなのよ!
私まだ23よ。
―――まぁまぁ、アリサちゃん……ヴィヴィオもそういうつもりじゃなかったと思うよ? いや、流石に「アリサさんは結婚しないんですか?」はストレート過ぎると思うけど。
……すずかは余裕よね。プロポーズはまだと言え、実質秒読み段階なわけだし? アイツが大学出るまで院生として一緒にキャンパスライフを満喫できるんだから、それも当然なんでしょうけど。
にしても、“瓢箪から駒”というか“嘘から出た実”というか……まさか、本当に自分好みに育てて収穫するとは思わなかったわ。
―――そ、そういうつもりじゃなかったんだけど……な、なんでかなぁ? ア、アハハハ……。あ! でも、別に志貴君と一緒にいたくて大学院に行ったわけじゃないんだよ! そっちは本当に偶々で、まだまだ勉強したいこともあったから……。
ふ~ん……まぁ、そういうことにしておくわ。
―――う~……。
しっかし、傍から見ている分には健気に頑張る忠犬って感じで微笑ましかったけど……どうしてあんなに二の足踏んでたのよ。見ている側としては、なのはとは違った意味でもどかしいったらなかったわ。
―――それは、その……やっぱり、弟みたいに思ってたから。
……気持ちはわかるけどね。この件に関しては、私が昔余計なことを言ったせいもあるから、あんまり蒸し返しはしないけど……はぐらかされてはしょげてるのは、なかなかに哀れみを誘ったわよ。
―――うぅ、反省してます。
だけどホント、頑張ってたもんねアイツ。それが報われたのは、姉貴分…とは言わないけど、親戚のお姉ちゃん的立場としては、嬉しい限りよ。
なにしろ、あの恭也さんのしごきに耐えるだけじゃなくて、たった数年であそこまで強くなっちゃうんだから。ホントにびっくりよね。
確か、条件次第では恭也さんにも勝てる可能性があるんだっけ?
―――実際に確かめたわけじゃないみたいだけど、そう言ってた。志貴君の居場所が割れてなくて、なおかつ遮蔽物とかの多い限定空間なら……らしいよ。でも、手の内は知られてるから相当厳しいみたい。
そういえば、弟子とはいっても、別に御神流使うわけじゃないのよね。
―――うん。どちらかというと、そういう意味で言えば“教え子”の方が妥当かな。志貴君が身体で覚えてた技術を研ぎ澄まして、より巧い使い方を教えたって感じだし。
結果、不意打ち闇討ち上等の“
すずかを守れるようになりたかったアイツからすると不服かもしれないけど、こればっかりは向き不向きがあるもんね。
―――でも、気配を消したり、気付かれずに近づいたりするのはほんとに巧いんだって。士郎さんや美沙斗さんは“天性のものだろう”って言ってたし、美由紀さんも“絶対後手に回りたくない”ってぼやいてたから。
御神の剣士に太鼓判押されるとは……ほんとに暗殺者としては超一流レベルなんじゃないの、アイツ。
―――目の前にいたはずなのに、見失っちゃうんだよね。恭也さんは、“正面から暗殺”できるレベルを目指してるらしいけど。
いや、思いっきり矛盾してるんだけど……そのうち、カルデアのアサシンレベルに到達しちゃうんじゃないの?
―――そうはならないと思うよ。スイッチが入ると確かに少し怖いけど、でも本当は凄く優しい子だから。死に近いところにいるからこそ、命の大切さをよく知っている。
ま、大分健康体になったとはいえ、今でも時々貧血になったりするもんね。病弱ってわけじゃないんだろうけど……。
―――うん、運動には基本的に支障はないんだ。ただ、古傷のせいで時々…ね。
治らないの?
―――今の地球の医療技術だと、改善はしても完治は難しいみたい。管理局か、カルデアの治療を受けられれば違うかもしれないけど。
管理局のオーバーテクノロジー染みた技術もそうだけど、カルデアには医神“アスクレピオス”がいるもんね。
ま、いくら顔見知りとはいえ、だからこそ早々外部に出すわけにはいかないんでしょうね。
―――だね。本当に命に関わるならまだしも、そこまでじゃないわけだし……折り合いをつけていくよ、家族みんなで。……まぁ、会う度に「診せろ」ってせっつかれるんだけど……。
相変わらず、珍しい症例に目がないわけね。
……そういえば、最近はもうスイッチが入ったりはしないの? 昔は、割と頻繁にそっちに引っ張られてたみたいだけど……。
―――ちょっとした自己暗示を教えてもらったんだ。眼鏡を基点にして。
ああ、あの眼鏡って確か……
―――そう、神咲の人たちに用意してもらったやつ。元々、眼の発動を抑えるためにかけてるから、それと連動させてる感じだね。
じゃ、眼鏡を外すとスイッチが入るの?
―――眼鏡を外して、なおかつ何か武器になる物を握ると…っていうのが正確かな。まぁ、眼鏡をはずすだけでもスイッチは入りやすくなるんだけど。
ふ~ん……でもまぁ、それなら特に問題はないのかな?
―――(武器なしで、なおかつ二人っきりだと“オオカミ”モードになっちゃうんだけどね。衝動が欲求と結びつくというか、そっちに転換しているというか。積極的になってくれて、実は結構嬉しいんだけど……ヴィヴィオがいる前じゃ言えないなぁ)
……はぁ、とりあえず順調そうで何よりね。羨ましいこと……。
大学卒業してからというもの、ますます忙しくなっちゃってこっちはそれどころじゃないってのに。
―――え、黒桐先輩とは何もないの?
……別に。というか、そもそもそういう仲じゃないし。元大学の先輩後輩で、今は雇用関係ってだけよ。
ま、まぁ、色々サポートはしてもらってるし、特に調べ物には重宝させてもらってるけど……。
―――ご飯とかは?
遅くなった時とか、偶に一緒することはあるけどそれだけよ。こっちは雇い主だから払いは持とうとするんだけど、“先輩だから”って頑として受け取ってくれないのよね。
まったく、確かに元先輩ではあるけど……会社立ち上げたらさっさと辞めたくせに何言ってるんだか。
―――懐かしいね。知り合って半年くらい、だっけ。大学辞めて、その数日後に面接に来たの。
普通順序が逆でしょうに、せめて就職決めてから辞めなさいっての。
すずかが手伝ってくれていたとはいえ、まだ仲間も少なかった頃だからどのみち即決してたとは思うけど……。
―――(素直じゃないなぁ、嬉しかったくせに。先輩が何も言わずに大学辞めたから、すごく心配してたの知ってるんだよ?)
まぁ、実際雇って正解ではあったんだけどね。
事務処理能力はそれなりだけど……なんなのかしらね、あの調査力。いったいどこから、どんな方法で情報仕入れてるのか、割と謎なんだけど。
―――あ~……
やらないわよ。
―――ふふっ♪ 大丈夫、取ったりしないから。
なんか含みがある気がするんだけど……まぁ、いいわ。
―――(でも、こっちも時間の問題かな? 意地っ張りだからアリサちゃん自分からは中々切り出せないけど、黒桐先輩はそうじゃないし。実はちょっと相談されてるのは……まだ秘密かな)
って、すっかり内輪の話になっちゃったわね。そもそも何の話してたんだっけ?
―――確か……なのはちゃんたちの学生時代の話じゃなかったかな?
あ~、そうだったそうだった。で、なのはたちに告白しては玉砕する連中の話になって……。
―――はやてちゃんは特にだけど、三人とも結婚が早かったけど私たちは? って話になったんだよね。
にしても、今振り返ってもあの連中の蛮勇っぷりにはいっそ頭が下がるわ。
私とすずかはともかく、あの三人を相手に芽なんてこれっぽっちもなかったっていうのにね。まぁ、一緒に暮らしてる士郎さんはともかく、立香さんとユーノに関しては見かけることさえ滅多にないし、フリーだと思うのは無理もないんだろうけど。
―――まぁ、仕方ないよね。実際に告白に踏み切った人は少なかったけど、三人とも人気あったから。
本人たちは割と無自覚だったけどね。
なのはは特にだったけど、はやてとフェイトも無防備というかなんというか……。
―――男の子ってことはわかってても、“異性”っていう認識がなかった感じだよね。
あ~、それで思い出した。何度か、なのはたちの“好みの
ストレートに聞くのが恥ずかしくて遠回しにしてるんだけど、バレバレだったから笑いを堪えるのが大変だったのよね。
―――……ちょっと可哀そうじゃないかな?
笑いを堪えてたこと? でも、しょうがないでしょ。聞いたところで芽がないことに変わりはないんだし……言いたかないけど、無駄な努力ってものよ。
そもそも、私が笑いを堪えてたのは“無駄な努力”だったからじゃなくて、遠回しなくせに全然隠せてないことだし。時間ばっかりかかって当時はじれったいったらなかったけど……今思い返すと微笑ましいわね。
―――ア、アハハ…だけど、それならなんて答えたの?
嘘ついて諦めさせるのも考えなかったわけじゃないけど、別に嘘吐くほどのことじゃないから正直に答えたわよ。
具体的には、ユーノと士郎さんの特徴をね。
―――そっか……だから一時期、図書室に通い詰める人とか、校内の雑用に精を出す人が増えたんだね。
誰が誰を狙ってるのか、あからさまになった瞬間だったわね。
―――あれ? でも、その割には立香さんの真似をしてる人がいなかったような……。
……それね。聞くけどすずか、アンタなら立香さんの特徴……なんて伝える?
―――優しい人、かな?
ふ~ん、他には?
―――う~ん、あとは何があってもめげずに頑張れる人とか?
ふんふん、ヴィヴィオは“包容力のある人”ね。
私ならそうね……ノリの良い人とか図太い人ってところかしら。
―――…………………………………なんだろう。間違ってはいないと思うんだけど、微妙にしっくりこない。
でしょ? 私もね、答えようとしたら同じことを思ったのよ。微妙に的外れというか、そのまま遥か彼方に飛んで行ってるというか。
それでも一応当時の私なりの所見は伝えたけど、的を射ていないもんだから……。
―――そっか、だから立香さんのイメージと結びつかないんだ。
私も話しててドンドン違和感が増していってね。いっそ“普通の人”とでも言おうかと思ったけど……。
―――ぁ、ヴィヴィオがすごい勢いで首振ってる。
そう、普通のはずなのに全然普通じゃないのよ、あの人。
ま、聞きに来てた(蛮)勇者と聞き耳立ててた連中は“それなら俺たちにもチャンスが……!”って色めき立ってたけどね。
―――え、管理局でも似たようなことが? あぁ、
まぁ、驚くようなことじゃないわよね。
大方、ある程度方向性が定まったアプローチを仕掛ける連中が増えたんじゃない?
―――なのはちゃんたちのことだから、全部スルーしてそうだけど……。
大正解? やっぱりね。
―――でも、三人に相手がいること、言わなかったのかな?
はやてなら言えるでしょうし、フェイトも中学卒業の前後から距離が縮まったけど、なのははかなり経つまでちゃんとくっついてたわけじゃないでしょ。
―――そうだね。それは確かに……。
あ、そういえば昔、はやてが周りに士郎さんのことでやいのやいの言われてキレかけたことがあったわね。もしかしてあれって、そういうこと?
―――たぶん、そうなんじゃないかな。聞かれて答えて、それに納得できない人たちが文句をつけたんだと思う。
まぁ、親しくしてないとわからないこともあるから、無理もないとは思うけど……。
―――でも、フェイトちゃんが立香さんのことで怒ってるのって、あんまり覚えがないよね。
ま、仮に「パッとしない」とか言われても、フェイトなら怒ったりはしないんじゃない?
あの人の平凡さも普通さも、フェイトはよくわかってる。というか、あれだけの経験をしておいてそうあれることがあの人の凄さなんだけど。
―――だね。むしろそういう“普通さ”を幸せそうに、愛おしそうに話すんだよね、フェイトちゃん。
え? 前にフェイトと出かけた時に「あんな男と縁を切るべきだ」とかいう人がいた? それはまた……というか、子どもの見ている前で言うことじゃないでしょうに。
―――それで、フェイトちゃんはなんて?
朗らかに「参考にします」と……嘘、とは言わないけど……字面通りの意味じゃないわよね。
―――むしろ、その人との付き合いを考え直す、っていう意味じゃないかな。
ま、理解する気のないことを理解させるのは至難の業だし、それが正解なんでしょうけどね。
怒って反論しても、十中八九聞く耳持たないでしょ、そういう奴は。
立香さんの場合、特に良さとかが伝えにくいからね。仮に伝わっても、“ありふれた美点”にしか思えないでしょうし。
―――その“ありふれた美点”を持ち続けられること、そしてそれが“有り得ないレベル”に到達してることが、立香さんの凄さなんだけどね。
まぁ、無理もないとは思うわ。私も正直、昔はちょっと“どこが良いの?”って思ってたし。
―――そう、だね。私も、あの夏までは“普通の優しいお兄さん”って思ってたから。
カルデアのこととか隠してたから、当然と言えば当然なんでしょうけど。
でも、初めてサバフェスに行った時に思い知ったわ。“普通なんだけど、全然普通じゃない”って。
やってること一つ一つは普通のことなのに、それに伴う難易度とか、あの人たち相手に“普通であり続ける”こととか……そういった諸々がどれだけ難しいのか、よ~くわかったもの。
ま、私が見て分かったのなんてたぶん氷山の一角なんでしょうけど。
―――え、なにかあったのかって? 例えば……はぐれたアルフが間違えてギルガメッシュさんの部屋に入って、危うく殺されそうになったりとか。
あれ、未だに謎なのよね。アイツ、何でマッパであんなにエラそうなのよ。まぁ、あそこまで行くといっそ清々しいけど。
―――凄いよね「我が玉体の輝きは同量の金剛石を凌駕する、恥ずべき点など一点たりともありはせんわ」って言いきる自信。
まったく見習いたくないけどね。
しかも、立香さんが「とりあえず…服を着ろぉ!」ってタオルを投げつけたら「何を言っている? ここは、我が威光を目の当たりにできた栄誉に感涙する場面であろう」って心底不思議そうにしてるのよ?
挙句の果てに、「刺激が強すぎるんだって」ってぼやいたら「……なるほど、貴様の言にも一理ある。この輝きを直視すれば、目が焼かれるか」「まったく、雑種共は不便よな」って勝手に納得する始末。
まぁ、そのまま上機嫌でいなくなってくれたからよかった…んでしょうけど。
―――他にもね。酒呑さんがフェイトちゃんの目を見て「綺麗やなぁ。ひとつ、うちにくれへん」って言いだして。
あれ、今思い出しても割と寒気がするのよね。悪気のない悪意というか、純粋に「ほしいと思ったから言った」って感じなのがまた……「二つあるんやから一つくらいええやないの」って、艶っぽく笑いながら言うから余計怖いのよ。
―――もちろん立香さんが止めてくれたんだけど、そうしたら今度は「そうや、目ぇ言うたら旦那はんの目、くれはったら我慢してもええよ?」って。
しかも、今度は中々引き下がらなくてね。「目ぇが二つでも一つでも、たいして変わらへんやろ」「その分、うちがちゃぁんと守ったるさかい」よ。立香さんは立香さんで否定しないし……
―――あぁ、そうそう。「事実だけど、それでもこれ以上足手まといにはなれない」ってね。立香さん、自分の弱さとか平凡さから目を逸らさないんだ。誰だって、そういうところからは目を逸らしたいだろうし、取り繕ったり言い訳したりしたいはずなのに……しないんだよね。
ある意味、普通の人にはきつい環境よね。周りはどいつもこいつもその筋の超一流揃い、嫌でも自分の普通さを突き付けられるんだから。そこで見栄を張るわけでも強がるわけでもなく、「せめてその平凡さを発揮しないと」って言えるのは、逆に普通じゃないわ。
ん? それで、酒呑童子が引き下がったのかって? まぁ、一応は。だけど……
―――「やっぱりほしい」って言って、後ろから……。
ラーマさんが守ってくれなかったら、あの人今頃お腹に風穴開いてたんじゃない?
しかも、特に酒呑童子のこと咎めないし……。
―――むしろ「今はこれで我慢して」って飴玉あげてたよね。
酒呑童子は酒呑童子で「代わりのもんもろてもうたし、ここは旦那はんの顔立てとくわぁ」って悪びれもしないのよ。流石にラーマさんも「罰を与えなくていいのか」って言ってたんだけど……。
―――「それで酒呑が反省とか後悔とかすると思う?」って逆に聞かれたんだ。そしたらラーマさん、少し考えて「………………ありえんな!」って断言してたっけ。
生粋の鬼、真正の魔……それがどういうものなのか、その一端を思い知らされたわ。
目が欲しい、欲しいから殺すっていう発想もだけど、それ以上にそれが“当たり前”のことみたいな精神構造が私には理解不能よ。
そりゃね、一応指示には従うわけだし、能力的に頼りになるのはわかるけど……どういう神経してるのかしら、あの人。
―――少なくとも、自分から契約を切る気はないんだと思う。いつだったか「契約を破棄するとしたら、みんなに見限られた時」って言ってたし。
で、あの連中も基本的に契約を切る気はなし、と。多分、立香さんの命がある限りは契約続行なんでしょうね。
―――……怖いこととかもあったけど、でも楽しかったな。本当に色々な人たちがいて、メディアさんにアレコレ着せてもらったりとか、紅先生のお宿で仲居さん体験させてもらったりとか。
ああ、あったあった。でもあの人、「潤うわぁ」とか言ってちょっと危ない感じだったのよね……フェイトは今でも親しくしてるみたいだけど。
あとは、フェイトが立香さんに手を叩かれたりとかね。
―――あ、別に喧嘩したとかじゃないんだよ。ただなんというか、フェイトちゃんが知らずに静謐さんに触りそうになって……
それを立香さんが慌てて止めようとしたら結果的に、ね。
ただ、静謐さんの体質とか知らないから、フェイトがそれはもう落ち込んでね。“嫌われた”“怒らせるようなことしちゃったのかな?”って、グルグルと悪い方に悪い方に考えちゃったわけ。それで形はどうあれ気持ちをぶつけられれば良かったんでしょうけど……表面的なところはしっかり取り繕ってたのが、見てる側としては痛々しいったらなかったわよ。
―――静謐さん、立香さんとの距離感がすごく近いから。傍から見てると恋人に見えないこともなかったんだよね。だから、なおさら。
まぁ、その誤解自体は割とすぐに解けたんだけど。
―――静謐さんの肩にとまった小鳥が死んじゃって……あれは、ショックだったな。静謐さんも、すごく悲しそうにしてて……。
触れてくれる人に、触れても死なない人に依存っぽいことになっちゃうのもわかるのよね。
そういえば、依存って言えばフェイトも結構そういう気があると思ってたんだけど……
―――たぶんだけど、立香さんのおかげじゃないかな。
え? だけどあの人、フェイトのこと思いっきり甘やかすじゃない。正直、結構心配してたのよ。
―――ん~、むしろだからこそだと思う。中途半端に優しくしてたら依存してたかもしれないけど、むしろキャパをオーバーするくらい全力で甘やかされると、「このままじゃイケナイ」って自立心と危機感が煽られるんじゃないかな。
……なるほど、納得できる部分はあるわね。だとしたら、流石の一言だわ。人間関係の達人は伊達じゃないわね。
にしても、こうして思い返すとイベント内容以外にもいろいろあったわけだけど……
―――だけど?
物騒なことがあったのって初めだけで、2回目以降は普通にサバフェスを楽しめてるのよね。
もしかして、“サーヴァント”っていうのがどういうものなのか、肌で感じさせる狙いでもあったのかしら?
―――どうだろう? とりあえず私としては、バスで空港に迎えに来てくれたゲオルギウスさんが持ってた旗がすべてな気がする。
ああ、アレね。
……いや、どこぞのツアーコンダクターが持つみたいな旗だったんだけど、そこに「カルデア・トラブベル」って書かれてたのよ。
ね、笑えないでしょ?
* * * * *
今回、カルデアより招待された“サーヴァント・サマー・フェスティバル”、通称“サバフェス”に参加すべく空路で北海道に降り立ったなのはたちだが、実を言うと直前まで調整やらなんやらで色々大変だったのだ。
なにしろ、サバフェスは準備期間を含めれば一週間の長丁場。本番は最終日だが、準備期間中も至る所で面白おかしいイベントが盛り沢山。フルに満喫しようと思えば、当然
ともかく、そういう事情もあって真面目に初日の早朝に現着するよう動いていたわけだが、ここで問題になったのが同伴者だ。
先日の事件の事後処理や後始末の関係で、管理局方面の大人たちはまだまだ手が離せない。当然、エルトリア組も聴取などでしばらくは自由に動き回るわけにはいかない。かといって、自営業の高町家はもちろん、経営者一族である月村家にしろバニングス家にしろ、大人たちとしても長期の休みというのはなかなか取れるものではない。一応興味はあるようなので、何とか一日か二日ほど時間は捻出しているようだが……初日はどうしても都合がつかなかった。
とはいえ、流石に地球の一般常識的に小学生が関東から北海道までという、長距離移動をするのは色々問題がある。なのはたちなら大丈夫そうだが、詮索されても面倒だ。
なにぶん、こちら側に浮上してから開催地の選定をし、急ピッチで開催にこぎつけた次第。しかも、その間にエルトリアに端を発した事件やそれに乗じてやらかした連中の後始末……ぶっちゃけ、修羅場どころの話ではねぇのである。はっきり言って、この状況で外部に人を出せというのは無理難題もいいところだ。できて、最寄りの空港に迎えを寄こすのが精々。
だがそこへ、渡りに船とばかりに一人の女性が現れた。
「正直、特に予定もありませんし……私でよければ」
「ごめんなさいね、美沙斗さん。せっかくのお休みなのに……」
「まぁ、向こうにつけば立香君もいるし、なかなか面白そうなイベントみたいだから満喫してこい」
「「「「「よろしくおねがいしまーす!!」」」」」
というわけで、長期の休みを取って帰省(のようなもの)をしていたなのはの父方の叔母「御神美沙斗」が、保護者として同伴してくれることになった。
美沙斗が発着ロビーでの受付などをしてくれたおかげで、特に不審がられることもなく千歳空港に到着。
そこからは
北海道らしいどこまでも続くかのように思える平原で突如濃霧に覆われ、抜けた先に待っていたのは……
「
「名作を引用すればええってもんやないと思うけど……」
「あ、頭がどうにかなりそうだわ……」
平原の真っただ中に脈絡もなく現れた巨大ピラミッド。まぁ、正確には複合大神殿というべきなのだろうが……詳しい知識を持たない彼女たちの目が中央に聳え立つ、ことさら巨大な
なのはとフェイトも、海外生活の長い美沙斗でさえも“ポカ~ン”と開いた口が塞がらないでいる。
魔法に関わり、先日の事件で色々慣れたつもりだったのだが……まだまだ甘かったことを痛感させられた。
そして、立ち並ぶ石柱の間を進み、その奥に鎮座する豪奢な門の前でバスから降りれば、良く見知った顔が出迎える。
「あ、ようやく来たわね」
「? なんで呆然としているの?」
のっけから度肝を抜かれたなのはたちを他所に、ゲオルギウスはイリヤたちに案内役を引き継ぐと、そのままバスを運転して何処かへ。
「皆さま、お気を確かに」
「まぁ、当然の反応なんじゃないかな?」
「普通、ひと月やそこらで建設できるものじゃありませんからね~」
「ほぉら! とりあえずは宿に行って、荷物を下ろすわよ。キリキリ歩く」
呆然とする気持ちはわからないでもないが、いつまでもそうしていても仕方がない。クロに促されるまま、大型トラックの倍はありそうな高さの門をくぐる。正直、いったい
抜けた先には、外観にそぐわないまさに“エジプト”あるいは“ピラミッド”といった内装の長い廊下。一瞬にして中東あたりに来てしまったかのような錯覚に陥り、転移に慣れているはずのなのはたちですらそのギャップに対応しきれない。あるいは、仕事モードになっていれば違ったのかもしれないが。
そうして、イリヤたちに案内されるままたどり着いたのは、某スタジオ製作の大ヒットアニメにでも出てきそうな純和風建築の……ちょっと建築学的にあり得ない気もしないでもないお宿。出迎えたのは、なのはたちよりもさらに幼い外見の舌足らずなしゃべりをする女将さんだった。
「チュチュン、ご主人からお話はうかがっているでちよ。
ようこそ、お客様。出張“閻魔亭”、精一杯おもてなしするでち」
通されたのは、まさに“わびさび”といった趣の純和風の部屋。高級ホテルのような絢爛さはないが、落ち着きの中にも味わい深い、見る者が見ればそうとわかる高価な調度品がさりげなく配置されている。
なのはやはやてなどは一応…あくまでも“一応”だが、中流家庭の出身。なので、馴染みのある和風建築にようやく人心地ついているようだし、フェイトも物珍しさから周囲をキョロキョロ……。ただし、上流階級のアリサやすずかなどはポンと置かれている急須の造形や何気なく部屋を彩る欄間の精緻さから、「なにこの高級品!?」と目が点になっている様子。
気にしだすといつまで経っても気が休まらないので、色々見ないふりをしつつ荷解きを済ませ、お茶を飲んで一息入れる。その頃には、ようやく冷静さを取り戻してきたのだが……。
「頭が痛くなってくるわね……」
「日本からエジプト、そしてまた日本……ちょっとついていけてないかも」
「私も色々渡り歩いてきたが……スゴイ、としか言いようがないな」
周囲を取り巻く環境の変化に、ついていけずに旅の疲れとは別の疲労を滲ませるアリサとすずか、そして美沙斗。ついでに美沙斗の場合、妙にでっぷりした人語を解す雀たちも地味に驚かされた。
魔導士組はまだそういったことには慣れている方なので順応も早いが、代わりに宿に来る前までのことが頭をよぎる。
「凄い圧力だったけど、なんだったんだろうあの人……」
脳裏をよぎるのは、遥か高みの玉座に坐したまま未だかつて体感したことのないような“圧”を放つ青年の姿。言動は極めて尊大で、なのはたちを見定めるかのように睥睨しながらも、それが当たり前であるかのように感じさせる“格”の持ち主だった。
割と物怖じしない方であるなのはですら思わず委縮し、フェイトも一瞬呼吸を忘れてしまうほどの存在感。おかしな言い方に聞こえるかもしれないが、その在り様は容赦なく下々を照り付ける“太陽”を彷彿とさせた。
「はやて、すごく睨まれてたみたいだったけど大丈夫?」
「……いや、たぶん睨んでたわけやないと思う」
「え、そうなの?」
「ああ、アレたぶん睨んでたんじゃなくて注視してただけよ」
「オジマンディアスさん、眼付鋭いからねぇ」
「でも、目を逸らさなかったのは大したもの」
今回のサバフェスで主催を務めるとともに、時間の関係で会場を用意できないことから自らの宝具でこれを都合したのが、彼の“太陽王”オジマンディアス。寛大で鷹揚な一面とは別に、かなり苛烈で容赦がない人物でもあるので、念のために挨拶をと足を運んだのがつい先ほど。
なのはたちはその圧倒的なまでの“
「フリーパス貰ってもうたけど……」
「気に入られた、ってことでいいのかしら?」
とりあえず、スタッフオンリーな場所まで“入ってよし”と主催者からのお墨付きをもらったのだから、良しとしよう。
実は一緒になんか子猫っぽいのも下賜されそうになったのだが、そこはイリヤたちが必死に止めた。今の時代の地球で、あんなのをもらっても扱いに困るだろう。ましてや、成獣になったりしたら目も当てられない。まぁ、何年かかるか分かったものではないが。
「さて。それじゃ、一休みした後はどうする?」
「閻魔亭だけでも見るところは結構あるもんね。浴場に
「屋上庭園も見所」
(ソワソワ……)
「……とりあえず、立香さんに会いに行こうかしら」
(ッ!?)
「そうだね。招待してくれただけじゃなくて、こんな素敵なお部屋を紹介してくれたお礼もしたいし」
(パァッ!)
(フェイトちゃん、ワカリヤスッ!)
なのはも、ようやく今朝出来上がったばかりのパンフレットを見つつ、特に異論はない様子。
とはいえ、何分彼も忙しく動き回っているようなので、場所の特定は難しいとのこと。なので、立香を探しがてらパンフレットとイリヤたちの意見を参考に、今後の予定を検討することで決定……したのだが。
「ん? なんか、外が騒がしくない?」
「言われてみれば……」
「誰か廊下を走っとるんかな?」
「ちょっと、様子見てみるね」
“トタトタ”と板の間を駆ける軽い足音。気になってフェイトが襖を開けると同時に、“ナニカ”が勢いよく飛び込んできた。
「キャッ!?」
不意を突かれ、ひっくり返るフェイト。板の間ではなく畳の上に倒れたことでダメージが軽微だったのが幸いだ。
ぶつけた後頭部をさすりながら目を開けつつ、心配そうに集まってくる親友たちに、“大丈夫”とばかりに微笑みを向ける。そしてそんなフェイトの身体の上には、反射的に抱き留めた小さな人影が……。
「誰だろう、この子?」
「小さいわね……ヴィータくらいかしら?」
「いや、もうちょい下やないかな。たぶん、小学生未満やと思う」
「でも、どうしてそんな子が……」
(((……………………………………まさか)))
ありふれた黒髪に、丈の合っていないダボッとした服装。フェイトに覆いかぶさるような形になっているため、現状分かることと言ったらこれくらい。
にもかかわらず、イリヤと美遊、そしてクロの三人の目に焦りとも困惑ともつかない色が浮かぶ。まるで、何かを察してしまったかのように……そしてそれは、身を起こしつつ未だに抱き留めたままの子どもを見たフェイトもまた同様だった。
(なんだろう、この抱き心地。凄く覚えがあるというか、離し難いというか……)
「……」
「えっと…大丈夫?」
なんとな~く手を離す気にならないまま、そっと声をかける。
すると、肩がピクリと震えたかと思うと、子どもはゆっくりと顔をあげ……
「ふぇ……お姉ちゃん、だれ?」
涙目で見上げてくるあどけない顔に、途端に胸の奥がキュッとなった。切なさと愛おしさが湧きあがり、繊細なガラス細工を扱うかのように優しく、しかし安心させるように思わずしっかりと抱き寄せる。
「私はフェイト、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。君は?」
「そうそう、こんなところでどうしたのよ?」
「お母さんは?」
「はぐれちゃったのかな?」
色々と疑問点が多いだけに、フェイトに続き次々に質問が放たれる。
当然、未就学児と思われる子どもがそんな矢継ぎ早に聞かれても答えられるはずがない。明らかに混乱した様子で、視線が右往左往。
そして、なのはたち自身、自らの失敗には気づいてもどうしていいかわからない。誰も彼も、兄や姉はいても弟妹はいない。強いて言えばヴィータやリインフォース・ツヴァイがそれにあたるが、ヴィータが幼いのは外見だけの話。リインも、誕生当初こそ赤ん坊並みだったが、あっという間に成長してしまったので、彼女たちに幼子の世話の経験値を積ませるには至らなかった。
なので、(一応)一児の母である美沙斗になのはたちの視線が殺到する…のだが。
(わ、私を頼られても困る!?)
確かに出産と育児の経験があることにはある。しかし、色々あって幼い娘を兄夫婦に預けてしまった身なので、実を言うと子どもの相手というのはそれほど経験がないし、過去の負い目もあってむしろ苦手な部類だ。正直、そんな期待の眼差しを向けられても……というのが本音だろう。
だがそこへ、助け舟…とは違うかもしれないが、クロが今一番重要であろうことに質問を絞る。
「とりあえず、なんでここに来たのか、それから教えてくれるかしら?」
「せやけどクロちゃん、まずは名前聞いた方がええんちゃう?」
「いいのよ、察しはついてるから」
「? ? ?」
(この子、もしかして……)
疑問符を浮かべるなのはたちだが、なんとなくフェイトにはこの子どもの正体が分かった気がする。
常識的に考えてあり得ないとか、おかしいことだらけとか……そういうことはわかっているのだが、どうしても“そう”としか思えないのだ。
「えっとね! お姉ちゃんたちが怖くて、追いかけてくるんだ!」
「……それって、警察沙汰な?」
「でも、それなら“怖いお姉ちゃん”じゃないかな?」
当然と言えば当然の疑問。しかし、答えはすぐにもたらされた。
「うふふ、うふふふふ、うふふふふふふふふふふふ…………。
ど
|
こ
|
で
|
す
|
か
|
♡」
「あらあら……困りました。もしもマスターの身に何かあれば……私が鬼になってしまうやもしれないというのに。ですが…ええ。あの子の身に何かあってからでは遅いというもの。ここは久方ぶりに、かくれんぼの必勝法を用いる時でしょう」
「なるほど、アイツらか」
「あ~うん、そりゃ逃げるよね」
襖の向こうから漏れ聞こえる不穏な声。表面的には実に朗らか、あるいは穏やかなのだが…なぜだろう、不思議と背筋がゾワッと来る。
思わずフェイトも廊下に背を向け、子どもを抱く両手に力が籠る。体格差の関係から、思いっきり胸に顔を押し当てているのだが、まだあまりそういったことを気にする年ではないからか、あるいは相手の年齢故か、特に気にする様子はない。まぁ、押し当てられている本人も今はその身に迫る脅威への恐怖と本能的な安心感が先に立ち、ギュッとフェイトにしがみついている状態なのでいいのだろう。
そして、フェイトもなんだかそれがすごくうれしかったりする、理由はよくわからないのだが。
「とりあえず、あの
「いないふり…はダメそうだよね」
「このままだとまとめて消し炭にされるわよ。私らはまだ何とかなるけど、アリサとすずかはそういうわけにはいかないでしょ」
「だけどこの場合、嘘を吐くのも下策」
「
いい加減長い付き合いなので、声だけでも廊下の
「こうなったら、腕づくで撃退するしかないわね」
「ぇ、でもそれは、流石に乱暴じゃ……」
クロの発言に、すずかが一般論を口にする。なるほど、確かに有無を言わせず撃退するのは乱暴すぎるだろう。
しかし、それも時と場合、そして相手次第だ。
「マスターがいることを知られるのだけは避けたい。けど、嘘をつけば清姫にバレる」
そして、生半可な理由ではあのバーサーカー共が納得して離れるとは思えない…というか有り得ない。
不審がられはするだろうが、それでも今はこうするよりほかに手がないのだ。
「へ? マスターって……まさか!?」
「いくわよイリヤ、美遊! なのはたちも手伝いなさい! アイツら、一筋縄じゃ行かないわよ!」
勇んで飛び出そうとするクロと、その後に続くイリヤと美遊。
三人が襖を破って飛び出そうとする直前、幼さを滲ませながらも驚くほどの威厳を備えた凛とした声が廊下に響き渡る。
「何をやっているんでちか、清姫!」
「べ、紅閻魔先生!?」
「頼光もでち! 源氏の棟梁ともあろう者が、どういうつもりでちか!」
「あ、あらあら……紅閻魔殿、これはその……」
「“
(美遊これって……)
(うん、好機!
(なんか字が違う気がするけど……紅先生に便乗して押し切る!!)
そのまま紅閻魔に乗っかる形で清姫と頼光に戦いを挑む魔法少女たち。戦う理由は一言もしゃべっていないので
とにかく、そうして無事二人を追い払った……のはいいのだが、そうなると当初の問題に立ち戻らざるを得ない。
「なぁ、フェイトちゃん。この子、ホンマに立香さんなん?」
「た、たぶん、そうだと思うんだけど……」
直感的にそうだという確信はあるのだが、理屈に合わないのでちょっと自信のないフェイト。
しかし、契約で繋がっているイリヤたちが保証するのなら間違いはない。
つまり、このちっちゃいのは……正真正銘、藤丸立香に相違ないということだ。
「……とりあえず、この様子だと身体だけじゃなくて記憶と精神も逆行してるわね」
「え、まず気にするところそこなの!?」
すずかをはじめ、みな驚きを隠せないようだがさもありなん。一々人が子どもになったり大人になったり、あるいは性別が変わったりしたところで驚くに値しない。それがカルデアクオリティ……慣れろ!
「うん。私たちのこともわからないみたいだし……でも、なんでフェイトちゃんにこんなに懐いてるのかな?」
「さ、さぁ……?」
とりあえず、膝にのっけて茶菓子など与えるフェイト。立香は立香で、リスの様にせっせとかじっている。
大変可愛らしいとは思うのだが、イリヤの問いに小首を傾げつつ、ついつい膝の上の立香にデレッとしてしまうフェイトだった。頭を撫でたりほっぺをプニプニしたり…実に幸せそうである。
「とりあえず、状況から考えて一番怪しいのはやっぱりギルガメッシュだと思う」
「正確には、あのA・U・O♪ の宝物庫に収蔵されている若返りの薬でしょうね~、可能性が高いのは」
「ですが、彼の王がそうそう自らの宝物を放出するとは思えません」
「確かに……本人も、基本的には“貯め込む”方針だし……」
「あ、でもギル君なら場合によってはありうるんじゃないかな?」
「その辺が妥当かしらね。悪いけど、私たちはちょっと外に出てくるわ。その間……」
「うん。立香さんのことは私たちが見てればいいんだよね」
先ほどの状況を鑑みるに、幼い立香を連れて歩き回るのが上策とは言えないだろうことくらいわかる。
まぁ、それとは別にフェイトが立香を離しそうにないというのもあるのだが……普段甘やかされている分、こうして面倒を見れるのが新鮮かつ嬉しくて仕方がないのだろう。
「ごめんね、みんな」
「本部への報告には私が行くから、イリヤとクロは情報収集をお願い」
「本部でも把握してない可能性もあるもんね」
「なら、イリヤは子ギルの方を当たって。そっちが一番可能性が高いし、私は色々聞き込みしてくるわ」
「わかった」
「なのはたちも、一応パンフレットを読み込んでおいて。注意事項のところに、接触禁止サーヴァントの他にも要注意人物との関わり方が書いてあるから熟読しておくように」
場合によっては、なのはたちに手伝ってもらう可能性もありうるからだ。
そうしてイリヤたちが閻魔亭を後にしてから約一時間。
思いのほか早い帰還であったが、帰ってきた時には一名と一匹増えていた。
「よかった。今朝から行方が分からなくて、心配していたんですよ先輩」
「フォウフォーウ!」
ホッと息をつくマシュとその肩で嬉しそうに鳴くフォウ。心から心配していたのがうかがえるその様子から、カルデア側もこの事態を把握していなかったことがわかる。
となると、イリヤとクロの情報収集の結果が重要になってくるわけだが……。
「イリヤ、小さいギルガメッシュの方はなんて?」
「ギル君も心当たりはないみたい。
「なるほど……クロは何かわかった?」
「核心部分については何も。だけど、どうもこんなものが出回ってるみたいなのよ」
そう言ってクロがテーブルの上に広げたのは、A4サイズの用紙。そこには正体不明の物品とその分量、必要となる器具や道具の一覧、そして手順が記載されている……要は“レシピ”である。
「これは?」
「たぶん、何かの薬の製造方法よ。どうやら、ほとんどのサーヴァントにこれみたいな“ナニカのレシピ”か、“その材料”が配られてるみたい」
「つまり、これらを集めて行けば、先輩を元に戻すことが……!」
問題なのはレシピに何の薬か記載されていないことだが……まぁ、立香は毒に耐性があるので大丈夫だろう。
今の状況を見るに、面白おかしいことにはなるかもしれないが、命の心配はあるまい。こうして子どもになっているのも、“身体に害がない”からこそだろうし。彼の毒への耐性は、その辺ちょっと緩いというか抜け道があるのである。
「えっと、どうするの?」
「まずはこのレシピの材料を集める。どう変化するかわからないけど、子どものままだと連れて歩くわけにはいかない」
基本的に荒事の現場では足手まといにしかならない立香だが、“足手まといになりにくく、支援に支障のない位置取り”の見極めは絶妙に巧い。経験の賜物だろう。
ところが、今の立香は正真正銘の足手まとい。それどころか、彼の反応や挙動にまで注意を払わなければならない分、それ以下と言っていいだろう。一応戦闘は原則禁止ということになっているが、あくまでも原則だ。何が起こるかわからない状況で、下手に連れて歩くのはよろしくない。
清姫や頼光の様に立香個人に執着するサーヴァントもいることを考えれば、客人でしかないすずかやアリサの方が遥かに安全なくらいだ。
かと言って、気難しい連中も多いことを考えると、立香という交渉役がいないのは大きな損失。故に、まずは現状を脱し、彼の行動の自由を取り戻すことを最優先にするのは当然といえよう。
ただし、それを聞いてあからさまに残念がる少女が一人……。
「えっ……も、もう少しこのままでもいいんじゃ、ないかなぁって……」
「……さっきからいつツッコもうか悩んでたんだけど……そろそろいいかしら。フェイト、そもそもアンタなんで“膝枕されてる”のよ」
そう。部屋を出るときはフェイトが立香を愛でていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転。戻ってきてみれば、幼い立香の細いフトモモに頭を預け、髪を梳いてもらいながら溶けているフェイトがいた。
「ち、違うの! これには深い理由が……!」
「アリサ」
「ごめん、私にもわかんない。気付いたらこうなってた」
「フェイト、アンタにプライドってものはないの?」
「わ、私だってホントは悔しいんだよ! いつもいつも私がされるばっかりで、偶には私だって立香にしたいのに……」
「あの、フェイトちゃん? その言い方はちょっと誤解を招くというか……」
主語を抜いているせいか、とても怪しい内容に聞こえてしまう。が、フェイトはそんなことには全く気付かない。
「でも……」
「でも?」
「悔しいけど嬉しいの。凄く気持ちよくて……ずっとこのままでいたい」
「ダメだこりゃ」
呆れ果てた様子のアリサに、一様に首を縦に振って同意を示す。ただ一人、少しだけ羨ましそうに見ているマシュを除いて。
その後、もうフェイトのことは放っておくことにして、薬の材料の収集を開始。
誰が何を持っているかわからない状況の為、アリサやすずかにも手伝ってもらうことになった。もちろん、一人で動き回らせるのは危ないので二人一組で行動することに。具体的にはなのはとイリヤ、はやてとクロ、すずかと美遊、アリサとマシュといった組み合わせ。美沙斗については、万が一再度立香が狙われた場合に備えて、傍についていてもらうことに。正直、今の蕩け切ったフェイトが役に立つとは思えない。
そうして、とりあえず最初のレシピの材料が集まったので、名残惜しそうにするフェイト(あと実はマシュも)を他所に飲ませてみたところ……
「フォア!?」
「いやぁ、ごめんねみんな、心配かけて」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
「おかげでようやく元に戻れたよ…ってあれ、どうしたの?」
「「「「「「「「「立香 / 先輩 / マスター(さん)が女の子になっちゃった!?」」」」」」」」」
「あれ、私って男だったっけ? なんかその辺の記憶が曖昧というか……」
そこにいたのは、結構いいスタイルをした赤毛の女性だった。しかも、自分の性別に関する記憶というか認識がだいぶ怪しい。それを示すように……
「ん~……まぁ、別にこれでも特に困らないし」
「いやいやいやいや! ふつう困るでしょ!?」
「フェイトちゃんも困るよね!?」
「え!? 私は、その……」
「フェイトも別に問題ないでしょ?」(ムニュ)
「ぁぅ……」
背後から抱き寄せられ、首のあたりに女性特有の柔らかさが押し付けられる。
その分、振り返れば顔が近い。以前と違い、最近ではここまで近づくことがなかった分、間近に見る立香の顔に顔が熱くなる。そもそも、元々こういったスキンシップはあまり数も頻度も多くなかったのだが、最近はめっきりなくなってしまった。そのことに寂しさを感じなかったと言えば嘘になる。それどころか、話す時も若干距離が開いた気がしていたところだ。
できればもっと触れてほしいし、傍にいさせてほしい。こうして微笑みかけてもらえれば胸が温かくなり、心が安らぐ。その意味で言えば、この状態はフェイトにとって願ったり叶ったりに近い状態なわけで……。
「モウコノママデイインジャナイカナ?」
「重症……ううん、手遅れかもしれない」
寂しさが募っておかしくなったのか、あるいは久しぶりの刺激が強すぎておかしくなったのか……いずれにせよ、おかしくなっていることに違いはなさそうだ、だって目がグルグルしているし。
「……ですが、とりあえずこれで先輩も自由に動けます」
「フォウ!」
「……できれば、ある限りのレシピと材料を集めて一気に試したいところだけど……」
「このままの状態を放置するのも危険。急いで次の薬を飲ませた方が良い」
「女の人なのが当然になるのも、ちょっとねぇ」
このまま意識が固定化されるかはわからないが、万が一にもされてしまってはことだ。今は幸せ過ぎて錯乱しているフェイトも、正気に戻れば気付くだろう。
なので、多少の組み合わせ変更をしつつ、さっそく新たなレシピと材料を求めて行動を開始。
例えば……
「あら、坊やじゃないの…って、坊や?」
「メディアさん、あまりお気になさらず。それより今は、カクカクシカジカ……」
「……なるほど、そういう状況なの。生憎レシピには心当たりがないけど、材料ならあるわよ」
「譲っていただくわけには……」
「フォウフォーウ!」
「別に構わないけど……」
「おお! 奏者ではないか! む? むむ? むむむむむむっ! ……よい、実に良いではないか!!
うむ! そこな金色の娘と共に、余のハレムに加えるにやぶさかではないぞぉ!!」
“ハァハァ!”と息を荒げながら迫ってくるローマ皇帝に、流石の立香も腰が引けている。
その後ろに庇われているフェイトも、ようやく正気を取り戻したらしく……
「で、でも! 女の人同士なんですよ!」
「む? それがどうかしたのか、童女よ?」
「ど、どうかしたのかって……」
「心して聞くがよい! 真の英雄! 真実の愛の前では性別など無意味である!!」
(ガ――――――――ン!?)
「とりあえず、そこの両刀使いを排除したいのだけど、手伝ってくださる?」
「……はい。このままだとフェイトさんの情操教育に大変な悪影響を及ぼしそうですから」
というわけで、こちらのブースを使用していたメディアをはじめとしたカルデア裁縫部の皆さんの協力の下、ネロには出禁をくらわすことに。そこで終わればよかったのだが、戦うフェイトの凛とした姿が琴線に触れたらしく、メディアは「きっと! 絶対!! すっごく似合うわ!!!」と、彼女を着せ替え人形にすることを要求。自分が満足するまで色々着せたら、薬の材料を譲るというわけだ。
まぁ、荒事ではないので了承すれば…それはもう色々着せてホクホク顔のメディア。自分が着るためというよりも、”似合う子に着せて楽しむ”ために作るタイプなのである。初めは恥ずかしがっていたフェイトも、立香(女)に褒められて満更でもない様子。これこそが、フェイトはメディアに色々衣装を発注し、メディアもフェイトをモデルに使うという、win-winの関係の始まりであった。
他にも……
「あ、不良じゃないの」
「誰が不良だオラァ!」
(た、確かに不良っぽい……)
「じゃあヤンキー」
「俺のどこがヤンキーだっつーんだ、このガキィ!!」
「そうやっていつもキレてるところがよ」
「キレてねぇよ!!!」
(めっちゃキレとるやん!?)
気炎を上げる…どころか、本当に被った仮面のてっぺんから炎を噴き上げるアシュヴァッターマン。
管理局では「特別捜査官“候補生”」という立場の彼女なので、ガラが悪いくらいでは動じたりしない…はずなのだが、流石に大英雄レベルの怒りに晒されれば慄かずにはいられない。たとえそれが、自分に向けられたものではないとしても。
とそこへ、おっとりとした声が……
「まったく、あまり子どもを怖がらせてはいけませんよ、アシュヴァッターマン」
「こ、これはパールヴァティ様。お見苦しい姿をお見せし、申し訳ありません」
(大人しくなった!? なにもんなんやろ、この人? 綺麗な人やし……なんちゅーか、近いものを感じるような、そうでもないような……あれ? せやけどこの感覚、前にも確か……)
「謝るなら私ではなく、そちらの子に。クロエさんもですよ、怒るとわかっているのにわざわざ言うものではありません」
「……悪かったわ。同じクラスだから、どうもね」
「悪ぃな、ガキ。なにぶん、こういう性分でよ。怒りと俺は不可分、怒りこそが俺の原動力だ。偏りすぎだってのは自覚してるが、今更在り方は変えられねぇ。こういう奴だと思って、適当に流せ」
「謝ってるのかしらね、あれ」
「……ま、詫びと言っちゃなんだが、持ってけ。そいつが目当てだったんだろ?」
そういって投げ渡されたのは、一枚の紙。相変わらず何の薬かは判然としないが、それは確かに求めていたレシピだった。
「良くわかりましたね」
「おめぇみてぇなガキがわざわざ俺んとこによって来る理由なんざそれ位しかねぇだろ、それだけだ」
(見た目も言葉遣いもおっかないけど、頭ええし…実は結構気配り屋なんかな?)
「ああ、そうだ。私からもあなたに渡すものがあったんでした」
「はへ? えっと、“ぱぁるばてぃ”さん? も、レシピか材料持ってるんですか?」
「ああ、いえ、私は持っていないんですが…ちょっとこちらへ」
「はぁ……」
「むむっ。この気配は…イシュタルさんですね。さすが、手の早い。コホン、それはともかく……あなたの人生が、良き星の下にあらんことを……チュッ」
「っ!」
「何を…というと実は私も良くわかっていないんですが……頑張ってくださいね」
先日の事件で出会ったイシュタルに続き、二柱目となる女神様からの祝福であった。ちなみにこの後、行く先々で女神と遭遇し、祝福と加護のオンパレードになるはやてであった。
同じ頃、なのはも……
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんで私こんなことになってるのぉ!?」
「よし、そこだ行け! さっさとゴルゴーンを気絶させろ!」
「また貴様か、蛇遣い! いい加減、私の血を諦めろ!」
「……なぜ私は、姪と共に神話の怪物と戦っているのだろう」
元をただせば、カルデアに医神“アスクレピオス”がいると聞き、そんな人がいるのなら立香を元に戻す薬も作ってくれるのでは……と思って訪ねたのが発端。
ただし、実際に当の本人に会ってみれば……
「知るか。それは
「えっ! で、でも立香さん…はそうでもないかもしれないけど、皆さん困ってますし」
「あなたの薬は万病に効くと聞いた。ならば……」
「だからこそだ」
「「?」」
「マスターの身体に起こった変化は病ではない。ましてや傷を負ったわけでもない。医者の仕事は傷を治し、病を癒すこと。逆に言えば、それ以外は管轄外だ」
要は、傷病の類以外は専門外だし、医療の発展にも寄与しないので興味がないのである。
元々、“薬”ということで今回の事件の容疑者の一人に浮上した彼だったが、早々に外れたのもこれが理由だ。彼は医術の進歩にしか興味がない。故に、こんな“面白おかしい薬”など作るわけがないのだ。
ちなみに、同じく薬に精通しているパラケルススは真っ先に疑われ思い切りボコられた……。ただ、実は彼が主犯ではないとわかり、率先してボコりに行ったイリヤたちは申し訳なさそうにしていたものだが……
「まぁ、匿名の依頼で協力はしたのですが」
「先輩、判決は?」
「ギルティ!」
ということで、申し訳なかったのもごくごく短い時間のことだったが。
まぁそれはともかくとして、なのはたちとしてもただでは引き下がれない。
協力を得られないのなら、せめて彼が持っている材料だけでも……と交渉したところ。
「今のところ使い道はないが、これで新しい薬を作れるかもしれん。それを譲るなど論外だ」
「だけど、それだと立香さんがこのままに……」
「何か問題でも?」
「はい……?」
「マスターが子どもに、女に、あるいは猫耳が生えた、または巨人になった。僕との契約において、何の問題もない。その薬が原因で病になったというのであれば、喜んで診よう。実に興味深い症例だ。むしろ、是非なってほしい。その上で僕が診て、治療する…見ろ、何の問題もない」
「え、えぇぇぇぇ?」
「筋金入りだな…最早これは狂気の域だろう」
「あとはそうだな、老人になった……というのであれば、少し困るな。まだ真の蘇生薬の再現には……そうだ、条件付きで譲ってもいいぞ」
「本当ですか!」
「ああ。これから薬の材料の採取に向かう、それに協力しろ。無事に採
というわけで、なのはと美沙斗は絶賛神話の怪物ゴルゴーンとの死闘の真っ最中と相成ったわけである。
その結果は……“骨折り損のくたびれ儲け”とだけ言っておく。なんだか段々、カルデアの医療関係者への苦手意識が増していくなのはであった。
ちなみに窮地の真っただ中、正体不明の紫電が降り注ぎなのはの窮地を救ったりもしたのだが……紫電を放ったと思われる人物は、何やら仮面のようなものをつけていて……
「ほら、さっさと逃げなさい! あんな怪物、一々相手にするものじゃないわよ!」
「えっ! あの、あなたは……」
「私のことはいいから、さっさとする!」
「は、はい! ……あの、ありがとうございます! このお礼はまたどこかで……」
「いらないわよ、そんなもの! そんなこと気にしてる暇があったら行きなさい!
……でも、そうね……金髪で赤い目の、頭はいいくせに物分かりの悪い…でも、優しい……本当に優しい子がいたら、仲良くしてあげてちょうだい。心配症でちょっと面倒なところもあるかもしれないけど、根気強く付き合ってやってくれればそれでいいわ」
「それって、どういう……いない」
凄くその人物像に心当たりがあって振り返った時、既に仮面の女性の姿はなかった。どうやら、ゴルゴーンを誘導してどこかに行ってしまったらしい。
ただ、振り返る直前「あなたとアルフがいてよかった。今際の際、確かに
あとは、アリサと共に行動していたイリヤがちょっと目を離した隙に……
「こ、ここはぁ! アリサちゃん!?」
「ん、イリヤ? あ~、ごめんごめん。なんか、試食してみないかって言うからさぁ」
「そんなことはいいから、早くここを……!」
「待つが良い少女よ。ちょうど今出来上がったところだ、君も食べてぜひ感想を聞かせてほしい」
「あ、あばばばばばばばばばばばば……」
古びたラーメン屋のような店内、カウンター席の向こうから振り向いたのは……黒い、長身でガタイの良い大男だった。
モジャッとした髪を黒い三角巾で覆い、腰から下を覆う黒いエプロン姿は確かにラーメン屋の店主…のはずなのだが、物凄く胡散臭い。ラーメン屋の店主というよりも似非神父がよく似合い、似非神父よりも殺し屋とかの方がもっと似合う感じで。
「さあ、食すが良い。我が珠玉の一品、当店が拘り抜いた特製……“麻婆ラーメン”だ!!」
「やっぱりぃぃぃぃぃ!?」
「ふ~ん。見たまんま、ド直球の品みたいだけど……いいの? 私、自慢じゃないけど舌には結構自信があるんだけど? 感想を言えっていうんなら、思ったままを言わせてもらうけど」
「ふっ、それはこちらのセリフだ。果たして君に、このラーメンの
「確かに当然ね。どんな品であれ、出されたからには食べるのが礼儀ってものよ」
「挑発に乗っちゃダメ! この人、それこそ首から下を土に埋めて口から麻婆を流し込んででも完食させる人だから!!」
「はぁ? いろいろツッコみたいところだらけだけど、いくらなんでも失礼でしょ。そんな外道、いるわけないじゃない」
「ふむ……いったいなぜそのような認識を持つに至ったか、興味は尽きないな。記憶にある限り、君に食事を振る舞った覚えはないのだが……」
「さ、さっそくいただくとするわ」
「ダメ――――――――――っ!」
「そうだ、一つ言い忘れていた。君たちの探し物、見事完食できた暁には無償で譲り渡そう」
「っ!?」
「さあ、どうするかね、少女よ。我が身可愛さに友と主を見捨てるもよし、あるいは敢えて挑むも君の自由だ」
「あ――――――――――――もう――――――――――――!!! この外道――――――――――!!!」
結果を言えば、その辛さに二人は轟沈した。ついでに、カロリー的にも爆死した。
「ふむ……かつての食糧不足を参考に、一週間分のカロリーを濃縮したのだが……比例するように辛味も増すとはな。いやはや、まったくうれしい誤算とは思わないかね?」
((……チ――――ン))
そこには、まだほとんど中身の減っていない
そして、最後にすずかと美遊の二人はというと……うっさん臭いオッサンに絡まれていた。
「やぁ、よく来たね子どもたち。ここはこの私、ダンディなアラフィフが贈る防犯啓発セミナーの会場だよ」
「行こう、すずか。怪しいキャッチセールスに捕まっちゃいけない」
「え、あの…え?」
「さっきからみんなスルーしてばかりでね……ワタシ、怪しいアラフィフじゃないよ」
(あ、怪しい……)
みなまで言わずともわかった、これは正真正銘の不審者だと。
「行こう」
「うん、いこっか」
「いやいや、せめて話だけでも聞いていっておくれよ。決して悪い話じゃないから、防犯だけに」
「河原に捨てられた雑誌以下の信用度」
「遠回しに有害図書扱いするのやめてくれないかな!?」
「公衆電話に張られたシールと同列」
「
「事案ですね、通報します」
「いくら何でも、女児誘拐とかで捕まるのは不名誉すぎやしないかい!?」
仮にも悪の組織のボスだというのに、この扱い。まぁ、犯罪界のナポレオンがそんなショボくも不名誉極まる、ある意味最低最悪の罪状で捕まるとか、涙があふれて止まらない(愉悦)。
「ホームズあたりが爆笑する、かも? それはそれで見てみたいけど」
「いいや! 奴であれば、むしろ同情するだろう! だって、その方が私へのダメージがデカいからね!!」
割とマジ泣きしてくるアラフィフ……正直、いい年したオッサンのマジ泣きとか見苦しいと言ったらなかったが。
とはいえ、流石に哀れになって来たので話だけでも聞いてやることにしたのだが……
「……結構まとも…というか、普通にタメになる話で驚いた」
「当然だとも。何しろ、この
私は確かに
まぁそれはそれとして……お嬢さんの家は資産家のようだからね。この“邪悪教典 資産運用編(簡易版)”なんかオススメだよ? どう使うかは、君に任せるが」
「は、はぁ……」
なんとなく正体の察しがつき、困惑気味に受け取るすずか。
ちなみにその後、この邪悪教典シリーズは東京支局を通じて無限書庫にも収蔵され、法務関係を中心に管理局員必読の書となる。犯罪者は法の抜け穴を、邪悪こそが何よりも悪のなんたるかを知る。
故にこそ、悪と罪を取り締まる管理局にとってこの書物の有益性は計り知れない。まぁ、要はネット犯罪への対策のために一流ハッカーを雇うようなものである。
とまぁ、もちろんこんな愉快なことばかりだったわけではない。
数日後からはそれぞれの家族なども参加するようになったし、比較的行動の縛りの薄いエルトリア関係者が顔を見せに来たりといった嬉しいサプライズも。その際、大神殿の天井に身の丈ほどもある筆を走らせる北斎の路上パフォーマンスを見たり、モーツァルトの演奏会に参加したりもした。当初の目当てだった即売会では、それぞれに目当ての作家系サーヴァントの本を無事入手もできた。
もちろん、都度サーヴァントたちから薬の材料やレシピを譲ってもらったり、条件達成に四苦八苦したりしたのだが……終わってみれば気分的にスタンプラリーに近い感じだったのだから、騒がしくも楽しい時間だったと言えるだろう。
まぁ色々な正体不明の薬を試しているうちに、立香が小人や獣人になるどころか「ピピピピピピピ!」と電子音っぽい感じでしか喋れなくなったり(不思議と意味は通じたが)、なぜか四つん這い(すなわち犬)になって立ち上がれなくなったり、喋りと仕草がオネエになったり、常時“泰山解説祭”になったり、あるいは豚になったりと……割と大変だったのだが。
他にも、ちょっとした行き違いが原因でフェイトが凹んだり、なのはがナイチンゲールに追い掛け回されたり、はやてがジャガーマンに「弟子2号じゃ―――!」とさらわれたりと、とにかくせわしない数日間だった。
とはいえ、最終日を目前にようやく元に戻れてホッと一息。
この手の騒動になれているカルデア組は「あー、戻った戻った」と軽い調子だが、そうでない面々はというと……
「つ、疲れた……まったく、こんなことがしょっちゅうなの?」
「しょっちゅうじゃないよ、年に四・五回くらい」
疲労困憊といった様子のアリサのボヤキに、あっけらかんと答える立香。
「あ、でも今回は規模の割に細やかかな。俺しか被害受けてないし」
「そうですね。あと、割とシャレにならないのが年に1・2回くらいでしょうか」
「イシュタルとかが世界崩壊級のポカやらかしたりするしね。まぁ、細々したのだと日常茶飯事だけど」
「「「「「……………」」」」」
その言葉に、もはや絶句してしまう子どもたち。そして、ふかいふか~いため息の後、アリサはフェイトの肩に手を置いた。
「………………………………フェイト、諦めなさい。アンタがこの人に迷惑かけるなんて、天地がひっくり返っても無理だから」
「そう、だね。もうこの際だから、前にアリサちゃんが言ってたように、迷惑かけられるように頑張るくらいでちょうどいいんじゃないかなぁ?」
「せやねぇ。まぁ、それでもむしろ、立香さんやと息抜きにしてまうかもしれへんけど」
と、なのは以外からコメントされるのであった。
ところで、今回の騒動の犯人が誰だったのかというと……
「おやおやぁ? ようやくお気づきになりましたね。そう! 実は今回の黒幕はこの私、ルビーちゃんなのでしたぁ!! あっはぁ♪ 実は犯人は傍にいた、割とお約束ですよねー? 皆さんの右往左往する様子、しっかりシークレットデバイスに記録してありますとも。あとで編集してお渡しするので、是非お楽しみに♪」
「……………とりあえず、イリヤ諸共〆れば終了かしら」
「ちょっ!? え、私もなの!?」
「いやですねぇ、イリヤさん。私の不始末は、マスターであるイリヤさんの責任に決まってるじゃないですか」
「私一ミリも知らなかったのにぃ!?」
「さぁ、行きますよイリヤさん! 私たちの愛と正義を、今こそ見せる時!
「なんで私まで――――――――――――――――――っ!?」
チャンチャン♪
「まったく、随分引っ掻き回したみたいじゃないの」
「あ~、じゃやっぱりこれって俺の仕業?」
「ふ~ん、記憶を消してたはずだけど……思い出したの?」
「いや、ただな~んかルビーが起こした騒動にしては違和感があるなぁって……」
「……正確には、
「目的は……みんなに楽しんでもらうのと、
「そんなところね。実際、普通に参加してたんじゃここまで色々な連中と関わりはしなかったでしょうし。良くも悪くも、ね」
「…………まぁ、楽しんでもらえたみたいだから、良かったのかな。イリヤには悪いことしちゃったけど」
「そう思うなら、今度埋め合わせでもしてあげることね」
「プレシアもありがと。無理言って残ってもらっちゃって」
「…………………………………………別にいいわよ。あの子…なのはに言いたかったことも言えたしね」
「じゃ、そろそろフェイトにも」
「それはイヤ」
「頑固者………………………………いつか絶対、会ってもらうから」
「そんな日は来ないわよ。
「フェイトは、そう思っていないよ」
「……馬鹿な子。フェイト・“テスタロッサ”・ハラオウン……そんな名前、さっさと捨ててしまえばいいのに」
「捨てないよ、フェイトは。過去のすべてが今のフェイトを形作って、これから出会う全てが未来のあの子の礎になる。それを、知っているから」
「……本当に、バカな子」
しかし、ガネーシャさんのイロモノ感よ……そう来るとは思わなかった。
あと、ジャガーマンと並べた時のシュールさがなんとも……。
でも、ホントになんでガネーシャさんは来られたんだ? パールさんが無理でガネーシャさんがオッケーだった理由が良くわからないんだけど? BBとのことも含めて、そのうち幕間かイベントで明らかになるのかな? すっげぇ楽しみ。