いや、Redsの方だとイリヤは爆弾どころではないので、さすがにね。
そう、それでイリヤの次に私? まぁ、急ぎの用もないし、知らない間柄じゃないから別にいいけど。それで、何が聞きたいの?
海鳴に来てから……私が出たのは臨海公園、対応したのははやて。場所が場所だし、昼間だったからバリアジャケットとかはなし。途中まで誤魔化してたけど、なのはを通してイリヤと連絡が取れたから、あとは管理局の指示に従った。一応、必要以上の証言はしないよう気を付けたけど。
なに、どうかした?
―――美遊様、ヴィヴィオ様はその時の詳しいやり取りや何を感じ、どう思ったかをお聞きになっているのではないかと……。
そう。……………………………正直言えば、少し驚いたかな。まさか、あんな形でお兄……士郎さんに会うなんて思いもしなかったから。まぁ、はやてには少し不審がられたけど。
少ししか驚かなかったのか? ……イリヤの時に同じことがあったから、二度目だし、そうでもなかったかな。そうでなかったら、抱き着くくらいはしてたかもしれないけど。
―――イリヤ様の時には、しっかり抱き着いておられましたからね。
サファイア、余計なことは言わなくていい。コホン……どちらかといえば、驚くよりも少し心配だった。
この人は私のお兄ちゃんではないけど、アーチャーさんみたいになっちゃうんじゃないかって。それが一概に不幸なこととは言えないけど、できるなら幸せになってほしかったから。だからはやてには……うん、感謝してる。士郎さんのはやてに向ける眼差しは、お兄ちゃんが私を見る目に似ていたし、はやても士郎さんへの愛情を隠してなかったから。というか、むしろ士郎さんがタジタジになるくらいグイグイ行ってたし。
うん、そのあたりは今もあんまり変わってない。はやてが士郎さんに甘えたり振り回したりして、士郎さんは困ったように笑いながらも幸せそうにしてる。
だからじゃないかな。イシュタルとかエレシュキガル、それにパールヴァティにジャガーマン、あとシトナイがはやてに加護をあげたのは。あの人たちも、士郎さんとは違う士郎さんに縁のある人たちが依り代だから。あの人の幸せを願ってて、きっとはやてなら有無を言わせずに幸せにしてくれる。そう思ったから……。
―――美遊様もイリヤ様も、実はとても安心しておられたのですよ。ご存知かもしれませんが、カルデアには士郎様の未来の可能性もおられますから。赤い方のエミヤ様はまだしも、黒い方のあの方はあまりにも……。
私とイリヤは世界を超えて
え? 姉妹で友達? 言っている意味がよくわからない。姉妹と言えばそうだけど、誰と誰が友達なの? 私とはやて? 別に、はやては知人。私の友達はイリヤだけ、百歩譲ってまぁクロも…かな?
なのはとフェイト? 知人だけど? こう言うといつも二人に怒られるんだけど、事実を口にして怒られるのは釈然としない。
まぁ、そんなことはどうでもいいとして……イリヤと合流した後は、リンディさんたちにクロの捜索をお願いしたのと、カルデアからの迎えが来るまでの間、海鳴に滞在する許可と生活の保障をしてもらえることになったことくらいかな。もちろん、カルデアのことはできるだけ秘密にしたけど。
結構不審だったり無理のある説明にはなったけど、そこはなのはとフェイトが頑張ってくれたから。クロノさんは追及したかったみたいだけど、別に犯罪者ってわけでもないし、なのはとフェイトに「大丈夫」って力説されたら白旗振ってたのはちょっと面白かったかな。リンディさんとエイミィさんも笑ってたし。
そのあとは……
―――なぜか、ちょっと模擬戦をしてみよう、ということになったのでしたね。
ああ、そうだった。うん、なんでそんなことになったのか今でもよくわからない。気付くと押し切られてて、フェイトはともかくなのははあの頃から結構押しが強かった。それで、結局2対2で模擬戦をすることになったんだけど……
* * * * *
「ふ、二人ともめちゃくちゃ強くなってるんですけど――――――――――っ!?」
「いやぁ、フェイトさんのスピードもそうですが、なのはさんの火力は圧巻ですねぇ」
「あなたがバスターです」
割と至る所が煤けながらも何とか撃墜されることなく凌ぎ切ったイリヤだが、すでに涙目だ。
美遊も余裕がないらしく、普段は冷静な声音に焦りの色が見える。
二人は模擬戦の舞台に設定された廃墟の影に這う這うの体で身を隠し、こそこそと作戦会議の真っ最中。ぶっちゃけ、いつ見つかるんじゃないか、あるいは廃墟ごと吹き飛ばされないか戦々恐々だ。
隠れたり隠したりするのは魔術の得意分野。イリヤたち自身に魔術の心得はないが、ルビーたちカレイドステッキは最高位の魔術礼装、ある程度の融通はきく。今はそれがうまく作用しているのだろう。
「うん、なんてバ火力。単純な威力だけなら、並のサーヴァントを上回ってる。
でも、どうするのイリヤ? このままだと間違いなくじり貧、遠からず押し切られる」
「う~……別にどうしても勝たなきゃいけないわけじゃないけど、このまま負けるのもなんか悔しいし。かといって……」
「とりあえず、
「だとしても、念には念を入れるべき。ただ、そうなると手札は限られる」
「ツヴァイフォームもなぁ。模擬戦くらいで使うようなものじゃないし……っていうか、アレものすごく痛いからできればやりたくない」
「当然。あれは本当に最後の切り札、どうしようもない時に使う自爆技なんだから。こんなところで使おうとしたら、さすがに怒るよ?」
「はい、わかってます」
かすかな怒気を滲ませる美遊に、イリヤも目を逸らしながら同意する。カルデアには優秀な回復役がいるので、ツヴァイフォームの反動も何とかなってしまう。そのため、やや安易に使い過ぎているという自覚があるのだろう。
まぁ、使わないことには状況を打開できない場面が多いというのも理由の一つではあるが。それだけ、カルデアの歩む旅は過酷なのだ。
「というか、二人とも手札増えすぎだよぉ。なに、あの薬莢みたいなの? レイジング・ハートも見たことない形態になってるし、よく見たら二人とも衣装がバージョンアップしてるし」
「おや、期が変わるごとに衣装を刷新するのは魔法少女ものの定番では?」
「ルビーの戯言はおいておくとして、あっちは私たちと会ってから二年近く経ってる。進歩するのは当然、私たちもあの頃のままじゃない」
「そりゃ奥の手はあるけど、使っちゃダメならないのと同じだよぉ」
二人が合流した後、事情説明がてらフェイトの自宅に案内された折、イリヤたちも管理局とやらについて概要程度は聞いている。その際にルビーやサファイアとも相談した結果、極力自分たちの手札や情報は隠すことにしたのだ。
正直、管理局的に見てイリヤたちの持つ力やカルデアの技術がどう認識されるか判断がつかない。カルデアにおけるイリヤたちの立ち位置は、唯一のマスターとはいえ職員としては下っ端の立香のサーヴァントというもの。少なくとも、勝手に判断して情報や技術を漏らしていい立場ではない。
そのことを理解しているからこそ、なのはたちが知らない手札を迂闊に切るわけにはいかないのだ。
「なら、あとできることは一つ」
そういって美遊が手にしたのは、槍を持った戦士の図柄が描かれたカード。
「
「うぅ~、こんなことならもっと色々持ってくるんだったよぉ~」
「食料や生活必需品の調達だけのつもりでしたからねぇ」
「はい。元々持っていた六枚以外はおいてきてしまったのが運の尽きかと」
「バーサーカーの斧剣は重すぎて使えない。キャスターの
「ライダーとアサシンはともかく、セイバーとランサーの真名開放もやめた方がいいよね。セイバーは威力あり過ぎだし、ランサーは心臓に必中とか危なすぎ。なのはちゃんたちみたいに、“ひさっしょうせってい”っていうのできないからなぁ、私たち」
「うん。だからこそ、作戦が重要になる。フェイトはヒット&アウェイが中心だから、近づいたところで白兵戦に持ち込めばいいとして、問題はなのは。どうやって近づくか……」
そのままゴニョゴニョと密談を続ける二人。
「そうやって聞くとすごい縛りプレイですよね~、イリヤさんたちって実はマゾですか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ!?」
「別に好きで制限してるわけじゃないのに、その言われようは不本意」
などという横やりが入りながらも、大筋の作戦は出来上がる。正直、穴だらけな上に運の要素が多すぎるのだが、これが今の彼女たちにできる精一杯だ。
とそこへ、まるで出待ちでもしていたかのようにサファイアが警告を発する。
「上空にエネルギー反応! どうやら位置がばれたようです」
「ディバイ―――――――――ン……」
「あ~、さっきから光る玉みたいなものがウロウロしてましたからねぇ。何かを観測したのか、それとも私たちの周りだけ反応がなさ過ぎてばれたのか、どっちでしょう?」
「悠長なこと言ってないで行くよルビー!」
「イリヤ、あとは作戦通りに」
「うん」
「バスタ――――――――――――――――!!!」
確認し合い、二手に分かれる二人。ちょうどそこへ、数秒前まで二人がいたはずの場所を桜色の極太レーザーが貫いた。
(非殺傷設定か何か知らないけど、あんなのまともに食らったら死ぬ)
窓から飛び出した美遊だが、そこへ待ち構えていたかのように桜色と金色の魔力弾が殺到する。
「サファイア、物理保護全開!」
とてもではないが捌き切れない物量を前に、全魔力を物理保護に回しての強行突破を図る。
無数の魔力弾に打ち据えられながらも、足元に展開した魔力を足場に強引にかけがある美遊。物理保護のおかげでダメージはほぼないが、着弾するたびに体幹がぶれスピードが鈍る。それでも何とか廃墟の屋上へと飛び上がり、なのはを視界に収めることができた。そう、なのはだけを。
(……フェイトが、いない!?)
直後、美遊の背筋を何かが走った。咄嗟にステッキを背後に、間髪入れずに衝撃。つんのめる様にして前方へと投げ出された美遊は、何とか体勢を立て直して屋上に着地した。勘でステッキを背に回していなければ、今ので落とされていたかもしれない。
誰がやったかなど考えるまでもない。しかし、その姿を確認するより早く美遊の四肢を金色の光が拘束する。
同時に、再度桜色の閃光が頭上で輝きを増す。
「エクセリオン……バスタ―――!!」
「物理保護、
四肢を拘束されたまま、イリヤのそれを真似て器用に自身の頭上に錘形の物理保護を展開。降り注ぐ桜色の砲撃を逸らしながら、四肢を拘束する金色のバインドを破壊しようともがく。
フェイトがそこに追い打ちをかけようとするが、美優にやや遅れてイリヤが飛翔してくる。
(やっぱり、イリヤは少し遅れた)
二年前、イリヤが「出力はちょっと自信ない」と言っていたのを憶えていたのだ。だから、追い詰めてやれば美遊とイリヤの間に速度の齟齬が生じることは読めていた。もちろん、それを織り込んで時間差行動に出ることも想定済み。美遊を囮に、イリヤがフェイトを崩しなのはを狙う…その可能性は十分に予想できたことだ。
なら当然、思い通りにやらせはしない。
「やっぱり、使うしかないかぁ……」
「フォトンランサー…ファイア!」
自身の周囲に展開していた魔力弾の狙いを変更し、イリヤ目掛けて撃ち放つ。
回避か、迎撃か、あるいは強行突破か。いずれにせよ、その隙に距離を詰めて確実に切り伏せる。そのつもりでいたフェイトだったが、現実は彼女の予想を裏切った。
「えっ……」
イリヤが選択したのは、あえて分類するなら「強行突破」。ただし、障壁など一切展開せず、馬鹿正直に突っ込むという無謀なもの。
まずは呆気にとられ、続いてフェイトの表情に焦りの色が浮かぶ。いくら非殺傷設定とはいえ、無防備に受ければただでは済まない。何かを叫ぼうとするが、声になるより早くフォトンランサーがイリヤの身体を貫いた…その瞬間。
「いったいですねぇ、もう!」
「へ?」
イリヤの身体が膨らんだかと思うと、彼女が手にしていたステッキに変化した。
(今のは
「ルビー、来て!」
声のした方を見れば、廃墟の屋上を美遊目掛けて駆けるイリヤの姿。転身は解けていたが、フェイトに生じた一瞬の虚を突いてすでにルビーが合流する直前。間もなくイリヤの手にルビーが戻り、再度転身。いつの間にかバインドから逃れた美遊と共にステッキを構え、砲撃を撃ち終わったばかりのなのはに狙いを定めている。
「なのはっ!!」
「「
二人の魔力の刃が十字を描きなのはに迫る。
二手に分かれて狙いを分散させるとともに、出力差からくる速度の差を利用して時間差を生む。さらにアサシンのクラスカードの
隠さなければならない手札ばかりの中で、辛うじて見せても良いと判断できたのがこれだったのだ。
運の要素が濃く、大筋以外は割と行き当たりばったりだったが、なのはたちが「手堅く」くれば十分に勝算はあった。そして、所詮は模擬戦でしかないこの場で、妙な博打に出るはずもないと考えてのこと。それは見事に当たり、なんとか狙った状況へと持ち込むことができた。となれば、次は……
「レイジングハート!」
大技を撃ち終わったばかりで回避する余裕がなかったのだろう。シールドを展開して受けようとするなのは。ただし、彼女も馬鹿正直に受け止めようとはしない。直前に美遊が見せた防御を参考に、シールドに角度をつける。
咄嗟に錘形になるようプログラムを改変することはできなかったようだが、代わりに角度をつけることで代用したのだろう。二人の斬撃はなのはのシールドを削りながらも軌道が逸れ、彼方へと消えていく。
ついさっき見たばかりの防御を即座に応用するセンスには、驚くよりほかにない。
だが、当然なれないことをすれば隙が生じる。そしてその隙が命取りだ。
「危なかったぁ……って、これ!?」
なのはの足の絡みついていたのは、先に杭のような短剣がついた鎖。鎖は美遊の手元へ向かって伸びており、彼女はしっかりと握りしめたそれを背負い投げの要領で力任せで振り抜く。もちろん、魔力の大半を身体強化に振り分けた上でだ。
「せぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
「くっ!」
なのはの防御が間に合うと見て、一度はイリヤたちに向かっていたフェイトだが、進路を変えようとする。向かうは当然なのはの元…ではなく、彼女の足につながる鎖。
だが、大剣状態のバルディッシュを構え向かおうとした矢先、真紅の槍を携えたイリヤに妨害される。
「させない!」
咄嗟のことで反応が遅れ、まるで大地を蹴る様にして駆け寄るイリヤの槍撃がフェイトに迫る。
美遊がイリヤの
刺突を中心として次々に放たれる攻撃に、フェイトも受けに回らざるを得ない。
緩急をつけ、一瞬たりとも足を止めることなく動き回るイリヤの動きは、どこか獣染みている。それでいて、狙いは恐ろしいほどに正確。フェイトをして、反撃の隙を中々見出せないほどに。
(くっ……早くて、鋭い! イリヤ、こんなに巧かったんだ……)
模擬戦開始直後は遠距離攻撃ばかりだったので、まさかここまで白兵戦を得手としているとは思わなかった。
近接戦闘は自分の領域と思っていただけに、完全に意表を突かれた形だろう。
結果防戦に回り、自分の長所を生かせずにいる。
(いや、仮にそうじゃなかったとしてもどこまで渡り合えたか……それくらい、イリヤは強い。もしかしたら、シグナムにも……)
彼女が知る限り、近接戦闘の技巧面では最も秀でているであろう人物が頭をよぎる。速度で上回るためにある程度渡り合えているが、純粋な技量ではまだまだ及ばないことは自覚している。そんな相手に、イリヤの業は届くかもしれない。
それが、少しばかり悔しかった。
シグナムはフェイトを好敵手と認めてくれているが、今はまだ教わることの方が多い。彼女の言葉には、正確には「将来の」がつくのだろう。
しかし、イリヤは今すぐにでもいつか自分が立ちたい場所に立てるかもしれない。それが悔しい。
(いや、今は目の前のことに集中しないと。なのはは……)
何とかイリヤの猛攻を凌ぎながら、視界の端でなのはの様子をとらえる。
そこには、黄金の剣を手に迫りくる魔力弾を切り払いながら、着実になのはとの距離を詰めていく美遊の姿。
あのままでは、なのはも遠からず間合いに捉えられてしまうだろう。仮に、美遊の技量がイリヤに匹敵するものだったなら、なのはでは持ちこたえるのは厳しい。
そして、なのはを落とされてしまえば2対1、そうなる前に状況を覆す必要がある。
(一か八か、ソニックで引き離す!!)
スピードという、自身最大の長所に賭ける。
その決意を固めて、フェイトは一瞬の隙を得るべく渾身の力で真紅の槍をはじき返した。
* * * * *
そんな4名の模擬戦を、フェイトの義兄クロノは驚きとも感嘆ともつかない表情で見ながらつぶやく。
「……なんというか、正直驚いたな。話には聞いていたが、まさかあの二人と互角に渡り合うとは」
何しろ、なのはもフェイトも管理局全体で5%もいないAAAランク。間違いなく天才と呼ばれる人種であり、本人たちも努力を惜しまず優れた技量を身に着けている。まだまだ発展途上なのは事実だが、それでもあのコンビと渡り合える者はそういない。
身内贔屓などでは無く、厳然たる事実としてそうなのだ。
「ま、アイツらが上手いこと自分の土俵に引きずり込んだからってのはあるけどな」
「そうね。実際、初めのうちはなのはちゃんたちの方が優勢だったわけだし」
単純に基本性能だけを問うのなら、なのはたちの方が上だろう。機動力と火力など特にそうだ。どちらにとっても不利ではない状況なら、基本性能の差で優位に立てる。
ただいまは、それを活かせない状況に持ち込まれていた。自身の能力が十全に発揮でき、相手の能力は思うようにいかせない状況づくり、戦いの基本である。それを、イリヤたちが上手く作り出した結果だ。
「せやけど、二人ともてっきり典型的な魔導士タイプやと思ってたんやけど、見かけによらんもんやねぇ」
「はいです」
「まぁ、槍や剣を使っていたとは聞いてたから、意外ってほどじゃないけどね」
模擬戦の様子を写すモニターの端末を弄りながらおどけて見せたのは、クロノの相棒であるエイミィだ。
「頑張れー、フェイトー! なのはー!」
「…………」
「どうした、シグナム?」
「どーせ、またいつもの決闘趣味だろ。あいつらと剣を交えてみたい、とか」
「誰が決闘趣味だ。まあ……確かに素晴らしい技量だとは思う。ただ……」
「ただ?」
「いったいどうやって、あれほどの技量を身に着けたのかと思ってな」
モニターに映る戦いを見るシグナムは、どこか釈然としない面持ちだ。
そんなシグナムに、傍らに立つ赤毛の少年が首をかしげている。
「何かおかしいのか?」
「……正直、あの年頃でテスタロッサ以上というのは少々信じがたい。射砲撃系の魔法も使う以上、アレも近接戦の訓練ばかりというわけにはいかんが、それでもその才覚は頭一つ抜きんでている。同等の才を持つ者が剣にのみ力を注げば上回りはするだろうが、あの子たちはそうではないだろう?
むしろ、模擬戦開始当初の動きを見るに、主はやての見立てが正しいように思う。にもかかわらず、あの技量だ。いったいどうやって……」
シグナムの違和感は正しい。イリヤと美遊の本来のスタイルははやてが言ったような「魔導士タイプ」だ。ただあの二人の場合、少々裏技を使っている。クラスカードの本来の使い方は、「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」一言で言えば「英霊になる」ことだ。これは何も武器や肉体性能だけを得るのではなく、その技量すら一時的に身に着けることを意味する。
一度や二度ではさして意味がないだろう。だが、繰り返し繰り返しその技を身体がなぞることで、二人は人間レベルとしては非常に高度な次元の技量を身につけていた。要は「身体で覚えた」ということだ。
まさか、そんな方法で身に着けた技とは、さすがに思いもしないだろう。
そうしている間にも模擬戦は進んでいき、ただでさえ薄い装甲をさらに薄くしたフェイトの機動力が戦況を再度ひっくり返す。結果としてはなのはとフェイトの勝利だったが、この日以降二人…特にフェイトはしきりにイリヤと美遊を白兵戦の訓練に誘うのだった。もちろん、そこにシグナムが参加するまでがワンセット。
ちなみに、二人が密かに「この人、絶対ケルトの同類だ」と思ったとか思わないとか。
素の戦闘能力ではなのはやフェイトの方が上です。今のイリヤたちはサーヴァントであり、現状マスターがいない「はぐれ」に近い状態というのもありますが、それを抜きにしてもですね。代わりに「夢幻召喚」をしたら、その限りではありません。まぁ、これは使うカードにもよりますが。