魔法少女リリカルなのは Order   作:やみなべ

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FGO第2部のヒロインはゴルドルフ所長、異論は聞かない。

そも、今の時代「ヒロイン=女性」という考えが最早古いのではないだろうか。GLとかBLが市民権を得ているんだから、ヒゲ面肥満体系のアラサーヒロイン……普通にありじゃね? まぁ、この作品だとアラサーどころかアラフォーなわけですが。


カリム・グラシアの場合

―――……むぅ、そろそろ少しくらい教えてくれてもいいと思うんですけど……。

 

ふふふ、おかしなことを言うのね、ヴィヴィオ。衛宮さんのことで知っていることは、もうすべて話したと思うのだけど。

 

―――(あからさまなまでの“苗字”呼び+“さん”付けが、かえって怪しんだけどなぁ)

 

ええ、本当に……あんな人のことなんて知らないわ。全然! 全く!! これっぽっちも!!!

 

―――(あ、圧が、圧が凄いです騎士カリム。余計な詮索を許さないオーラがヒシヒシと……ぁ、シスターシャッハもしきりに頷いてるし。……ごめんなさい、八神司令。やっぱ無理っぽいです)

 

それにしても、どうして誰も彼もそんなことを気にするのかしら? 一時期はロッサまで調べていたみたいだし、最近はシスターセインやシャンテもあれこれ聞いてくるんですもの……困ったものね。

いくら調べたって、何も出て来やしないのに。

 

―――……あの、なぜシスターシャッハに目配せしてるんでしょう? なぜシスターシャッハは闘気を漲らせてるんでしょう? 別に何もないんですよね? そうなんですよね!?

 

もちろんよ。まぁ……あの子たちが無駄な労力を払ったりしないように()()はするつもりだけど。

 

―――(なんだろう、いつもと変わらない柔らかい笑顔のはずなのに……無性に怖い。シャンテ達、口封じとかされないよね?)

 

(証拠になりそうなものは粗方処分するか厳重に管理してるはずだから大丈夫だと思うけど、念には念を入れておかないと)

 

―――あれ? 今何か言いました?

 

いいえ、気のせいじゃないかしら(にっこり)。

 

―――ハイ、ソウデスネ。じゃ、じゃあ騎士カリムはいま気になる男性とかいないんですか?

 

ふふふ、ヴィヴィオもそういうことが気になる年頃なのね。私も急がないと、あっという間におばさんかしら?

 

―――(桃子おばあちゃんとかリンディさんもそうだけど、この人っていまいち“年を取った姿”がイメージできないんだよねぇ。十年後も二十年後このままのような気が……)

 

でも、生憎いまのところそういう方はいないわ。私の場合、教会から出る機会がほとんどないから、出会いがないのが悩みの種かしら。

 

―――それでなくても教会騎士で管理局の理事……高嶺の花過ぎますよね。

 

自分で言うようなことではないけど、肩書自体が人除けになっているのは否定しないわ。下心ありきの方だったら、枚挙に暇がないのだけど……。

 

―――じゃあ、例えば好みのタイプとか!

 

そう言われると、あまり考えたことがないのだけど……強いて言うのなら(ポッ)。

 

―――(おお!? これはコイバナの予感!!)

 

ゴ、ゴルドルフ所長なんて、大変可愛らしくないかしら。

 

―――可愛らしい、ですか? あの所長さんが? …………………って、あれ? おっかしいなぁ、違和感が仕事しない。なんで?

 

ふふふ、口ではご自分のことを『冷酷な貴族主義』とか『選民思想の権化』なんて仰るけど、言葉と行動の端々に“人の好さ”が透けて見えてしまっているとは思わない?

カルデア以前から苦労され、所長になられてからは窮地と修羅場の連続で増々苦労されたでしょうに……すぐに狼狽えて誰かに感情移入してしまうんですもの。多分、カルデアで一番人間味があるのはあの方ではないかしら。

 

―――(言わんとすることはわかる気もするし、実際所長さんってカルデアの清涼剤というか、良心の最後の砦みたいなところがあるけど……それ以上に、シスターシャッハの『どうしてカリムはこう男性の趣味が悪いんでしょう』と言わんばかりの濃い呆れの表情が気になる)

 

そうそう、カルデアと言えばようやく渡航許可が下りたんだったわね。アインハルトたちを連れて行くのは、次の長期休暇かしら?

 

―――はい、そのつもりで……そうだ、それで確認というか、聞いておきたいことがあったんです。

 

ふふっ、何かしら。私に答えられる範囲ならいいのだけど。

 

―――えっと、まずはカルデアの概略とか業務についてどこまで話していいのかなって。管理局側からの禁則事項とかは八神司令に聞いたんですけど、教会としては話しちゃ不味いことってあります?

 

そのためには、まずヴィヴィオがどの程度カルデアのことを把握しているかを聞いた方が良いかしら。創立理念や保有技術、彼らがこちら側に来るまでの活動内容については?

 

―――概要くらい、だと思います。“人理保証”と必要に応じての“修復”っていう創立理念は聞いてますけど、あれ裏の目的とかありますよね?

 

さぁ、どうかしら?

 

―――……つまり、知っちゃダメな範囲なんですね。とりあえず、技術関係については“カルデアス”と“レイシフト”、“シャドウ・ボーダー”あたりについては『何ができる』かは知ってるつもりです。『どうやって』の部分はさっぱりですけど。

 

というより、管理局や教会としても具体的な技術や理論については知らない、というのが実情ね。ある意味、それこそがカルデアの生命線ですもの。

 

―――活動内容についても、大まかに何をしてたかは知ってます。“人理焼却”と“七つの特異点”、それに続く“濾過異聞史現象”と無かったことにされた人類史“異聞帯”、そして“人類悪”、これらの解決ですよね。でも、具体的にそれぞれの特異点や異聞帯で何をしたとか、人類悪との戦いがどんなものだったかは知りません。

 

まぁ、そうでしょうね。あれは、迂闊に外部に漏らせるようなものでもないでしょうし……じゃあ、こちらに来てからの活動は?

 

―――スペース・ボーダーで各次元世界を回りながら、再建した“カルデアス”で百年後を観測。文明の灯が消えていたりした場合には、報告して対策を促している…でいいんですよね。

 

う~ん、それだと50点(半分)かしら。

 

―――じゃあ、残りの50点(半分)は?

 

彼らが観測しているのは何も未来だけではないわ、過去も観測しているの。

なぜなら、カルデアスの観測結果に揺らぎがあるということは、その世界において何らかの異常事態が発生するということを意味する。でもそれは、必ずしも“現在”より後とは限らない。ちょうど、“人理焼却”がそうだったように、ね。

 

―――それは、過去に“特異点”が発生することもあるってことですか?

 

頻度としてはそう多くないのだけど、稀に。

 

―――でも、どうして……。

 

あなたにはそろそろ教えておいてもいいかしら。

まず、根本的な問題。私たちの世界と彼らの世界は似て非なる物であることは理解している?

 

―――はい。地球に限ってみれば酷似しているけど、端々で違いが散見されるんですよね。世界の外に目を向ければ、なおさらに。

 

あちら側には管理局自体が存在しているかすら定かではない。そもそも、次元世界という概念そのものがあるかどうか……だけど重要なのは、そんな表面的なことでなくもっと根源的な話よ。

 

―――根源的?

 

そう……物理法則をはじめとした世界の在り方(システム)が違うの。多くの部分では共通しているけど、こちらには“アラヤ”や“ガイア”、そして“抑止力”という概念自体がおそらく存在しない。いえ、正確には存在しなかった、というべきかしら。

だから、“英霊の座”もないし、当然“サーヴァント”の召喚もできない。集合無意識によって作られた、世界の安全装置である抑止力がない代わりに、世界と人類の存亡は私たちの手に委ねられている。

それが残酷なことなのか、あるいはもっと別の……それはきっと誰にもわからないけど。

 

―――……でも、今この世界ではサーヴァントが召喚できる。ううん、召喚できるようになった。それはつまり……

 

新たに“英霊の座”が生まれた、と考えるべきでしょうね。ここからはカルデア側からの推論だけど、“世界法則(システム)”にある種のアップデートのようなものが行われたんじゃないか、ということよ。

こちらになかったものを、世界が“有用”と判断して取り入れた。それが“英霊の座”であり“サーヴァント”……多分、これらはそのうちの極一部のはずよ。私たちに確認できたものだけがすべて、ということはないでしょう。

それも十分大問題だけど、それ以上に重要なことがある。アップデートが行われそれまでなかったものが取り入れられたのなら、当然何かしらの不具合やバグが生じるものよ。そして、それこそが……

 

―――特異点、なんですね。

 

ええ。きっと、カルデアがこちら側に来た時からアップデートは行われていたんだわ。その結果、様々な次元世界で不具合あるいはバグ(特異点)が生じた。当然、発生した特異点を放置すればどんな影響が出るかわからない以上、人理補正作業(ベルトリキャスト)は必須ね。とはいえ、カルデア以外にそれを可能にする組織もない以上、彼らが対処するしかない。

技術を公開してくれれば管理局にも対処できるでしょうけど……モノがモノだからリスクが高すぎる、と考えるのは当然ね。まぁ、見方を変えれば“自分たちの後始末をしている”とも取れるから、それも理由の一端かもしれないけど。

 

―――なるほどぉ。

 

(本当に、貧乏くじを引いてばかりね。存在の不確定化による漂流にしたところで、元は人理漂白解決のために已むに已まれず、ということだし。

曰く、異聞帯(ロストベルト)は人類史そのものが行った足切り。切り捨てられたが故に、並行世界論(第二魔法)を以てしてすら観測できないはずの領域。にもかかわらず、カルデアのデータベースとスタッフの魂にはその“存在”が刻み付けられてしまった。

全ての空想樹の伐採と異聞帯(ロストベルト)の消滅、そして異星の神の打倒を以て、人理漂白は一応の解決を見た。でもそれは、表面的なものに過ぎない。存在しないはずのものを知っているが故に、カルデアある限りその“残滓”は完全には拭いされない)

 

―――………………

 

(“()()()()()()()()()()”)

 

―――………………ム。

 

(存在しない筈のものの残滓が残っているという、その矛盾。世界を救った彼らの存在そのものが、今度は世界を脅かす原因になってしまった。それこそ、いつ何時また人理が覆されてしまうかわからないくらいには。

もちろん、危ういながらも対症療法で何とかなったかもしれない。発生した異常を逐一処理していく、いつ終わるとも知れない作業だけど。なにしろ、カルデアが存在する限り異常が発生し続ける可能性もあったと聞くし。

そんな中で一度でもミス(失敗)すれば……いえ、抑止力による修正のことを考えれば、成否にかかわらず“焼却”か“漂白”か、あるいはもっと別の何かが起こっていた可能性も否定できない。それ位には危うい状態)

 

―――…………カ……?

 

(少なくとも、バグ取り(人理補正)さえしていれば大きな問題は起こらないこちら側とは、比べ物にならないくらい危険な状態だったそうですもの。

だからこそ、彼らは決断した。せざるを得なかった。多少存在が不確定になっていたとはいえ、楔を打ち、(アンカー)を下ろし、存在証明を可能にする彼らなら元の世界に残り続けることは不可能じゃなかった。

にもかかわらず、敢えてそれらすべてを放棄して漂流の道を選択したのは、責任を果たすため)

 

―――…………カリ…!

 

(そう、全ては取り戻した世界(ニチジョウ)を守るため。そして、奪った世界(イノチ)を無意味にしないため。

たとえそこに、自分たち自身がいられ(存在し)なくなったとしても。彼らは、自らの意志でそれを選んだ)

 

―――……………リム!?

 

(そんな、悲しくも尊い決断の果てに、彼らはこの世界にたどり着いた。

色々と頭の痛いこともあるけど、いずれは不具合とバグ(特異点)の発生も終息する見込みという話だし……それくらいは許容しても罰は当たらないでしょう。こちらも、それなりの利益は得ているわけですもの)

 

―――……騎士カリム!!

 

は、はいっ!? って、あら?

 

―――どうしたんですか、ボーッとして。

 

……あらあら、ごめんなさい。ちょっと考え事を……それで、何の話だったかしら?

 

―――もう! 召喚のことについてですよ。本来、サーヴァントの召喚はできない。少なくとも、こちら側の世界の英雄は無理なはずだったのに、ある時例外が発生して“あの人”が召喚されたんですね。

 

ああ、そのこと。そうね。報告を聞いた時は私も驚いたわ。

 

……いいえ。それどころか、召喚された方の正体を知った時は自分の正気を疑った……というのが正しいかしら。

 

―――無理もないと思います。というか、騎士カリムだから正気を疑うだけで済んでますけど、外部に漏れたりしたらいったいどうなることか。でも、他に召喚された人がいるって聞いたことないんですよね。

 

たぶん、“あの事件”がきっかけなんだと思うわ。実際、それまでいくらカルデアが召喚を試みても、少なくとも“こちら側の英雄”は一人も召喚されなかったんですもの。

おそらく、少なくとも過去の人物については無条件に座に記録されるわけではないのでしょう。“英霊”や“サーヴァント”というものに関わりを持つことで記録されるとか、そういった条件があるのではないかしら。

まぁ、“あの方”にしたところで事件があってから召喚されるまでに随分と間が空いていたし、他にも条件がありそうだけど。

 

―――そういうものですか。

 

逆に言えば、条件さえ整えばまた別の誰かが召喚される可能性もあるわけだけど。それこそ、ヴィヴィオたちが到着するまでに、なんてこともあるかもしれないわ。

 

―――怖いこと言わないでくださいよぉ~。アインハルトさんたちへの説明(言い訳)だけでも気が重いんですから。……ところで、“あの事件”って?

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

第1無人世界「ベルカ」。

かつてミッドチルダ式魔法と勢力を二分した古代ベルカ式魔法発祥の地であり、次元世界最大の宗教組織「聖王教」が信仰する「聖王」が治めた世界。

それ故に、ロストロギアの暴走で滅び、長く続いた戦乱と用いられた兵器による汚染で人の住めぬ土地となった今でも大きな存在感を放つ世界。

 

管理局システムが適用される次元世界の出身なら当然に、システムへの批准こそしていないが他の次元世界との国交を行っている高度な文明を持つ世界の出身なら、一度は耳にしたことがあるであろう世界の名だ。過去の事件や戦争の影響から、人の生存を許さぬ過酷な世界と成り果ててしまったが、数年に一度は調査団が派遣され、稀に新たな発見が世間を賑わす“忘却”とは未だ縁遠い存在。

 

そして新暦71年。この年もまた、ベルカへの調査団が派遣された。目的は、かねてより発掘が進められていた遺跡群の調査。かつては激しい戦争が繰り広げられ、未だに稼働する防衛機構やいつ何をきっかけに再起動するかわからない兵器など珍しくもない場所だ。

調査団にはミッド式・近代ベルカ式を問わず優れた魔導の使い手が護衛に付き、1時間おきに欠かさず定時連絡が行われるなど、安全管理も徹底している……そのはずだった。

 

何をきっかけに異変が発生したのかは不明、あるいは調査団とは無関係に発生したのかもしれないが。いずれにせよ、最後の定時連絡から15分ほどして、突如遺跡内部……調査チームの一つが踏み込んだその一角から“ノイズ”のようなものが発生したのが始まりだった。当該箇所を調査していたチームの一人はオープン回線で叫んだ。

 

“仲間が消えた”と。

 

その報告を受けたベースキャンプのオペレーターたちは、すぐに各チームに撤収を指示。しかし、ほぼすべてのチームが無事帰投する中、件のチームは誰一人として帰ってこなかった。救出に向かうか、それとも救援を要請し待つか、あるいはベルカからの全面撤収か。議論は紛糾するかに思われたが、そうはならなかった。

正体不明の“ノイズ”が徐々にその範囲を広げ、一刻(30分)と経たないうちに遺跡全体を覆い、なおも拡張し続けていたからだ。彼らは魔法やサーチャーを放ってその正体を突き止めようとしたが、その全てが為す術もなくノイズに呑まれて消えてしまった時点で、調査団単独での事態の解決を諦めた。

ロストロギアが発見されることもあることから多様な分野の専門家と優秀な戦力を揃えてはいても、彼らは所詮遺跡発掘チームとその護衛に過ぎない。いや、だからこそ、というべきか。自分たちの知識と経験にないものが現れた、だからこその慎重策。それこそが、ロストロギアに関わる調査・研究などを生業にする者の心構えなのだから。

 

結果的に、正体不明故に迂闊な接触を避け、メンツに拘わることなく外部に救援を要請したのは正しい判断と言えただろう。おかげで、異常事態は速やかに管理局の知るところとなり、滞りなく救援部隊を編制、派遣することができたのだから。

ただ、問題はむしろここからだったが。

 

仲間を見捨てることに忸怩たる思いを抱えながらも衛星軌道上まで退避し、少しでもノイズの正体に近づこうと観測を続けていた彼らは、6時間後に到着した比較的近くの有人世界からの先遣隊と合流。事情聴取とノイズの観測を続け、やがて本局より救援隊本隊が駆け付けお役御免となった。

とはいえ、事態は一向に好転の兆しを見せない。どれほど調べたところで、ノイズの正体は“不明”なまま。視覚的には半球形の“モニター上に生じる砂嵐”のようなものに覆われているだけで、彼の世界は存在し続けている。にもかかわらず、送り込んだ無人機は消息を絶ち、魔導・科学を問わずあらゆる観測が空振りに終わる。端的に言って、“見えているが存在しない”それが管理局に突き付けられた結論だった。

強いてわかったことと言えば、“浸食”が徐々に“加速”してきていること。無論、加速の上限も、拡張の限界もわからない。最悪、“終わりがない”可能性すらある。

 

そんな可能性を振り払うように、聖王教会をはじめとした関係各所と連携し、威信をかけて八方手を尽くして事態の収拾に奔走したものの、ついに万策尽きた時空管理局は……やむなく最後の手段に打って出た。

“この世界とは異なる法則”を駆使する“人理保障機関フィニス・カルデア”に協力を要請したのだ。

 

正直、この決断には最後まで反対意見が根強くあった。既にいくつかの次元世界を観測し、時に未来へ向けての助言を、時に過去に生じた特異点の修正を行ってきたが、彼らの言葉と行動を訝しむ者は少なくなかった。

なぜなら管理局全体としてみれば、カルデアは不信の塊だったからだ。

 

―――“異界法則”の元に運用される“秘匿技術”の数々

 

―――主戦力は“英霊”あるいは“サーヴァント”と呼ばれる、“オカルト”としか言えないような存在

 

―――管理局システムへの批准を拒み、無人世界を独自に開拓するという姿勢

 

―――侵入した犯罪者の引き渡し要求も拒否し、時には囲い込むこともあると聞く

 

―――あまつさえ、構成員の中には危険人物も多く、時には彼ら自身が事件を引き起こすこともあるとか

 

カルデアとしても、否定できないことが多いだけにそれらの評価を甘んじて受け入れていた。特に身内関連のことには、むしろ「ご迷惑おかけしています」と謝りたくなるくらいだ。

 

だが、カルデアと比較的良好な関係を築いている一部高官のとりなしもあり、“毒を以て毒を制す”ではないが、“正体不明(アンノウン)”には“異界法則(アンノウン)”を以て対処することに。

 

“発生した観測不能領域内の調査、及び事態の打開を望む”

 

管理局からその旨を通達されたカルデアは、急ぎベルカへと向かったのだが……そこで彼らが目にしたのは、一つの世界を丸々覆ってしまうほどに拡張したノイズと、その奥に鎮座するベルカだった。

 

「ええい、管理局の連中は何をやっておるのか!? 事態が逼迫し、手に負えなくなってから丸投げするなど無能の証ではないか!!」

「う~ん、まぁ……言っていることは正しいよね」

 

憤懣やるかたない様子のゴルドルフ・ムジークに、生体ユニットとしてシャドウ・ボーダーの中央電算機(メインフレーム)になっているダ・ヴィンチがちょっと曖昧な感じで同意する。それというのも……

 

「でも、ゴルドルフ君。時計塔なら手に負えなさそうだからって外部に協力要請したりする?」

「するわけなかろう! 我々は魔術師だ。そして魔術師とは、おしなべて排他的な利己主義の権化であり、人を人とも思わん“人でなし”の総称だ!

 当然、そんな連中に関わる奴らも碌なもんじゃない! 弱みを見せれば付け込まれるのが目に見えておるわ! “手伝わせてやる”ことはあっても“協力を求める”など、裏で“散々利用して最後は殺す”とか思っているに決まっている!」

「なるほど。では、ミスター・ゴルドルフもそうだと?」

「あ、うん。私はね……自分でやろうとするとだいたい状況が悪くなるから。そういえば、トゥーレも言っていたな。“助けを請うは一生の損、助けを請わねば人生終了のお知らせです”と。まぁ、死ぬよりは損する方がマシじゃないかね?」

「フォゥオゥ? フォウ!」

「では参考までに、助けを請われたらどうしますか?」

 

ホームズの問いかけに、ゴルドルフの目がクワッと見開かれた。

その目からは「なんでそんな悲しいこと聞くの!? 私に助けを求めるなんてあるわけないでしょ!?」という思いがありありと見て取れた。ついでに、カルデアスタッフ一同思わず目頭を押さえる。彼に助けを求めるような場面・状況というのがちょっと思いつかないのは悲しい事実だが、かといって別に“いらない”と思うほどではない。むしろ、いてくれるとありがたい、特に役には立たないかもだけど。というのが、職員一同の共通見解である。

ところで、それはそれとして……

 

「あれ? そういえば、なんで私まで出張っているのかね? 昔とは違うんだから、ムンドゥス・カルデア(本部)でどっしり構えながら成果を待っていても良いのでは? というか、最高責任者が現場に出て何かあったらだれが責任取るの?」

訂正(カット)訂正(カット)! そんなの今更今更! そもそも我々はチーム、チームは一人でもかければ上手くは回らないもの。ならば、一人だけハブにするなんてナイナイ! まぁ、人員は補充できましたが責任職を果たせる人がいないというのが実情ですが。なので、ゴルドルフ氏にはそこでどっしり構えていてもらいましょう」

「いや、だがね……」

「では、いつ暴走するとも知れないサーヴァントたちをミスター藤丸一人に押し付けると?」

「うぐっ!?」

「勢い任せの独断専行」

「ふぐっ!?」

「目を盗んでの悪巧み」

「ひぅっ!?」

「まぁ、藤丸の奴もなんだかんだでノリがいいですからねぇ。オッサンも監督した方が良いんじゃねぇの?」

「……ええい、わかった! 藤丸、ちゃんとサーヴァントたちを監督しときなさいよ、ホントに! 私が目を光らせていることを忘れるな!」

 

あくまでも立香を監督するのであって、サーヴァントの監督は丸投げするゴルドルフであった。まぁ、いつものことだ。小心者の彼では付き合いきれないのだから仕方がない。

 

「あ、はい」

「頑張りましょう、先輩」

「フォウフォウ!」

「フォウさんもフォローしてくださるそうです」

「うん、よろしく」

(毎度のことだが、独特な空気感だな、ここは)

 

身内人事をはじめ、管理局も緩い面はアチコチにあるのだが、カルデアのそれはどこか違う。上下の距離が近いのは良いことだと思うが、(ホームズ)(ゴルドルフ)がコントロールされるのはどうなのだろう。

まぁ、これでうまく回っているのだから部外者が口を挟むものではないと自制しているものの、生真面目なシグナムとしてはやはり若干首をかしげてしまいたくなる。

 

「それでキャプテン君、突入はいつかね。無論、我がカルデアの技術の粋を集めたスペース・ボーダーに不可能など……」

「無理言うな」

「え?」

「あんな正体不明(アンノウン)に突っ込んで、無事かどうかなんてわかるわけがない」

「うそん?」

「もちろんマジンコさ、現実を受け止めなよゴルドルフ君」

「ゴルドルフ氏にもわかりやすく言うなら、“ありえるが物質界にないもの”である“架空元素・虚数属性”のようなものですかね」

「きょ、虚数属性ならスペース・ボーダーで……ぁ」

「そう、結局は同じことなのさ。あくまでも“ようなもの”でしかないから虚数空間に潜る機能“しか”ないシャドウ・ボーダーではあそこには直接たどり着けない。たどり着くには、虚数潜航(ゼロセイル)で虚数空間から向かうしかない。まぁ、仮に虚数空間“そのもの”だったとしても、虚数潜航(ゼロセイル)しないとたどり着けはしないんだがね」

「Noooooooooooooooooooooooooooo!? またか、またなのか!? ようやくあの妙ちきりんな感覚とサヨナラできたと思ったのにぃ!?」

 

現実を受け入れられない様子のゴルドルフだが、無理もない。特異点の修正は基本、カルデアスを積んだスペース・ボーダーで該当世界を観測可能な距離まで近づき、その上でレイシフトをする。つまり、虚数潜航(ゼロセイル)をする機会自体がこちらに来てからなかった。一応、スペース・ボーダーはシャドウ・ボーダーやストーム・ボーダーと同様に虚数潜航(ゼロセイル)が可能なように設計しているし、当然機能の点検がてらそちらの試運転もしている。まぁ、いくらやっても慣れないからこその忌避感だろうが。

加えて、仮に虚数潜航(ゼロセイル)したとしても正体不明(アンノウン)に覆われた領域に問題なく侵入できるかはわからない。何しろ、やったことがないのだから。イメージ的には異聞帯(ロストベルト)を包むスーパーセルに近いように思えるが、同じに考えていいかどうかすらわからない。不安要素だらけで、割とネガティブなゴルドルフでなくても嫌がるのが普通の反応だろう。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、一応聞きたいんだけど……」

「無理だよ」

「まだ聞いてないんだけど」

「この天才にかかれば、何を聞かれるかだってお見通しさ♪ 大方、このノイズが現れる前にレイシフトして、原因を排除できないのか、とか考えたんでしょ?」

「正解、だけどやっぱり無理なの?」

「うん。カルデアスでも今のベルカは観測できない。いや、映し出すことはできるんだけど……」

 

実世界のベルカと同様に、ノイズが走っていてシバでも観測できないらしい。

 

「そうですか。となると、やはり虚数潜航(ゼロセイル)しかありませんね」

「フォゥゥゥ……」

「まぁ、それでヴォルケンリッターが必要なのはわかるんだ。ベルカとの縁を辿るなら、当然の人選だと思うし」

「ま、あたしらはベルカ出身だからな」

「ベルカの末裔もいるだろうが、我らの方が適任なのは自明だろう」

 

虚数潜航(ゼロセイル)で現地に向かわなければならないとわかった時点で、同伴者の選定が行われ、その結果としてヴォルケンリッター一同がスペース・ボーダーに乗り込んでいる。

一応、ザフィーラの言う通りベルカの末裔というのはいるところにはいる。聖王教会のカリムもそうだし、ベルカの王族の血を現代に受け継ぐ者もいる。とはいえ、彼らの縁はあくまでも間接的なもの。本人がベルカの地を踏んだことがあるわけでもないことから、その縁は薄い。

それに比べて、往年のベルカを直接知る彼らとの間につながる縁は濃い。戦力としても期待できることを考えれば、何が待ち受けているかわからない状況では当然の人選だろう。

 

「そして、ヴォルケンリッターの皆さんを率いるとなれば当然……」

「まぁ、これでも“夜天の主”やから」

「はやてちゃんなくしてなんの八神家なのか、です!」

「でも、不思議なんですよね。どうしてなのはちゃんまでベルカに縁があるのかしら?」

「にゃはははは……ど、どうしてでしょう?」

 

不思議そうにシャマルが首を傾げれば、困ったように笑うなのはがお茶を濁す。別に先祖がベルカ出身というわけでもないはずなのだが……というか、彼女とベルカの間にある縁は下手なベルカにルーツを持つ面々より強い。ヴィータと仲が良い(自称)からかとも思ったが、それならシグナムと仲の良いフェイトも同様の筈。にもかかわらず、フェイトのベルカとの縁は割と薄い。ないわけではないのだが、なのはとは比べるべくもない。

その理由が判明するのは、これよりさらに4年後のことだ。

 

ちなみに、ここにはいないがユーノも割と濃い。ただ彼も今や一部門の長であり、基本的には非戦闘員。こんな怪しげなもの(スペース・ボーダー)に乗せて、不明なことばかりの地に送り込むことは許されなかったので、この場にはいないが。実はなのはなどを同行させるのも、なかなかに骨が折れたそうな。

逆に、ヴォルケンリッターを送り込むことへの反対は少なかった。強いて言えば、聖王教会が難色を示したくらいだろう。彼らへの風当たりは、まだまだ強い。

 

「まぁ、なのはとはやてはベルカへの縁を補強するためにも必要っていうのはわかるんだけど、なんでクロノたちまで?」

「……組織のメンツ、という奴ですね。流石に、丸投げしっぱなしで事件を解決されては面目丸潰れ、それを憂慮したのでしょう」

 

立香に話を振られ、クロノが肩をすくめて答える。一部高官からの圧力でベルカへの侵入はカルデア任せになるとしても、管理局からも人員を派遣し事態解決に当たらせようという話になったのだ。加えて、あわよくばカルデアの秘匿技術の奪取なども画策していたらしい。

一応提督の地位にあるとはいえ、彼もまだまだ若輩だ。とてもその流れを止めることはできない。彼にできたのは、派遣する人員に志願すること。提督の中では若輩とはいえ、されど提督。誰もこのような危険かつ不透明な任務に志願したがらない。カルデアへの不信感もそれに拍車をかける、特に立場が上になればなるほど。そうなると、現場における管理局側の指揮官は彼でほぼ決まりだ。

カルデアの面々と比較的良好な関係を築いている彼が指揮官になれば、少なくとも余計な軋轢と不和を産むことは避けられる。裏の思惑についても、身内で固めてしまえば口裏を合わせて「できなかった」「余裕がなかった」と言えばそれまで、そう考えての行動だ。カルデアからも、ヴォルケンリッターの派遣を求められていたので好都合だったというのもある。

 

その配慮自体にはカルデア一同感謝しているのだが、立香としてはその「身内」というのが困りものだった。

 

(なんでフェイトまで連れてくるのさ)

(本人の志願と、現場での連携を重視した結果です。他意はありませんよ)

 

小声で抗議すれば、シレッと建前論で封殺される。相変わらずカルデアではヒラの立香と、管理局で若くして提督位についたクロノ。個人的には友人だが、こういう状況になると立香では到底太刀打ちできない。しかも、固有名詞を使わない念の入れようだ。

いや、それを言えば別に建前ばかりというわけではないだろう。クロノとしても、可愛い義妹にはできれば不確定要素の多すぎるこの任務への参加は控えさせたかったはずだ。まぁ、それを言えばなのはや八神家一同も似たようなものなのだろうが。

とはいえ、今回の場合八神家の参加は避けられない。なのはも、理由は不明ながらベルカと強い縁を持つことから、任務の成功率を上げるために可能ならば参加が求められる。そんな中で、なのは達ほどではないにしてもベルカとの縁の強いフェイトだけを除外するなど、できるはずもない。ましてや、本人の強い希望もあるとなればなおさらだ。

 

(いい加減、ハッキリさせたらどうですか。さすがに、もう“子ども扱い”は難しくなってきていますよ)

 

“ハッキリさせないのはそっちだろ”と言いたいところをグッと飲みこむ、どうせ言ってもやり込められるだけだからだ。

しかし、クロノの言うことももっともだ。昔であれば“まだ”と言えたが、最近はそれも難しくなってきている。“まだ15歳”なのか、“もう15歳”なのか、それはフェイトを見る側の気持ち次第なのだろう。10歳という年齢差は当然縮まらないが、それが持つ意味合いは年を追うごとに変わってきている。今はまだいろいろと外聞が悪いが、それももう数年もすれば形骸化するだろう。例えばあと5年が経ち、二人が20歳と30歳になれば……多少珍しくはあるかもしれないがなくはない。たぶん、日本生まれだったり日本育ちだったりする二人には、そこが一つの契機になる。そして、これまで時間が立香の味方をしていたのに対し、以降はフェイトの味方だ。時間が経てば経つほどに、二人の年齢差は意味を無くしていく。

 

そして、そんなことは立香も言われなくてもわかっている。

カルデアが此方側に浮上してからは、彼も所属(カルデア)関連のアレコレで忙しくなることもあり、以前ほどフェイトと顔を合わす機会も時間も減った。

代わりに、フェイトたちは第二次成長期の真っただ中。どんどん手足が伸び、身体は女性らしい丸みを帯びていく。蕾が花開くように、会う度に魅力的な女性へと変貌していくのだ。むしろ、偶にしか会わないからこそ、その変化を目の当たりにさせられる5年間だった。

年齢はまだしも、他の点においては“子ども扱いは難しくなっていく”どころの話ではない。

 

下手な成人女性よりも、はるかに完成された(恐るべきことにまだ成長の余地がある)柔らかくも引き締まった肢体。

 

辛い過去を乗り越え、大人たちの中で職務に励んできたことで鍛え磨かれた精神。

 

難関の執務官試験を突破した明晰な頭脳と魔導の腕、そして積み上げてきた実績の数々。

 

フェイトがもう子どもではないことはわかっている。むしろ、年齢以外においては“子ども扱い”できる要素が見当たらなくて困るくらいだ。

もしも自分が同年代とかであれば、こっちが憧れる側であったことは想像に難くない。好意を向けられ、それを何とか躱しているという状況が、心底不思議に思うくらいだ。

 

半年ほど前に距離を置かれた時には、彼女が零す涙を何とかできないかと心配したりもしたが、同時に安堵も覚えたのだ。ようやく、彼女も己の気持ちに区切りをつけられたのだ、と。フェイトは聡明だ。立香がフェイトの想いに応える気がないことに、気付いていないとは思えない。

まぁ、彼女の零す涙がそれを受け入れるためのものに見えなかったからこそ、立香も心配したのだが……そちらは、やっと重い腰を上げたプレシア(実母)が拭ったらしい。結局フェイトが何を抱えていたのか、神ならぬ立香は詳細を知らない。周りも、聞いても教えてくれなかった。

だが、フェイトの涙の原因が立香への想いでないとすれば、最終的には元に戻るのは必然……いや、なぜか“憂いなし”とばかりに積極性が増しているのが疑問なのだが……それはおいておく。

 

問題なのは、フェイトがどれだけ好意をアピールしたとしても、決して“告白”をはじめとした直接的なアプローチに出ないことだ。それどころか、“デートっぽい”ことはしたことがあっても、ハッキリと“デート”と呼べることはしたことがない。彼女が保護した子どもへプレゼントを贈る際に意見を求められたり、家族や友人関係の相談だったりと、いつも何かしらの理由が付属したからだ。

心の機微に聡い立香が、その裏の真意に気付かないはずがない。それらは大事な要件ではあるだろうが、相手が立香でなければならない理由はないからだ。なので、“都合がつかない”をはじめとした理由で断ることもあった。まぁ、下手に嘘を吐くと清姫が怖いし、なにより虚偽の断りはプレシアがリークするので不可だったわけだが。結果、本当に都合がつかない時しか断れなかった。この辺り、どうもアルフと結託していた疑いがあるのだが、定かではない。

 

ともあれ、好意は示しつつも友人としての分は越えない、それがフェイトの強かさだった。

 

(いや、アレ絶対周りの入れ知恵だよね!?)

 

リンディ(義母)と間もなく義姉になるエイミィとか超怪しい。良くも悪くも素直で純粋なフェイトに、あんな搦め手が思いつくとは思えない。

立香に言わせれば『ハッキリしない』のではなく、『ハッキリさせてもらえない』のである。本人はハッキリさせたいのに、リンディたちの入れ知恵とカルデアへの手回しがそれを許さない。“なぁなぁ”の曖昧な状態を全力で維持しにかかっているのだ。しかも、一部サーヴァントとプレシアをはじめとしたカルデア職員までそれに便乗する始末。狙いは立香にもわかっている、彼が“落ちる”のを待っているのだろう。

 

一度関係をハッキリさせられてしまえば、そこからの挽回は困難。区切りをつけるとはそういうことだ。特に、立香の場合はなおさらに。“言葉にして”“相手に伝える”というのはそういうことだ。

だからこそ、区切りをつけていない状態を維持し、先に“落とす”。惚れた方が負けとかそういう話ではない、告白するのは別にフェイトからでもよいのだ。ただ、まず“落としてから”でないと、立香はフェイトの想いを拒んでしまう、その確信があちらにはあるのだろう。

初めは年齢差故にと思っていたはずだが、どこからか情報を漏らした者がいると考えないと、今なおそのスタンスを維持している理由がわからないが。

 

(別に難しいことじゃないでしょう。意中の人がいるとかであれば、納得すると思いますよ。誰がとは言いませんが)

(それができれば苦労しないって……)

 

いっそその理由を暴露してやろうかと思ったこともないではないが、彼にも男のプライドがある。なにより、うっかりしなくてもセクハラと取られかねない内容なので、憚られるというのもある。

 

(マシュさんと、という選択肢はないんですか?)

(……ないよ。それはない)

 

噛み締めるように、そう呟く。

あるいは…いや、きっと最初の旅の時はそういう感情もあったはずだ。だが、何時しか立香は自身のそういう感情に蓋をし、女性を恋愛対象として見ないようになった。マシュにしてもフェイトにしても、大切な人だと思っている。だが、異性としては見ていない。だから、付き合うとか恋愛感情の有無とか言う話を振られても、今となっては正直困ってしまう。

相棒とか友人とか、そういうラベルの問題ではない。客観的に見れば“魅力的”だとは思うがそれで終わりだ。恋とか愛とか、“そういう”相手として見ていない。だから、“そういう”感情を向けられても応えられないし、“そういう”風に見ないのかと問われても「ない」と断言できてしまう。

 

マシュもそんな立香の理由は知らなくても考えはわかっているからか、好意はアピールしてもアプローチはかけてこない。

 

(二人には、ちゃんと愛してくれる人を見つけてほしいんだけどな)

 

こんな、愛することを放棄してしまった男ではなく。誰かを愛し、家族になり、共に幸せを育める誰かと。

 

自身が抱える問題、それがすべてではないことは知っているつもりだ。しかし同時に、それが大きな幸せの形の一つであることも事実ではないか。

複雑な生い立ちを持つ、きっと誰よりも家族の大切さを知る娘たちだからこそ。

 

(あなたは、どうしてそこまで……)

 

 

 

スペース・ボーダーによる、ベルカへの虚数空間を介しての突入は無事成功した。

次元航行艦を改修したこともあり、スペース・ボーダーは相応に巨大だ。そのまま浮上してはいらぬ騒動の種になりかねない。そこで、必要な人員を乗せたシャドウ・ボーダーで以て浮上を実行。

 

恙なくベルカの地に降り立った一行が目にしたのは、どこまでも広がる蒼穹と点在する白い雲、そして燦々と降り注ぐ陽の光だった。

 

「気持ちいい空、ここがベルカ……」

「うん。空気は……なんというか、もうちょっとかな? でも、聞いてたのと随分違う」

 

次元世界の一般常識として、なのはたちもベルカのことは知っていただけに些か驚きを隠せない。

曰く、もはや人が住める土地ではない、と。空気は汚染され、水は濁り、大地は痩せ衰えている。そのため、ベースキャンプも結界で閉ざし、持ち込んだ食料や水、空気の浄化装置をフル稼働させるという、宇宙ステーション並の設備が必要なんだとか。

まぁ、地球の都市部と比べても少々空気の悪さを感じないではないが、それでも前情報とは比べ物にならない。見渡せば、背は低いものの疎らに樹が育っているし、足元もところどころ地面が見える程度には草が茂っている。

ただし、かつてのベルカを知る者からすれば、その驚きはいかほどのものか。

 

「馬鹿な……ここが、あのベルカなのか?」

「え、そんなリアクションなんですか!?」

「気持ちはわかるけどよ、昔のベルカっつったらホントに酷いもんだったんだぜ」

「空は重く厚い灰色に閉ざされた曇天、昼夜の区別はついても陽の光を見ることなどなかったはずだが……」

「それだけじゃないわ。空気もあの頃とは比べるべくもないくらいに澄んでいるし、大地も草木も生えない、というほどじゃないわ。この分なら、水も少し濾過すれば飲めると思う」

「話には聞いとったけど、そこまでやったんや……」

「何分、束の間の勝利のためにどこの国も禁忌兵器(フェアレーター)の使用に踏み切っていましたから」

 

禁忌兵器(フェアレーター)、それは古代ベルカの負の遺産の一つ。

水と大地を汚す猛毒の弾薬、すべての命を腐らせる腐敗兵器。それら、一時の勝利と引き換えに自らも滅びゆくしか道のない手段。ベルカの諸王戦争期において、追い詰められた国々はこぞってこれらを使用していた。

その結果として、ベルカは人の住めぬ土地となったのだから。

 

だが、いま彼らが降り立ったベルカにその面影はない。

もちろん、正しく“自然豊かな世界”には及びもつかないが、十分に人の生存が可能な世界だ。リインフォース・ツヴァイことリインの驚きに、ヴィータがしみじみとつぶやくのも無理はない。

 

とはいえ、驚いてばかりもいられない。どれほど信じがたくとも、彼らが降り立ったのはベルカであるはずだ。

そのつもりで行った虚数潜航(ゼロセイル)だし、妙な話だが外部との一切の通信が途絶しているのがその確信を強める。普通なら有り得ないことだが、ありえない事象に覆われた現在のベルカならその限りではない。そして、見上げた空に目を凝らせば、そこには微かにノイズのようなものが見て取れる。アレに空が覆われているとなれば、それこそが何よりの証拠と言えるだろう。

 

とりあえず、原因究明のために件の遺跡へと向かう。

しかしその道中、彼らは一つの街を発見した。いや、街という言葉は適切ではないだろう。そこは十分に“都市”と呼べる様相を呈していた。いくつかの天衝く摩天楼が立ち並び、都市周辺には疎らに立ち並ぶ民家と畑や家畜と思しき動物の姿。

 

まずは古代ベルカを知る守護騎士たちに現地調査を任せてみれば……

 

「なんつーか、拍子抜けだったな」

「どういうことなん、ヴィータ?」

「普通に平和だった。服装とか建物の様式とか、その辺は昔のベルカの面影があるんだけどよ」

「発展度合いだと、地球の地方都市レベルでしょうか? あんな感じで古い建物と新しい建物が混在してて、都市周辺は民家が少なくて耕作地だったりする」

 

シグナムとザフィーラを残し、一足早く戻ってきたヴィータとシャマルの報告がおおよそこんなところだ。強いて言えば、使用されている言語が古代ベルカのものなのが多少厄介な点だろうか。まぁ、それもカルデアの翻訳術式で何とかなる範囲だ。

とはいえ、なんとなくニュアンスはわかったものの、それだけでは情報が足りない。とりあえず危険性は高くないことから、今度はカルデア組と管理局組も都市に入り、人手を武器に調査を進める。

 

ただ、平和である分目立った情報は得られない。こちらの通貨を持っていないこともあり、目視と聞き込みが主だったこともあるだろうが。

そうして日暮れまで調査はしたものの、大した成果は得られず仕舞い。その後も数日にわたって滞在し、換金して資金を調達し、さらに調査を進めるが進展は特になし。少なくとも、どうしてあの“ノイズ”が生じたかはさっぱり。

わかったことと言えば、この世界が“王制”を敷いていること。そして、この土地の王が“覇王イングヴァルト”であり、世界そのものの統治者として各地の王を束ねるのが“聖王”な事くらいか。ただし、聖王については称号はわかれども名前まではわからなかったが。

 

とはいえ、これはある程度予想はしていたことだ。どうしてベルカが人の住める環境になっているかは不明だが、今なお人が住んでいるのなら諸王時代の状況が多少なり残っているのは想定の範囲内。まぁ、まさかかつての王が未だに君臨しているのは驚きだったが…同一人物とは限るまい。

しかし、彼らが知りたいのはこの世界の情報ではなく、異常の原因。その手掛かりがないとなれば、いよいよ別の都市に足を延ばすか、あるいは当初の遺跡を目指すか、というところで立香は一つの疑問を抱く。

 

「クロノ、ちょっといい?」

「?」

「少し気になることがあって……」

 

そうして立香が口にしたのは、クロノにとってはあまり気に留めていない事柄だった。

 

「ニュース、ですか?」

「うん。ほら、中央部にでっかい電光掲示板みたいなのがあって、色々流してるでしょ?」

「そう、ですね。僕も何度か見かけましたが、それがどうかしましたか? 割と、ミッドや地球と似たり寄ったりな番組やCMが流れていたと思いますが」

「ああ、それは俺も思った。でもさ、変じゃない?」

「変、というと?」

「ニュースでスポーツとか天気の話はしてたけど……強盗とか殺人とか、その手の報道って見た?」

「……見て、いません」

「俺も、気付いた時は偶々そういうのがない日か、タイミングの問題なのかなって思ったんだけど……」

「てっきり僕もそう思っていました……いえ、思いたかったのかもしれません。あるいは、都合のいいことに目を向けて、深く突っ込みたくなかったのか。でも、そう言うということは、違ったんですね」

「結構じっくり見てたんだけど、さっぱり。それどころか、交通事故や芸能人とか有名人のスキャンダル系も見てない。ねぇ、そんなことってありえるの?」

 

事故や犯罪の報道がない、大変結構なことだ。一日くらいそんな日があってもいいはずだ。

そう思うし、思いたい。だが、現実的に考えるならば、そんなことは()()()()()

かつては執務官として現場に立ち、現在は提督として部下を率いる立場だからこそ断言できる、できてしまう。世界規模、あるいは国家規模で事故や犯罪と無縁の一日などありえない。仮にそういったことがなかったとしても、前日の、あるいは数日前の未解決事件の報道がされるはずだ。そういったものが一切なかったということは、可能性として考えられるのは二つ。

 

「それなりの期間にわたって事故も犯罪も起きていないか、あるいは情報統制しているか」

「王制だから、情報統制くらい有り得るだろうけど……いくら何でもやり過ぎじゃない?」

「王にどの程度の権力があるかにもよりますが……一応、議会の類はあるようですし、流石に一切合切というのは……」

 

正直、この世界の政治体制などにはさほど興味がなかったこともあり、あまり突っ込んだことは調べていない。

 

「このことを他には?」

「所長たちには相談してる。一応調べてもらったんだけど、どうにもね」

 

なんでも、王の下に補助機関としての議会があり、こちらは選挙によって選ばれるなど、だいぶ民主化されているらしいということはわかった。貴族もいるらしいが、被選挙権は彼らの独占ではないらしいことも。にもかかわらず、一切の事故や犯罪に関する報道を規制しているというのは考えにくい。

それに、謎はもう一つ。各地の王を束ねるのが聖王なのはわかっているが、具体的な支配体制がよくわからないらしい。果たしてこの世界を治める聖王とは何者で、いったいどのような意志の元に君臨しているのか。あるいはそこに、この不自然さの答えがあるのかもしれない。

 

「それにさ、この都市(まち)に限った話かもしれないけど、空気がおかしくない? 特に夜」

「おかしい、ですか? 空気が悪いとかではなく?」

「うん。妙に緊張感があるというか、張り詰めてる気がするんだよね」

 

心の機微に敏感ということは、空気を読む能力に長けるということでもある。立香には、この都市を満たす空気がどこか不自然に感じられてならないのだ。

 

「………………………………とりあえずは、予定通り遺跡を確認に行きましょう。ですがその後は、できるだけ都市部を周ってみた方が良いかもしれませんね。それも、国境を跨いで。幸い、こちらでも車両の類は珍しくありませんし、シャドウ・ボーダーも大勢での長旅用と誤魔化せないこともないでしょう」

「うん」

「ですが、ホームズは何も言っていないんですか?」

 

“明かす者”の代表を名乗るだけあり、人格的には問題だらけだが、彼の洞察力・考察力は驚異的だ。いっそ神懸っているといってもいい。フェイトも一時期捜査の勉強をさせてもらったことがあるが、異次元過ぎて全く参考にならなかったほどである。

そんな男が、何も気づいていないとは思えないのだが……

 

「いやぁ、ホームズはほら、アレだから」

 

確証が持てない事は身内にも黙っていたり途中まで言いかけて言葉を濁したり、というのはよくあること。一応気付いたことは伝えてあるのだが、何も言ってこないということはまだ確証がないのだろう。

“解き明かす”ことは彼の性、確証を得れば聞かなくても勝手に語ってくれる。むしろ、必要とあらば周囲に碌な説明もせずに独断行動や顰蹙、誤解を招きかねない言動を躊躇なく取ることさえよくある。なので、精神衛生上、下手に絡みに行かない方がいい相手だ。特に、クロノのような生真面目なタイプは。

 

そうして場所を変えて調査を進めるが、やはりなかなか進展は見られない。

件の遺跡も、遺跡として残ってはいるがこれと言ってめぼしい発見はなく。そのまま様々な都市を渡り歩くが、これまた似たり寄ったりで目新しいものはない。ただ、やはり立香の感じた違和感は正しかったらしく、どこに行っても“暗い報道”にお目にかかることはなかった。強いて言えば、“川が氾濫して〇名が行方不明”とか、“○○で野生の獣に襲われた”とか、そんなところだ。加害者側にいるのは、いつだって自然や不運の類で人がそちら側にいることはない。

 

しかしそれも、4つ目の都市に足を運んだところで崩れ去る。

発端は、立香が車通りの少ない横断歩道を、ついつい信号無視して渡ろうとした時のこと。

 

「君、何をしようとしているんだ!」

「? あぁ、すみません。車も来なさそうなので、つい……」

「つい、じゃないだろ!? 命を粗末にするもんじゃない!」

(え? いや、いくら何でも信号無視くらいで?)

(確かに、少し不自然すぎるような……)

 

そういう見方もできるかもしれないが、流石に言い過ぎではないだろうか。傍らに立つマシュも首をかしげている。だが、笑い飛ばすには立香を引き留めた男性の表情は切羽詰まっていた。いや、詰まり過ぎている。それこそ、今まさに車が猛スピードで通り過ぎようとしているところへ飛び込もうとしていたかのように。

そこで、困惑する立香の横を一つの小さな人影が通り過ぎる。

 

「姉さん、早く早く!」

「止まりなさい!? 行っちゃダメぇ!!」

 

十歳くらい……いや、十二歳くらいだろうか。思春期に差し掛かるか否かの少年が、まだ赤信号(相当)の表示を無視する形で、横断歩道を渡る。普通なら、精々周りから“やれやれ”といった視線を向けられる程度の筈。

にもかかわらず、周囲からは悲鳴が上がり、誰も彼もが青褪めた表情を浮かべている。

 

そして、遅ればせながらわたり切ってから気付いた少年の顔は、“絶望”で彩られていた。

 

「な、なんてことを……」

「ああ、まだ若いというのに」

「だが、仕方がない。法を破るということは、そういうことだ」

「そう、ね。決まりを守る、ただそれだけのことなんですもの」

(何を言ってるんだ、この人たちは?)

 

口々にこぼれる言葉の意味を理解できずにいる立香たちを他所に、彼らは一歩二歩と後退していく。

その間にも、件の少年にフェイトたちと同年代と思しき姉と思われる少女が駆け寄り抱きしめる。まるで、何かから守ろうとするかのように。

 

やがて、それは現れた。

 

「違反容疑者を 補足 確認作業に 入ります」

 

現れたのは、バイザーで顔を隠した女性。体のラインが浮き出るタイトな服装だが、どこか作り物じみて見えるのは、その口から放たれた言葉があまりに無機質だからか。

 

「ぁ、あぁ……これは、その……」

「確認 市民番号 ×××××-××××××× 氏名 ウルス・クラウン 交通法違反に 相違ありませんか」

「ぼ、僕は……」

「ちが、違うんです! この子は、その…違反したわけではなく……」

「確認作業への 虚偽報告は 刑法××条に 違反します」

「っ!? で、でもこの子はまだ……」

「対象 年齢12歳 特別保護の 対象外 酌量及び 保護責任者の 代替は できません」

「そんな……」

「姉さん……」

「沈黙は 肯定と 受け取ります。

 最終確認 市民番号 ×××××-××××××× 氏名 ウルス・クラウン 交通法違反に 相違ありませんか」

「「……」」

「沈黙 肯定と 判断 刑の執行を 開始」

「「なっ!?」」

 

その瞬間、女性の右腕が砲身へと変化する。それは躊躇なく砲口を少年の身体の中央、心臓へと向ける。が、少年を抱きしめていた女性が邪魔で直接狙うことができない。

 

「即時の 退去を 要請

 カウント 5 4 3……」

「姉さん」

 

絶望と恐怖で力が入らないのか、少年がそっと押すと姉の身体が後ろに倒れる。

障害物が失われたことでカウントが止み、代わりに砲身が淡い光を宿す。

その意味するところを理解し、少年は歯を食いしばって目を閉ざし、姉は思わず目を逸らす。

何が何やらわからないことだらけだが、一つだけ確かなことがある。それは……

 

「マシュ!」

「シールダー、吶喊します!!」

 

如何なる法であろうと、交通違反を犯したくらいで……それも、このような幼い子どもが殺されていい道理はない。

 

戦闘そのものは、瞬く間のうちに終了した。攻撃能力が高いとは言えないマシュだが、さほど苦にすることなく女性を制圧。件の少年たちに事情を聴こうとしたのだが……その前に、組み伏せた女性が突如爆発。

マシュが防御性能に優れていたことと、咄嗟に飛び退いたことが奏功し、何とか無傷。かと思えば、周囲には先ほどの女性のそっくりさんが大挙しているではないか。

 

「あーもう、何が何だか……」

「どうしましょう、マスター」

「とりあえず…………………………二人を抱えて逃げる!」

「了解! 遁走を開始します!」

 

というわけで、大慌てで逃げ帰ってきましたシャドウ・ボーダー。騒動を聞きつけ、仲間たちも間もなく合流。

ついでに、例の団体さんまで着いてきてしまったが、戦闘能力はさほど高くないのか、管理局屈指の実力者とサーヴァントたちによって間もなく撃退された。行動不能になる度に自爆されるのを見ていると、ドS軍師こと陳宮の「自爆しかありますまい!」「そこです、自爆しなさい!」という声が聞こえてくるようで気が滅入ったが。

 

で、ようやく腰を落ち着けて例の姉弟に話を聞いてみれば……

 

「ああ、なんと罪深いことを。冥王陛下の使者様を討つなんて……どうか、悪いことは言いません。急ぎ、裁きを受けるべきです。今ならきっと、速やかに処断していただけるはずです」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……僕が、僕がちゃんと罰を受けていれば」

「いやいやいやいやいや!!! 信号無視くらいで殺されるとか、オカシイにもほどがあるって!?」

「……法を破ったのです。ならば、仕方がありません」

「うん。だって、破っちゃいけないから決まりなんだもん」

(は?)

(あの、先輩。これではまるで……)

 

犯した罪の重さではなく、法を破ったことそのものを悔いているようではないか。

そしてそれを裏付けるように、二人は皆が語る“罪の軽重”というものに不思議そうな顔を浮かべる。まるで聞いたこともない、考えたこともないような概念を耳にしたかのように。

 

あまりにも釈然としない二人の反応。当然、より詳しく問い質そうとするが…突如、周辺警戒をしていたダ・ヴィンチが警告を発する。何者かが、高速で接近してきているというのだ。

それも、尋常ならざる魔力を内包した“ナニカ”が。

 

そして、場合によっては応戦もやむなしと、シャドウ・ボーダーの外に展開したはやてたちが目にしたのは、あまりにもよく見知った人物だった。

 

「リイン、フォース?」

「アインスさん? だけど、え?」

「なんで、なんでアインスがこんなとこにおるん!? 聖王教会のポットで眠っとるはずや……」

 

困惑をあらわにするなのはとフェイト、そしてはやて。管理局組の中では唯一アインス本人と言葉を交わしたことのないリインもまた、思わぬ形で実現した“いつか必ず”と願っていた出会いに言葉を失っている。

だってそうだろう。主であるはやての未来の為、自らの消滅をすら選ぼうとした彼女がどうして、はやてに一瞥もくれようとしないのか。

 

「お下がりください、主」

「ザフィーラ?」

「どういうつもりだ、アインス…いや、リインフォース! 主はやてを前にしてのその無礼、ことと次第によってはお前であろうと容赦はせん!!」

「将? いや、ありえない。将も、鉄騎も、癒し手も、守護の獣も、皆ここにいる。ここにいるのだ。そう、私と共に。

 ……だが、私が見間違えるはずもない。なんだ、お前たちは? それに、主? そこの娘がか? しかし、確かにその手にあるのは夜天の書とシュベルトクロイツ。夜天の主の証、その魔導の器。加えて、リインフォース? アインス? 誰のことだ? 私はヨル、もはや主を持たぬヨルだ。お前たちも夜天の雲、守護騎士ヴォルケンリッターならすべて承知のはず。その上で、お前たちは私と一つになったのではないか。

……………………わからない、分からないことばかりだ。だが、一つだがはっきりしていることがある」

 

僅かに困惑の色を見せたかと思うと、すぐにそれを消し去るアインス。元より落ち着いた印象の女性だったが、それにしても平坦過ぎる。なにより、はやてのことがわからないというのが異常だ。

しかし一同の疑問を他所に、彼女の視線は立香とマシュへとむけられる。

 

「そこの青年と盾の娘、お前たちは法を犯した。故に、刑を執行する。私は、そのために来た」

(まただ、また“法”。罪を犯したのではなく、“法”を犯した。どういうことだ? 法を守る、というのはわかるがそれにしても……)

「ここは聖王の代行者たる冥王の領域。その冥王の使者に刃を向けるとは、これ即ち聖王への反逆。本来であれば、後の世を生きる者たちへの戒めとして然るべき処罰を下すところだが……データに該当者がいない。生憎、他世界のデータベースへのアクセスが不通になっているが、間違いない。お前たち、異邦人だな」

 

クロノの疑問を他所に、一人話を進めるアインス。

 

「異邦人ならば、致し方ない。法は各地の王が定め、聖王がこれを審査する。そして、認められた法に基づいて人は生き、これに背けば罰を与える。しかし、異邦の法に無知なのは当然のことだ。それを責めはすまい。

 とはいえ、無知を理由に放免したとあっては、法の平等性は保たれない。刑は絶対だ、代わりに罰を減じよう。“戒め”ではなく、お前たちへの“裁き”に留める」

(話が通じない、ってわけじゃないかな?)

(そう、ですね。こちらの事情も鑑みてくださっているようですし……)

「これは聖別、苦しみはない。眠る様に、その命を絶つ」

「と思ったら全然話通じねぇ!?」

「それで軽い罰なんですか!?」

 

だとしたら、彼女の言う「戒め」とはいったい……。

 

流石におとなしく殺されてやるわけにはいかない。当然というか止む無くというか、そのまま戦闘に発展。

しかし厄介なことに、アインスの強さがシャレにならない。かつて彼女と戦ったなのはから見ても、あの時を上回るという。当時のなのはたちですら、上位サーヴァントに食らいつけるだけの力があったというのに、それを軽く凌駕するレベルとなるとトップサーヴァントでも分が悪い。しかも、どういうわけか守護騎士たちの武装と魔法まで駆使してくる始末。

 

ジリ貧になるのは必然。ならばどうするのか、選択肢は少ないが……

 

「よく耐える。騎士たちの写し身、お前たちには聞きたいこともあったが……是非もない。

 法を犯した以上、末路は同じだ。慈悲だ、瞬きの間に消えろ―――――――ジャガーノート」

 

シャドウ・ボーダーを中心に、四方に放たれる漆黒の光。それは着弾すると同時に急速に膨張し、何もかもを飲み込まんと迫ってくる。

 

「くっ、皆さん私の後ろに! 顕現せよ―――――いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)!!!」

 

シャドウ・ボーダーの上に立ったマシュを中心に皆が集まってくる。同時に白亜の城が顕現し、迫りくる漆黒の光…否、闇を押しとどめる。どこまで闇が広がろうとも、決して揺らぐことなく城はそこにあり続ける。

 

だがそこへ、更なる光芒が降り注いだ。

 

「……早いな。同じ世界内となれば、当然かもしれないが」

 

アインスが空を仰げば、そこには一隻の巨大な船の姿。

流麗な船体の一部から砲門が顔をのぞかせ、一斉にシャドウ・ボーダーに照準を合わせ、次々に光が放たれる。アインスの広域攻撃すら凌いでいた城だったが、無数の光条に飲まれて行く。

光の雨が止んだ時、大地には無数の弾痕以外には何も残っていなかった。

 

(消えた、か。しかし、あのまま行けばジャガーノートすら凌ぎ切っていただろうあの城はいったい? あのような魔導、これまで見たこともないが…いや、詮無いこと。転移する隙はなく、痕跡すら残っていない。なら、そういうことなのだろう。

 ただ、あまりにもきれいに消えすぎているような気は、しないでもないが……)

 

念のため精査するも、特に引っかかるものはない。

 

(強いて言えば……いや、仮にあそこに落ちたとすれば同じことか。それよりも、今は宙を覆うあのノイズの正体を突き止める方が先だ。聖王の威光が届かないと知れれば、他の世界がどうなることか……急がなければ)

 

そう結論し、アインスはその場を飛び去っていく。

だがそこで、やや離れた岩陰から人影が姿を現した。灰色の外套を羽織り、目深にフードをかぶっているため顔立ちどころか性別すら判然としない。ただその人物は、ジッと先ほどまでアインスと交戦していた者たちが最後に集まった場所を見続ける。

 

(やはり、彼らは異邦人やったか。咎人を助けて、マリアージュを退け、ヨルに抗った時はもしやと思ったんやけど……)

 

この程度では、期待外れと言わざるを得ない。そんな考えがよぎるが、自らの傲慢さを悟り小さく首を振って否定する。

 

(いや、それはウチの勝手な言い分やな。彼らやなかった、ただそれだけのこと。

 そもそも、ウチラが人のことを言えた義理やない。自分たちだけじゃ届かへんからて、他人様当てにしてる時点でな)

 

自嘲しながら踵を返そうとするが、ふとその足が止まる。特に理由はない。ただ何となく……

 

(せやな、別に急ぐ理由もないし。異邦人やったら、ベルカであの人らのこと知っとる人なんてほとんどおらんやろ。なら、ウチくらい偲んでも罰は当たらんはずや。

にしても、“法は絶対”これはどこも同じはずやのに、どうしてあの人らはあんなことを? まさか、“ゆりかご”の届かへん場所から? ホンマ、色々聞いてみたかったんやけどな……)

 

近場の岩に腰掛け、数日前から監視していた人物たちのことを思い返す。かなり警戒範囲が広かったようなので、その外から追いかけるのは中々に骨が折れたが……難しい分、今となっては少し楽しかったようにも思う。

思わず寂しげな笑みが零れ、天を仰ぐ。彼らの冥福を祈ってか、あるいは助けようとしなかったことを詫びるためか、それとももっと別の……。いずれにせよ、重力にひかれてフードが背中に落ちる。

 

露わになったのは男とも女ともつかない端正な顔立ちと漆黒の髪、そして視線の先に広がる蒼穹を移したかのような青い瞳だった。

 

(まぁ、いくらエレミア製とはいえ、義体のままで“ヨル”の相手は荷が重すぎるんやけど。ましてや、“ゆりかご”まで出張ってくるとはなぁ……)

 

 




第1無人世界「ベルカ」……捏造です。でも、ベルカ自体はもう有人世界ではないらしいので、「無人世界」の括りに。加えて、次元世界規模での重要度や知名度から、1番目に登録されてそうだなぁと。

そして、いつものダイジェスト進行で2話くらいで終わらせてやろうと思っていたのが……そうはならないかも。まぁ、予定なんて狂うためにあるんですし仕方ないよね。3話くらいで収まるといいなぁ……インタビュー相手の案が足りなくなるので。

PS カルデアが漂流することになった原因について。
そもそも、空想樹を伐採して異聞帯をすべて滅ぼしつくし、なおかつ異星の神とやらを倒せたところで、人理漂白が正され汎人類史が復活するかどうかって、割と”抑止力の修正”頼みなんですよね。なので最悪、漂白された地球から再スタート、なんてこともありそうだなぁと。また、修正が入る際には各異聞帯を知る面々の存在が邪魔になるんじゃないかなぁ、とも。
そんなアレコレの結果、こんな設定に相成りました。

というか、下手するとFGOの世界線そのものが剪定対象にされるんじゃないかなぁとも思ったりしなかったり。まぁ、剪定の条件には引っかからなさそうなので、そっちの心配はないと思いますけど。
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