魔法少女リリカルなのは Order   作:やみなべ

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ふと思ったのですが、フェイトは新シリーズ毎に新技引っ提げてくるのに対し、なのははデトネーションを除いてSLB一本の硬派っぷり。いっそ清々しい。
まさに力の一号(なのは)、技の二号(フェイト)ですねぇ。

そうそう、「Next Order」の内容で一部誤りがあったので修正しました。「千年の悲願」と記載していたのですが、「三百年の悲願」です。申し訳ありませんでした。


リインフォース・ツヴァイの場合

ベルカでのことですか? …………………………………………………………………………はぁ~。

 

―――え、なんでそんな重い溜息?

 

溜息も重くなりますよ。そりゃこういうお仕事ですから? 命の危険とかその辺は覚悟していますけど、だからと言って「死ぬかと思った」とか「走馬灯を見た」なんて経験、早々するものじゃない筈なんですよ。

なのに、ベルカに限ってもいったい何度死を覚悟したことか……。

 

考えても見て下さい。四方をオーバーSを軽く超える広域殲滅攻撃に囲まれながら、上空から艦砲射撃の雨霰ですよ?

肝が冷えるなんてもんじゃないです!? っていうか、マシュさんの宝具がなかったら普通に10回は死んでます!?

まぁ、カルデアと関わると割とそんな感じなんですけど……。

 

―――……ごめんなさい、ヴィヴィオが間違ってました。

 

というかですね、ぶっちゃけあのままだったらホントに死んでましたから。

 

―――え、そうなんですか? でも、確かマシュさんの宝具ってママたちの最大出力でも突破できないって……。

 

正確には、なのはさんに加えてフェイトさんとはやてちゃんの最大出力ですね。具体的に言うと、模擬戦の時にトリプルなブレイカーも防ぎ切ってます。

 

―――……十分異次元レベルだと思うんですが。

 

まぁ、実際マシュさんの防御性能…特に宝具のそれは桁が違いますからね。さすがに試したことはありませんが、理論上はアルカンシェルでも防げるんだとか。実際、“星を貫く熱量”とか“星の表層を焼き払う”とか言われてる代物を防ぎ切った実績もあるそうですし。

はっきり言って、人間レベルじゃどうやっても突破は無理でしょう。というか、ゆりかごからの砲撃自体も防ぐことには防げていましたしね。

 

ですが! ここで重要なのは火力の高さではなく、高威力攻撃の継続攻撃時間です。

 

―――時間?

 

はい。いくらマシュさんの宝具が鉄壁でも、無限に展開できるわけではありません。いずれ限界は訪れ、理想の城は消失します。

そして、ゆりかごにとってあの時放っていた砲撃は、いくらでも連発できる程度のものでしかありません。なのはさん的にはシューターみたいなものです。

 

なので、マシュさんが防いでいる間にゴルドルフ所長の指示でシャドウ・ボーダーに避難。砲撃に紛れて虚数潜航(ゼロセイル)を敢行し、辛うじて難を逃れたという次第です。

 

―――そ、そうだったんですね……。

 

あのあたりの引き際の良さは、流石というかなんというか。立香さんも指示を予想していたのか、あるいは元から撤退するつもりだったのか、物凄く鮮やかな手並みでしたからね。

言い方は悪いかもしれませんが、逃げ慣れているというか……。

 

―――それだけ聞くと、カッコ悪く聞こえますけど……。

 

そんなことはありません。むしろ、今思えば引き際の見極めの方が、攻め口を見つけて突くよりもずっと難しいと理解できます。

 

無意味な逃走は簡単です、なりふり構わず逃げればいいだけですから。まぁ、往々にして行き当たりばったりになり、追い詰められてしまうわけですが。

同様に、攻めるのも実はそう難しくありません。ほんの少しの勇気があれば、突っ込むことはできますからね。当然、こちらも効果的な攻めをするのには技術と経験が必要ですけど、できはします。

 

しかし、引き際の見極めは本当に難しいです。

なにしろ、ちょっとでも希望やチャンスがあるとどうしても躊躇ってしまいますからね。“もう少し粘れば”“あそこを突くことができれば”そんな誘惑に惑わされて引き際を見誤り、結果的に大損害を被る……指揮官研修を受ける際、必ず注意されることです。

最大の障害は自分自身の心ですから。どれだけ技術と経験があっても、中々上手くはいかないものなのです。

 

―――リインさんでも難しいですか?

 

当然です! はやてちゃんだって、きっと同じことを言います。敗色濃厚だったりすればまだしも、形勢が微妙だと欲が出ますから。

その点、カルデアの皆さん……というか、ゴルドルフ所長と立香さんの見極めは見事の一言です。私も見習わなければと思います。

 

―――お二人って、実はすごかったんですね~!?

 

ぁ、いや、お二人の場合どちらかというと……。

 

―――? ? ?

 

ゴルドルフ所長は、単純に臆病というか小心者なんですよ。

 

―――へ?

 

聞いたことありませんか? “短所と長所は表裏一体”なのです。ゴルドルフ所長の場合、臆病だからこそなるべく安全策をとるように指示しますし、勝ち目のない戦闘やリスクのある行動もごく最低限に抑えようとします。要は一か八かの賭けや博打にはまず出ないということです。

 

このあたり、昔のカルデアのギリギリ具合も影響していますね。物的損害はあとから補填できますが、人的損害はそうはいきませんから。

なので、 “ヤバそう”と感じたら逃げることに躊躇しません。躊躇している間に死んでしまっては元も子もありませんからね。色々苦い経験もされているそうなので、そのあたりで培った決断力なのでしょう。

 

―――う~ん……わかる気はしますが、逃げてばっかりじゃどうにもなりませんよね?

 

それも真理です。

事実、臆病なだけの人であれば無能の誹りは免れないでしょう。ですが、さっきも言った通りいろいろ経験している方ですから。アレで結構大胆…というか、いざという時にはやけっぱちになれる人でもあるんですよ。

 

大抵の場合、サーヴァントの皆さんや立香さんの無謀な作戦や行動は却下しますが、いざという時には決断してくれます。

 

―――やけっぱちに?

 

やけっぱちに、です。

 

で、朱に交わって赤くなったのか、それとも持って生まれた性質なのか…思い切りが良すぎるところがあるのが立香さんなんですよね。

命が危ない場面とか普通に怖がりますし、怯んだり挫けたりもします。なのに、要所要所ですごいアグレッシブというか、割と無謀な行動力を発揮したりするんですよ。

 

ある意味、カルデアの人たちが立香さんに魔術を習得させなかった理由の一つはそれなんでしょうね。

 

―――どういうことですか? 才能がないっていう話なら聞いたことありますけど。

 

もちろんそれもありますよ。立香さんの魔術回路じゃ、修行しても大したことはできないそうです。でも、少しでも力があれば使いたくなるのが人間です。どんな形であれ、です。

 

時に人はそれを暴力や犯罪に使ったりもしますが、逆に誰かを助けるために使う人もいます。なのはさんやフェイトさん、そして立香さんもそういう人です。

だからこそ持たせなかったんです。力を持った立香さんが、それに頼った無茶をすればどうなるか……火を見るよりも明らかですから。そして、立香さんが命を落とせばそれですべてが終わってしまう、あの人たちの旅はそういうものでした。半端な力なんて、むしろ害にしかなりません。

 

―――そっか。立香さんは礼装なしだと魔術をほとんど使えない。でも、弱いままだからこそ……逃げることを忘れずにいられるんですね。

 

そうです。どれほど凄い戦力が周りを囲んでいても、立香さんは相変わらず弱いまま。ですがそれは、逃げるという選択肢を忘れずにいるために必要な要素なんです。お人好しな人だからこそ、小さな武器で蛮勇を振るうのではなく、丸腰でいつでも逃げられる心構えを持ち続ける方が有益。カルデアは、そう判断したんです。

 

まぁ、修羅場・鉄火場にほぼ丸腰で放り込むのもどうかとは思いますが……。

 

―――ママが結構無茶する人なことを考えると、それでよかったのかもしれませんね。

 

ですです。

実際、お二人の判断のおかげで命を拾ったことも多いですからね。「弱さ」もまた、生き残るための術なのです。あの人たちを見ていると、それがよくわかります。

 

―――なるほどぉ……。

 

(まぁ、同時にその“弱さ”が冷徹な、あるいは冷酷な判断を下すことを余儀なくさせているわけですが。

 いえ、違いますね。“弱いからこそ決断できる”と言うべきなのでしょう。本当にそうするしかない時、自分にできることが多くないことを、その手の小ささを知る立香さんは、“諦めて”決断を下す。決断した場合と足掻いた場合を天秤にかけて……それは、ある意味でとても残酷なこと……)

 

―――リィンさん?

 

あ、すみません。ちょっとボーッとしてました。

えっと、どこまで話しましたっけ?

 

―――弱いからこそ生き残れた、ってところまでですね。

 

ああ、そうでした。

そういえば、いつだったかフェイトさんが言っていましたね。「昔の私は『大丈夫だよ、私強いから』ってよく言ってたけど、今思うとあれは強がりと自分を鼓舞するのが半々だったんだなぁ」と。

 

―――それと立香さんに何の関係が?

 

“立香さんの強さ”についてですよ。

さっきの“攻めるのはそう難しくない”にも似ていますが、自分を強いと口にするのは楽なんです。だって、そう思い込めば怖さとか不安とか、そういったものを抑え込めますからね。

 

でも、立香さんにその手は使えません。だって、自他ともに認めるくらいに弱いですから。

サーヴァントの皆さんに囲まれていては、その手の強がりを口にしても虚しいだけです。智慧も力も、およそ全てにおいて誰かしらが遥か上を行くわけですから、かえって苦しくなるだけです。

 

―――あ~、確かに……。

 

弱いまま戦場に立って、守ってもらわなければならないのです。本来であれば戦場に出るべきではない人が。ですが、魔力供給の関係上、立香さんは最前線にいなければなりません。魔術回路の性能がもっと高ければ違ったかもしれませんが、それはないものねだりですしね。

普通ならその時点で限界でしょう。でも、あの人は自分ができることから目を背けません。決して逃げないんです。

 

―――できること、ですか?

 

何も難しいことじゃありません。

 

“顔を上げて前を見る”

 

“進み続ける”

 

“他者を思いやる”

 

“相手を理解しようとする”

 

“決断に責任を負う”

 

“通ってきた道を忘れない”

 

そういう、誰もがやっている極々当たり前のことです。

 

―――言われてみると、本当に普通というか…当たり前ですよね。

 

ええ、本当に。

でも考えて見て下さい。立香さんと同じ状況に立たされて、同じことができる人が一体どれだけいますか?

 

―――っ!

 

特別なことなんて何もありません。

難しいこともありません。

誰もが普通に、特に意識せずにやっていることばかりです。

 

別に、“百年先を予見しろ”とか“破壊不可能と言われたロストロギアを破壊しろ”とか、そんなことを言っているわけじゃありません。

 

でもそれらは、“当たり前”の中でこそです。立香さんが置かれた状況の中では、その“当たり前”こそが至難の業です。

余裕なんてなくて、縋れるものもなくて、重い責任ばかりが積み重なっていく中、それでもあの人は逃げませんでした。無力さを言い訳に、目を背けることだけはしませんでした。

 

上手くいかないことばかりだったでしょう。

自分の弱さを、平凡さを嫌というほど突き付けられてきたはずです。

魔術の勉強も、トレーニングも、どれだけ頑張っても気休めにしかならない。

当たり前のことしかできない現実に、何度打ちのめされたことか。

 

それでも“まだできることがある”と信じ、“普通”を繰り返し続ける。

“何とかなるさ”と“そんなこともあるさ”と、そうやって強がりながら。

 

……………………………………………それが立香さんの強さです。

私にはきっとマネできません。人は自分の弱さから、醜さから、矮小さから目を逸らしたいものです。

でも、そこから目を逸らしてしまえば……立香さんにはもう何もできることがありません。

だからせめて、自分自身と向き合い続けてきたのでしょう。

 

―――(私に、できるかな? ……わからない。自分の弱点とか課題は分析して向き合ってるつもりだけど、たぶんこれは立香さんのそれとは違う)

 

きっと、だからこそ多くの英霊たちが立香さんに手を貸すんだと思います。

ある人は捨て去り、またある人は気付けば失い、中には持ち合わすことすらできなかった(ひかり)

それを、守りたいのではないでしょうか。

 

―――…………。

 

って、なんか話が重くなってきてますね! わ、話題を変えましょうか!

 

―――そ、そうですね。じゃあ……こっちの世界にも“英霊の座”はできたみたいですけど、ママたちが召喚されることってあるんですかね?

 

ああ、そのことですか。どうも、まずないらしいですよ。

 

―――へ? そうなんですか?

 

確かに皆さん突出した力の持ち主なのは事実です。でも、AAAランクで管理局全体の約5%…数字としては少ないですが、人数に換算すると結構な数ですよ。

 

―――あ、言われてみれば……。

 

そのうち戦闘が可能で、なおかつSランク以上となるとかなり絞られますが、それだって百や二百じゃ収まりません。加えて、仮になのはさんが引退しても、数年すれば新たにエース・オブ・エースの称号を受ける人が出てくるでしょう。あるいは、現役の間に“次期”を冠す人が出てくるかもしれませんね。

 

―――それは、まぁ……。

 

管理局としては、突出した個人に頼り切るわけにはいきません。まぁ、割と個人の才覚に依存している部分があるのは事実ですが。だからと言って、欠けたら揺らいでしまうような層の薄さでは話にならないのです。というか、そうでないと困ります。

AAAランクですら5%()いる。その層の厚さこそが、管理局の強みなんですから。

 

ですが、これはある一つの事実を示してもいます。それは……

 

―――ママは凄い魔導士だけど、決して代わりの利かない戦力じゃない。

 

そうです。個人、一人の「高町なのは」という女性はもちろん代わりは利きません。ですが航空魔導士、あるいは砲撃魔導士、そして戦技教導官としてならその穴を埋めることは十分可能です。

だからこそ、“英霊”という“時代を代表する個性”足りえないのです。今の時代、魔法に携わる人でなのはさんを知らない人は中々いないでしょう。ですが、十年後は? 百年後は? 千年経った時、「高町なのは」という名前は歴史上に数いる優秀な魔導士の一人として数えられるにとどまる可能性が高いです。

 

そして、それ位では“座”には届きません。それこそエミヤさんの様に、世界と取引をして“守護者”として取り込まれない限りは。

 

―――じゃあ、フェイトさんも?

 

はい。今の時代、世界の一つや二つ救ったくらいでは“英霊の座”には届かないでしょう。それこそ、“管理局史上最強!!”くらいじゃないと。

ワンチャンあるとしたら、“最後の夜天の主”であるはやてちゃんとユーノさんくらいじゃないかと。

 

―――え、はやてさ…八神司令はわかりますけど、パパもですか?

 

何事も、“最初”と“最後”は特別なものです。“最後の夜天の主”として闇の書の呪いを終わらせた…たとえそれが一人で為し得たことではないとしても、その看板の影響力は大きいです。

同じように、今まで誰も有効活用できなかった“無限書庫”を開拓し、巨大データベースとして運用可能にしたユーノさんもまた、“先駆者”として歴史に名を残し得る可能性があります。

そんなわけで、可能性があるとしたらこの二人が最も高い、という結論になるわけですね。

 

まぁ、ユーノさんの場合、作家系サーヴァントの皆さんのような扱いになりそうですが。

 

―――その場合、宝具も“無限書庫”になりそうですし、情報戦のエキスパート的な扱いですかねぇ……。

 

ありそうですねぇ♪

 

―――なるほど……そういえば、サーヴァントと言えば向こうのベルカの王様たちとどっちが強かったんですか?

 

一概には言えませんね。ただ……

 

―――ただ?

 

シャレになりません。

 

―――え?

 

諸王戦争時代を舐めてたつもりはないんですが、割と引くくらい強かったです。

 

―――ぐ、具体的には?

 

例えば……あちらの冥王はイクスから代替わりしてたんですが……というか、ほとんどの王はちゃんと代替わりしてたんですけどね。

 

―――あ、そうなんですね。でも、そういうことだったらやっぱりマリアージュですか?

 

はい、いましたよ…………億単位で。

 

―――おっ、くぅ!?

 

性能的にはこっちで報告されたのと同程度なんですが、その数をしっかり統制されているのが厄介で。

というか、完全に統率された億単位の軍とか夢でも勘弁してほしいです。

 

―――しかも、死ぬことを恐れないし、動けなくなったら自爆……コワッ!? イクスコワッ!?

 

別にイクスが率いていたわけじゃありませんけどね。

あと、“天帝”は索敵能力が鬼でしたねぇ。領地内のことならわからないことはない、とばかりでしたし。おかげで近づくこともままなりませんし、作戦は筒抜けなので対抗策取られまくりでした。

 

―――え……。

 

他にも“炎帝”は自分が出した炎以外にも周囲の炎も操れるので、周りが燃えれば燃えるほど火力が増すんですよ。速攻で決めればまだしも、時間が経つと本当に手に負えなくなっていきましたっけねぇ。

 

―――えぇ……。

 

それと……“氷帝”はかなりの広範囲、確か数キロ四方に及ぶ空間固定ができたはずです。フェイトさんのスピードでも、発動を察知してから範囲外に出るのはほぼ不可能ですよ。発動にタイムラグがあるのと、連発できないのが救いでしたが。

 

―――えぇ~……。

 

挙句の果てに、“光王”は常時ブレイカー状態。使用済みの魔力どころか周囲の魔素を直接魔力に変換してましたし、制御を緩めるとこっちの魔力まで持っていくんですよ?

 

―――うぼぁ……。

 

ああ、ヴィヴィオも知ってる“雷帝”。あちらは周囲の電気信号を狂わせてくるんです。おかげで機械は誤作動起こすし、近づくと思うように動けないしで……ヴィクターがしょっちゅう機材を壊すのって、たぶんこの名残じゃないですかね?

 

ちなみに、“覇王”と“黒王”…あ、“エレミア”のことなんですが、二人は対人戦特化と言ったところでしょうか。

“覇王”が超回復で、“黒王”があらゆる攻撃がイレイザーの悪魔仕様です。

 

―――攻撃全部イレイザーっていうのも怖いですが…超回復ってどのくらいなんですか?

 

いくらダメージを与えてもコンマ一秒後にはチャラにされます。確か、虞美人さんにも匹敵する不死身っぷりだとか。実際、頭や心臓どころか、ほとんど全身粉々になっても復活してましたよ。

しかも、そんな身体なのをいいことに無茶な特訓と超回復のスクラップ&ビルド。おかげで、素の戦闘能力がおっそろしいことになっていたですねぇ。それに比べれば、アインハルトやジークはまだまだかわいいものです。

 

―――(確かに、シャレにならない……)

 

まぁ、ベルカ諸王時代からこうだったとは思いませんけどね。多分、元々あった資質や能力を何らかの形で強化されたのでしょう。

 

―――それにしたって酷過ぎません?

 

……それが、立香さんたちの旅の中ではもっととんでもないのもいたと聞きます。攻撃を完全に無効化してくるとか、チャージに時間はかかるものの真面目に一撃で世界滅ぼせちゃうとか……。

 

―――も、もう何に驚いていいやら……。

 

(どっちもオルタなアルジュナさんのこと、というのは言わない方がよさそうですね)

 

―――よく勝てましたね。

 

まぁ、何事も攻略法はあるものですよ。一応、強力な分制限もありましたし。

逆に、そういう意味で言えば“聖王”本人を除けばあちらのアインスが一番の難敵でしたねぇ。

 

―――そうなんですか?

 

シンプルに全性能の向上でしたから、逆に隙がなかったんですよ。

しかも、シグナムたちのリンカーコアを全統合したことで限界値も上がっていましたし。

 

―――統合?

 

はい。単純にそれぞれのデバイスを使えるというのではなく、技術や魔法、そして魔力の特性すら引き継いだ文字通りの“一人軍隊(ワンマンアーミー)”でしたから。

他の王たちが“聖王”の代行者でしかなかった中、アインスはただ一人の“側近”だったんです。

 

―――それは、どうして?

 

どうして、というのはどちらの意味ですか? アインスが皆を統合した理由? それとも、アインスが“側近”だった理由でしょうか?

 

―――えっと…どっちも。

 

統合した理由は私も知りません、彼女は話してくれませんでしたから。ただ何となく、みんなをこれ以上戦わせたくなかったんじゃないかと、そう思います。

特にあちら側の世界のあの時代は、“騎士の誇り”や“騎士の戦い”とは無縁でしたから。

 

―――じゃあ、唯一の“側近”っていうのは……。

 

あの世界の“聖王”の在り方故に、ですよ。

 

―――? ? ?

 

まぁ、それは追々。

 

―――はぁ……じゃあ、“聖王”自身はどうでした? あと、さっき“ほとんどの王は代替わりしてた”って言ってましたけど、“聖王”もそうなんですか?

 

“聖王”自身もほとんど基本性能の向上ですね。まさに、シンプル・イズ・ベストを地で行ってました。あとは、“鎧”の強度が“十二の試練(ゴッドハンド)”並な事でしょうか。

 

―――……十分反則仕様ですよね。

 

それでも蘇生能力がないだけマシ……あ、いや、ちょっと感化されすぎかもしれません。

というか、それを抜きにしても常に“ゆりかご”内にいたので、それで十分だったんですけどね。アレ一隻で全ての王より戦力は上でしたし。

 

―――……つくづく、諸王時代のベルカは“修羅の国”だったと思いました。いくらサーヴァントがいたからって、どうやって……。

 

あ、確かにサーヴァントは強力な戦力でしたが、スペース・ボーダーに乗ってた人全員動員できたわけじゃないですよ。

 

―――そうなんですか?

 

立香さんの魔術回路の性能の関係で、どうしても上限がありますからね。

“偽臣の書”を使えば、魔導士一人に付き一騎は何とかなりますけど。それを踏まえた上でも、最大15騎が限界でしたねぇ。

一応裏技があるらしいですが、それなりのリスクなり条件なりがあるようです。

 

―――それならなおのこと、どうやったんですか?

 

協力してくれた人たちがいたんですよ。

 

―――協力?

 

はい。ほとぼりが冷めた頃を見計らって再浮上した時、そこにいたんです。当代の“黒王”、アトラージュ・エレミア…アトラが。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

シャドウ・ボーダーがベルカの地に再度降り立った時、周囲は“見るも無残”としか言いようのないありさまだった。爆撃後の様に大地は抉られ、推定10時間は経っているであろうになお黒煙を上げている。生き物の気配はなく、草も樹も……何もかもが消し飛んでいた。

その光景にかつてのベルカを思い出したのか、守護騎士たちの表情は苦い。

いや、浮かない表情を浮かべているのはなのはたちも同様だ。良く見知った顔が、「お前たちなど知らぬ」とばかりに殺しに来たのだから、無理もないだろう。見知った顔に殺されかかる経験は散々してきたカルデア組だからこそ、今はそっとしておこうと思っているのかもしれない。

 

それに、虚数潜航(ゼロセイル)中に件の姉弟から話を聞き、この世界の在り様をある程度把握できたのも一因だろうか。

 

様々な異聞帯を越えてきたカルデア組はなんとなく察していたことだが、やはりこの世界において“法”とは特別な意味を持つらしい。

この世界において最大にして絶対の法、それが“遵法”だ。その前では、どんな微罪も如何なる重罪も誤差でしかない。人を傷つけたから、あるいは騙したから、または財産を奪ったから罪に問われ、罰せられるのではない。それ以前に“法を守らなかった”、その罪を問われるのだ。

そして、“遵法”という“絶対”を破った者に対する罰は等しく“死”。そこに酌量の余地はない。故に、この世界に軽犯罪や重犯罪といった“罪の軽重”の概念はない。法を守らなかった者の末路は一つ。

 

それならば、都市の人々や保護した姉弟の反応も当然だろう。彼らはそういう価値観の下で、そういったルールの中に生まれ、生きてきた。他の価値観の存在を知ることなく、触れることなく過ごしてきたのだから……。

 

ただ、そういう社会だというのなら、法の網目をかいくぐる者も出てきそうなものだが……そのあたりもこの世界は徹底している。

明文化された法はもちろん絶対だが、世の中には“不文律”というものがある。所謂モラルや暗黙のルールなどがそれだ。こちらは減点法が採用され、規定された法の上では問題なくとも、持ち点を失えば罰せられる。

 

また、市民には“起訴”の権利も認められ、個人や団体を訴えることもできる。

ただし、そこは法を絶対のものとする世界。当然、“法”の優先順位は“人権”にも勝る。具体的には、起訴した側とされた側、双方の頭の中を洗い出すというプライバシーも何もあった物じゃない措置が取られる。

自身の正義、あるいは他者の罪に確信がある場合でもなければ“起訴”はできないだろうが……その代わり、すれば真実は明らかになる。報復の心配もない。何しろ、それをすれば逆に命で以て贖うことになってしまうのだから。

 

効率、という意味では優れているのは認めよう。些か以上に、冷徹すぎるとは思うが。

 

だからこそ、なのはたちはそんな価値観や文化の違いをうまく呑み込めずにいるらしい。意図はわかる、だがそれとは別に“そこまでしなくても”と思わずにいられない。

しかし、受け入れがたいと感じるのとは別に、この世界での犯罪率が恐ろしく低いのも事実だ。ニュースなどでそういった報道がされないのは、規制しているからではなく、純粋に事件そのものが起こらないからに過ぎない。

信号無視程度でも即座に対応されていたことから考えても、その目は隅々にまで行き届いているのだろう。

となれば、確かに早々法を破る者が出ないのは道理だ。何しろ、万引きの対価が命では割に合わないことこの上ない。

 

空気に交じった緊張感は、“法を破るまい”という無意識の産物だろう。特に夜にそれが顕著だったのは、一日の疲れや酒の影響で“そんなつもりじゃなかった”が起こりやすいからか。

 

様々な価値観、多様な世界の在り様を見てきた立香たちとしても、まさに“鋼の秩序”と呼ぶべきこの世界の在り様には複雑なものがある。

 

突き付けられた事実を消化し、如何なるスタンスでこの世界と向き合うべきか。それを定めるにはまだ時間がいる。

だが、世界はそれを待ってはくれなかった。

 

未だ立ち上る黒煙の向こうから、夜よりなお黒い“漆黒”の人影が姿を現したからだ。

アインスとの再戦か、と一同に緊張が走る。しかし、皆の反応に気付いた人影は両手を挙げてそれを否定する。

 

「ちょっ!? 堪忍してぇな。ウチ、アンタらと戦り合う気はないんよ」

 

独特なイントネーションでそう言って目深に被ったフードを取り払うと、現れたのはどこかあどけなさを残した黒髪の少女。

だが、タダ者ではない。無防備な姿をさらしながらも、一目でそう直感させる凄みがある。

 

「初めまして、ウチはアトラージュ・エレミア…アトラって呼んで。仲良くできると、嬉しいんやけど」

 

コテンと首を傾げる仕草にはこれまた幼さを感じさせ、思わず毒気を抜かれてしまう。

一同は目を見合わせてから、妙なところで大胆さを発揮する立香が一歩を踏み出し、アトラに向けて手を差し伸べた。

 

「俺は藤丸立香、よろしく。できればいろいろ聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

「もちろん、ええよ。おしゃべりは大好きや♪」

 

アトラから得られた情報は膨大であり、重要であり、そしていくつかの欠落が伴ったものだった。

“聖王”は世界のすべてを統べる者であり、その支配領域はベルカにとどまらず他の次元世界にまで及ぶ。詳細までは不明だが、おそらく管理局の管理領域と同等かそれ以上だろう。また、ベルカがそうであるように、各次元世界も聖王の代行者というべき者たちが各地を治めている。ただし、その“代行者”の形は“王”とは限らない。“議会”がその役を担うこともあれば、“真竜”のような存在がその役を担うこともある。後者の場合、ベルカの王たちがそうであるように補助機関として議会が置かれている場合が多いようだが。

 

そんな、まさに世界(宇宙)の頂点ともいうべき聖王だが、下界の統治は“代行者”達に任せ、自身の領地も持たず、またその姿を外部に見せることもない。聖王は船であり、城であり、玉座でもある“ゆりかご”に座し動かないからだ。300年前、聖王の支配体制が始まった当初から従っているベルカの王族たちですら、聖王の姿を見たことはないらしい。同様に、侍従や兵が召し上げられることもない。なので、“ゆりかご”と“聖王”の現在を知る者がいるとすればただ一人、“側近”として“ゆりかご”の出入りを許されている“ヨル”と呼ばれる女性だけ。

それでもその支配体制が揺ぎ無いのは、各地を治める“王たち”の力と、彼らを統べる“聖王”の最大戦力である“ゆりかご”が極めて強力だからだ。そして、直接姿を見せることはなくとも、“ゆりかご”で各地を巡り、通信や“ヨル”を使者として“代行者”達に都度指示を与えているからに他ならない。

ただ不思議なことに、普段は各世界を巡っているはずの“ゆりかご”だが、いまはここベルカにずっと滞在しているらしいが。

 

もちろん、それらの情報は一般人が知る範囲を超えている。なら、なぜアトラはそれらのことを知っているのか。

 

「そら簡単な話や。ウチも王の一人やからな。こっからず~っと東に行ったところにある“黒の国”を治める“黒王”、それがウチやから」

 

“偉いんやで”と割と薄めの胸を張るのだが……いまいち威厳がない。というか、子どもが頑張って背伸びしている感が何とも。

いやいや、それ以前に王様が護衛もつれずに他国をほっつき歩いていていいのかという問題もあるわけで……いや、この世界で護衛をつける必要性はあまりないのか? だがしかし……という疑問は、ダ・ヴィンチによって否定される。

 

「いやぁ、その心配はないんじゃないかな。その身体、多分人形か何かじゃないのかい?」

「おぉ!? ようわかったな……正解や。この体はエレミアの一族に伝わる義肢技術を応用した義体なんよ。ウチの本体は、いまもちゃ~んとお城におるよ」

「フォウ!」

「でも、あの……」

「ん、何か聞きたいことでもあるん?」

 

相手が現役の王様と知り、さすがにちょっと尻込みした様子のフェイト。そこへ、あまり物怖じしないなのはが疑問を引き継ぐ。

 

「それでも王様がこんなところにいていいんですか? お仕事とかいっぱいあるんじゃ……」

「ウチの国のみんなは優秀やからな。多少さぼっても問題ないんよ」

 

実際には、いっつも義体で根無し草をしている主君の放浪癖を治すことを諦め、最低限の仕事しか回さないようにしているだけなのだが……言っていることは間違っていないか。

 

「でもよぉ、エレミアなんて王いたっけ?」

「……昔のことは私も記憶が曖昧だからな。あまり自信はないのだが……」

「私も、ちょっと心当たりがないですね」

 

と、守護騎士たちは首をひねるが、彼女たちの疑念は正しい。

元々、エレミアの一族は王族でもなんでもない流浪の一族だった。しかし、アトラの先祖は三百年前に“ゆりかご”に乗った“聖王”オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと友誼を結んでいたらしい。その縁と卓越した武技から、統治する者のいない土地の王となることを任されたらしい。

 

「いやぁ、ウチラはどうも腰の落ち着かん性質(たち)でなぁ。先代も先々代も、み~んなお城を抜け出してフラフラしとったんよ」

 

とはいえ、一応責任ある立場なので本当にフラフラされては困るし、いざという時に連絡が取れないのはもっと困る。というわけで、義体に意識を移して本体は王城にとどまるという、今のスタイルに落ち着いたらしい。

傍から見ると、自室で眠っているだけに見えるらしいが、良く臣下たちはついていってくれているものである。なにより、臣下たちの苦労が偲ばれるばかりだ。

 

「まぁ、やることもあったからなんやけど」

「ん?」

「いやいや、こっちの話や。それで、そろそろそっちの話も聞かせてくれへん? ことと次第によっては、協力できることもあるかもしれへんよ?」

 

ゴルドルフたちの方で提示しても良い情報とそうでない情報を慎重に見極めながら、立香たちも自分たちの状況などを伝えていく。

 

ただし、あえて隠したことも少なくはない。

その一つが、自分たちが別の世界(宇宙)からの異邦人であること。アトラには、聖王の支配領域の外から来た、と言って誤魔化した。

まだ推論の段階だが、可能性は否定できない。この事件の解決は、ただ“二つの世界(宇宙)を別つ”だけでは済まないかもしれない、と。そうなれば、最終的に待っているのは……。

 

だがそれとは別に、突っ込んだ話が必要な部分もある。

例えば、カルデアの観測機器が“ゆりかご”内部から特殊な反応を検知したこと。そしてそれが、自分たちの探し物である可能性があることも。

 

「……つまり、君らの世界の問題解決のために、“ゆりかご”にある“なにか”が必要と?」

「かもしれない、だけどね」

「ふ~ん……」

 

思案を始めると同時にそれまでの溌剌さは鳴りを潜め、どこか風格めいたものを漂わせるアトラ。

これまでの話から考えて、“ゆりかご”ひいては“聖王”とコンタクトを取るのは容易なことではないのは明らかだ。基本的に直接下界に干渉してくることはなく、概ね“代行者”たる“王”に一任されている。“聖王”が直接動くのは、“王”達に指示を下す場合や、“代行者”から現在の法について改正などが行われる際の審査を求められた場合。

 

そして、今回の様に単に“法を犯した”に収まらない事案が発生した場合だ。

なんでも、重大な事案が発生した場合にはいくつかの段階があり、まず現地の“代行者”が動き、それでも処理しきれない場合には“ヨル”が、最終手段として“ゆりかご”が直接動くらしい。まぁ、この三百年の間に、“ゆりかご”が動くほどの事態になったことはほとんどないらしく、“聖王”の支配体制が始まった当初を除けば、“ヨル”が動くことすら百年に一度あるかないかなのだとか。

だが今回は、そうそうに“ゆりかご”が動いた。これは、まぎれもない異常事態である。“ゆりかご”がベルカにとどまり続けていることと、何か関係があるのかもしれない。とは、アトラの弁だ。

 

「なぁ、アトラさん。良ければ、“ゆりかご”…“聖王”につないでもらえへん? 王様のアトラさんなら……」

「……………………よし! ちょう行ってほしいところがあるんやけど、ええか? ええな! せやったらそこで合流や、ほな!」

「「「へ?」」」

 

唐突なアトラの申し出に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。

しかし彼女は待ってなどくれず、むしろそれを了承の返事と受け取ったのか、地図を広げて場所を指定すると義体との接続を切ってしまう。

困惑するばかりだが、現状唯一の手掛かりであるアトラとの関係悪化は何としても避けたい。彼女がどんな意図を以て“合流地点”を指示したのかは不明だが、今はそれに従う他あるまい。

 

誰との合流するための指示なのかは、一抹の不安があるが。

 

 

 

それから、シャドウ・ボーダーが目的地につくまでの間、アトラが義体と再接続することはなかった。

目的地である森に到着したのは数日後、待ち受けていたのはアトラの本体…ではなく、碧銀の髪の偉丈夫だった。

 

「……来たか。君たちが、カルデアだな」

「あ、はい。そうです! 人理継続保証機関カルデア所属の、マシュ・キリエライトです。こちらはマスターの……」

「藤丸立香です」

「こちらはフォウさんです」

「フォ~ウ」

 

そのまま各自簡単な自己紹介をしていく。青年はしっかりとそれぞれの顔を見据え、声に耳を傾ける。全力で相手の顔と名前、声を覚えようとしているのがよくわかる。

 

「それで…えっと、あなたは?」

「丁寧なあいさつ、痛み入る。早速自己紹介を……と行きたいところだが、少し待ってくれ。

 ほら、起きろアトラ! いつまで寝ている、この寝坊助!」

 

大股で近づいてきたかと思うと、ザフィーラが背負ったアトラの頭に拳骨を落とす青年。するとどうしたことか……

 

「あたっ!? なにすんねん、ウォル兄!?」

「お前がいつまでも寝たふりをしているからだ。まったく、いくつになっても楽をしたがる。

確かに彼らを見つけたのはお手柄だが、今やお前も“黒”の名を引き継いだ“王”の一人なんだぞ。その自覚を持ってだな……」

「う~、小言は勘弁してぇな……」

「私とて好きで言っているわけじゃない。だいたいだな……」

 

どうやらこの二人、所謂幼馴染という奴らしい。で、青年の方が年上かつ生真面目なしっかり者なことから、兄貴分として面倒を見ていて、今なおその関係性が続いている、と。

二人の間柄はわかったが、仮にも“王”の一人にこの口ぶり。普通なら不敬なはずだが、不思議とそんな印象はない。というか、闊達すぎてあまり威厳などを感じさせないアトラと違い、青年の方にはにじみ出る気品と風格がある。この時点で、なんとなく青年の正体が分かった気がした。

 

「う~、もう堪忍してぇ~……」

「まったく……。と、失礼。みっともないところをお見せした」

「あ、いえ……」

「その、お気になさらず」

「感謝する。私はウォルフ、ウォルフ・イングヴァルト。若輩ながら、“覇王”を名乗らせてもらっている」

(やっぱり……)

 

なんとなく、そんな気はしていた。アトラが指定した場所は、ギリギリ覇王領に含まれる森だ。そんなところに、明らかに貴顕の出とわかる人物がいたので、真っ先に浮かんだのだが……正解だったらしい。

 

そして、アトラが義体との接続を切った……つまり、本体の方で行動していた理由は彼と接触を持つためだったのだろう。

 

「申し訳ないが、抜け出していられる時間はそう多くない。事情は、お歴々から聞いてくれ。さ、こっちだ」

 

そう言って先導するウォルフに続く一同。

案内されたのは、森の奥深くにある猫耳っぽいものをはやし、黒いローブを纏った人々が暮らす集落だった。

 

「まぁまぁ、殿下……いえ、今は“陛下”でしたね。ご即位、おめでとうございます。ご挨拶にも向かわず、誠に申し訳なく……」

「気にしないでくれ、長。あなた方に墓守を押し付けたのは我々だ。その役目のせいで、随分と不自由を強いている。詫びと感謝、あなた方に向けるものは他にない」

「ありがとうございます。あのわんぱく坊やが、随分とご立派になられて……」

「む、昔の話はよしてくれ。それに、アトラに比べれば“僕”など……」

「あ、ズルいでウォル兄!? ウチを引き合いに出すやなんて!」

「アトラ様も、お元気そうで何よりです。相変わらず、王城は窮屈なご様子で……ですが、旅も程々になさい。糸口を見つけるのも大事なお役目の一つなのは、皆理解していることでしょう。ですが、いくら義体とはいえ、心配をかけるものではありませんよ」

「い、いやぁハハハハ……気を付けます」

 

進み出てきた老婆とはどうやら旧知の中らしい。むしろ、“思わず”とばかりに口調から堅苦しさが抜けたり、バツの悪そうな顔をしたりしている。それにしても「お手柄」発言や「お役目」とやらから推察するに、アトラが旅をしていたのは放浪癖だけが理由ではなさそうだ。きっと、彼女…いや、エレミアの一族は何かを探していたのだろう。そして、その末に立香たちを見つけたのだ。

 

「それで、本日はどのようなご用向きで?」

「……墓所への案内をお願いしたい」

「……それは、お二人の総意と受け取ってよろしいのですね?」

「ああ」

「うん」

「承知しました。……そうですか。ようやく時が来た、ということでしょうか。三百年…長かったのか、それとも短かったのか」

「まだ分からない。だが、機会を逃すべきではないと思う。だからこそ……」

「うん。会って、貰いたいんや」

「そうですね、その通りでしょう。では、こちらに」

 

感慨深げに空を見上げた老婆に先導されながら、さらに森の奥へと入っていく。

間もなく、辛うじて前を歩く者の輪郭がわかるという濃密な霧に覆われる。それでも何とかはぐれることなく進んでいけば、何かの境界線の様に唐突に霧が晴れた。そこにあったのは、三つの墓石。

 

「こちらです」

 

そのうちの一つ、中央の墓石の前に立った老婆が詠唱と思われる言葉を紡ぐ。すると、墓石が姿を消し人一人が辛うじて通れるという程度の幅の、地下へと続く階段が姿を現した。

 

「魔女術か」

「そうみたい。ベルカやミッドとはだいぶ違うから、昔はだいぶ手を焼かされたわねぇ」

 

ザフィーラとシャマルのつぶやきを他所に、さらに奥へと進んでいく。

いったい何段の階段を降りたことだろう。やがて階段は終わりを迎え、広く天井の高い空間に出た。

そこに鎮座していたのは……

 

「生体ポッド?」

 

担当する事件の関係上、目にする機会の多いフェイトが零す。

鎮座していたのは2基の生体ポッド。そして、そのどちらもが使用中。つまり、中に誰かが入っているということだ。

 

「はやてちゃん」

「気付いたか、リイン」

「はいです。なんだか、アトラさんとウォルフさんに似ていませんか?」

「まぁ、当然やね」

「ああ、何しろこの二人は私たちの先祖。右がクラウス・イングヴァルト」

「左の方が、初代“黒王”のヴィルフリッド・エレミアや」

「「「……」」」

「さあさ、詳しおい話はまた後で。まずは、お二人にお目覚めていただきましょう」

 

沈黙が場を満たす中、里長が手を叩く。長は中央のコンソールの操作をはじめ、アトラとウォルフはそれぞれポッドに併設された何らかの機材に手を添える。どうやら、両者の直系であることを確認するための装置だろうと思われる。

 

間もなく操作は終了し、白い煙を吐き出しながらポッドが解放される。

数歩下がったアトラとウォルフはそれぞれに跪き、かつての王たちを出迎えた。

 

「お加減はいかがでしょう」

「お二人が眠りについて三百余年。遅くなり、誠に申し訳ございません」

「覚醒は良好だよ。それと、時間のことは気にしなくていい。そうだろ、クラウス」

「ああ。むしろ、よく三百年もの間付き合ってくれた。こんな、僕たちのワガママに……本当に、感謝している」

「勿体ないお言葉です」

「あなたが、今の魔女たちの長ですね」

「はい。ご尊顔を拝謁する誉に浴し……」

「よしてください。クラウスはまだしも、僕は流浪の身に過ぎません」

「ズルいんじゃないか、リッド」

「事実だろ、クラウス……いや、陛下と呼ぼうか?」

「僕たちの間で、それは今更だろう」

「確かにね。そもそも、本来僕たちは“王”なんて柄じゃない。末裔たちには窮屈な思いをさせてしまったし、あなた方にも……」

 

積もる話は絶えないが、まずは……と、ウォルフが音頭を取る形で、カルデア・管理局側との話し合いが始まる。

カルデア・管理局側の伝えるべきことは既にウォルフたちに伝えてあることから、主になるのはクラウスたちのことだった。

 

簡単に言ってしまえば、彼らは“ゆりかご”に乗った“オリヴィエ・ゼーゲブレヒト”…クラウスとヴィルフリッドことリッド、二人の友人を取り戻したいのだそうだ。

“ゆりかごの聖王”とは伝承にあるような英雄ではない。ゆりかごという巨大兵器を動かすための“鍵”であり、玉座を守る生きた兵器。自我さえも奪われ、僅か数年でその命を燃やし尽くす。そうして、王の死と共に“ゆりかご”は再び眠りにつく。

かつての戦乱期、オリヴィエは人質を兼ねてシュトゥラ…現在の覇王領に“留学”という体で送り出された。そこで当時王太子だったクラウスと出会い、学士として“食客”扱いでゼーゲブレヒト家に身を置いていたリッドも後に合流。三人は共に競い、学び、語らいながら4年の月日を過ごす。

 

だがある時、聖王連合は「ゆりかごの起動」を表明。そのための「玉座の王」の候補者の招集を開始した。結論を言えば、様々な思惑の結果としてオリヴィエがその役目を負うことになる。

 

二人は止めようとしたが叶わず、オリヴィエはゆりかごと共に灰色の空に昇った。

 

「この辺りまでは、たぶんこっち側の世界と同じ歴史なのかな」

「おそらくは」

 

クラウスたちとの話し合いを終え、今後の予定はまた翌日……ということになり、とりあえず里へと引き換えしてきた一同。ウォルフはあまり長い時間、城を開けるわけにもいかず引き返し、クラウスたちは里に泊めてもらうことになった。だが、立香たちは情報をまとめ今後のことを協議するべく、シャドウ・ボーダーまで引き返していた。

とそこで、スペース・ボーダーとの通信回線を開いていたダ・ヴィンチが口を開く。

 

「紫式部は何か聞いてないかい? 確か君、時々無限書庫の手伝いに行ってたよね?」

 

彼女はその在り方と能力から、カルデア図書館で管理者兼司書を務めるだけでなく無限書庫にも顔が利く。

ダ・ヴィンチが言った通り、本の整理や防衛機構への対処等々……結構重宝されていたりする。ただ、問題がないわけでもない。例えば、カルデア図書館には無限書庫にもない書物があることからユーノなどが興味を示していることだ。とはいえ、魔術書をはじめとした曰く付きの代物も少なくないので、今のところは立ち入りを制限させてもらっているのだが。

 

閑話休題。

それでも紫式部が無限書庫に顔が利くのは事実。おかげで、色々な書物に目を通している。そんな彼女なら、その辺の歴史的なことも知っているかもしれないと考えてのご指名だ。

 

「ええ、読んだことはございます。ですが、そのあたりについてはまだ研究途上で、定説と呼べるものはなかったかと……」

「そうか……まぁ、具体的な分岐点の考察は後回し。今重要なのは、オリヴィエが乗って以降、一度も“ゆりかご”が停止したことがない、ということだ」

 

玉座に座り、物言わぬ兵器として命を燃やし尽くすのが“聖王”の運命。二人も、残念ながらそのことは受け入れている。しかし、ならばどうしてオリヴィエが乗って三百年が経った今でもゆりかごは止まらないのか。

考えられる可能性はいくつかある。一つは、ゆりかご内部で新たな“玉座の王”が選定され代替わりが続いている場合。他にも、最早ゆりかごは“玉座の王”を必要としていない可能性もある。各地の王たちが手にした力を考えれば、ありえなくもない話だ。

 

だが、正直二人にとってそれらの可能性はどうでもよい。

重要なのは、未だオリヴィエが“ゆりかご”に囚われているという事実。最早彼女を救い出すことは叶わない。しかしせめて、オリヴィエを彼女が愛した土地に、彼女を愛した人々の眠る場所に葬ってやりたい。

ただそれだけを願って、二人は永きにわたる眠りについた。“記憶継承”という特殊な技術で子孫に想いを残し、チャンスを待ち続けていたのだ。

 

「ですが、アトラさんやウォルフさんのお話ですと、現“聖王”との直接交渉は難しいのですよね」

「みたいだよね。基本、事務的な報告しか受け付けてくれないらしいし」

 

事実、“聖王”と“ゆりかご”によってベルカが平定され、恭順を示した王たちを“代行者”に世界を統べるという支配体制が始まってすぐの頃、まだ王の座にあったクラウスや新たに任じられたリッドはその旨を要請したことがある。

しかし、答えは一つ“ゆりかご内部は聖域につき、人とモノを問わず不出とする”。ゆりかごへの出入りを禁ずる理由もわからないではない。アレは世界の平定と並行して、危険な兵器や魔導器を破壊し、破壊できないものは内部に封印してきた。それが外部に漏れることを畏れてのことだろう。

人の出入りを制限するのも、万が一にも持ち出される可能性をなくすためだ。

 

特に、“ゆりかごの聖王”となるためには“聖王核”なる物が必要らしく、核を摘出したとしても、その影響を受けた肉体を外部に出していいのかはわからない。少なくとも、詳細を知らないクラウスたちでは判断がつかないことだ。だから、オリヴィエの遺体が引き渡されないことは理解できないこともない。

だがその上で、二人はオリヴィエをちゃんと弔ってやりたい。友人として何もできなかった自分たちが彼女にできる、それが最後の親愛であり友情だから。

 

「話してダメなら力で……っていうのは、仕方がないことなのかな」

 

そして、それがクラウスたちの出した結論だった。

とはいえ、いくら“王”として絶大な力を誇る二人に加え、当代の“王”達がいるとはいえ、それでもゆりかごを落とすには到底足りない。だからこそ、彼らは待ち続けていたのだ。現状を打破し得る、そんなきっかけを。アトラ…というか、放浪癖を抱える“黒王”の役目とは、どうせフラフラするのは止められないし、そのついでにきっかけとなるものを見つけ出すことでもあったわけだ。

 

「……アトラさんたちは、それで良いのでしょうか? この世界の在り様に、私は違和感と反感を覚えずにはいられません。ですが、事実として世界は平和で、荒廃したベルカは回復に向かいつつあります。なのに……」

「二人も言ってたよね、“最善ではないが最良なのは認める”って」

「そのあたりは、彼女たちが他の面々と違って過去の記憶があるのが理由だろうね。だからこそ、この世界の在り様に私たちに近い感覚を覚えるんだろう。個人として先祖の悲願を叶えてやりたいという思いと、それとは別に“王”として今の世界の在り様を善しとしない考え、その両方が」

 

個人としても王としても、ゆりかごを落とす。それが、当代の“王”であるアトラとウォルフの意志だ。

そしてそれは、カルデア・管理局組の利害と合致する。故に、共同戦線は必然だろう。

 

たとえその後に、決定的な破局が待っているとしても……。

 

「先輩、皆さんにそのことは伝えなくてよいのでしょうか? 今はまだ可能性の段階かもしれません。ですが、だとしても……」

「伝えるべき、なんだと思う。だけど俺は、伝えたくないと思っている。知らないことが救いになることって、やっぱりあるよ。それが、知っている側の傲慢だとしても」

 

ズルいということは理解している。立香が同じ立場なら、やはり知りたいと思う。きっとあの子たちも、“一緒に背負う”ことを望むだろう。

しかし、その上で……

 

「でも、そこはお互い様だと思う。きっと、フェイトたちが同じ立場でも、自分たちだけで背負おうとするだろうしさ」

「それは……」

「お互いにワガママなんだ、俺たちは。“一緒に背負わせてほしい”と思うくせに、逆の立場になったら自分だけで抱え込もうとする。なら俺は、自分のワガママを押し通そうと思う」

「……………………………………はい、私も同じです。皆さん、とても優しい人たちですから。知れば、きっととても苦しむのだと思います。私たちは、その重さと苦しさを知っています。だからこそ、こんな重荷を背負うのは、私たちだけでいいはずです」

 

1と2に大差はないが、0(ない)1(ある)には途方もない開きがある。それと同じだ。

既に背負っている者が背負えばいい。

今までの道行きを考えれば、“きっと碌な死に方はしないんだろうなぁ”と立香は思っている。同じような道を、あの子たちが進む必要はないはずだ。それが、どうしようもなく身勝手で、傲慢な、ワガママだと知った上で。

そのために、あの子たちに嘘を吐く。何も知らないふりをするのだ、全てが終わるその瞬間まで。

 

「ま、あの子たちの場合だと“他にも方法が……”と言い出しかねないしね。現状、あるかないかもわからないものに時間を割く余裕はないし、あったとしても研究・実現に漕ぎ着けるための設備もない。

 彼女たちの不屈さは、また別の機会に発揮してもらうとしよう」

 

なのはたちの在り様は決して嫌いではない。通じる部分はあるし、共感もしている。それがあの子たちの強さでもあるのだから。

だが、今それは不要なものだ。今必要なのは、いつ訪れるかわからない限界点を迎える前に事態を打開する、そのための“迅速な対処”なのだから。

 

「とりあえず、具体的な作戦を講じることにしよう。私としては、各地の王を“倒す”まではいかないにしても、ある程度混乱させておきたいところだね。でないと、本命に仕掛ける時にまとめて相手をする羽目になりかねない。

 アインス…こっちでは“ヨル”と呼ばれていたかな。彼女の相手は八神家の諸君が担ってくれるらしいとは言え、“ゆりかご”だけでも十分すぎるくらいに難敵だ。不安要素や横槍は極力排しておきたいからね」

 

まぁ、その王たちも戦乱期よりも能力が強化されているので、十分すぎるくらいに厄介なのだが。とはいえ、ゆりかご攻略中に大挙して来られるよりはマシだろう。

一応、現“覇王”(ウォルフ)現“黒王”(アトラ)の二人が内部から切り崩しを図っており、何名かはこちら側についてくれそうな目星をつけているそうだが。それでも、戦力的に圧倒的不利な状況に変わりはない。こういう時は、直接頭を叩いて盤面をひっくり返すに限る。カルデアにとっては、割と慣れた戦いだ。

 

(とはいえ、流石に何もかも隠して…というのは問題か。こちら側と違い、管理局とはこれからもよろしくしていかなきゃならないわけだしね。ゴルドルフ君とも相談して、“彼”には一応伝えておいた方が良いかな)

 

 

 

同じ頃、クラウスたちと共に里に宿をとっていたなのはは、星空の下を歩きながら目当ての人物を見つけていた。

 

「フェイトちゃん、眠れないの?」

「なのは……うん、ちょっとね」

(また、何か考えてる顔してる……)

 

此方側に来てからというもの、フェイトは物思いに耽ることが多くなった。

何を考えているのかは、付き合いも長く、自他ともに親友と認めるなのはにもわからない。

 

ただ、ふとした拍子にフェイトが今にも消えてしまいそうに感じることがある。

そんな儚さと危うさ、眼の奥にある悲しい光はどこか出会ったばかりの頃を彷彿とさせて……。

だからこそ、心配でならない。

 

「……フェ」

「大丈夫だよ、なのは」

「え?」

「私、強いから」

「……」

「どこにもいかないよ。帰る場所がある、帰りたい場所がある。とても暖かい、私の居場所。だから帰るよ、みんなのところに」

「……ん、約束だよ。ちゃんと、みんなで帰ろう」

「うん、約束」

 

小指を絡めて、指を切る。

その思いは嘘じゃない。帰るべき場所に帰る、その思いは本物だ。

そう、本物だからこそ……ちゃんと連れ帰らなければならない、彼もまた。

 

(こっちに来てから、ずっと感じていることがある。……ううん、違う。これは前から感じていたこと。心の奥、そのずっとずっと深いところにあったものが疼くんだ。オモイダセって)

 

想起しようとすると、意味のない断片が過る。時に風景が、時に人が……それらは、知らないはずのナニカ。

なのにどうしてだろう。どうしてこんなにも、胸が苦しい。

 

(っ……落ち着いて、ゆっくり、焦らずに)

「フェイトちゃん?」

「大丈夫、大丈夫だよ」

(全然大丈夫そうじゃないよ、そんなに顔を青くして。震えているの、自分じゃ気付いてないんだよね)

 

指摘しようかとも思うが、フェイトがアレで頑固なのはよく知っている。きっと、指摘したところで意味はないだろう。

ならばせめてと、なのははフェイトの身体を優しく抱きしめる。自分の熱を、少しでも分け与えるように。

 

(……そう、大丈夫。私は一人じゃない、なのはがいる、母さんがいる、みんながいる。そして、立香がいる。一人じゃない、だからきっと……)

 

決意を固めようとすれば、“ナニカ”が押し寄せて訳も分からぬままに心が切り刻まれる。

これはきっと悲嘆であり、絶望であり、慟哭であり、悔恨なのだろう。

 

狂おしいまでの感情の奔流。

気が触れてしまいそうなそれに飲み込まれ、自分で自分がわからなくなりそうになる。訳も分からず叫びたくなる衝動を必死に抑え、一つ一つ探っていく。自分を襲う、“ナニカ”の正体を。

 

探れど探れど、答えは出ない。これが一体何なのか、どこから来て、どこへ向かうものなのか。何一つわからない。

でも、一つだけ……決めたことがある。せめて、逃げることだけはすまいと。

向き合って、受け止めて…それだけで総身が震え、足が竦むけれど、それでも……その向こうにはきっと、大好きで大切な、彼がいる。

 

(……そうだ、決めたんだ。もらったものを、一つずつ返していこうって。あの人を守れるくらい、強くなるって)

 

それは幼い頃、胸に宿った想いを自覚した時から抱いていた決意。

 

(きっと、今がそうなんだ。昔から見ていた不思議な夢も、ほとんど忘れてそれでも残った“ナニカ”も、全てはこの時のためにあったんだ)

 

悲鳴を挙げながら飛び起きたこともあった。涙がとめどなく溢れたこともある。酷い時には胃の中のものを吐き出し、起き上がれなくなることさえ。でもそれらすべてに、きっと意味があったのだ。

 

(進むんだ、立香がそうしていたように。たとえその先で……)

 

どうしようもなく辛い決断が待っていたとしても。せめて逃げて、目を背けることだけはしたくない。それをすれば、もう彼の隣に立つ資格はないのだろうから。

 

(……ううん、違う。資格なんて、いらない。そんなものより、ずっと大事なものがある。そのためなら、この関係すら失っても悔いはない。怒られて、嫌われることになったとしても……)

 

きっと泣いてしまうだろうけど、それでも“一番望む”モノだけは見失わない。本当はもっともっと、彼のすべてが欲しいけれど。

 

(欲張りな私だけど……大丈夫。“一番”を零すことだけは、絶対にしない)

 

一番に願うものも、一番に欲しいものも、一番見たいものも。何もかもいつだって一つ。なら、そのためにできることをしよう。

 

(それが、“悪い”ことだとしても)

 

自分自身の意志で決断し、責任を負う。それ位なら、自分にもできるから。

 

 




そういえば、第二部は異聞帯を滅ぼしていく旅なわけですが、まさか「滅びる」ことが目的だったりしないよね? 本来、最終的に異星の神の側がやるはずだったことを、結果的に肩代わりしてるだけとか。
例えば、空想樹の伐採と異聞帯の消滅でエネルギーを回収するとか、世界そのものを不安定にしてより大きな異物を展開・根付かせるための下拵えだったりとか……そうすると、滅ぼされた側も滅ぼした側も救われねぇよなぁ。
だって茶番だし。滅ぼされた側は再度消えるのを前提にされているわけで、滅ぼした側も掌の上…どころか、敵の手間を省いてあげちゃってるだけになるわけだし。

ふとした思い付き、その2でした。もしこんな感じの展開だったら……それはそれで善し。多分気付くのは終盤とかになるけど、そこからどうやってひっくり返すのかとかも楽しみ。
ペペの時みたいに、キリシュタリアと利害の一致から一時的に共闘、最終的に河原で殴り合ったりしてほしい。いや、河原はないだろうけど。



しかし、SW2の後だと立香がアルフに連行されてフェイトの拠点で監禁生活を送っていたの、割と違和感ありませんね。
誘拐されたと思ったら宇宙要塞で外は当然の如く宇宙、そんな状況で熟睡し、あまつさえ呑気に腕立て伏せ。監禁されているのに”素敵な部屋ですね””快適”とか言っちゃうし………………なんだ、余裕じゃん。つまり原作通り(納得)。
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