とりあえず、今年は超人オリオンとシャルロットがどんなのになるのか興味が尽きません。
―――あ、お話終わりました?
おぅ、わりぃなせっかくの休みに。機密とか考えっと、通信で済ますっつーわけにもいかなくてなぁ。
―――いえいえ。そうだ、お茶のおかわり如何です?
おう、頼む。
―――あとこれ、試作で申し訳ないんですけど、よければ感想聞かせてください。
チョコ? ……そういや、そろそろバレンタインだっけか。妙に甘い匂いがすると思ったが、もしかしてなのはと作ってたのか?
―――まぁ、この手のことはママに教わるのが一番ですから。
ん……流石にいい味してるな。その年でこれだけできりゃ上等だろ。競技選手、学者、公務員、聖職者、それに加えて喫茶店…未来の選択肢が多いのは良いこった。
―――えへへ~。
で、どうなんだ。
―――どう、って?
意中の相手とかいねぇのかって話だよ。
―――え!? い、いやぁ、今のところそういうのは私にはまだ早いかなぁって……。
そうか? お前くらいの頃には、なのはもフェイトも結構本気で作ってたんだがなぁ……。
―――八神司令…は聞くまでもないですね。
おう。ちなみに、当時は士郎の奴も菓子はあんま経験なかったから、何とかマウントとろうとしてめちゃくちゃ気合い入れてたぞ。なのはん家で、揃って桃子さんに教わったりしてな。
―――へ~……。
ま、今じゃそっちも士郎の方が上になっちまったけどな。流石にプロが相手じゃ分がわりぃ。
―――飴細工とか工芸菓子とか、すっごくキレイですもんねぇ……。
基本マメというか凝り性な奴だからな。
―――そういえば、八神家ではバレンタインってどうしてるんですか?
ん? ああ、みんなで作るってのはねぇな。そもそも
―――(ああ、そういえば初めのうちはコロナもピンと来てないみたいで不思議そうな顔してたっけ……)
ま、シャマルとアインス、それに末っ子どもは毎年色々趣向を凝らしてるけどな。
―――じゃあ、六人でワイワイやってる感じですか? あ、もしかしてミウラさんもいたり?
いんや。士郎・はやて組と、それ以外で分かれてる。
―――そうなんですか?
誰だって馬に蹴られたかないだろ?
―――……なるほど、そういうアレですか。あれ、でも八神家の料理師匠枠がどっちも参加しないとなると、誰が主導してるんですか?
聞いて驚け、シャマルだ。
―――えっ!? シャマルさんお料理できたんですか!?
ビックリだろ。アタシも驚いた。
―――でも確か、紅閻魔先生でも匙を投げたって……。
“料理”はな。でも、“菓子作り”なら割と行けるんだわ。
―――何が違うんですか?
なんつーか、“料理人”と菓子“職人”の違いだな。
―――? ? ?
つまりだ、菓子ってのはレシピ通りに作ればまず失敗しないってことだよ。
―――お料理もそうだと思いますけど。あ、もしかしてシャマル先生って変な“おりじなりてぃ~”入れちゃう人ですか?
いや、むしろ几帳面な奴だからレシピ通りに作るぞ。
ただな……ほれ、料理って結構目分量というか曖昧というか、そういうところあるだろ。
良く嘆いてたなぁ、やれ「“お好みで”って何!?」だの、「適量って何グラム!?」だの、「一口サイズってみんな口の大きさ違うんだけど!?」だの、「トロ火って何度から何度まで!?」だの、「じっくり火を通すって具体的に何時間何分なの!?」って具合にな。
―――あ~、そういうこと……。確かに、その点で言えばお菓子はキッチリしてますもんね。
ま、それでも偶に失敗することもあるけど、そういう曖昧な表現がある時だけだ。そうじゃなければ、まぁ割と何とかなる。
―――でも、考えてみれば当然ですよね。繊細な手術ができるくらいに手先が器用で、お薬の調合もできるって聞いたことありますし、お料理ができない理由がないんですもん。
細かすぎてかえって失敗する、メディアとかと同じだな。
―――メディアさん……あの、無理に答えなくてもいいんですけど……。
あん? どうした、別に知らねぇ仲でもねぇんだし、ガキが遠慮なんかすんな気持ちわりぃ。
―――えっと、守護騎士の皆さん的にサーヴァントのみんなってどういう風に考えてるのかなって。
どう、って言われてもなぁ。まぁ、親近感じゃねぇが、近いもんは感じなくもねぇよ。
“自分で選んだわけでもない主に使われる”って意味じゃ、似たもん同士だろうしな。
つっても、途切れ途切れだったり思い出せなかったりするとはいえ、一応記憶の連続性のあるアタシたちと、基本一回限りの第二の生を繰り返すあいつ等じゃ、やっぱ色々違うだろ。むしろ、アタシらもそうだったら…主が変わるごとに完全に初期化されてりゃ楽だったのになって思わないでもねぇ。
でも、例外ってのはいるもんだ。だからってわけじゃねぇが……エミヤの奴には同情する。
―――エミヤさんって、あの赤い人ですよね。
ああ。士郎の、あったかもしれない可能性だ。あいつは、かなりアタシたちに近いんだと思う。
……いや、逆だな。アタシらがアイツに近いんだ。別にやりたくもねぇことを何度も何度も繰り返して、色々なことに嫌気がさす。自分に、人間に、世界に……全部じゃねぇけど、気持ちはわかる。はやてと出会う前のアタシも、そんな感じだった。
だけど、アタシには仲間がいた。悪態ついて、当たり散らしてばかりだったけど、それでも仲間がいることに救われてた。でも、アイツには
たった一人で、何度も何度も戦って、何度も何度も裏切られて、何度も何度も救いようのねぇ後始末を押し付けられる。よくもまぁ、あんなお節介なままでいられるもんだよ。根が士郎だからなのか、それとも何か理由があるのかまではわからねぇけどな。あんま親しくしねぇし。
―――そうなんですか?
避けてるつもりはねぇんだが、やっぱり変な感じがするしな。あとアレだ、士郎に対して滅茶苦茶大人げねぇ。
―――はい?
アイツの料理を「小姑か!?」って感じでディスったり、遊んでるところに乱入してガチで顔面潰しにかかってきたりするんだよ。同情はするが、仲良くは出来ねぇ。
―――そ、そうなんですね……。
むしろアタシとしては、立香の奴の方がな……。
―――立香さんですか?
シグナムたちがどう思ってたか知らねぇけど、アタシは正直歴代の“夜天の書”の主に対していい感情は持ってねぇ。どっちかつーと、ほとんどの場合「こんなのが主かよ」って思ってた。
―――そう、なんですか?
“夜天の書”の主だから従ってただけで、忠誠心とかゼロだったからな。むしろ、主じゃなかったらさっさとアイゼンの頑固な汚れにしてた奴も多い。
……アタシほどじゃなくても、シグナムたちだって本気で“自分の意志”で頭下げてた主なんてほとんどいねぇんじゃねぇか。それこそ、はやてが初めてだって驚かねぇ、だってあたしがそうだったからな!
……だからこそ、立香の奴はすげぇんだ。徳の高さと業の深さが、ちょっと頭おかしいレベルだし。
―――徳と業、ですか?
徳は徳でも、アイツの場合“人徳”って奴だけどな。
―――はぁ……。
あいつに従ってるやつらの気持ちはわかる。どこにでもいる平凡な奴が、弱っちぃくせに踏ん張ってんだ。助けたくなる、それが人情ってもんだろ?
それも、アイツが向き合ってきた現実は最悪だった。
鍛えた身体も、礼装の守りも、詰め込んだ知識も、アイツが対峙してきた
―――怖い…ですよね。
アタシには想像も出来ねぇよ。そんな有様で戦場に出るとか、普通なら正気じゃねぇ。
だが、アイツの場合それ以前の問題だ。どれだけ貧弱でも、アイツは戦場に出なきゃならなかった。戦闘の余波でも命があぶねぇし、それこそ視線が合っただけで呪殺できるような奴だっていた。
一つのミスが命取り、ならまだマシな方だ。最善を尽くしてなお勝機がねぇ、いくつもの奇跡があったから乗り越えらえれた。ったく、つくづく“強運”というか“凶運”というか……良くも悪くも引きがつぇんだよなぁ、アイツ。もう“
……ま、その手の奇跡自体が“善因善果”ってやつなわけだけどよ。
―――その上、世界の命運まで背負ってたんですよね。
あいつ自身は、“そこまで考えてなかった”とか言ってるけどな。
だが、事実としてアイツと世界の命運はイコールで結ばれてた。あと一歩どころか半歩のところで辛うじて“滅び切っていない”世界が、立香が倒れれば完全に終わる。世界の命運なんてクッソ重いもんを背負ったつもりはなくても、その事実はどんだけの重圧だったんだろうな。
―――……。
アイツは本来、アタシらみたいな奴に“守られる”側の人間だ。それこそどうしようもないくらいに追い詰められて、自分の身を、大事なものを守るために戦うことを選択する。あるいは、戦うにしたって身の丈に合った、“一兵士”としてが分相応だ。少なくとも、“世界の命運”だの、“超常の戦場”だのは似合わねぇ。
でも、アイツが置かれた状況はそういう本当に“どうしようもない”“戦う以外の選択肢がない”状況で、なおかつ“分不相応”の極みみたいな戦場に立たざるを得なかった。
それはきっと、すげぇ悲劇なんだと思う。それでも“できることがあるなら”って踏ん張ってるやつがいたらよ、助けねぇわけにはいかねぇだろ。
―――そう、ですね。
でもな、サーヴァントの全員が全員そんなことを考えるやつなわけじゃねぇ。むしろ、結構な比率で“人でなし”だぞ、アイツら。
戦争が起きてたって“外敵のせいで種が滅ぶとかでもないなら一々目くじら立てるほどもない”とか、“同族同士で殺し合う余裕があるなら平和だろ”とか素で言う連中だからな。アタシらとは感性が違い過ぎるんだよ。
そんな連中にとっちゃ、強くもねぇ、すげぇ頭がいいわけでもねぇ、将来性だって人並みで、“主と仰ぐ”には足りねぇもんばっかりだろうよ。そしてそれは、他でもないあいつ自身が一番よくわかってたはずだ。
いつ殺しにかかってくるかわからねぇってのに、それでもアイツは、掴まれた手を一度だって放さなかった。それが、すげぇんだ。
―――でも、令呪だってあったわけですし……。
言っとくけどな、アレ気休めにもならねぇぞ。
―――へ?
考えてもみろ。絶対命令権とか言ってるが、動きを止めるのが精々、仮に自害させるほどの効果があっても三画しかねぇんだぞ? つまり、4騎以上で反抗されたら詰む。
―――あ……。
そりゃ守ってくれる連中もいるから、一概には言い切れねぇだろうけどよ。令呪なんぞ当てになんねぇぞ。
―――た、確かに……!?
つまり、ほとんどあいつ自身の“ナニカ”で纏めてるってことだ。制御困難どころの話じゃねぇ連中をだぞ。人徳ってのは、まぁそう言うことだ。
だから、仮に令呪ガメたとしてもあいつらを従えるなんて不可能なわけだ。3騎に主替えを同意させたとしても、残りの連中に磨り潰されるのがオチだからな。
ただ、フェイトの手前あんま大きな声じゃ言えねぇけど…………深く考えるとドン引きする。
―――そ、そこまで言わなくても……。
じゃお前、ちょっと自分で想像してみろよ。神霊だの魔性だの、その手の連中の手綱、ホントに握れるか?
―――辛うじてアステリオスとフランなら、何とか。
いや、アイツらの場合、予備知識に引っ張られずに普通に付き合えば割と何とかなるだろ。まぁ、それだって簡単なことじゃねぇけど、まだマシな部類だ。だけど、他の連中ならどうよ。
―――無理です(キッパリ)。
だろ。
―――確かに、よくよく考えてみると立香さんスゴイ。ちなみに、業って?
あのなぁ、むしろそっちの方が分かりやすいだろ。
闇の書ですら自己崩壊起こす関係で「世界を滅ぼす」ところまで行くことは稀だったんだぞ。下手すると、“世界を滅ぼした数”はアイツの方が上なんじゃねぇか?
―――うぐっ!?
徳の高さは成層圏まで届いてるが、業の深さはマリアナ海溝どころかマントルぶち抜いて地球の裏側から宇宙までかっ飛んでるからな。
フェイトの奴も、見る目があるんだかないんだか……ある意味、究極の地雷野郎だぞ。
―――さすがにそれは言い過ぎなんじゃ……
……逆だろ。マシュみたいに一緒に進んできたわけでもねぇ、一線を引くなりなんなりやりようはいくらでもあったのによ。クッソ重い何もかも全部承知の上でフェイトは立香を選んだんだ。そんだけ、覚悟決めてるんだよ、あいつはな。
―――フェイトさん……。
ま、アイツはアイツで割と重い奴だから、お似合いっちゃお似合いなのかもだけどな。
―――そう、ですね。フェイトさんも、色々あったわけだし……。
いや、そっちじゃなくて…感情的に。
―――はい?
バレンタインになぁ…アイツが贈ったチョコがなぁ…小学生がらしくないというか、なんというか……。
―――な、何を贈ったんですか?
* * * * *
「……なんで素直に受け取ってるんだよ、俺」
カルデアのマイルームに戻って早々、ベッドに腰掛けるとともに頭を抱える立香。その手には、わずか数分前に貰った可愛らしくラッピングされた小箱がある。
「少なくとも、
例によって例の如く、今年もバレンタインがらみで騒動があり、収拾に奔走し、やっとこさっとこ事態が終息したのが数時間前のこと。
その時は、多少申し訳なさを覚えつつも「フェイトと距離を取る」という密かなねらいを果たせそうで安堵していた。が、“さぁゆっくり休もう”と思ったところで、まるで狙いすましたようなタイミングで“彼女”がカルデアを来訪したのだ。
(誰かがいる……)
「ぁ、立香。お疲れ様、大変だったね」
そこにいたのは、頬を朱に染め花開くように微笑むフェイト。いるはずのない場所で、会わないようにしていた相手と出会い、疲れ果てて今にも落ちそうだったのがウソのように立香の瞼が一気に持ち上がる。
“なんで”“どうして”と聞きたいことは山ほどあるが、頭が上手く回らず言葉にならない。
「つ、疲れてるみたいだし、手短に済ませるから……少しだけ、良いかな?」
「あ~……はい」
……後々考えれば、なんとか言い訳してその場を離脱すべきだったのだと思う。まぁ、フェイトとて忙しい身のはずなのに、わざわざ足を運んでもらっておいて無碍にするのもどうかとは思うのだが。しかし、この時の立香にはそこまで考えを巡らせる余裕がなかった。
ただ、一つだけ脳裏をよぎるものがあった。
そう―――――――――――甘い予感がする。
「はい、これ。ハッピーバレンタイン」
そう言って差し出されたのは、黒をベースとした包装紙に黄色いリボンをあしらった小箱。
俯き加減のため顔色はわからないが、耳は真っ赤で、声は緊張と羞恥で堅く震えている。いや、震えているのは手や肩もか。
それを見て、聞いて、彼女がどんな思いと意味を込めて“ソレ”を用意したのかわからないほど、立香は鈍くない。
だからこそ、「これはいい機会だ」と思った。フェイトは立香に対し積極的に好意を示してきたが、ハッキリと形や言葉にはしてこなかった。だが、これは多少苦しいかもしれないが「形ある好意」の現れだろう。
(……そうだ。なら、ここではっきりと「受け取れない」と言うべきだ)
この場で出会うこと自体が不意打ちだったこともあり、若干間は空いてしまったが、前々から考えていたこともあり現状を正しく認識するとともに意を決する。少なくない労力を払って覚悟を決め、立香ははっきりとその言葉を口にする。
「フェイト、気持ちはうれしいんだけどこれは受け……」
「義っ、義理だから!」
「取れな…って、はい?」
いや……しようとしたところでフェイトがインターセプト。
顔を上げ、それはもう焦りまくった調子で何事かまくしたて始める。
「な、なのはたちとチョコの交換とかするから、その練習で作った奴だから!」
「は、はぁ……」
「そう! と、友チョコっていう奴! いつもお世話になってるお礼、それだけ!」
「そう、です、か……?」
「そうなの! べ、別に本命とかそういうのじゃないから!!」
「その割には、包装とか気合入ってる気が……」
「日頃の感謝の気持ちを伝えるんだから、むしろ当然だよ!」
「な、なるほど…そう言われれば……」
「だから! 受け取ってくれるよね! 問題ないよね! だって
「は、はい……」
とまぁ、こんな具合で勢いと共に押し切られてしまったわけだ。矢鱈と「義理」と「友」を強調されては、口を挟み辛かったというのもある。当の本人にそう断言されてしまうと、「本命チョコ」扱いもできない。
今考えれば、フェイトが口を開く前、早々にキッパリと伝えるべきだったのだろうと思う。とはいえ、先手を取られた時点で立香の敗北だったのだ。流石のスピードと言うべきか……まぁ、事前にシミュレーションしていたフェイトと、奇襲を受けた立香では勝負にならなくて当然だろう。これは、戦略レベルでの敗北である。
「にしても、クリスマスと良いお正月と良い……タイミング良過ぎないとは思わない、フォウ君?」
「フォウフォウ!」
下から見上げてくる愛くるしい小動物に尋ねれば、なんとなく「黒幕がいるよ、絶対」と言わんばかりに同意してくれた気がする。
実際、今回もそうだが要所要所でタイミングが良すぎるのだ。立香のスケジュールが空いていると、結構な頻度でフェイトは顔を出すなり連絡を入れるなりしてくる。不在の時や手が離せない時、というのはほとんどない。
加えて、クリスマスや正月など季節ものの行事など、特にそうだ。割と季節ものの騒動が多いので、例えばクリスマス当日に手が空くというのは滅多にない。なのに、今年はどういうわけか当日までには騒動が終息し、今日の様に絶妙なタイミングで会ったり通信で話をしたりすることが多い。
流石にこんなことが続けば、立香でもいろいろ察するというもの。
(誰かが情報を流してる? いや、それだけじゃなくて当日までに事件が解決するように手を回してるのか? そういえば、なんか妙に張り切ってるのがチラホラ……)
しかも、よくよく考えてみるとフェイトと比較的仲の良い面子が多かった。逆に、メルトリリスやジャンヌ・オルタなどはあからさまにやる気がなかったり、むしろ時間をかけようとする素振りがあったような……。
他にも、エレシュキガルもあんまりやる気はなかったのだが、“しょうがないのだわ”と渋々という感じで頑張ってくれていた。生真面目な彼女らしくなかったので、不思議に思っていたのだ。それに、シャルロットも“う~ん”と唸りながら立香の護衛と世話以外のことには積極的ではなかった。
「……あの四人とフェイトって、なんというか微妙な仲なんだよね。単純に仲が良いとか悪いとかじゃないというか……」
「フォウ?」
「……やっぱり、そういうことなのかな」
正直に言えば、理由に心当たりがないわけではない。というか、マシュも割とフェイトとは微妙な仲だ。初めは仲良くできると思っていたのだが、予想に反してそうはならなかった。その理由も…わからないではない。自分で口にするのは、なんというか憚られはするのだが。
ただ、マシュの方があの四人と比べればまだ拗れていないとは思う。
「まぁ、フェイトの性格上メルトと相性が悪いのは当然だし、オルタもフェイトみたいな“良い子”は毛嫌いするから仕方ないんだけど……」
より正確に言うなら、フェイトがメルトを苦手としているだけで、メルトはフェイトを「フィギュア映えする」と思っているのでそこまで非好意的ではない。反対に、フェイトはオルタと仲良くしたいのだが、オルタはフェイトを鬱陶しがるという図式だ。
ちなみに、この面子の中ではエレシュキガルがマシュに続いてフェイトとそこまで拗れていない。ただし、それも「現世ではともかく死後は自分が世話する」と決め込んでいるからこそだったりするのだが。
「でも、なんでシャルロットとあそこまで相性悪いのかな?」
そう、実はこの面子の中で一番拗れているのがシャルロット・コルデーなのだ。フェイトもシャルロットも、お互いに隔意が強い。仲が悪いというのとは少々ニュアンスが違うが、決して相容れないものが横たわっているように感じる。
特にフェイトの場合、シャルロットが近くにいると必ず立香との間に入り、まるで子どもを守らんとする親猫みたいに警戒する。抱く感情的に仲良くなれないのはわかるが、あそこまで警戒する理由がよくわからない。
「フォウ、フォフォフォッフォウフォ――――ッ!」
「フォウ君はわかるの?」
「フォウ!」
“当然”とばかりに強く首を縦に振るフォウ。実際、二人の相性が悪いのもある意味当然なのだ。表面的な部分だけを見ればそう悪くなるようには思えないが、もっと根本的な部分が問題なのである。何しろ、「思い出すなら綺麗な思い出であってほしい」“フェイト”と「綺麗な思い出になどして欲しくない、夢見る度に魘されるほどに覚えておいて欲しい」“シャルロット”では、どうやったところで相容れない。
だからこそ、フェイトは立香とシャルロットの間に割って入る。これ以上、彼を傷つけさせたくないから。
しかし、本人たちも気づいていない。そもそもこれだけの隔たりがあるなら、もっとはっきりと険悪になってしかるべきだ。
なのに、そこまで至らないのはなぜか。それはきっと、二人がお互いの
「フォウ、フュー!!」
「あ、うん。そだね、そろそろ現実逃避は終わりにしないとなぁ……」
そうなのだ。いくら他のことに思考を巡らせても、目の前の現実は何も変わらない。まぁバレンタインチョコを受け取ってしまった以上、することなど一つしかないのだが。
「とりあえず、お返しはクッキーかな。マシュマロは流石に……」
カルデアのバレンタインは少々特殊だ。日本では「女性から男性」に、海外では「男性から女性」に愛を伝えるのが主流であり、日本の場合その際にチョコが贈られる。だが、カルデアだと「女性サーヴァント(一部例外あり)から立香」にチョコが贈られ、「立香から男性サーヴァント(これまた一部例外あり)」にチョコが贈られるのだ。
ちなみに、お返しについては男性サーヴァントは即日が多く、立香はホワイトデーにする。なにしろ、用意する量が半端ねぇのである。また、この際に色々とお返しの菓子の意味とかも調べているので、割と立香はそのあたりに詳しかったりする。
と、立香が「マシュマロ=嫌い」は流石にないので、無難に「クッキー=友達」にしようかと考えていた時、ノックの音が思考を中断させる。
「? はい、どうぞ」
「ヴィヴィ・ラ・フランス♪ ご機嫌ようマスター、少しお時間はよろしくて?」
「マリー? どうしたの?」
軽やかに入ってきたのは、フランス王妃マリー・アントワネットその人。
天真爛漫で懐っこい人ではあるが、どちらかというとマイルームまで足を運ぶことは珍しい。なので素直に尋ねると、常日頃から華やかな微笑みをさらに輝かせ、興味津々とばかりに手元を覗き込んでくる。
「あら、それはあの子からのチョコね、これから開けるところかしら?」
「うん。って、そうか。マリーはフェイトにダンスとか教えてるんだっけ」
「少し、ええ本当に少しだけよ」
義母であるリンディが本格的に派閥を作ったこともあり、フェイトも少なからずパーティなどに足を運ぶことがある。呼ばれる場によっては、所謂「夜会」のようなダンスが社交の一環になっている場もあることから、フェイトも一応学んではいた。なので、技術的なところはほとんど教える必要がなかったのだが、正真正銘の貴顕の生まれとでは一つ一つの所作の品位が違う。
そのことを知っていたリンディが、試しに頼んでみたらマリーは快諾。時間を見つけてダンスやマナーなどを教えているというわけである。マリーの知るそれは次元世界のオーソドックスではないが、本当に美しい所作というのは時代や地域が変わっても通用するものだ。実際、多少の物珍しさはあれども……むしろ、その珍しさを含めて高評価を得ている。
ちなみに、もちろんマナーレッスンなどもカルデアを訪れる重要な理由ではあるが、“口実”にしているのもまた事実。実際、これがなければフェイトがカルデアを訪れる機会は半減どころではなかっただろう。
まぁ、その日程調整で暗躍している女性がいることは、リンディも知らないのだが。というか、そもそもリンディがこんなことを言い出したのも元はアルフがきっかけ。そのアルフも、件の女性の入れ知恵があったりするのだが。
「やっぱり、フェイトってそういうのも覚えが良い?」
「ええ、とっても。ふふっ、何より頑張る理由があるのが大きいわ。綺麗に見られたい、それはとても重要なことですもの」
もちろん、マリーはフェイトの頑張り動機を知っている。むしろ “頑張る女の子”は応援したいし、それが“恋する乙女”ならばなおさらだ。
「ねぇマスター、よろしければ私も見てもいいかしら?」
「あれ、マリーはもらってないの?」
「もらったわ。百合のホワイトチョコよ、ステキでしょ?」
「なるほど……それって手作り?」
「ええ、もちろん」
彼女の親友の母親がパティシエなので、教わりながら作ったのかもしれないが大したものである。
「それで、マスターのチョコはどんなものかしら?」
「待ってて、今開けるから」
リボンを解き、丁寧に包装を剥がしていていく。おそらく、これもフェイトが自分の手でやったのだろう。綺麗に包んではいたが、リボンがちょっと左右非対称だったりしたのはご愛敬だ。微笑ましく思う、思うのだが……実は密かに覚悟を決めていた。それこそ、ハート形のチョコくらい飛び出してもいい様に。
しかし、蓋を開けてみると……
「これは……バラ?」
「あら? あらあらまぁまぁ♪ あの子らしい、とっても気持ちの詰まった贈り物ね!」
収められていたのは、バラの形をした小ぶりなチョコレートだった。ただし、通常のそれではなく赤い。メッセージカードなどはなく、11個の赤いチョコが整然と並べられている。
正直、覚悟していた分拍子抜けというか肩透かしを食らった感は否めない。まぁ、自分が気負い過ぎていただけと思えば、些かならず恥ずかしいが。ただ、よくよく見るとチョコの色合いが微妙に違うことに気付く。
「これって、赤だけじゃなくてピンクも?」
「うふふっ、そうね。とっても情熱的」
「?」
マリーの言っている意味が分からず、首をかしげる立香。数えてみると、赤が6個にピンクが5個。「味を変えているのだろうか?」と思い、とりあえずピンクのチョコを一つつまんで口に運ぶ。
味は、予想というか期待を裏切らないストロベリー。ただ、咀嚼する立香の横顔をいつもより5割増しでキラキラした表情でマリーがジッと見つめている。
「あの、ちょっと食べ辛いんだけど……」
「あら、ごめんなさい。ねぇ、マスター。マスターはバラの花言葉をご存じ?」
「? いや、知らないけど……」
恋人相手に薔薇を贈る話というのは、ラブロマンスなどの定番だ。なので、いい意味があるのだろうとは思っていた。とはいえ、それでもハート形ほど直截的ではなかろう。そう、思っていたのだが……。
「バラはね、色はそうだけど数でも意味が変わるのよ。例えば―――――――11輪なら“最愛”」
「ぶっ!?」
「赤は“あなたを愛しています”“愛情”“熱烈な恋”の意だし、ピンクは“愛の誓い”という意味になるわ」
「……………………………………………………………ちなみに、5輪と6輪だとどうなりますか?」
もうすでに、この時点ですごく嫌な予感はしているのだが、聞かない方が恐ろしくて聞いてしまうことにする。
「5輪は“貴女に出会えたことへの心からの喜び”、6輪は“あなたに夢中”よ。ね、とっても情熱的でしょう?」
(ゆ、油断した~…………)
ハート形ではないので“まぁこれくらいなら”と思ったが、とんでもなかった。むしろ、ハート形よりずっとストレートではないだろうか。いったい、これのどこが“義理”で“友チョコ”なのやら。
そう、すっかり失念していたが、最近のフェイトは「本音」と「建て前」の使い分けを駆使するようになった。このチョコなどその最たる例だろう。“義理”“友チョコ”という建前で、11輪のバラのチョコ、それもピンクと赤、5輪と6輪の組み合わせ、という本音をくるむ形。
(ほんと、誰の入れ知恵だよこれ)
フェイト一人で思いついたものではない。絶対に、誰かが助言したに決まっている。まぁ、犯人など一人しかいまいが。
「………………………やられた「パシャッ」マリー、何撮ってんの?」
「ふふっ、写真を送ってほしいってリンディに頼まれてるの」
「やっぱりあの人の仕業かぁ!? って、あ!? 送信しないで!!」
「ごめんなさい、マスター。でも、私も教え子が可愛いんですもの。では、オールヴォワール」
そうして、止める間もなくサーヴァントの身体能力を大いに生かして走り去っていくマリーであった。
余談だが、その後もフェイトからバラのチョコを贈られるように。ただし、構成は基本的に同じものの、色の比率が変わり4輪と7輪の組み合わせになったりする。ちなみに4輪だと“死ぬまで気持ちは変わりません”、7輪で“密かな愛”であることを知り、さらに頭を抱える立香であった。
まぁ、いずれは
そして、長年バラのチョコを贈られた意趣返しではないが、プロポーズの際にはそれぞれ50本のバラを二人に贈るのであった。意味はググるべし。
その頃、海鳴は喫茶翠屋のオープンテラス。
「お、帰ってきたわね」
「どうだった、二人とも?」
用を済ませて帰ってきたなのはとフェイトを出迎える、“ニヤニヤ”笑いのアリサと“にこにこ”笑いのすずか。両者の性格の違いが如実に表れている。
「にゃははは、ちゃんと渡してきたよ。でも、みんなの分まで私が持って行ってよかったの?」
「ま、あんまり大勢で押しかけるのも迷惑でしょ」
「フェイトちゃんの方は? ちゃんと渡せた?」
「う、うん。みんなの分は、職員の人に預けてきちゃったけど…それでよかったの?」
「いいのいいの。馬に蹴られるのは御免だしねぇ~」
そう、フェイトが直接渡したのは自分の分だけだったが、実は同僚を経由する形で友人たちのチョコも贈っていたりする。わざわざ回りくどいことをした理由は……まぁ、アリサの言った通りだ。
実際、なのはの方も直接渡したのは自分の分だけで、友人たちの分は時間差がついている。
「まぁ、立香さんの方は報告待ちとして……なのははどうだった?」
「どうって?」
「ほら、こう……ドキドキしたりとか」
「? ? ?」
「ちっ、この鈍感娘。じゃ、ユーノは?」
「ユーノ君? 顔が赤いから休もうって言ったんだけど、大丈夫って言って聞いてくれないんだよね」
「まぁ、あっちは自覚が芽生えただけ前進かしら」
「そう、だね」
「肝心のなのはがこの有様だけど」
「ま、まぁなのはだから」
「分かってたことだけど、ユーノ君がちょっと可哀そう……」
親友の鈍感っぷりに、呆れて言葉もない。実際、チョコを作っている時も「いっぱいお世話になってるお礼」と真顔で言っていたものだ。その割に、ユーノに渡す分だけは他と違って物凄く手が込んでいたが…アレで自覚がないとか、どんな頭の構造をしているのだろう。
「そういえば、はやては?」
「桃子さんにお礼を言いに行ってるよ」
「“完勝やった、師匠と呼ばせてください”って聞こえてきたわね」
なにしろ、一番手の込んだチョコを作っていたのがはやてだ。とはいえ、別に勝負をしていたわけでもあるまいに。
「さてさて、ホワイトデーはどうなるのかしらね?」
それはそれで、何やら面白いことになりそうと期待するアリサであった。
そういえば、アマゾネスドットコムは如何でした? 絆稼ぎに礼装積みまくると高レアが出せないので、もっぱら☆4が一騎残りを☆3以下で構成することになり、新鮮で楽しかったです。いや、全鯖レベルカンストしててよかったわ。スキルも、使いそうなのは一通り6にしてたし、地道な積み重ねって大事ですねぇ。おかげで1週間でクリアできましたし。
それと、最近鬼滅の刃に沼りそうになって危ない。アレも、設定が死徒じみてるから型月系と相性良さそうなんですよねぇ。
“しぶとさ”なら鬼に軍配が上がりそうですが、戦闘能力は死徒に有利っぽい。まぁ、そのしぶとさも志貴とか式が相手だと意味がないんですけど。
誰か書いてくれないかなぁ(チラッ)
P.S
「(秘める気のない)想いを込めた11輪チョコ」
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンからのバレンタインチョコ。
バラを模した造形は型に入れて冷やして固めたありふれたものであり、味もビターにストロベリーと何の変哲もない。贈り主のことを考えるなら、年相応で微笑ましさに思わず顔がほころぶような微笑ましい一品。そう、一見すると可愛らしい小粒のチョコ11個詰め合わせ……なのだが、その実態は溢れんばかりの思慕の想いをこれでもかと言わんばかりに押し込めたチョコレート。
微笑ましいのは外見だけ。ちょっとモチーフと数や色の意味を読み解くと「君ホントに小学生?」と思わず聞きたくなるくらいには込められた想いが重い。
まず、赤いバラは“あなたを愛しています”“愛情”“熱烈な恋”を意味し、ピンクなら“愛の誓い”という意味になる。
加えて数も重要だ。11輪のバラは“最愛”、5輪なら“貴女に出会えたことへの心からの喜び”、6輪は“あなたに夢中”の意。
建前上“義理チョコ”“友チョコ”ということになっているが……その実、微笑ましさの欠片もないガチ中のガチである。
しかも、驚くなかれ。このチョコレート、年々進化する。練習期間が足りなかったので今回はこの程度だが、やがて花弁一枚一枚を手作りしてバラを形作るようになる。某パティシエに教えを乞うたのは、それが理由だ。つまり、既にこの時点でフェイトの中でその完成図が恐ろしく具体的に思い描かれているのである。そのことを、彼の人物は知る由もない。ついでに、毎年その自慢のスピードで断り文句を口にする前に押し切られるのであった。
余談だが、頭を抱えたのは「愛の告白同然のチョコを贈られた」ことに対してであって、真剣さや重さについて特に思うことはない。もっと重い連中がいくらでもいるので、感覚がマヒしているのだ!! 気付け! 世間一般で考えれば十分重いぞ!
P.S2
「どう見てもド本命です、ありがとうございましたチョコ(無自覚)」
高町なのはからユーノ・スクライアへのバレンタインチョコ。
ハートである。ピンクである。他に特に言うことはない……強いて言えば、家族や他の友人へのチョコは星型オンリーなことくらいだろうか。
にも関わらず、本人は臆面もなく「親しい人にチョコを贈る日なんだよ」「頑張って作ったんだ、喜んでもらえると嬉しいな」と無邪気に微笑む。たぶん、気付いていないのは当の本人だけ。
……そろそろ誰か指摘してやるべきではないだろうか、とは関係者一同の共通見解。
「I Love You」
八神はやてから衛宮士郎へのバレンタインチョコ。
パティシエ高町桃子女史監修、ハート形のチョコレートケーキ。作り手が料理上手なこともあり、細部のデコレーションまで非常に凝っている。加えて、場所によって甘さや苦みが異なり、場合によってはホワイトチョコだったりルビーチョコだったり、あるいは食感にも変化をつけるなど、一つで何度も美味しく、食べる者を飽きさせない。
だが、それらすべてが消し飛んでしまうくらいのインパクトがケーキ中央に鎮座している。
チョコペンで書かれた文字はシンプルに“I Love You”。どんなニブチンであろうと曲解しようのない、これ以上ないほどストレートな愛の告白である。
その効果たるや、彼の朴念仁がハニワのような顔をして小一時間硬直するくらい。ちなみに、八神家では何かある度に逃げを許さない愛の告白が叩きつけられている。
例を挙げると……
「誕生日おめでとう、しろ兄。次の誕生日も祝わせてな、大好きやで」
「あけましておめでとう。今年も目一杯愛したるから、覚悟しとき」
「もうすっかり冬やね。ちょう肌寒いし……ん、あっためて。ほら、やっぱり好きな人の温もりは格別やから」
「今日もお洗濯日和のいい天気や。うん、特に理由はないんやけど……愛してる。もちろん家族やのうて女の子としてやから、誤魔化しと曲解は許さへんよ?」
といった具合。
退路は断たれ、向かう先は人生の墓場一直線。もう観念しちまいなよ、YOU♪