魔法少女リリカルなのは Order   作:やみなべ

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ありふれの方を書こうとするも、森の兎が難物過ぎてなかなか進まずこちらが先になってしまいました。う~、想像以上に厄介です。


クロノ・ハラオウンの場合

 

プレシアの扱い? なんだ、そんなことを心配していたのか。

 

―――そんなことって……私にとってはおばあちゃん的存在というか、親戚のおばさんというか、そんな感じの人なんですけど……。

 

いや、すまない。言い方が悪かったな。

君が心配するようなことは何もないよ。そもそも、プレシアのことを局は知らない。

まぁ、知っていたとしても、カルデアとの間には協定があるからね。あちらが彼女を手放さない限り、局はプレシアに手を出せない。そして、カルデアが彼女を放逐することはないだろう。

 

―――仲間、ですもんね。

 

あそこも一枚岩とは言えないが、なんだかんだで結束が固いからな。サーヴァント同士は色々複雑だろうが、それでも「立香さん(契約者)の道を開く」という点で同じ方向を向くことができる。スタッフ組は特にだろうさ。一番危険な場所に二人を送り出さざるを得なかったからこそ、全力でサポートに当たったあの人たちの結びつきは強い。

正直、そのあたりは少し羨ましく思うよ。組織の規模が大きくなると、どうしても利害や思惑が複雑化するからね。目指す未来は同じでも、考え方の違いで反目することも少なくない。

 

それに、実際的に考えてもプレシアは得難い人材だ。彼女の魔導とエネルギー研究、そして生命工学の知識は貴重だし、その関係でカルデアの機密にも触れている。局からどれだけ圧力がかかったとしても、決して手放せない人材の一人だよ。

だから、ヴィヴィオが心配するようなことにはならないさ。

 

―――よかったぁ……でも、クロノさんはいつからプレシアさんのことを?

 

僕が彼女のことを知ったのはずいぶん後のことさ。というより、カルデアの職員ですら詳細を知らない人の方が多かったそうだ。

 

―――……それは、フェイトさんも?

 

ああ。むしろ、フェイトにだけは知られないように徹底的に会わないようにしていたらしい。それこそ、フェイトがカルデアに招かれた時は適当に理由をつけて前日から外出していたほどだ。万が一にもバッタリ出くわさないように拠点候補地、つまり無人世界の視察に出る念の入りようだよ。

 

―――それはまた……じゃあ、本当にカルデアの一部の人しか知らなかったんですね。

 

……いや、実を言えばどうもアルフは知っていたらしい。

 

―――そうなんですか?

 

年齢が食い違うから普通はわからないだろうが、アルフは鼻が利く。意識体ではなく立香さん本人と会った時から、覚えのあるにおいがすることには気づいていたらしい。加えて、一度だけ接触したことがあったそうだ。

とはいえ、アルフとしてはプレシアに好意的になれる理由もない。

 

―――だから、何も言わなかったんですね。

 

そういうことだ。

 

―――でも、こういっちゃうとあれですけど、良くアルフは何も言いませんでしたね。あ、フェイトさんにじゃなくて……。

 

プレシアの方から頼まれたそうだ。「少しだけ時間をちょうだい」と、その後なら「煮るなり焼くなり好きにして構わない」とも。

……意外か? アルフがプレシアの頼みを聞いたことが。

 

―――その……はい。

 

当然だと思うよ。僕もその話を聞いた時は同じことを思った。

フェイトのことを想えば、殺そうとはしないまでも二度と近づかせないように、関わらせないようにしようとしただろう。

 

まぁ、言われるまでもなくプレシアもそのつもりだったし、その点で二人の考えは一致していた。だからこそ、でもあるんだろう。

 

―――でも、結果的にフェイトさんはプレシアさんのことを知ったわけですよね。それはどうして……

 

……思いの他、フェイトが早く気付いてしまったから、だろうな。

 

―――気付いた? それって、プレシアさんに?

 

いや、自分自身のことさ。プレシアは、いつかフェイトがその問題に直面することを見越していた。だから準備をしていたんだ、パラケルススの力も借りてね。

 

……正直、仮にも義兄…家族でありながら気づいてやれなかったことは情けないと思う。本当なら、僕たちも気づいてやるべきだったのに。

定期的に検査はしていても、フェイトの身体にこれといった異常や異変が現れることはなかった。そうして数年が過ぎて、惰性的になっていたんだろうな。いつの間にか思い込んでいたんだ、「フェイトは大丈夫だ」と。

 

―――あの、それっていったい……。

 

プライバシーにかかわることだが、君も無関係ではないし……一応保護者に確認を取って、許可がもらえれば話そう。待っていてくれ。まぁ、多少早い気はしないでもないが……。

 

―――……なんなんだろう? 私にも関係がある、フェイトさんの身体のことってなると……やっぱり、人造生命関連だよね。でも、フェイトさんも何年もかけて検査して異常はなかったし、私も同じ。だとしたら……

 

……どうやら、お許しは出たようだ。まぁ、僕の口から話すのは不適切かもしれないが、適度に距離のある人間の方が良い場合もあるだろう。プレシアの話をしている今がちょうどいいタイミングなのも事実だ。

 

―――はぁ……。

 

思い当たることがないって顔だな。

まぁ、そうだろう。実際、フェイトが気付いたのだってある意味では想像の翼を広げ過ぎた結果だ。プレシアもまさかそんなに早くフェイトがそのことに思い至るとは思わなかったんだ、君がわからないのも当然だろう。

 

そうだな、少しヒントを出そう。それは単純な時間経過では関わることのない、身体に関連する“何か”だ。そして、それは一人では発生しないことでもある。

 

――― ? ? ?

 

そう難しい話じゃない。誰かを想い、その人と想いが繋がればいずれは行きつく場所であり、通過点。女性にとっては、人生における一大事。

 

―――結婚、ですか?

 

惜しい、もう少し先だ。あぁ、セクハラというのは勘弁してほしいんだが……つまり、妊娠だよ。

 

―――妊、娠?

 

気付いたのは、雫が忍さんに宿って順調に大きくなっていっている最中だった。フェイトもよく見舞いに行っては、僕たちに情感たっぷり報告してくれたものだよ。なにしろ、あの子にとっては何もかもが初めて尽くしだった。結婚も妊娠も、フェイトにとっては恭也さんと忍さんが身近な人たちの中では初めての経験だったからね。

もちろん、街中で妊婦を見かけることはあるし、局の知り合いがそういうことになることもある。だが、やはり身近な人というのは意味合いが違う。

 

足繁く通っている中で、たぶんフェイトも色々考えていたんだろうな。ちょうど、中学卒業も近づいていた時期だ。はやてが士郎との結婚を考えていたように、フェイトもいよいよ立香さんに思いを告げようと考えていたんだろう。あるいは、どうやって“女性”として見てもらおうか、とね。

だが、そこで気付いてしまったんだ。もしもフェイトが望んだとおりの未来が訪れるとすれば、いずれは……

 

―――結婚して、子どもができる……。

 

そう。その時に思ったんだろう、果たしてその子を「無事に産んでやれるのか」と。

 

―――えっ、でも検査では全然問題なんて……。

 

ああ、なかった。だが、成長と妊娠は別物だ。成長はあくまでも個人のものであるのに対し、妊娠は“自分とは違う生命を宿す”ということ。悪阻をはじめ、身体に与える影響は男である僕には想像できないほど大きい。

 

寿命の問題はなく、身体も順調に成長していく。ある意味、人造生命としてプロジェクトFは完璧だった。しかしそれは、一個人の中で完結するからこその完璧だ。もしそこに、別の要素が入ればどうなるか……これまでのデータなんて、当てにはならない。

敢えて悪い言い方をするが、赤ん坊は母体にとって“異物”だ。母子で血液型や性別が違うのなんて普通のことだし、臓器移植で適合するとも限らない。そもそも、半分は他人の遺伝子で構成されているんだから、当然の話なんだが。

 

ごく普通の生まれ方をした健康体の母体ですら、妊娠と出産の負担は大きい。時代が時代なら、それこそ命懸けだ。

ましてやそれがプロジェクトF、人造生命ならどうだ。妊娠中母体に与える影響、出産時の安全性、生まれてきたとしてその後の子どもは……不安要素なんて掃いて捨てるほどある。

 

あの当時のフェイトにとって、忍さんは“願う未来”そのものだった。そんなあの人が悪阻をはじめとした心身の変調に苦しんでいるのを見て、自分に投影したからこそ気付いたんだ。自分は“子どもを産めるのか”と。

もちろん、子どもを作ることが人生や結婚のすべてじゃない。子どものいない家庭もあるし、養子をとったり、場合によっては代理出産というのもある。

でも、フェイトは“産めないかもしれない”という可能性を恐れた。立香さんのことが大好きだったからこそ、その人の子どもを産めないかもしれないことを、そんな自分があの人と結ばれていいのか、とね。

要は、自分のことにあの人を巻き込みたくなかったのさ。

 

―――で、でも! それを言ったらマシュさんだって……。

 

そう、その点で言えばマシュさんも同じだ。どちらも前例がない、だから想定はできても実際に何が起こるかわからない。

……そこで「なら自分が前例になればいい」と考えるのはまだいい、それが前向きなものならな。だが、あの時のフェイトは誰かに貧乏くじを引かせるくらいなら自分が…と考えたわけだ。

 

―――……確かに、そういうところあるかも。

 

ここから先は完全に想像の領域だが、おそらくフェイトは体外受精か何かで子どもだけ作るつもりだったんだろう。どんな理由であれ、あの子が立香さん以外と…というのは考えにくいからな。

そして、そのデータを元に自分は身を引いてマシュさんに立香さんと幸せな家庭を、と考えたんだろう。方式は違うが、データの流用はできるだろうし、ゆくゆくはエリオや他の子どもたちのためにもなる。それが一概に間違っているとは言わないが、後ろ向きな気持ちで選択していいことじゃ…ないだろう。

 

そもそも、それで生まれてきた子はどうなる。フェイトのことだから、しっかり愛情を注ぐだろうが……。

 

―――あの、相談とかは……。

 

してくれなかったよ。何もかも自分で考えて、勝手に決めて……まったく、どうして一人で抱え込むんだ。そんなに僕は、僕らは頼りなかったのか……。

 

―――少しだけ、わかる気がします。迷惑を、かけたくなかったんじゃないかなって……。

 

友人や仲間、ましてや家族の未来を一緒に考えることの何が迷惑なんだ。立香さんがアレだけ甘やかして、僕たちにも少しはワガママだって言えるようになったのに、肝心なところで……。

 

―――……………そうですね、私でもきっと怒ったと思います。

 

当然だ。事実、最終的には足掛け5日に及ぶ総がかりの大説教大会になったからな。

ただ、それが結果的に立香さんの認識を変えることになったんだから、地球で言うところの“塞翁が馬”という奴なんだろうが。

 

―――え、そうなんですか?

 

ああ。フェイトも自分の気持ちに区切りをつけようとしたんだろうな。立香さんに会いに行って、姿を見ただけで何も言えずに引き返す……そんなことを何度か繰り返していたらしい。あの人は人の心の機微には恐ろしく聡いから、会えば気付かれる…というのもあったのかもしれない。結局、何も切り出せないまま距離だけ取るようになった。

まぁ、フェイトは結構抜けているからな、泣きながら走っていくところを見られたらしい。

 

いつか自分のせいで泣かせてしまうことは覚悟していても、アレは不意打ちだったんだろう。立香さんからすれば、どうして泣いているかだってさっぱりだ。

だから、あの人は懸命に考えてくれた。どうしてフェイトが泣いているのか、どうしたら泣き止んで、笑って……あの子が幸せになれるのか。気付くと、“小さな女の子”という認識はなくなっていたらしい。

 

―――結果的には、押してダメなら引いてみろって感じですかね?

 

好意をぶつけるのではなく、相手の意識を自分に向けさせる。今までとは逆のアプローチ、という意味ではそうかもしれないな。

そもそも、フェイトは当時15歳だ。“小さな女の子”という認識は既にだいぶ無理がある。むしろ、そう思おうとしていたんじゃないかな。まぁ、それが“異性”となるとまた話は別だし、実際ある意味本番はそれからだったわけだが。

 

―――……なるほど。それで、プレシアさんはそれを予期していたと?

 

実感が伴わないとはいえ、彼女はフェイトの生みの親であり、実際にアリシアを産んでいる。だからこそ気付いていたんだ、フェイトが抱えるリスクに。

そして、その対策を練り続けていた。あの当時はまだ完成はしていなかったが、もう完成形は見えていたらしい。

ああ、もちろん今はもう完成している。いずれ君が子どもを産む時が来ても、データもその頃には十分に取れているだろうし……

 

―――……クロノさん、流石にそれはセクハラ。

 

そ、そうか、すまない……。

 

―――で、もしかしてその時にプレシアさんが?

 

あ、ああ。僕たちも、立香さんですらフェイトがなぜ泣いているか気づいてやれなかったが、あの人だけはわかったんだ。その事態を予期していた、彼女だけが。

まぁ、初めは誰かに託すつもりだったようだが、色々あってね。結局、本人がフェイトの前に押し出されたわけだ、「責任を果たせ」とね。

 

数年ぶりの親子対面だったが……もどかしいと言ったらなかったよ。プレシアはしどろもどろ、フェイトも言葉がなくて、気まずい空気のまま随分な時間が流れた。

最終的にはプレシアも覚悟を決めてね。おっかなびっくりフェイトの頬に触れて「馬鹿な子。そうやって一人で勝手に抱え込んで、思いつめて……そんなところばかり、私に似なくてもよかったのに」と言っていたのをよく覚えている。本当に、あの二人はよく似た親子だよ。

だからこそ、プレシアも念を押したんだろうな。「気をつけなさい。でないと、あなたはいつか私と同じ過ちを犯してしまうかもしれない。私の轍を踏んではだめよ」……自分自身の罪に苦しんできた彼女だからこその言葉だよ、アレは。あれを見たら、フェイトの家族としては「局に引き渡せ」とは言えないさ。

 

―――それは、アルフも?

 

ああ、きっと。過去を赦したわけじゃないが、フェイトのために未来への道をプレシアは作った。少なくとも、今のプレシアは昔“時の庭園”で見た彼女とは違う。

アルフもそう思ったからこそ、プレシアに対して何も言わないんだろうさ。

 

―――なるほどなぁ、それで今の関係になるわけですね。

 

そういうことだ。フェイトとプレシアはぎこちないながらも親子になって、フェイトと立香さんは大人と子どもから……あ~、脱却した。

 

―――別に、そこは男性と女性になった、でいいんじゃないですか?

 

いや、うん……表現が生々しすぎるかと思ったんだが、最近だとそうでもないのか? 僕はどうもその辺の匙加減が……ゴホン。それはともかく、(義兄)にとっては極めて複雑なことに、フェイトの思いはようやくあの人に届いたわけだ。

 

―――そこは素直に喜んであげればいいのに……。

 

……別に、あの人のことが気に食わないというわけじゃないさ。いやまぁ、相談事があると真っ先に立香さんのところに行くことには、思うところがないわけではないが……。

 

―――ヤキモチですか?

 

……言わないでくれ。自覚はあっても、言語化されるのは辛い。

 

―――別に嫌いなわけじゃないんですよね。

 

……正直に言えば、尊敬すらしている。僕はあまり人付き合いがうまい方じゃないからな。あれだけ多様な個性の塊に対し、それぞれに合った対応の仕方をできるというのは、純粋に凄いと思うよ。

あの人の場合、八方美人とは別物だからな。

 

とはいえ、それはそれこれはこれだ。

義妹と結婚する……というだけならともかく、もう一人というのは良い気分じゃない。

 

―――でも、法的には問題ないんですよね?

 

というか、管理局法に婚姻に対する厳密な規定はない。次元世界ごとに文化も歴史も違うから、各世界の法が適用される。そして、多くの世界で重婚は認められている。それどころか、制度上は同性や近親も可能だ。色々と問題はあるが、当事者たちがすべて理解した上でなら外野が口を挟む道理はない、というわけだな。

 

―――あ、そうなんですね。

 

まぁ、普通に暮らしている分には関わることはないからな、知らないのも当然か。一応審査や指導が入りはするが、よほどのことでもない限り弾かれることはないよ。そもそも、結婚可能年齢すら規定がないんだからな。

 

―――えっ!?

 

……やはり知らなかったか。一部例外を除けば、多くの世界で結婚を可能にする条件は大きく分けて「就労していること」「一定以上の学位を取得していること」「規定以上の財産を所有していること」の三つ。他にも細々としたものはあるが、とりあえずこのうち二つを満たしてさえいれば、それこそ君の年齢でも結婚は可能だ。同時に、これらが成人の条件でもある。

なにしろ、世界毎に成人の条件も違うんだ。どんな文化でも通じるようにしようと思うと、こうするしかない。

まぁ、逆に言えばどれだけ年を食っていても、「働かず」「学もなく」「資産もない」人間は成人とは認められないわけだが。

 

―――厳しい、のかな?

 

大人の定義は“自分自身に責任を持つ”ことだ。つまり、自分のことにすら責任を持てない者を大人とは呼ばないよ。

それと同じで、結婚にしたって当事者たちがお互いに責任を負えるなら何の問題もない。まぁ、近親に関しては遺伝的なアレコレがあるから、少々審査やその際の指導は厳しくなるがね。

 

だが、慣習として一夫一妻が基本なのも事実だ。僕も圧力はかけているが、それでもフェイトも色々言われているしな。義妹には穏やかな幸せを得てほしいと思うのが、義兄心だよ。

 

―――圧力、かけてるんですね。でも私としては、立香さんが二人で留めていることにも驚きなわけで……。

 

まぁな。清姫をはじめ、あれだけ押しの強い連中に迫られながら二人以外には一切手を出さないんだから……男として、頭が下がるのは否定しない。求められれば手あたり次第、とかだったら僕も認めなかったよ。二人以外に手を出さないのが、何よりの本気の証ともいえる。それは理解しているつもりだよ。

それにしても、どうやって納得させたんだ? というか、納得しているのか? あるいは、何かしらの方法で黙らせたのか……未だに謎だ。

 

―――あ、あはは……そういえば、マシュさんとは揉めなかったんですか? フェイトさんとは仲良しですけど、あの人って実は結構ヤキモチ妬きですよね?

 

それを言えばフェイトもだが……彼女に関しては、むしろ積極的に後押しをしていたと聞いている。

 

―――へ? そうなんですか!?

 

……マシュさんは、誰よりも近くで立香さんを見ていたからな。だからこそ、気付いていたんだろう。最初のロストベルトを超え戦っていく覚悟を決めたとはいえ、立香さんが精神的に追い詰められていたことに。

 

―――ああ、確かその時なんですよね。フェイトさんと出会ったのって……。

 

マシュさんが言っていたよ「ある日を境に、先輩の顔色が良くなったんです」と。そしてフェイトに「先輩を救ってくださって、ありがとうございます」ともね。

あの人にとって、懸命に頑張るフェイトは救いだったんだろう。戦い続けて、進み続けることが自分の責任だとわかっていても、その重さに押しつぶされそうだったとしても不思議じゃない。彼は現場に立ち、マシュさんをはじめサーヴァントたちに指示をだす立場。ある意味、誰よりも重い責任を負っていたはずだ。それは、とても人一人が背負えるような重さじゃない。

 

背負うものの重さは比べ物にならないだろうが……苦しくても辛くても、フェイトは頑張っていた。

自分よりもずっと小さな女の子が懸命に足掻いているんだ。それを目の当たりにして、倒れるわけにはいかないよ。倒れてしまったら、それこそ情けなくて死にたくなる。男が意地を張るには、十分な理由だ。

立香さんがつぶれることなく前へ前へと進めた一因には、きっとフェイトがいたんだろう。

 

パートナーだからこそ、それに気付いたんだ。気付いていたのなら、拒めるはずがない。

あの人が背負った責任は、何一つとして軽減されてはいないんだ。きっと、これから先もずっと背負って進み続けなければならない。誰もあの人に“赦し”を与えられない以上、重みが増すことはあっても、軽くなることはないんだからな。

そんな立香さんを、共に支えてほしいと思ったんじゃないだろうか。同じものを背負うことはできなくても、倒れそうな心を支え合えると。

 

―――そう、なのかな?

 

まぁ、真相は二人でなければわからないだろうがね。

 

―――ところで、フェイトさんもヤキモチって妬くんですか? あんまり見た覚えが……。

 

ああ、色々遠慮する性質だからあまりハッキリとは見せないし、ヴィヴィオに覚えがないのも当然だろう。

それこそ、よほどフェイトにとって大切なことでもない限りは……待てよ、一人だけ例外がいたな。

 

―――例外?

 

ああ、レヴィのことは知っているか?

 

―――はい。エルトリア関連の事件で…っていうのは聞いています。

 

あの子の姿かたちはフェイトのデータを基にしている。つまり、フェイトの写し身だ。たぶん、そのせいなんだろうな。本当はしたいのに、恥ずかしかったり遠慮したりでできないことをレヴィがやると、それには随分とヤキモチを妬いていたな。

 

―――本当はしたいこと、ですか?

 

レヴィたちは元がネコだし、特にあの子は割と本能的とでも言えばいいのか……そういう傾向が強かったんだ。だからか、要所要所で仕草がネコっぽいんだよ。

 

例えば、丸くなって寝ていたりな。普段は微笑ましい限りだし、フェイトもまるで妹のように扱っていたんだが……ある時、立香さんがソファで舟をこいでいると、その膝の上でレヴィが丸くなって寝ていたんだ。

 

―――うわぁ…まさにネコ。

 

そうだ。で、それをフェイトが見つけてしまって……「代わって、代わってよぉ……」「私だってしたいのに……」と涙目で、な。

レヴィも強情だから、引き剥がそうとしてもおとなしく従うはずもなく「ここはボクの場所!」「なんかキモチイー♪」と言って離れようとしないんだ。多分、フェイトの影響もうけていたんじゃないかと思う。

 

―――なんか、面白そう。

 

ちなみに、なのはとはやても似たようなことはしていたぞ。

 

―――え?

 

シュテルがカルガモのヒナの様に「師匠、師匠」とユーノの後をついて回ると、なのはが「ユーノ君は私の先生なのー!」と邪魔をしては、後になってそんな自分に自己嫌悪、一人で勝手に沈み込んでいたな。

 

―――あ~、そういえば今でもヤキモチ妬いた後はダウナー傾向ありますね。パパに愛想つかされるんじゃ~って、そんなことあるわけないのに。

 

相変わらずらしいな。どうせ、そのあとユーノに励まされて泣きつくんだろう。

 

―――クロノさん、正解。マーキングでもするみたいにくっついてます。

 

進歩のない……縄張りを主張するまでもないだろうに。

で、ディアーチェははやてに対抗して料理に手を出したんだが、「知っている」と「できる」は違う。当然うまくいくはずがないんだが、そこで見かねた士郎が教えてやってな。

 

―――じゃあ、そこでヤキモチを?

 

いや、はやてはそのくらいでは動じないよ。はやてのデータを使っているからか、メキメキ上達したあたりまでは微笑ましそうに見ていた。

ただ、ディアーチェが「大義であった、我の臣下にしてやろう! 光栄に思うが良い!」とか言い出したあたりから雲行きが怪しくなってな。こう……目から光が消えて「目ぇ開けたまま寝言が言えるやなんて、王様は器用やねぇ」と、エターナル・コフィンも真っ青な冷え切った声音で……すまない、これ以上は。

 

―――あ、はい。(いったい何があったんだろう……)

 

とまぁ、そんな調子でな。自分と同じ顔の持ち主が、程度の差はあれ好意を抱いている相手に侍れば、それは心中穏やかではいられないだろうさ。

 

―――そういうものかぁ……。

 

いずれ君にもわかる時が来るさ。ちょうど、同じ顔に心当たりもいるだろう?

 

―――まぁ、確かに。でも、そういえばエルトリア関連の事件ってあんまりちゃんと聞いたことないんですよね。

 

ん? まぁ、アレはカルデアと協定が結ばれて初めての事件…というか、事件中に協定が結ばれて、それからあちらと共闘した形だからな。カルデア関連は、一応機密扱いになるからそれも当然だろう。

 

―――え? でも私、チラッと聞いちゃってるんですけど……。

 

ああ、心配しなくていい。それはあくまでも「カルデアの詳細」を知らない相手に限ってだ。君も立派なカルデア関係者だし、別に話す分には問題ないよ。なんなら、今からでもかいつまんで話そうか?

 

―――お願いします!

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

夏休み早々に企画された、建設中の臨海テーマパークでの社会科見学。

母親チームはカフェでのんびりとおしゃべりを楽しみ、子どもたちは男性保護者組に見守られながらかしましく取材に勤しんだのだが、夜になって状況は急変した。

臨海テーマパーク「オールストン・シー」近くのホテルの一室で、遅れて合流する予定のはやてを待っていたところ、そのはやてが移動中に何者かに襲撃されたとの一報が舞い込んだ。

 

幸い無事だったはやては、窮地を救ってくれた容疑者の姉を名乗る女性「アミティエ」と共に、容疑者である「キリエ」を追うことに。なのはとフェイトも、東京支部のクロノから緊急出動の要請が入り、容疑者確保のため現場へと向かう。

しかしその中に、イリヤたちの姿は含まれていなかった。

 

「……こういう時、しがらみっていうのは面倒よね」

「仕方がないよ。立香さんたちが勝手なことしたら、それこそ大変なことになっちゃうん…ですよね?」

「ごめん。ここでトラブルを起こすのは、ちょっとね」

 

ぼやくアリサと、確認するように立香の方をうかがうすずか。二人に対し、立香も申し訳なさそうに頭を振る。

管理局との交渉は大詰めを迎え、協定の締結まであと少しというところ。もう一押しではあるのだが、だからこそ繊細な時期でもある。ここにきていらぬ反感を買えば、ご破算……とまではいわないが、余計な足踏みをする羽目になるのは明白。それは結果的に、双方にいらぬ禍根を残すだろう。

立香もフィニス・カルデアという組織の一員、勝手な行動は許されない。

 

「なのはちゃんたち、怪我とかしないといいけど……」

「はやての話だと魔法への対抗策を持ってるみたいだし、少し危ないかもしれないわね」

 

あまり悲観的なことは言いたくないが、事実から目を背けるわけにもいかない。

とはいえ、立香とてここで何もせずにいるつもりはない。

 

「……よし」

「マスター?」

「直接手は出せなくても、できることはあるよね」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、立香は「パチンッ」と指を鳴らす。すると、音もなくそれは現れた。

 

「お呼びで……いいですね、この“できる忍”感。凄腕になった感じが堪らない」

「……やっぱりいた。来なくていいって言ったのに……」

「ってかあんた、そもそも凄腕なんじゃないの?」

 

呆れた様子で深々と溜息をつく関係者一同。

その後ろでは、唐突過ぎる忍者の出現に目を丸く…はしていなかった。何しろ、海鳴は魔導士以外にも古流剣士や吸血種、霊能力者に超能力者、幽霊と妖怪、果てはアンドロイドまでいる魔境の地。当然、忍者だっている。

驚きはしても、「まぁ忍者くらいなら」と耐性がついているのだ。間違っても、そんなものに耐性がついている小学生を「一般人」とは呼ばない。

 

「我が主、ご用命を」

「動けるアサシンを動員して、都内をくまなく探してほしいんだ。探し物は、これ」

 

そういって立香が提示したのは……

 

「名刺、ですか?」

「いやー、実はどこかで落としちゃったみたいでさー。ここんところ忙しかったから、心当たりが多すぎるんだよねー。というわけで、手当たり次第に探してほしいんだー」

「承知。探し物は名刺、都内をくまなくですね。では、ロビン殿にも協力を仰ぎましょう。ところで、余計なものを見つけてしまうかもしれませんが……」

「不可抗力だよね。一応、何を見つけたかは教えて。どこかに不発弾とかあったりしたら危ないし」

「うへぇ…すごい三文芝居見ちゃった」

「あの、リンディさん。これっていいんでしょうか?」

「あら、名刺には個人情報がいっぱいよ。失くしたら、急いで探さなくっちゃ。まぁ、その途中で不発弾とか、待機中の“機動外殻”とかが見つかったりしたら、通報するのは市民の義務よね~」

「「うわぁ……」」

 

協定が結ばれていないから表立って協力はできない。勝手に首を突っ込んでも、管理局からの不興を買うだろう。

だが、まったく関係ない探し物をしている中で偶々事件に関係するものを見つけたとしたら、どうだろう。知らない仲ではないし、リンディの言う通り通報するのは市民の義務だ。

 

「強かというか……いい性格してるわねぇ、彼」

「うふふふ♪ 頼もしいじゃないですか。規則を守るのは大事ですけど、縛られてはいい仕事はできないもの」

 

アリサとすずかからは若干引かれているが、大人たちからの受けは上々らしい。

 

とはいえ、如何にアサシンを動員したとしても、範囲が広ければ成果が出るには相応に時間がかかる。

流石に初戦には間に合わず、管理局組は敗退。相手は未知の技術とエネルギーを用い、魔導に対して綿密な調査の上で対策を講じられていては形勢不利もやむを得ないだろう。多少の負傷はあれども、管理局組に重傷者を出すことがなかった分「上手く負けられた」というべきだ。強いて言えば、アミティエ…アミタが重傷なことと、敵の目的だった夜天の書を奪われてしまったことが、最大の失点だろう。

 

アミティエは本局で治療を受け、残りの面々は件のホテルに集合、今後の対策を練っている最中だ。そんな中、微妙に蚊帳の外のカルデア組はというと……

 

「マスターさん。協定っていうのは、まだ……」

「状況が状況だから、急いで締結できるよう動いてくれるってダ・ヴィンチちゃんが」

「そうですか……」

「担当はリンディさんの関係者らしいし、そっちは時間の問題でしょうね。問題なのは向こうの出方だけど……」

 

現状、アサシンたちもまだキリエの発見には至っていない。ただ、都内で何ヶ所か工廠のようなものが発見されていた。

主犯の「キリエ」の他に協力者と思われる「イリス」、そして無人の機動外殻とやらがあちらの戦力。仲間が少ない分、現地で補充可能な戦力の充実を図っている可能性が高いことから調査を進めていたが……想定以上に手を広げているらしい。

 

「ロビンはなんて?」

「やるなら一度にまとめて、見つけ次第潰していくやり方だと後々面倒になると言っていました」

「流石、ゲリラ戦と破壊工作の名手。なら、今は百貌たちに張っていてもらうのがいいか」

「今のままだと、私たちは手が出せません。場所だけ報告して、局に対処してもらう形になります」

「あちらも、手が足りているとは言えないからなぁ……」

 

最善はすべての工廠を見つけた上で一網打尽にすることだが、次善は敵が動き出す直前に可能な限り潰す方法だろう。しかし、それをするには管理局側の戦力が厳しい。質ではなく、量が…だ。

まぁ、管理局とカルデア、両組織の協定が敵が動くより早く結ばれれば、もっと積極的に動くこともできるだろう。それも含めて、時間との勝負ではあるのだが。

 

「でも、キリエさんたちは対策をしっかり準備してきてるんだよね。私たちも厳しくないかな?」

「それはないんじゃないかしら? 私たちがこっちに来て、まだ数ヶ月。戦闘回数だって数えるほどよ。対策を講じるにしたって、時間も情報も足りてないと思うんだけど」

「クロの言う通りだと思う。なのはたちの記録を見る限り、守護騎士たちが来てからも周辺を警戒していた。これはたぶん、私たちに対してだと思う」

「情報不足はお互い様。なら、条件はイーブンかしらね」

 

不敵な笑みを浮かべて肩をすくめるクロエだが、立香はその様子に違和感を覚える。何というか……

 

「クロ、なんか怒ってる?」

「別に怒ってないわ。ただ、あのキリエって人が気に食わないだけ。うじうじイリヤを見てるみたいで、イラッと来るのよねぇ」

「さらっと私に流れ弾が!?」

「別にさ、自分の事情とか話すのは構わないわよ。貸してって言ってる割に、やってることが実力行使なのも含めて、ね。油断させるためなのか、それとも焦ってるのかは知らないけど。ただ、どうにも“だから赦してくださ~い”って言ってるみたいでさ」

「……なるほど、言われてみればそんな感じはする」

「本当に覚悟があるんだったら、“赦し”なんて求めんなっての。恨まれても憎まれても、許されないのを前提に進むのが覚悟じゃない? そもそも贖罪って、“赦される”ためじゃなくて“責任を取る”ためにするもんじゃないの? やったことの責任を取って、それを見た人が赦すかどうか決める。“赦してほしい”なんて、そんなの自分の都合でしょ。マスターだって、“赦されたい”なんて思ってないんじゃない?」

「…………」

 

その問いに、立香は困ったように笑いながら頬を掻く。確かにクロエの言う通り、立香は自らの行いに対して“赦し”など求めてはいない。滅ぼした側の責任から逃げるつもりはないが、何をどうしたところで“赦される”とは到底思えない。それだけのことを、自分たちはしてきたのだと自覚しているから。

かつて失った“友”が言ったように、それは決して “なかったこと”になんてできないのだから。

きっと、藤丸立香が赦される日は永劫訪れない。だって、赦すか否か、それを決められる人たちはもうどこにもいないのだから。

 

「……言いたいことはわかるけど、ちょっと厳し過ぎじゃない?」

「マスターは甘すぎるのよ。だからその分、私たちが厳しくするの」

「確かに、それで釣り合いが取れるのかも」

「美遊まで……。私は、そこまで言わなくてもいいんじゃないかなって思うんだけど」

 

エルトリアの状況には、かつての故郷と重なる部分があるため美遊としては同情しないでもない。だが、美優は知っている。人類すべてへの裏切りと知りながらなお、(美遊)のために“悪”であることを選んだ()を。

だからこそ、最終的に彼女はクロエの側に立ちキリエを擁護しようとはしない。

 

―――家族のためと謳うのなら……

 

―――星を救わんとするのなら……

 

―――――――その行いに伴う責任、そのすべてを背負う覚悟を持つべきなのだ。

 

そのために必要なのは、確固たる芯。果たして、キリエにはそれがあるのだろうか……。

 

「アミティエが子ども扱いするのもわかる」

「う~ん、でもアミタさんももう少しちゃんと話をすべきだったんじゃないかなぁ……」

「他人様の家庭の問題よ、私たちが口出しするようなことじゃないわ。

 そんなことよりマスター、いざ動けるようになったときどうするか、そっちの方が重要じゃない?」

 

クロエの言い分は実に最もだ。なので、さっそくカルデアと連絡を取り今後のことを話し合う。いつ局側からの要請が来てもいいように。

 

そして、事態は思いのほか早く動き出した。

新たに発生した三つの巨大な魔力反応。それらが高速でオールストン・シーを目指して動き出したのを確認したのだ。

 

間違いなく、オールストン・シーが戦場になる。

そうなると、多少距離が離れている程度では危険だ。リンディはアリサやすずかをはじめとした民間人たちに、避難を指示しようとしたのだが……そこで立香が待ったをかけた。

 

「どうせ避難するなら、より安全な場所を紹介しましょうか?」

「あの…マスターさん、それってもしかして……」

「美遊、セミラミスに連絡とってくれる? この部屋にいる人たち、まとめて回収してほしいんだ」

「わかりました」

「いいのかなぁ……」

 

苦笑いを浮かべるイリヤを他所に、手早く手配を済ませる美遊。

一応かいつまんで説明しているうちに、アリサたちは唐突に生じた光に飲まれて姿を消した。

 

「ど、どこよここ―――――――――――――っ!?」

 

「って、今頃は叫んでるかしら?」

「まぁ、驚くよねぇ……普通は」

「あなたたち、いつの間にあんなモノを……」

 

テラスから頭上を見上げれば、そこには天地が逆転したかのような巨大構造物。

こんなものが、今の今まであらゆるセンサーに引っかかることなく自分たちの真上に浮遊していたなど、リンディにとっては頭の痛い限りだろう。

 

虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)、カルデアがこっちに来てすぐに準備を始めて、先週ようやく完成したんです。言ってませんでしたっけ?」

「……聞いてないわ、まったく」

「でも、やっぱりいつもよりずいぶんと小さい」

「そうね。準備期間も短かったし、仕方ないんじゃない?」

「セミラミスさんは不満そうだったけどね。このようなみすぼらしい庭園で満足できるかって」

 

思い浮かぶのは、明らかに不満そうな女帝の顔。

本人としては、どうせ作るならもっと大規模にしたかったらしいが、建材を調達するためのコネすらないのが実情なので、今はこれで我慢してもらうしかない。

 

「増築は追々、ね。あ、さっきも言った通りぶっちゃけ空中要塞みたいなものなんで、早々落とされることはないと思いますよ。そこは安心してください」

(むしろ、セミラミスの方が危ないけどね)

(そこはまぁ、天草さんが何とかしてくれるんじゃないかなぁ? 胡散臭い人だけど、別に悪い人じゃないし……)

 

今一つ信用ならない男ではあるが、根本的な部分は善良なので当てにしていい…はずだ、たぶん。

 

「それで、リンディさん。協定の方は?」

「……ええ、無事に締結されました。では、時空管理局総務部次長として、事件解決のためカルデアに協力を要請します。つきましては、敵性無人兵器“機動外殻”への対処をお願いしたいのですけど」

「非殺傷設定とかできませんし、そうなりますよね」

 

管理局としては、殺傷能力の高すぎるサーヴァントたちに犯人確保を任せることはできないのだろう。それこそ、よほどの事情がない限りは。

まぁ、この要請自体は想定のうち。立香たちもそのつもりで検討はしていた、何の問題もない。

 

「さて、とりあえずは状況確認か。マシュ?」

「はい、こちらでもモニターしています。オールストン・シーに接近しているのはキリエさんの他、大きな魔力反応が三つ。加えて、機動外殻と思しき大規模構造体が確認されています」

 

通信で呼びかければ、待機していたマシュが必要な情報を簡潔に送ってくれる。

工廠が確認されたこともあり、てっきり物量頼みで仕掛けてくると思っていたのだが、予想が外れた形だ。とはいえ、十分修正可能な誤差でしかない。

 

「なら、予定を変更して藤乃さんとリップ、それにランスロットを召喚する。マシュは……」

「私も急ぎ現場に向かいます。それまで、くれぐれも危ない真似は慎んでくださいね、マスター」

「わかってる。あ、あと例の“ブースター”も持ってきて」

「シオンさんには渋られるかもしれませんが、何とか説得します。ですが、なぜ……」

「順調に事が済めばいいんだけど……ほら、だいたい二転三転するし」

「……そうですね。念のため、備えておくに越したことはありません」

 

悲観主義と笑いたければ笑えばいい。なにしろ、一度だって何も問題なく事態を解決できた試しがないのだ。

そして、そんな立香たちのやり取りに「ホロリ」と涙をこぼすリンディなのであった。

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