世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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加速するシリアスに主人公の胃が死んでいく。


向日葵のようにはいかない

今までは天竜人どもの打倒を掲げて突っ走って来たおれだが、やけに最近ファミリーの目が心配の色一色だ。

 

 

…察してはいる。

 

 

 

おれが先の爆弾で倒れたのが地味に効いたらしく、最近メンバーは特訓に日々体を動かしている。

 

 

ベビー5までもがブキブキの銃タイプを使いこなすため、グラティウスに指南を仰いでいる。

 

おれだけ取り残された感がすごい。

 

 

別段取引先に行っている下っ端がヘマをやらかすでもなく、おれが動くほどの大きなイベントも起きない。

 

 

まぁ起きないことはないが行こうと思えばベビー5の泣き落としで止められる。

 

おれはそんなに弱くないはずなんだが…。

 

 

「だめ!!暫くは安静にしてて若様!!」

 

「いや、だが…」

 

「まだ大怪我して数日も経ってないでしょ!!デリンジャーにご本読んであげて!!!」

 

「わ、分かった」

 

 

そう言いベビー5は抱いていたデリンジャーをおれに押し付け、紅茶を淹れに行った。

 

 

自然とフィッシャーを思い出させるこの赤ん坊は半魚人だ。

しかも半魚人の前に闘魚が付く。

 

 

胃が痛い話だが、将来天竜人ときちんとしたコネクションを持つためには奴隷売買が手っ取り早い。

 

 

奴隷という人間の下に位置付けられたもの。

 

基本おれは人間云々に情が湧かないが、フィッシャーの件を見て以降奴隷に対し、言葉では形容し難い感情を強く抱くようになった。

 

 

それはこの世の憤りを体験した者たちばかりだからだろう。

 

 

理不尽を受け、その理不尽を飲み込むことしか出来ず溺れた存在。

 

子供の頃より感情が冷たくなっていた気はしていたが、改めて冷えていたんだと思った。

 

人間というクズになびきはしないクセに、その下の身分にはなびく。

 

しかし感情はあまり動かすべきではない。

 

 

結局は奴隷を扱う側にならなければ、例外を除いて天竜人どもに近付けないのだ。

 

 

 

最初に心の整理から。そう考えれば自然に奴隷売買の盛んなマーケットに訪れていた。

 

視察に近かったろう。

 

 

奴隷マーケットの展開方法と進め方、どんなニーズが多いか、様々なことを分析していた。

 

 

そんな中で出会ったのがデリンジャーだった。

 

 

今にもマグロの解体ショーならぬ、半魚人の解体ショーをされそうになっていた。

 

 

金で買うというのもありだが、おれも海賊なので盗みたくなった。

 

なので優男な気の弱い眼鏡海賊を演じて、そのままガキとデリンジャーを盗んだ。

 

大丈夫、オフモードは一部除けばバレない。

 

 

小マーケットにいた残った奴隷以外は全員殺したが、血の匂いに目を輝かせていたデリンジャーを見た時少し引いたのは記憶に新しい。

 

それにああいう所に来るのは大概金に溺れたクズだ。殺して問題ない。

 

 

 

 

 

そういう経緯があって今うちに居るデリンジャーは、可愛いんだがいかんせんやらかす。

 

 

コラソンとは違った方面でおれのSAN値をゴリゴリ削る。

 

まだ謝ってくれるロシーの方が可愛い気がある。

 

 

「キャハ!キャハハハ!」

 

「こら登るなデリンジャー、の……ぶっ」

 

「キャーーー!!」

 

 

スルスルと猿よろしくデリンジャーは登っておれの顔にへばりついた。

 

 

さすが闘魚、赤ん坊のクセして力が強い。

 

でもその小ちゃい手がおれの頭の傷にめり込んでるからな?ほら包帯に赤い花咲いちゃってるから。

 

 

「いでっ」

 

「キャー……?」

 

「うっ……」

 

 

何この子可愛い。心配そうに頭ペチペチしてくんだけど。えっ、しんどかわ……。

 

と思ってたけどやっぱり怪我の方が痛い。

 

 

「いででで」

 

「キャー?……キャウ……」

 

 

クソ可愛いデリンジャーは、戻って来たのに何故か異様に焦っているベビー5に預け、紅茶を啜った。

 

 

「……美味しい若様?」

 

「フフフ…ああ、随分練習したんだな」

 

「…!」

 

 

最近ファミリーのメンバーにやけに給仕じみたことをしてると思ったが、察するにこのためだったらしい。

 

コラソンには頼まれない限り与えるなとは言っていたが……。

 

 

御髪(みぐし)が崩れないように優しく撫でると、天使スマイルを浮かべベビー5は笑った。

 

 

可愛すぎてサングラスが割れそう。

 

きっとヴェルゴがいれば気を利かせて撮ってくれたな……惜しい。

 

 

「若様はしっかり休んでてね!あと一週間ぐらいは!!!」

 

「分かった分かった」

 

 

ひらひらと手をやりデリンジャーを抱えたベビー5は出て行った。

 

 

 

長くなったがようは暇なのだ。

 

 

何もすることがないわけではない。

 

この先の人生設計においてやることは多過ぎる。

 

 

しかし詰め過ぎて多少ガタが来ているのだ、まだ20代だが。

 

休息のふた文字をろくに取ってこなかったせいか、普通にファミリーの仕事以外にもオフで視察やら調べ物やらしてたしな。

 

 

せめて話し相手が欲しい。

ヴェルゴは月に一度の報告会ではないので、電話には出ない。

 

 

そう思っていれば周辺から小さな気配。

 

 

「入っていいか、船長」

 

「いいぜロー」

 

 

面白い遊び相手が来た。

 

ローは驚いたのだろう。息をのむ音がした。

 

見聞色は武装色には劣るが少しはできる。かなり不得手ではあるが。

 

 

「あの……ベビー5が若様の相手して来い…って」

 

「フフフ!なんか弱みでも握られてんのか?」

 

「……行かないと夕飯パンと梅干しにするって…」

 

 

爆笑した。

 

 

どうやら子供たちで賭け事をしたりするらしい。

 

それで自分の嫌いな物を前に言ったらそれを今回利用されたと、今にも人を殺しそうな目で睨んでいる。

 

視線の先はただの樽なんだが。

 

 

「ほら、固くなってねェでこっち来い。それとも魚釣りでもするか?獲物はお前で」

 

「…行くよ」

 

 

渋々来るローの顔に腹がねじれるほど笑いながら、こちらに来た肢体を掴んで膝の上に乗せた。

 

めちゃくちゃ叩かれた。

 

 

「どこに乗せてんだよ!!」

 

「座る場所他にねェだろ」

 

「普通に立ったままでいいだろ!!」

 

「船長に立てとはいい度胸だなロー」

 

「違ぇよ!!俺が立ってるって言ってんだよ!!!」

 

 

そんなもん分かりきっているが、えらくからかいがいあるせいで余計なことを言ってしまう。

 

これあれじゃないか、娘に嫌われるお父さんの典型的なパターンだ。

 

 

狼のように唸るローに笑いながら、近くにある樽を引き寄せその上にローを乗せる。

 

ベビー5だったら尻の下に敷くもんでも置くが、こいつも男なのでそこまでの気遣いはいいだろう。

 

 

「…それで何するんだ、船長」

 

「トランプだ」

 

 

そう言えば意外そうな顔をされた。

 

確かに普段はチェスばかりだが、子供とだったらトランプの方が楽しいだろ。

 

ロシーに冗談でカードを切らせたら燃やされたことは過去にあるが。

 

 

「ババ抜きだ、フッフ!」

 

「お、おう」

 

 

小さい手には些か大きいサイズのトランプを持たせジョーカーを抜く。

 

この後全勝し続けローを拗ねさせたが楽しかった、主におれ一人。

 

 

 

こういう偶の休日も悪くないと思った。

 

 

 

 

 

-----

それから幾ばくか経ち、最高幹部と船長のおれたちだけの会議で、ローをおれの右腕にしたらと珍しくトレーボルが冗談抜きに言った。

 

 

昔の海賊団を立ち上げようと言ったり、ふざけることが多いやつだがファミリーの転機となる部分には必ずこいつの発言が元になっている。

 

 

距離は近いがいつものことだ。奴の直感に間違いはないだろう。

 

 

おれ自身もローの可能性には他とは一線を画す突出したものを感じていたので、丁度いいと思った。

 

行く行くはコラソンに、そうすりゃロシーももしもの時にファミリーを抜け易いだろう。

 

 

理想としては海賊になって欲しいのだが、おれと違いロシーは正義一色でできてる。

 

本人は今新聞を読みこっちを見てないが…ちゃんと聞けよおい。

 

 

それに少年の身に余るほどのどす黒い感情。恐らくおれと同じだ。

 

 

全てを壊したい破壊心や復讐心。

 

 

それを満たすには力が必要だ。力を付けさせるために教育をしていくのが重要だろう。

 

ローは知識欲・武のセンスを見れば舌を巻くレベルだ。右腕にこれ以上相応しい人物はいない。

 

 

 

そのために今一番の問題は珀鉛病の完治なのだが……四方の手を辿ってはいるが、芳しい結果はない。

 

とすれば他に頼るとすれば悪魔の実や政府の科学者か……どちらにしろ時間がないのだ。

 

多少のリスクは自分で請け負おう。

 

 

死なせるわけには行かない、幸福さえ知らない子供なんだから。

 

 

「ローを右腕候補にする、異論はないか」

 

 

周囲は肯定の意だ。

 

コラソンは聞いていないように新聞を読んでいる、ゴーイングマイウェイ過ぎるだろ。

 

 

「フッフッフ決まりだな。ビシバシ鍛えてやれ。復讐はこの手で果たすのが一番だからな」

 

「ドフィは面白いこというんねー」

 

「近い」

 

 

やめろ鼻水が顔に付く。

 

横に体を反らしていれば周囲がどっと湧いた。

 

 

違う笑ってる所じゃない。普通に止めてくれ、避けすぎて腰折れる。

 

 

ふとコラソンに目を戻せば、険しい顔をして部屋を出て行った。

持っていた新聞は粉微塵になっている。

 

もしかしたら何か琴線に触れてしまったのかもしれない。あいつ子供好きだしな。

 

 

取り敢えず腰を痛める前に脱出を試みたが、トレーボルは何が面白いのか近寄って来る。

 

ノリが相変わらずだ。

 

しかし日常の光景になっていることに時間の流れは早いと感じる。

 

 

その分弟と離れた時間も長い。その時間を埋めようと試みてはいるが上手くいった気はしない。

 

 

 

時間の流れば平等だが、残酷なものだと思った。

 

 

 

 

 

*****

【sideロー】

 

珀鉛病や政府のせいで、俺の住んでいた白い町と呼ばれた国___フレバンスは壊滅した。

 

 

母さんも父さんも、ラミも死んだ。

 

 

守るはずの政府がおれたちを殺したんだ。余計に許せなかった。

 

みんなを助けてくれても良かったじゃないか。

 

 

だから力を持たない者は弱い、そう思うようになり、残虐だと北の海で一番に上がるドンキホーテ海賊団を訪れた。

 

最初はその残忍性を恐れられている船長が、出会ったばかりの俺みたいな病気のガキを救ったのが意外で、拍子抜けした。

 

 

何だ、こんなんじゃ俺は…。

 

 

そう思っていたが、奴の真の凶暴性を見る瞬間は直ぐに来た。

 

幹部の掟を頭に教え込むように俺の頭を壁に叩きつけたのだ。

 

 

ドフラミンゴと俺の身長差はかなりある。

 

片手で頭を持たれた時には死ぬかと思った。

 

 

それから一変した、憧憬と羨望。

 

 

俺もあんな人みたいになるんだと、毎日自分のできる範囲で鍛えていた。

 

だから逆に船長の弟だからって、ドジして仕事を台無しにすることもあるコラソンが許せなかった。

 

 

 

船長とコラソンは兄弟で、かなりの割合で兄の方が弟に執着している。

 

大分歪んでいる愛情は周囲も周知済みらしく、本人も自覚していたようだった。

 

 

いいなと思った。与えられるだけ与えられて何も返す素振りを見せないコラソンが羨ましくて、ずるかった。

 

最初に始まった子供っぽい感情は、コラソンに外に投げ出されてボロボロになったことにより火がついた。

 

 

ぶっ殺してやる!そう思ってナイフを手に取り、ある日新聞を読んでいたコラソンの背後を狙い刺した。

 

 

ただ不運なことに刺さりはしたものの、バッファローに見られていた。

アイスで買収したが心もとなかった。

 

 

だってコラソンのことだ。直ぐに兄に伝えて俺を殺す気だろう。

 

 

しかしコラソンは俺のことを隠したまま、俺は将来の船長の右腕候補として鍛えられることになった。

 

血反吐を吐くほど辛いものだったが苦ではなかった。

 

 

だって船長のために戦えたし、残り少ない命を無駄にすることなく生きることができるのだから。

 

 

 

そう思っていたある日、ベビー5とバッファローに渋々俺は自分の名前を言っていたら、コラソンに首根っこを掴まれて連れて行かれた。

 

 

刺したことを黙っていたことは助かるが、嫌いなことに変わりない。

 

抵抗していれば俺の名前を再度聞かれる。

 

 

深い意味は分からないが、“D”の名の付く人間は神の天敵なのだと言われた。

 

だからドフラミンゴの___バケモノの側にいてはいけないと、そう言われたんだ。

 

 

喋れたことも悪魔の実の能力が使えることを黙っていたのもムカついた。

 

何よりあんたは船長であり兄をそんな風に言って酷いじゃないか、そう思った。

 

 

カッとしたままドフラミンゴに言ってやろうと、コラソンを躱してゴミ箱に沈め船まで戻った。

 

 

…でもやっぱり冷静になった時に、俺が刺した時に黙っていたことを思い出して言わなかった。

 

あくまでこれで貸し借りなしだ。

他にバレても知らないからな。

 

 

そう強調して二人船に乗った。

 

 

船長は敵海軍の方を見ながら怒りというよりは、困ったような顔でまたかと呟いた。

 

 

…俺はどうせもうすぐ死ぬ。

 

だったらこの人生を俺を右腕にすると言った男のために捧げてもいいと思った。

 

 

でも妙に、コラソンが俺に“子供がそんなことをするな”と言っていた言葉が耳から離れない。

 

 

じゃあ俺はどうすればよかったんだよ。

 

みんなと一緒に死ねばよかったのか?何の恨みも果たさずに?

 

 

 

…そんなこと許されない。許すべきじゃない。

 

 

 

俺は壊しまくる、壊して、壊して壊して、せめて船長が少しでも歩きやすい道を作りたい。

 

俺の残りの人生でできるのはせいぜいそのくらいだ。

 

 

 

綺麗に生きられる人間なんて、この世に多くいると思うなよ。




主人公(おれ)
身内と甘ちゃん以外ゴミ。打倒天竜人。兄弟間の食い違いがどんどん増していく。

ジョーカー(モフモフ)
主人公守り隊兼おとしゃん。出てないけど見守ってる。

ロー
世界壊したいマン。主人公の力になりたい。でもコラソンに少し心が揺れた。

ロシ
会議を聞いて子供にそんなこと…!って思った常識人。兄上止めなきゃ。
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