世界はあなたを愛してる   作:アビ田

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全部ロシー目線。行き違っているけど全員真っ直ぐに頑張ってる。


正義を背負って歩く男

*****

【sideロシー】

 

ローというガキがドンキホーテ海賊団に来て2年が経った。

 

 

 

2年前にローが兄の右腕として育てられるようになる時も、一悶着あった。

 

海兵として情けないが、兄の凶暴性とはかけ離れた一面を見ることが多々重なり、心が揺らぐことが多かったのだ。

 

 

ローというガキを爆発から身を呈して、救った兄。

 

そんな兄を心配して部屋にこっそり行ってみれば魘されていた。

 

 

“やめてくれ”と、何度も掠れた声で言っていた。

 

頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。

 

 

あんたにも、そんな感情がまだあったのか。

 

 

何かに怯え、恐怖するような気持ちが兄に残っていたことに驚いた。

だっていつもは前線に立ち、嬉々として血濡れに行っている。

 

 

例え自分より格上の相手だろうと、得意の話術に嵌めて陥れる。

 

怖いもの知らずな兄が…まさかと思った。

 

 

確かに、恐怖に震えていた。

 

 

まるで過去の自分のようだった。全てに怯え、逃げようとしていた自分。

 

でも俺は変わろうと自分と戦い、今こうして兄の前に立ちふさがろうとしている。

 

 

心配して伸ばした手は、起きた兄によって止められた。

 

丁度無意識にあちらも手を伸ばしていたのか、指の先同士がぶつかる。

 

 

酷い汗と、数瞬焦点の合わなかった視線。

 

絆されたわけじゃないけれど、何かしたいと思ったのは自分でも驚いた。

 

 

まさかあの兄に…だ。

腐っても兄弟なんだと思った。

 

 

でも結局ドジばっかしたせいで、外に追い出された。

 

兄上はブラコンだけれど冷たい時は冷たい。そういう奴だ。

 

 

 

その後程なくして最高幹部連中の会議があった。

 

ローを右腕にと、そう聞いた瞬間鳥肌が立った。

 

 

 

 

 

*****

 

元々ガキはこんな場所にいちゃいけないと思っていたから、最近入ったローにも強く当たっていた。

 

 

兄と同じ目をしていたから、余計にこんな場所にいちゃいけないと思った。

 

 

子供が世界をぶっ壊すなどと、そんなことを口にして欲しくなかった。

 

何より少年の体に巣食う病魔と、少年自身に植え付けられた憎しみに胸が張り裂けそうになった。

 

 

だからローに刺された時の痛みに、余計に胸が痛んだ。

 

憎しみや怒りしかないガキに俺が出来ることは、船長や他の人間に言わないことだけだった。

 

 

幸い犯人がローだとバレなかったのはよかった。

 

ただでさえ兄はニッコリと微笑んで「誰がやった?」と言っていたのだ。

 

 

そん時は久し振りに仏を見た気がした。

 

 

あ、別にセンゴクさんじゃないけど。

リアルに三途の川とその上にいる仏がこちらを手招きしていた。

 

 

この時兄上を怒らせまいと、心の中でひっそり誓った。

 

 

 

 

そんなことを思い出しながら、俺は持っていた新聞を破り裂いた。

 

会議後の俺の怒りはMAXだった。

 

 

兄はローの気持ちを肯定している。

だからこそ右腕というワードが出たんだろう。

 

 

だが、子供にそんなことさせちゃいけないと強く思った。

 

俺たち大人ってのは、子供が道を間違えないように支えるんじゃないのか?

 

 

俺がガキの時もセンゴクさんは時に厳しく、時に優しくおかきをくれた。

 

 

そう思ったからこそ余計に兄に腹が立った。

 

同時にああやっぱりかと、心のどこかで安堵した。

 

 

兄はやっぱりバケモノなのだと、そう思い込んだ。

 

 

そうでもしなきゃもう自分の感情をコントロール出来ないほど、俺の心もいっぱいいっぱいだった。

 

 

 

でも滾る正義の心は果てを知らない。

 

俺は会議の数日後に偶然聞いたガキたちの言葉を聞いて、自分の胸に熱い気持ちが燃え盛るのを感じた。

 

 

ローは“D”の名を持つ存在だった。

_____それはつまり、神の天敵。

 

 

天竜人だった俺や兄の天敵となる存在。

 

それは俺の転機であり、ローを兄から離さねばと思った瞬間だった。

 

 

その後俺の能力や喋れることを明かしたが、怒ったローに逃げられゴミ箱に突っ込むことになった。

 

…本当ドジってんな……。

 

 

だがローは俺のことを兄に言わなかった。

 

何でだと問えば、前に刺した時の借りを返しただけだと、生意気に言った。

 

 

このクソガキと、どこか温かくなる心に顔が綻びかけながら、直ぐに引き締め船に乗った。

 

 

 

やっぱり、兄を止めるのは俺でないとならない。

 

俺はそう強く決意した。

 

 

 

 

 

そんなこともあり過ぎた2年。

 

元々潜入調査で進めていたある国の情報収集も、大詰めに進んでいる。

 

 

だが兄の動向も注視し過ごしていたが、ローの珀鉛病の治療は良い兆候を見せていない。

 

寧ろローの病状は悪化している。

最近咳込む事も多くなった。

 

 

少年のタイムリミットは近い。何も出来ない自分に歯ぎしりしたくなった。

 

所詮俺は海兵だ。今のやるべきことはローの治療じゃない。スパイとして動くことが俺の仕事だ。

そうは言っても俺はどうしても自分の甘さを捨てきれない。

 

 

ローを救いたいと、そう思い続けている。

 

 

 

そんな中、もう何度参加しているか分からない会議の話題に出たのは、オペオペの実についてだった。

 

 

兄がローの病気を治そうとしているのは知っている。

 

それに血の繋がりを感じていたが、逆に言えばそれが最後の砦だったようにも思う。

 

兄の優しさが本当にあるのだと、そう信じられる最後の砦。

 

でも崩壊は存外簡単に訪れた。

 

 

 

トレーボルが兄に半分冗談、半分本気で投げかけた言葉。

 

 

兄がオペオペの実を利用し、不老不死になろうとしているという内容。

 

それもローを使って、だ。

 

 

ただ一言、そんなつもりはない。そう否定してくれるだけでよかった。

 

俺もきっと兄がそういうのだと思っていた。

だってローに気遣う兄の姿は優しかったから。

 

 

それはまるで、昔俺に浮かべていたような笑顔だったから余計。

 

 

 

「フフフ!お前の言うことは面白いな」

 

 

そう言って、周囲はどっと笑った。

 

嫌な汗が伝う。序でに飲みかけていた紅茶が変なところに入った。

 

 

 

___息を止めて、冷静に。落ち着いて。

 

 

怖い時はそうしていた。

 

兄上が言っていたじゃないか、怖い時はなるべく気配を殺せって。

 

 

 

だから息を止めて、止めて、怖いものが過ぎ去るまでずっと、ずっと、ずっとずっと

 

 

 

 

 

_____ずっと

 

 

 

 

「…ロシー?」

 

 

声に驚いて反応すれば兄がいた。心配そうな顔に思い切り噎せて紅茶を吐き出した。

 

 

正直その後のやり取りはよく覚えていない。

怒った兄に連れていかれたのは覚えている。

 

 

恐怖と、怒り。

 

 

ずっとその感情が俺を支配していた。

 

 

何故あんたは否定しなかったんだ。ローを利用しようなどと、鼻で笑って返せばよかったじゃないか。

 

それとも本当に…ローを、あの子供を道具のようにあんたは使おうとしているのか…?

 

 

始まった猜疑心はもう止まることを知らない。

 

唯一残っていた砦にヒビが入っていった。

 

 

 

部屋に連れ込まれて、特に縛られる事もなくただ待っていろと告げられた。

 

尚も兄へ募る疑心が止まらない。

 

 

……でも俺はドジだから、きっと気のせいなのかもと、冗談で兄も返しただけなんだろうと思い込もうとして、ふと電伝虫の置いてある方に目がいった。

 

 

相変わらず謎のセンスのグラサン付けてるなと近寄って見れば、そこには懐かしい写真が一枚立て掛けてあった。

 

 

 

 

「……昔の……俺と、兄上………」

 

 

マリージョアから移り住む時に撮った最後の写真。

 

 

それ以来、家族写真を撮る余裕など一切なかった。

 

まさか兄が持っているとは思わなかった。というかこの写真があった事も今思い出したくらいだ。

 

写真の中の俺と兄は楽しそうに笑っている。

 

 

 

でもそこに、父上と母上の部分は無い。

 

 

 

「あんたにとって、その部分はいらなかったのか。なぁ、ドフィ_____」

 

 

そう言っていた時に後ろから声をかけられた。

 

一瞬驚いたものの、ナギナギの能力を自分に使っていたのだと思い出し安堵した。

 

 

さっきまでの言葉を聞かれていたら流石に耐えられない。

 

兄は懐かしむような声で、写真を拾った経緯を話す。

 

 

強い、執着。

 

 

まとわりつく感情が気持ち悪い。

 

自分と兄が映る写真を見ながらそう思った。

 

 

 

俺の部分も破ってしまえばよかったのに、いらないと捨ててしまえばよかったんだ。

 

 

あんたはそうやって、中途半端に俺に甘いんだ。中途半端だったら捨てちまえよ。

 

 

バケモノなら、そうしてくれれば俺だって………見切りをつけられるのに……なのに、なんで………。

 

 

 

 

_____あんたは一体、何がしたいんだよ。

 

 

 

俺にはもう、分からない。

 

 

 

振り返って、サングラスをかけていない兄の目を見つめた。

 

紙に殴りつけるように書いたのは今思っている事。

 

 

昔から変わる、不思議な瞳の色は変わらない。家族とは違う瞳の色だった。

 

 

時にコバルトに、時にエメラルドを添えて輝く瞳。

 

場違いに綺麗だと思った自分を殴りたくなった。

 

 

そういえば最後にサングラス越しではないのを見たのはいつぶりだろうか。

 

 

…多分覚えていないぐらい昔のことだ。

 

 

 

そう思っていれば、兄は暫し閉ざしていた口を開いた。

 

 

「壊して、おれたちが生きやすいように直す」

 

 

 

死刑宣告だ。でも、俺が望んでいた言葉だ。

 

 

あんたはバケモノだ。だってあんたの生きやすいようにということは、全てを壊して虐げるということだろ?

 

 

その中にきっと俺もいるんだろうな。

でも俺が求めるのは、ローみたいなクソガキが家族と笑って過ごせるような、そんな世界なんだ。

 

 

俺とあんたは違う。

 

あんたが悪に突き進むなら、俺はどこまでも正義を求めて、あんたを止めに行くんだろう。

 

 

 

兄上、兄上はきっと、ずっと変わっていなかったんだ。

 

 

兄上はずっと兄上のままで、優しく俺に微笑む兄上も、ゴミのように容易く人の命を奪う兄上も、全部兄上だったんだな。

 

 

 

 

___だからこそ、あんたはどうしようもなくバケモノなんだ。

 

 

 

部屋を出ようとした所で、ドフィに逃げるなと言われた。

 

 

俺は逃げてないよ。もし逃げてたとしても、もう逃げない。

絶対にあんたを止めて、世界の平和を守るよ。

 

 

立派な海兵になって、父上に誇れる男になる。

 

あんたが捨てたものを俺は捨てない。

 

 

俺は……例え今海賊コラソンだとしても、見えない正義を背中に背負ってんだ。

 

 

 

 

 

俺は_____逃げない。

 

 

 

だから、ドフィの方こそ逃げるなよ。

 

あんたの逃げた先にある破壊は、全てを不幸にする。

 

 

あんたは壊される恐怖を知ってるだろ。

 

家族を壊される恐怖も、幸せを失う恐怖も知っているなら尚更………

 

 

 

 

 

尚更、逃げないでくれ。

 

 

 

俺からも、現実からも。ドフィ___お前自身からも。

 

 

 

 

 

俺の紙に書いた言葉はドフィに伝わったかは分からない。

 

でももう俺の心は決まった。絶対に揺らがない。己の正義のために、俺は生きる。

 

 

ローもあんたの魔の手から救う。

 

 

 

 

 

 

必ずこの手で、俺があんたを止めてみせる。




副題『正義:悪=弟:兄』
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